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入学と立合い③

台風の影響でダラダラ降ってた雨が、今日はようやく止みました!

日本はこれからですね…

お見舞い申し上げます。

「ウンコは・・・ウンコはお前らがかけたんじゃねえか!!」

とても正確な苦情だ。その言い方が思ったより子供っぽくて、ダロン・リーは可笑しくて笑ってしまった。


「なあに笑ってやがるう!!」

「いや悪かった。この通り。」

ペコリと頭を下げ、詫びを入れるダロン。


「お、おう。」

気を抜かれるジェズ。


「この間は僕たちの完敗だった。今日は続きをやらせてくれ。」

ダロンはにこやかに言う。そうして手に持った木剣を持ち上げて見せた。


「続きだと?」

相手の意図が読めないジェズは、アモンと顔を見合わせた。

「そう、続きだジェズ。表へ出よう!さあ出よう!」

なぜかアモンは大いに乗り気だ。というよりもこの場の揉め事を収束させたい気持ちが強いらしい。



事務棟前の並木道はすっかり紅葉した木々で彩られ、近所の住人も見物に来るほどの美しさだ。

午後にもなれば授業の終わった学生と近所の見物人で、ちょっとした人出になる。

そこに木剣を持った長身の二人が現れた。


人だかりができるに決まっている。


「ダロン君じゃない!いやんカッコエエ・・・」

「ちょっとあれ立合いするつもりじゃない?止めないと・・」


ざわつく人だかりに目もくれず、ダロンはジェズに木剣を投げ渡す。


「見慣れない武器かもしれないけど、これは『剣』という武器だ。大同学舎では授業の中心になる武器なんだよ。今日はこれで一対一の立合いを願いたい。」


「俺と一対一だって?気は確かかダロン?」

ジェズはニヤついている。渡された木剣を片手で握り、ブンブン振りながらバランスを確認しているようだ。


その様子に、やはりこいつ剣は使ったことがないとほくそ笑むダロン。

この剣こそ今回の彼の策である。


ジョー王国連邦では、戦場で武器として大刀を使うのが一般的である。

広い戦場で戦車(馬車)に乗る指揮官を狙うのに、リーチの長い武器が有利なためだ。

なので戦士は皆、大刀術と体術を学ぶ。


一方大同学舎では、当初から剣を授業に取り込んでいた。

これは室内や森の中など障害物があるときの戦闘向けであり、単体の戦闘に適している。

おまけに空間を意識した戦い方に磨きをかけることができ、『波動』の発現を早める作用があると考えられているのだ。


体格で勝り、おまけに波動も使いこなしているらしいジェズ相手に、体術勝負を挑んでは勝ち目がない。ならば相手が不得手なはずの剣術で戦うしかないとダロンは賭けに出た。

経験のない武器で戦えば、動きが落ちると踏んだのだ。


練習用の木剣は、刃も剣先も丸みを持たせて危険度を下げている。

そうはいっても授業ではこの上に防具をつける。

打突で与えるダメージは結構なものになるからだ。




両者向き合って長剣を構える。

ダロンは両手で柄を握り、下がり目に手を突き出して剣先は相手ののど元へ向ける。

いわゆる正眼の構えである。


一方ジェズは片手に権を握り、体術よろしく両手を広げて腰をかがめる。

これは短剣の構えだ。


― いける。


ダロンは狙い通りの展開に、勝利を確信する。

この男はやがて剣術も完全に習得してしまうだろう。恐らくそのスピードは以上に早い。


― こいつに勝つのは今しかない。


情けないがそう感じる。

目には見えないが、目の前のブザマな構えの男が発してくる圧力はただ事ではない。


― うーん何て圧力・・・これが仙精(センジン)の効果なのかな?


身体強化がなされるはずだが、相手に対して圧力も増すのだろうか。


― けれど、こいつは間合いで手こずっている


長剣の剣先が起点となって、彼の今までの戦いとは違う間合いが生まれているはずである。


「一発でも有効打が入ったら終わりだ。どっちもいいな?」

審判を気取ってアモンが叫ぶ。

「始め!」


人だかりからわあっと歓声が上がる。生徒と思しき少年少女は皆同じ袷の胴着を着ているが、色に関しては白・黒・藍色を好き勝手に合わせている。

そのほかに町人らしきオバちゃんも多く、降ってわいた見世物に大はしゃぎだ。


ジェズはいつもと勝手の違う間合いに苦しんでいた。

飛び込もうとしても相手の剣先が目に入り、容易に近づくことができない。

回りこもうと横に動くが、相手はさらにくるりと回り込み、どうあっても剣先をかわせない。


よって、イライラしてきた。


あげく、こんなものいらねえ!と長剣を投げ捨ててしまった。


「おおあいつ素手でダロンとやるつもりだぜ!」

「いやいや勝ち目がねえから素手でやって、後から言い訳言うんじゃね?」


野次馬からワイワイ言われているが、ジェズは全く気にする様子がない。


「おおし、これで少し楽になったな。」

ニヤリと笑う。その思い切りの良さにダロンは感心させられる。

野次馬には分からないだろうが、


― 慣れない長剣を捨てることで、構えのバランスが良くなった。


格闘センスがハンパないのだろう。普通この状況で武器を捨てるとかありえない。

迫力が割り増しになった。

それでも、


― こっちの優位は変わらないな。


ダロンは前回の戦いを思い出した。

不意を突かれて足がすくんだとき、これと同じ猛烈な圧力を感じていたはずだ。

刹那の記憶は曖昧だが、


― 確かに体が動かなかった。


今日は状況が違う。自分の策で五分の戦いに引きずり込んだのだ。

凄い圧力だがもう威圧されることはない、あの時とは違う。体は動く。


― 楽しい。


相手に初動を許しても、自分の間合いで勝つことができる。

あと少し追い込めば、必ず奴から動くはず。

その時、である。




「その立合い待ちなさい。授業以外は認められません。」

群衆がら一歩進み出てきたのは、一人の少女と中心とした生徒の一団だった。

戦闘の少女は銀色に輝く髪を後ろに結び、黄色に近い茶色の目で二人を睨みつけている。


「ちっ、イェン・ズウちょっと待って。今取り込み中なんです。」

ダロンはジェズから目を離さない。

だがジェズは・・・完全に集中が切れていた。

経った今現れた少女に、目が釘付けになっている。


「コイツ舌打ちしやがった下級生のくせに・・・。その取り込みを待てって言ってんのよ。」

彼女の周囲にいた少年少女が、ダロンとジェズを取り囲む。

ダロンはしぶしぶ木剣を差し出した。ジェズに至っては取り上げられたことに気付いていない。

少女に見惚れていた。


「あーあ、終わっちゃった。今日のがしたらマズイのにー。」

ダロンはぶつぶつ文句を言う。

「ほらあんた達も!見世物は終わりよ!散りなさい!」


ガヤガヤと散る野次馬の中から、リイファとガンゾがダロンの許へ駆け寄ってくる。

「ダロンもうあいつにケンカ売られたの?ちょっと早すぎっしょ!」

「・・・ダロン私の貞操のために無理するなとあれほど。」

「いや、僕の方から勝負を申し込んだんだ。止められちったけどさ。」


唖然とする2人。


その脇でジェズはまだ少女に見惚れている。

少女はジェズに気付いて事務的に話しかけてきた。

「大同学舎へようこそ。貴方は新入生の公子ジェズ・ジャンね。師範たちから話は聞いてます。」


黒の胴着が彼女の白さと銀髪を引き立てている。

「私は2年甲級のイェン・ズウ。学舎の学生代表を務めています。」


「イェン・ズウ・・可愛いなお前・・・」

思わずつぶやいた声は、えらい直球だった。


まともに賛辞をぶつけられた彼女は、ひどく狼狽え赤くなった。

「な・・何言ってんのあんた!『軍師ダロン』に叩きのめされるところだったのに、なにお気楽なこと言ってんのよ!私に言うならお礼でしょ!」


「俺はこの前あいつをブッ飛ばしたばかりだし、今日も全然負ける気なんかしてねえ。まあちょっとばかり押し込まれてたけどな・・・」

ちょっと困ったようにジェズは言ったが、気を取り直すのは早かった。

「可愛い子を見つけたら、すぐ可愛いと伝えることにしてる。何も問題ないだろ?」


「わ、私は上級生なの!少し敬意を持って接して頂戴!それとさっきも言ったけど、授業以外で立合いは禁止!何よ防具もつけないで・・・わかったわね!」

真っ赤になった顔を隠すように、イェンは急いで顔をそむけるとその場を足早に立ち去った。

取り巻き達は慌てて彼女に付いて行く。


「やはりそうか・・・横暴な権力者が、性奴隷を漁ろうと・・・」

「いや今のは全然権力関係ないよねー。」

「うん、普通に正面から玉砕してたっしょ。」


リイファの妄想を全面否定するダロンとガンゾ。


ジェズはようやくこちらに向き直った。

「お前結構強えじゃねえか、ダロン・・・」





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