サンタなんて信じない
夜になると町中はイルミネーションで埋め尽くされる。
12月に入ったばかりだというのに、早くもクリスマスムード一色だ。
この時期になると今でも、ふと思い出すことがある。
これは私が小学校低学年の頃の話だ。
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子供の頃の私は、とても純粋な少年だった。
クリスマスになると、子供達の間で必ず話題にあがる事がある。それは
『果たしてサンタクロースは、本当にいるのか?』
という問題だ。これは永遠のテーマでもあるかもしれない。
私はサンタは本当にいるものだと信じていた。
しかし、学校に行けば色々な性格の子がいる。
中には、「サンタなんていない プレゼントは親が用意してるんだ」と、夢のない事をいう者が少なくとも出てくる。
その話に感化されてか、次第に私も
『サンタクロースはいないのではないか……』
そう思うようになっていた。
そんな疑惑を持ち始めていた、クリスマスイブの夜。
心の中ではサンタはいないと思いながらも、私は僅かな希望を抱き、欲しいプレゼントをメモに書いて枕元に置いていた。
実際いようがいなかろうが、願うのは自由だ。
正直その真意よりも、ただ単に私はプレゼントが欲しかった。
すると、そのメモ書きを見かけた父が、一人言を呟いた。
「俺もサンタさんからプレゼントが欲しいな。そうだな、お父さんは車が欲しいかな!」
それならばと私は父に提案する。
「じゃあ、お父さんも枕元に『車が欲しい』って書いておけば?」
父はなるほどといった様子で、私と同じように枕元にサンタさん宛にメモ書きを残した。
定説では、サンタさんからプレゼントを貰えるのは、良い子にしている子供なわけなのだが……
そんな事は父もお構い無し。
なにせ、息子同様に父もプレゼントが欲しいのだ。
サンタもびっくりな、親子揃ってのプレゼントの要求という、おかしな光景の中、私は期待感を膨らませながら眠りについた。
そして、翌日の朝……
私の枕元にはプレゼントが置かれていた。
テンションが上がり、すぐさま袋を開けてみると、中にはキャラクター物のおもちゃが入っている。
私の要求はゲームソフトだったはずなのだが、急には用意できなったのだろう。
それでも私は、サンタさんからのプレゼントに喜んでいた。
私がおもちゃに夢中になっていたその時、隣にいた父が大きな声をあげた。
「あーーっ! 俺にもサンタさんからプレゼントが来てる!」
私が父の方に目をやると、驚いたことに、父の枕元に私と同じようにプレゼントが置かれていたのだ。
父はその場でプレゼントを開ける。
すると、中には確かに父の要求通りの物が入っていた。
「中身は……車だ! でも、車は車でも……ミニカーだよ。俺が欲しかったのは、この車じゃないんだよな……」
これは一本とられた。
サンタは父のひとつ上をいっていたようだ。
父は残念そうにしながら、いくつもセットで入っていたミニカーの箱を私に手渡す。
「これじゃ俺はいらないから……このミニカーはおまえにあげるよ!」
ラッキーなことに、結局私は自分と父の両方のプレゼントを貰えた。
この出来事により、サンタクロースの存在に疑問を感じていた私は
『親がプレゼントを用意してるなんて嘘だ!サンタさんは本当にいるんだ!』
そう思うことができた。
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大人になった今でも、この年のクリスマスの事は特に記憶に残り、よく覚えている。
毎年のようにクリスマスプレゼントを貰ってきたわけだが、他の年は何を貰ったかのなんて全くもって覚えていない。
やはりサンタからの父のプレゼントは衝撃的で、強烈な印象を与えていたようだ。
よくよく思い返してみれば、父の演技も非常にわざと臭かった気もするし……
手の込んだ細工まで考えて、『よくやるな』と今では笑えてしまうほどだ。
けれども当時の私は、そのおかげで数年間はサンタを本気で信じたわけで、とても効果的なことだったのだろう。
まだ私に自分の子供はいないが、いつか子供が生まれ、サンタを疑う年頃になってきたら……
父と同じことをしてあげたいと思う。
こんな素敵な夢のプレゼントを、私も我が子に送ってあげたい。