英雄と亡命⑤
なんか書いてて自分の文章に呆れる時があり(´・ω・`)
その都度直しております。読みにくくてすいません。
初五(旧暦1月5日)の朝も、ジェズは早くから起きだして体を動かす。
ただし、今日はその手に剣を持っていない。
ジン公国第2公子ジョンアル・ジーの家臣で、武道士のジェン・センに教わった鍛錬を日課にしようと今日から実践している。
「体の曲げ伸ばしが重要であるという。」
1刻ほどかけて入念に体を伸ばす。元々体は硬い方ではない。
その後門を出ると、呼吸を意識しながら町中を走り始めた。
未だ夜明け前の旧暦正月の町は、暗がりに眠っている。
ヒタヒタとジェズの走る足音だけが響く。
「いや昨夜はまたしこたま飲んだものよ・・頭が割れるようじゃ・・・。」
ジェン・センは間借りする部屋を出て、庭の見える廊下へよろよろと出てきた。
既に3時辰(午前7時ごろ)を過ぎたあたりだろうか。
冬の朝日に照らされ、庭は静かに輝いている。
「放浪中には許されんことだが。」
陽が昇ってから起きるなど、考えられぬ事だ。
追い帰されるのを覚悟でリュー公国にやってきたが、この家に世話になれて美味い食事にもありつけた。
なによりこの家は良い奴ばかりで、気が休まることこの上ない。
「ようやく公子も俺らも、運が向いてきたんじゃあねえか?」
そんなことを呟いた。
庭ではこの屋敷の主人(母上様もいるというが、まだ姿を見ていない。)であるジェズ・ジャンが、昨日教えた鍛錬を忠実にこなしているのが目に入る。
朝早くから始めていたのだろう。体に纏わりつく濛々たる蒸気がそれを物語っている。
「主殿!精が出ますな!」
ジェン・センが声をかけると、ジェズは振り向いてニカリと笑った。
「ジェン・セン殿に教わった鍛錬を、日課にしようと思ってね。しかしこれはかなりキツイ。」
ジェスは白い息と共に絞り出すように喋った。
「なに半年ほど続ければ、苦にもならなくなりましょう。そこからが真の修業ですぞ。」
「ははは・・・やはり道士などにはなるもんじゃない。」
そこに家宰のウーズが姿を見せる。
「若、セン殿、おはようございます。」
顔を引き締めたウーズの様子に、何かあったなとジェズは思った。
「リンズ城からご使者が参りました。本日正午より緊急の会議があるとのこと。若にも参加せよとのウグイ様からのお達しにございます。」
「なるほどなるほど・・・。昨晩のお話から察するに、兄上殿の動きは最早始まっておるようですなあ。」
ジン公国第2公子ジョンアル・ジーは、朝食の包子を割って昨晩の羊肉を詰め込みながら、ジェズの話を聞いていた。
「是非お知恵を拝借したい。今日の会議で一兄はどう動くのか?」
「会議の招集が兄上のお名前で出されているのが気になりますね。」
発現したのは理道士のエン・フー。
「廟堂第2位のカイファン・トイ卿、第3位のディアウ・シュウ卿がそれを認めておられる。つまりジャン公不在の代行は、ウグイ・ジャン殿に任されつつある。」
「うーん、相手の動きが随分と速い。」
ジェズは困ったように鷲鼻をさする。
「しかし大夫たちの支持はシャオ様の方が多いはず。2卿も無視できませんでしょう。」
エン・フーは励ますように続ける。
「まっとうに考えれば、本日の議題は大きな物事ではないでしょう。先日あった祝辞式の席次のような、ささやかな事でしょうな。しかしその小さな事実の積み重ねが、ウグイ殿を代行とする体制を作り上げていくのです。」
フンフンとジェズ、ジョンアルは聞いている。
「本日の議題にシャオ様は是非、わずかながらでもご自分の意見を反映させることです。その際に主殿と11人の大夫は、明確にシャオ様にご賛成なさいませ。」
「それは手の内をさらけ出すことになんじゃねえの?」
「現勢力は調べればすぐに分かること。ダロン殿の調べで、我らにも簡単に分かったではありませんか。」
そりゃあそうだねとジェズも頷く。
「敵が調べてもそれは同じことでしょう。ならば今優先すべきは手の内を隠すより、敵に有利な既成事実を作らせぬこと。そして当方の勢力が有利であることを示し、残り9名の大夫に分からせることです。」
「なるほどそれだ。」
さすがは理道士、見事な説得力だ。
「こうなると主殿が昨日出された使いに対し、今朝返事をよこす方はおられますまい。今日の会議の行方を見守ろうとする方が多いと思われます。」
「くそお・・・相手にこちらの動きがバレたのかな?」
「そこは分かりませぬが・・・まず本日の打ち合わせをシャオ様と。」
「うん、そうしよう。午前中に済ませないとな。」
ダロンとアモン、さらにジョンアルとエン・フーを伴って、ジェズがシャオの私室を訪れたのは4時辰(午前10時頃)のこと。
訪れてみればシャオ・ジャンの私室には、大勢のソン=ジャン家派大夫が集合していた。
「シャオ兄!」
「やあジェズ!来てくれたか!」
11大夫もおお!と口々に歓迎の意を表した。皆事態の急展開に戸惑っているようだが、意気は高く敗北するなどとは考えていないようだ。
「各大夫から接触した残りの9大夫、未だ色よい返事はない。」
「そっか、俺からも使いを出したんだけど返事はないね。それから昨晩は叔父貴とは会えなかった。」
簡単に情報を交換する。
「今日は客人もお連れした。賢者と世に名高いジン公国第2公子のジョンアル・ジー殿だ。」
これには味方も大喜びだ。
口々にこれは天啓じゃとかもはや勝ちは決まったと騒ぎ出した。
「静まってくれ・・・ジョンアル様、我らが問題をどの程度子承知で?」
「ふっ、昨晩主殿より全てうかがい申した。その上で我らジン公国の継承問題と貴国の問題を、相互に応援しあおうと決しましてな。」
「それは有難い!是非お力添えを!」
「そう申しても今のところ、ワシには国元を動かす力はない。一族の手勢200人ばかりとなりますが・・・。」
「いや数の問題ではございません。高名なジョンアル殿のお力添えを得れれば、我が方に義があると世間に知らしめることが出来ましょう。」
11大夫もみな大きく頷いている。
お家騒動になったとき、どれだけ外部が支援してくれるかは大きい。
「今のところ今日の会議に対して何か作戦は?」
ジェズが問うと、
「うーん、情報が全くないから対策も取りようがないんだ。」
というシャオの答え。
わずかに俯く11大夫たちは、自分のふがいなさを憤っているかのようだ。
「じゃあ先ずは理道士のエン・フー殿から提案がある。ちょっと聞いてもらっていいか?」
「・・・なるほど何を言ってくるか分からん相手には、そんな方向で抵抗するしかないか。」
「先ずは相手に有利な事実を作らせない。次にこちらの勢力の大きさを示す。これが上策だ。」
ダロンとアモンは、11大夫を前にして発言を控えている。
それでも尊敬のまなざしをエン・フーに集めているところを見ても、この作戦に反対でないのは明らかだ。
「そしてもう一つ。私から提案がございます。」
エン・フーは居住まいを正し、公子シャオと11大夫の顔を見る。
「理道士殿の策は明らかに我らを超えている。是非お聞かせください。」
公子シャオが礼を持って先を促した。
「今回敵は大胆にも会議を招集した。普通に考えれば大事にはなりませんが、もしかすると奥の手を持っているかもしれませぬ。であれば当方にも奥の手が必要です。」
「なるほど・・しかし相手はいかなる手を?」
「恐らく・・・ウグイ殿の公爵代行を裏付けるような何か・・・」
― なんと!
― そんな筈はない!シャオ様こそ代行なのだ!
大夫たちが叫びだす中、エン・フーは皆を制して続ける。
「何もなければそれでよし。されどいかなる手を使っても、当主の座をつかもうとするのが後継者争いというものです。何かあったときに当方にも奥の手がなければ、命さえも落としかねぬもの。」
エン・フーの言葉には、力があるのに無理がない。
「というよりも最初からこちらの命を狙ってくる。証拠など偽りであっても本当としてしまうところに、後継者争いの恐ろしさはあるのです。」
この言葉にみな声を失う。
彼らはそれを経験しているのだ。
その経験と12年の放浪があって、今の提言がある。
言葉の重さが違う、公子シャオは直ぐにそれを悟った。
「して、理道士殿の献策は?」
「それでは拙策をお聞きください。」
ダロンとアモンは目をキラキラと輝かせて、エン・フーの策を聞いた。
正午、会議の間に27大夫が集まる。
皆、長袍に冠の正装。
今日は公子たちも召集されており、成人に達していないシャオとジェズ以外は同じ正装である。
全員が揃ったところで、2卿が会議の間に入る。遅れて公子ウグイが公爵の席に座った。
「これより会議を始める。」
廟堂第2位のカイファン・トイ卿が厳かに宣言する。
「その前に、一つおうかがいしたい。ジェズ様、そちらは確か・・」
ディアオ・シュウ卿はジェズに疑問を呈する。彼の後ろにはジョンアル・ジーが立っていたのだ。
「こちらにお控えの方は、先日より当家に客人としてお迎えしているジン公国第2公子、ジョンアル・ジー殿だ。世に賢人と隠れもない公子に、我らが助言をしてもらってはとお招きした。」
ジェズはしゃあしゃあと答える。
「そのようなことは認められますまい。少なくとも事前にお伝え頂きませぬと・・・。」
「他国の公子や役人を、会議の場にお招きすることは先例もあると聞くが?」
ジェズは引く様子もない。
「今日の議事は国家機密に関わることである。ジェズ、公子にはご遠慮いただけ。」
ウグイ・ジャンが忌々しそうに言い放つ。
「国家機密とおっしゃるか?」
ジェズは立ち上がってニヤリと笑う。
「国家機密を談ずる議場で、一兄はなぜ国主の席に座っている?」
ウグイの顔はみるみる赤くなる。
「わ、私は父上より留守中の代理を委任されておる!」
叫んだウグイ。
場内はザワついた。
27大夫にいかなる知らせもなく、そんな決定が下されたことはない。
「いやー一兄、そりゃちょっと無理筋じゃねえの?そんな話聞いたこともねえ。」
ジェズは笑って27大夫を見渡す。
腕を組んで黙り込む者、ニヤついて頷き同意を示す者色々である。
「だっ黙れえ!これを見ろあ!!」
ダン!と卓上に置かれた金色の塊。
議場の全員が唖然とそれを見つめる。
『覇者の金印』紛うことなき国主の証しであった。
ようやくひと月書けたなとも思い( ・∇・)
後どんだけ書くのかとも思う(´・ω・`)この頃です。




