英雄と亡命④
ちょっと人民元どこまで落とすつもりだよ(´・ω・`)
ジョーダンじゃ無いよ…生活かかってんのに…
公子ウグイの立太子宣言の少し前。
リンズ城、公子シャオの私室。
作戦会議を終えたシャオ・ジャンは、すぐ小領主との会食へ向かう。
ジャン公不在のリュー公国は、4公子が公務に引っ張り出される状態となっている。
「ではこれにて済まない!また明日も同じ時間で打ち合わせよう!」
シャオはそう言い残すとそそくさと会食へ出かけてしまった。
「・・・明日もやることになっちまったが・・・」
ジェズは乗気薄に言い捨てる。
「ジェズは客人もいるから、忙しければ僕たちだけで。」
「すまねえな。まあ様子を見て来れればくるさ。」
退室したジェズ達は、まずカイファン・トイ卿の執務室へ赴く。
しかしトイ卿もすでに執務を終え、ルー侯国の卿と食事を共にしているとのことだった。
「叔父貴はなるべく早く会っときたい。」
至急会いたい旨伝言を残し、3人は仕方なくティエル=ジャン家へ戻る。
帰宅した3人は、残り9名の大夫にジェズの名前で使いを出す。
まずは公子シャオが会って話をしたいという意思を伝えることが主眼だ。
「第2・第3公子に味方する奴はいねえのか?」
ジェズは新たな疑問を投げかける。
「とりあえずの結果でしかないけど、卒業生たちが把握している大夫たちの方針には、ウェイ=ジャン家に味方する勢力は無かったね。ルー=ジャン家かソン=ジャン家、後は態度を決めていないって感じ。」
「よし、まずは接触を。反応がなければ敵勢力と考えた方がいいわけだな?」
「この時点で会う気がないとなれば、可能性は高いねー。」
「若、お帰りなさいませ。」
家宰のウーズがやってきた。
「お2人ともよろしければ、夕食を召し上がっていかれませぬか?昨日から客人がご滞在で、多めに用意させておりますゆえ。」
「そうすればいい。」
ジェズも賛成する。
「ところでウーズさん新年は色々お世話いただいてありがとーございます。レンさん凄く喜んでました。」
ダロンが容赦なく一太刀浴びせる。
「なっ!」
「おーそうそう、ウーズ様は頼りになる方・・・とか言ってたぞ。」
「なっなっなっ!?」
武骨な家宰は真っ赤になって何も言えない。
「なんて素直な反応だ・・・話も続かねえ・・・」
黙り込むウーズにジェズは呆れつつ、メシにしよう!と立ち上がった。
「じゃあ遠慮なくー。」
「ジェズんちのメシ美味いからな!」
まったく遠慮のない2人は元気に食堂へと案内された。
ウーズはこそこそと後に続く。
食堂ではすでに巨大な杯で酒をあおる、4名の主従の姿があった。
「おお主殿!先にやっておりますぞお!」
ジン公国公子ジョンアル・ジーはゴキゲンである。
「イヤそれにしてもティエルのメシは美味い!!我ら既にティエルメシ愛好家ですわ!」
ジェン・センが叫ぶように言った。
予想を上回る大人たちのガッツキぶりに、少々引いているダロンとアモン。
「2人とも紹介する。あちらがウチの客人でジン公国第2公子のジョンアル・ジー殿。」
「おお!主殿のご学友か?よろしくお願い致す!」
「んで、あっちから武道士のジェン・セン殿、理道士のエン・フー殿、家宰のツイ・ジャオ殿だ。」
皆食事をやめる様子はなく、ちらりとこちらを見て手を振る。しかしにこやかで害意はない。
メシ食うのに忙しい!察して!という感じだ。
「この二人が同じ学舎の友人でダロン・リーとアモン・マー。」
「よろしくお願いします。」
2人は流石に目上の貴人に対し、挨拶をして食卓へ着く。
香辛料のきいた『渦角羊』の肉が並べられ、炒めた野菜と共に芳醇な香りを上げている。粟の粥が寒さを体から拭い去り、塩気のきいた干し肉と米の蒸し物が酒にピタリと相性がいい。
しばらくは各人食べに食べた。
長年の空腹を満たそうかという程の食べっぷりだ。
「主殿、まさに我らよみがえった気分です。これほどまでに歓待頂いたのは数年ぶりでしょう、」
ひとごこちついたか、家宰のツイ・ジャオがジェズに頭を下げた。
その言葉に残りの3人も同意して大きく頭を縦に振る。
ダロンとアモンは魔獣の羊肉をぱくついている。渦角羊は肉が柔らかく冬場は特に脂がのって美味い。
「ジン公国は大国だ。そしてその第2公子ともなれば、貴人として扱われるのが当然だろ?ウチはジャン家の末席だからロクにもてなせないし、これでも随分心苦しい。」
「何を言われる!我が一族を余さず屋根の下で寝かしていただく、これだけで感謝この上ないのに、毎夜の温かい食事まで!一族一同感激しております。」
大同学舎に泊まる一族にも、ウーズは食事を毎晩手配していた。
レンさんへ色目を使っているだけではなかったのだ。
「立ち入ったことを伺うようですが ― 。」
ダロンがジョンアル・ジーへ質問する。
「ジョンアル殿、コイツちなみにあの学舎の御曹司ね。」
「なにっ!これは!!一族へ宿をご提供いただき誠に・・・・」
「いやそーゆーのいいですから、ジェズも余計なこと言わないで。」
感謝ばかりで話しが先に進まない。
「公子のご身分で追放扱いはあまりに不当、王家からジン公国へ、仲裁を働きかけてもらう事も試されましたか?」
「うむ、家主殿。そこは当然真っ先に試みた。」
家宰のツイ・ジャオが答える。
ダロンは『家主殿』と呼ばれることになった。
「しかし今の王家では武力を構える周辺国に対し、手も足も出すことができぬ。ましてやジン公国は同姓にて、ジョー王国の真西に位置する国。滅多なことは言えますまい。」
ツイ・ジャオは忌々しそうにそう言った。
「そこで我々は、距離は遠いが実力者のジャン公へ、仲裁をお願いしようとリュー公国をめざしたというわけよ。」
グビリと酒を空けつつ、ジョンアルが言い放つ。
「ところがご不在じゃという。まったくいつまで経ってもツキのない人生じゃ。」
従者3人もはっはっはと力なく笑った。
「父に仲裁を頼まれるつもりだったか。」
ジェズは驚いた。
いや覇者と名乗って世をまとめようというのだから、仲裁は頼まれて当然ともいえる。
「たしかに周辺国の家督問題を仲裁したことはある。」
しかしジン公国のような遠方、しかもリュー公国と変わらぬ超大国だ。
― そんなんやれんのか・・・あの父上が・・・。
覇者というより夜の覇者。
作った女も宦官であるシュウ卿が取り仕切らねば何もできぬ人だ。
ジョン・ガン卿のおかげでここまでやってこれた運のいい人である。
「何分、主殿の方からも良しなにお伝え下され。」
「承知した。」
ジェズは彼らにすっかり同情している。
すると今度は横からアモンが口を出す。
「実はジェズからもお願いがあるんです。」
何?俺?お願いあったか?と怪訝な表情のジェズに構わず、アモンはニコニコ話し続ける。
「実は当家も公子が多い。ジェズは生来自由人で、跡目の欲などからっきしないのですが。」
「それはよろしくない、ちびっこ殿。お主が主殿を焚き付けるべきだ。」
「だれがちびっこじゃあ!!!」
いやおまえだろと場の全員が見つめる中、アモンは気を取り直して続ける。
「御家のお話と当家の話、共同作戦と参りませんか?」
「また女を引き入れておるのか!!」
近衛兵が叱責に恐懼するのをみて、ジョンガンは怒鳴りつけるのをやめた。
― こやつをどう怒鳴りつけても、主の女癖が治るわけではない・・・
やはりディアオ・シュウ卿を連れてくるべきだった。
宦官あがりの彼は、ジャン公の性欲を制御するコツを身に付けている。
王都に来てからというもの、主の女遊びはとどまることを知らない。
― まあやるべき仕事は一通り終えたのだ。
羽を伸ばすのも今のうちだ。
帰国すれば勤王派を相手取っての修羅場があり、その後は諸国をまとめてチユ国へ南征という大仕事が待っている。
ジョン・ガン卿は、ジャン公の泊まる宿舎の一部屋に腰を落ち着け、主が出てくるのを待った。神経質なジャン公は、女好きのくせに一晩中の間女と夜具を共にすることができない。
事が終われば必ず出てくる。
中庭を挟んだ部屋に陣取り、主が出てきたところを少し説教しようと決めた。
「ガン卿もお休みになってはいかがでしょうか?本日は冷えまする故・・・」
公爵家の召使がひざ掛けと酒を用意して、部屋へ入ってきた。
リンズより温度は低そうだが、乾燥している分体感温度はそれほど低くない。
「面倒をかける。どうしても明日出発したいのじゃ。今日中にジャン公へお伝えしておきたい。」
「まあ、それはまた急な・・・」
「うん、まあな。」
王都に来てから、木になる噂に触れた。
仙界が動いているという。
何のためにどこの国にといったことは分からない。
しかし心当たりはない事もない。
例えば今回のチユ国南征。
探られて痛い腹はないが、仙界が動くとなれば、国同士の争いレベルの事だろう。
南征に仙界が介入する?
我々は少なくとも仙界を動かしてはいない。
となればチユ国が仙人に取り入ったか。
早く帰国して対策を取らねばならない。
なにか胸騒ぎがして仕方ない。
「まだ終わらぬのか、まったくのんきなお人よ。」
ジョン・ガンは立ち上がって中庭へ一歩踏み出す。
その時。
がたりと正面の扉が開き、女が1人廊下へ出てきた。
暗がりに光る、真っ白な肌。
女は全裸だった。
その胸元は・・どす黒く濡れている。
「な・・何事じゃ!」
ジョン・ガンが叫ぶやいなや、女は振り返って部屋に向かって両手をかざす。
すぐに真っ白な背中越しに火花が散る。
ひょっ!と空気を切る音がして、王宮中の大気を揺るがすほどの音と共に、火の柱が吹き上がる。
「ぅぐわああああああああ!!!」
火の海と己の叫び声に包まれて、リュー公国一行は全滅した。
既に明かりが落とされていた王宮周辺は、消火への対応で大騒ぎとなっている。
寒空に着の身着のままで飛び出す貴族たち。
彼らのために命がけで消火を試みる平民たち。
初四の細い月が夜空に浮かび、地上は荒れ狂う火炎がすべてを焼き尽くす。
その空には先ほどの女が浮かんでいるが、地上からはもう見えぬほどの高さへ届いている。
その表情は恍惚としている。
手には血に濡れた、金色の塊が握られていた。
うーんこうなる予感はしてました。
他のストーリーもあったんですが…
覇者ジャン公登場前に爆死!w




