英雄と亡命⑥
リアルの仕事がやや立て込んできてますが、毎日投稿は
死守していきたいと思います( ・∇・)
応援よろしくお願い致しますm(_ _)m
満場声1つ上がらない。
卓上に置かれたのは、紛れもない『覇者の金印』であった。
ジョー王国からジャン公に送られた、覇者の印。
ウグイ・ジャンは勝ち誇って言った。
「父上はこの度の上洛を控え、私にこの金印をお与えになった。そしてこう言われたのだ。『今回の上洛では王に南征を進言する。お許しがいただければ帰国後すぐ出征する』と。さらには南征時の留守居役として私をご指名になった。帰国後すぐに立太子の儀を行うと・・・」
「待たれよ兄上。よくそこまで偽りを申される。」
立ち上がったのはシャオ・ジャンである。
その眼は真っ直ぐにウグイを捉えている。
「黙れ!何を根拠に私の言葉を偽りと申すか!」
ウグイは真っ赤になって怒り出す。
「この金印こそ我が言葉の正しき証し!お前は何を以て我が言葉を否定するのか!!」
シャオは一歩も引かずにウグイへ言葉を返す。
「その父上のお言葉は、そもそも私に向けて発せられたもの。あなたがどこでそのような話を耳にされたかは存じませんが、同じ言葉を父上が違う息子に発せられるはずもありません。」
「ならば証拠のある方が正しく、無い方が偽りであろう!おのれは何の証拠を持っているのか!」
ウグイの怒りは収まらない。
ところがシャオは全く落ち着いている。
「証拠などございません。私は父上にお言葉を頂いたのみにございます。」
「それみろ!なぜ証拠もないのに、おのれのことが信じられるか!」
ウグイは勝ち誇る。
シャオはそこに切り込む。
「兄上もおっしゃったように、父上は『帰国後立太子の儀を行う』と仰せでした。それではなぜ父上の帰国を待たず、兄上は代理のようにふるまうのです?父上の帰国を待てぬ理由でもおありですか!」
27大夫は一斉にウグイを見つめる。
ウグイはうっと言葉に詰まった。
トイ卿は驚いたようにシャオを見つめ、シュウ卿は忌々しそうに舌打ちをする。
「今そのような振る舞いをすることに、その金印は何の根拠も与えてはおりません。すぐにその席から立ち去っていただきたい。」
「ふざけるな!おおおのれは何の権限があって、私にそのような命令ができる!」
ウグイはバンバンと卓を叩き、怒り狂ってシャオを罵り続ける。
「私にはこの金印がある!これぞ父上が与えてくださった太子の証しじゃ!父上のお心を伺うというのか!」
「うーむ、差し出がましいようだが、少し話してかまわねえか?」
そう言ったのはジョンアル・ジーである。
「黙れ!そもそもお主に会議への出席を許可した覚えはない!!」
喉も裂けよとウグイは声を張り上げる。
「いやその、まいったな。まったく頭の悪い公子だぜ・・・その会議を招集する資格がおのれにあるかどうかが、今語られておる問題だろうが?」
あっけにとられるウグイ。
「お、おのれ無礼な・・」
「だからちょっと待てって。おのれが証拠じゃ証拠じゃとわめくその金印、王から認められているのは一代限りだぜ?覇者の世襲などありえん。おのれの手にあったところで何の意味もない印鑑よ。」
「へ?」
ウグイもシュウ卿も、トイ卿すらも虚を突かれたように目を剥いている。
「ジャン公が持ってこそ意味を成す金印。そんなものを息子に与えるような真似をするか?普通?」
ジョンアルは半笑いでさげすむように言う。
「な、な、なにを・・お前に何が分かる!国も追放されたような間抜けにっ!」
「偽の証拠を喜々として振り回すような間抜けに、間抜け呼ばわりとは甚だ遺憾よ。」
「待たれよ!待たれよ!」
声を張り上げたのは、第3位のシュウ卿である。
「皆さまお待ちくだされ。本日の会議については、留守を預かった某とトイ卿も了解の上、公子ウグイ・ジャンのお名前で発信した物にございます。これについては何の問題もないと我らは考えておりますが、シャオ様いかがですか?」
「会議の招集手続きはそれでいいでしょう。しかし兄上が父上の代行という点は、認めることはできかねます。」
「ふむ、それではジョンアル・ジー殿の参加について、私も公子ウグイと同意見です。速やかにご退席願いたいが、これについてはいかがですか?」
再びシュウ卿は公子シャオに問う。
「それについても同意しかねます。どうしてもというならば、この場で多数決を取っていただきたい。」
「多数になら従うと仰せで?」
「27大夫の多数による決議には従いましょう。」
ニヤリと笑ったシュウ卿。
顔を見合わせるシャオとジェズ兄弟。
これはまた後手を踏んだか?兄の眼が弟に問いかける。
「それでは公子シャオのご希望で、多数決を取らせていただく。まずは公子ウグイの国主代行について、ご賛成の方は起立願う!」
一瞬の沈黙の後、16名の大夫がバラバラと立ち上がった。
勝ち誇った顔つきの者もおり、目をそらす者もいる。
「先んじられていたか・・・。」
公子シャオが絶望の声を上げる。
「続いてジン公国第2公子、ジョンアル・ジー殿の会議への参加について、賛成の方は起立願う!」
相手方16大夫が腰かけ、味方の11大夫が起立する。
「これで決まりましたな。ご退席ください。」
ざまあみろ!と公子ウグイが喚く。
しかし立ち上がった味方も着席した側も、ザワザワと落ち着かない。
今自分たちが置かれている、国を2分する後継者争い。
昨日まで水面下で行われていた国の問題が、突如表面化した驚きが彼らを戸惑わせている。
ところが起立した11大夫は再び着席することなく、公子シャオの元へゆっくりと終結した。
何をしている!席へ戻れ!
叫ぶ公子ウグイへ、11大夫の代表者が伝える。
「ウグイ様、私ども11名はシャオ様とは違い、先ほどの決議に納得できませぬ。少なくともウグイ様がジャン公の帰国を待って、その席に座ると考えをお改めいただくまで、別室へ退席いたします。」
11大夫はそう告げると、議場を後にしてしまった。
それに続いて、公子シャオとジェズ、ジョンアルも議場を立ち去る。
「ふざけるな戻れ!い、いやシャオは戻らんでいい!他は戻ってこい!こら!」
「お静まり下さい、公子。どうかお静まりを。」
「これが静まっていられるか!」
「これが向こうの作戦だったのでしょう。この後、話し合って議事を再開できればいいのです。」
トイ卿は深く頷きつつ、公子ウグイへ語りかける。
「先ほどのシャオ様とジョンアル様のご発言、つらつら考えますに道理はあると某も考えます。また11大夫の主張する事も、あながち不義とみなすことはできますまい。ここはウグイ様も再度ご検討いただくわけに参りませぬか・・・」
「トイ卿まで何を申すか!今朝の16大夫との顔合わせで、はっきりと決めたことではないか!」
「おっしゃる通りでございます。しかし国主留守の間に、国を2分する騒ぎを引き起こすのはよくありません。シュウ卿もそう思われますでしょう?」
カイファン・トイは道理を語った。
いまここで騒ぎを起こしては、王都におられる主君に申し訳が立たない。
しかし驚いたことにシュウ卿は冷たく言い放った。
「ウグイ様には父上より託された金印がございます。これが太子の証しでなくて何なのか。このような自明の理に従えぬ公子シャオは、既に謀反を犯したものと考えてよろしいかと。」
「そうであろう!そうであろう!皆そう思おう?」
公子ウグイは居合わせる大夫たちに同意を求める。
おお!そうですとも!と声を張り上げるのは数名。
後の者は声を上げないが、反対の声も上がっては来ない。
「公子シャオは謀反人と決まった!協力するジェズも11大夫も同罪である!国主代理として彼らの逮捕を命じる!」
「お待ちください!それはなりません!」
「トイ卿!何をおっしゃるのです!国主代理がそう決められたならば、それは国主の決定と同じ!」
公子ウグイに掴みかかろうとするトイ卿を、おしとどめるシュウ卿。
「衛兵!トイ卿を取り押さえよ!」
公子ウグイは冷たく叫んだ。
「ちょっとやりすぎですか?」
公子シャオはジョンアルとエン・フーに問いかける。
シャオの私室には先ほどと同じく、11大夫も勢揃いしていた。
「シャオ様、某ああするしかないと思いました!」
「私もそう思います!あのままではウグイ様の国主代行を認めるのと同じこと!」
「作戦通り参りましょう!理道士殿の奥の手で!」
エン・フーはまあまあと皆をなだめる。
「しかし手回しが速かったのには驚いた。我ら完全に後手に回っていたな。」
「この手の悪巧みは仕掛ける方が有利。仕方ありますまい。」
ジェズのボヤキにエン・フーは慰めを言う。
「それにしてもだ、早くも相手は仕掛けてきやがったな。いやもっと前から周到に準備されていたという事か。」
ジョンアルが言う。
「短い時間だったが、我らの準備はできているのか?」
公子シャオが問う。
「既に皆、門外に出ております。急な事ゆえ手勢は3000ほどですが、もう数刻あれば全て体制も整いましょう。」
大夫の一人が答える。
「イェン・ズウは?」
ジェズが心配そうに尋ねる。
「バッチリだ。まあ喜んでるわけでもないけどね。」
アモンは親指を立てる。
「学舎の方は問題ないか?」
「義父には話してきたよ。こちらは気にせず思い切りやれってさー。」
ダロンはまるで親善試合でもするかのように、こともなげに言って微笑んだ。
「行動開始だ。」
公子シャオは短くキッパリと告げる。
おおおお!!と答える11大夫。
一同は素早くリンズ城を後にした。
中々ファンタジーっぽくならないのは力不足です〜
この後なるたけファンタジー要素を盛り込んでいきます(`・ω・´)




