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英雄と亡命③

ジェズの登城は春節(旧正月)以来4日連続、当然人生新記録だ。


今日は従者としてダロンも従えている。

規則で言えば従者と言えど、平民では入れない場所とか色々あったはずだが、ちょっと思い出せないので、構わず三ノ城の公子シャオの居室まで連れ込んでしまう。


忘れたふりをしている訳ではない。

本当に思い出せないからしょうがない、とジェズは納得した。


ダロンは初めて入るリンズ城内に興奮し、キョロキョロあたりを見回しているからいかにも平民っぽい。


しかし誰も注意する者がいないので、3人は門をくぐって広場を突っ切り、正面から城に入った。

ジェズをよく知る門番たちは、明らかに目が合わないように皆遠くを見ている。


城の防備としてはいただけない話だが、今は大変都合がいい。


冬の陽は間もなく夕刻に入ることを告げている。

三ノ城の廊下を歩く3人には、屋根の向こうに赤く染まりかけた空が見えた。


使いの者を出しておいたので、公子シャオは自室で彼らの到着を待っていた。

「色々とありがとうジェズ。貴方たちも手を貸していただいたそうで、本当にありがとう。」

シャオは立ち上がって礼を言った。

アモンとダロンは飛び退って跪く。


「アモンは会ったよな?こっちがダロン・リー、『軍師ダロン』だ。」

「伏竜学舎でも有名だよ。今回は手を貸してくれてありがとう。」

「とんでもありません・・・」


ダロンは高名な第4公子から感謝の言葉を受けて、柄にもなく感激しているようだった。

「ダロンお前さ、俺と初めて会った時とは大分違わねえか?」

「そんなことナイサー。」


「早速で悪いけど、この後また客人の挨拶を受けなきゃならない。手短に話を聞かせてくれるかな?」

国主・宰相の不在が、公子たちを公務に引きずり出している。

ジェズですら客を預かったのだ。


「そんじゃあダロンから説明してもらおう。状況はあまりうまくないんだ。」




「大夫7名か・・・結構微妙な数字だね。」

「俺はシャオ兄に付く。」

ジェズは唐突に宣言し、シャオは目をぱちくりさせる。

「それは有難いが・・・今更だけど、いいのか?」

言いながらもシャオの顔はだんだんと明るくなった。


ティエル=ジャン家の強みは単にその家業である武器生産だけではない。

技術者派遣と王国内の流通を名目に、公然とリュー公国内に住んでいる一族が1000名を下らない。大夫1人に匹敵、あるいは中身で見ればそれを凌駕する戦力だ。


「ウグイ兄さんの側に付かないまでも、中立の立場になるっていう手もあるんだよ?」

「それも考えた。」

ジェズは正直に自分の考えを伝える。

「この二人も助言してくれた。まず中立の立場をとっても、一兄が後を継いだら『(ウグイ)側に付かなかった』ことで報復をしないとは限らない。」

今日は従者の2人は横でウンウン頷いている。


「次に一兄側の『勤王』の理屈は分かる。でも父上が『勤王』を怠っているという理屈は言いがかりだ。そもそもあの理屈は結論がない。いくらでも誰かを『勤王精神』に反してると責められるインチキだ。あんな奴に味方するのはご免だ。」


シャオは目を見張って聞いている。


「最後にシャオ兄は十分な正義がある。父上と宰相に指名され、王が認めたという正義がな。」

「勤王派は『また不遜にも王を利用した』とか言うだろう。その正義は通用するかな?」

「シャオ兄、さっきも言ったがあいつらの理屈は、言いがかりをつけるためのもんだ。つまり奴らは話し合いには応じないのさ。戦いは必至だ。」


しばし呆然とするシャオ。やがて頭を振って口を開く。

「ジェズは学舎へ入って驚くほど変わったな。」

「こいつらのおかげだ。っていうか今のも自分で考えたわけじゃない。」

ジェズはカラリと笑った。


「中立だろうがどちらに付こうが、『勤王精神』ってやつは戦いを前提にしている。だとすれば俺は正義のある方に味方して、なるべく早く戦いを終わらせる。」

「よく分かった。ありがとう。」

シャオは爽やかに言った。




「まずシャオ兄の味方が誰か教えてくれ。」

シャオはほぼダロンの調査通り、11名の大夫の名を挙げた。

「大体調査の通りですねー。」

「・・・手の内が筒抜けってのが結構ショックだけど、一体どうやって調べたの?」

「それはヒミツですぅー。」


先程はもう少し緊張していたように見えたダロンだが、もはや普段のタメ口に戻っている。

シャオも別に気にしていない様子だった。

「これからどう動けば?」

「まず味方の確定ですが、11人は本当にシャオ様側と考えて大丈夫ですか?」

「間違いない。もう書面を取りかわした。」

シャオは後ろの卓をぽんぽんと叩いた。


「では残りの9名に意思確認をします。このときには接触時に立太子の件も明かしましょう。」

「やむを得ないな。」

「この情報はシャオ様しかご存じないと断言できますか?」

「うん。少なくともこちらから伝えた者はいない。」


ダロンはそこでうんと頷き言った。

「ではカイファン・トイ卿にも伝えましょう。卿の支持は必ず必要です。」

「分かった。それでは・・意思確認は味方の11大夫にそれぞれ分担してもらう。トイ卿は・・・昔からジェズを可愛がっているし、ジェズから伝えてもらえるか?」

ジェズもそのつもりだった。

大きく頷き引き受ける。




カイファン・トイはその晩、ルー侯国からの客を迎えて晩餐会だった。

ルー侯国と言えば、第1公子ウグイの母の実家である。

晩餐会にはそのルー=ジャン家の母子も当然ながら参加している。


ルー侯国からは廟堂第2位のイン・アン卿が訪れている。


隣国である気安さから、またシャオバイ・ジャン公が当主となったいきさつから、両国の関係は非常に良好だ。

「いやいやトイ卿!!もいっぱい!もーいっぱいろみりゃはれ!!」

「アン卿は相変わらずの飲みっぷりであられる!はっはっはっ!」

お互い君主と宰相を支える身、二人の仲も昔から良い。


「まったく2人とも、そういうのは貴族の飲み方ではありませんよ。」

ルー妃は眉をひそめてこれを見ている。

「まあまあいいではありませんか母上。今年はジョー王国400周年の素晴らしき年!その幕開けに少々酒を過ごしても、王はお怒りになりますまい。」

息子のウグイは判断基準が必ず『王』である。


「おお、おお。若様はみごちょな勤王の志をお持ちりゃあ・・・これはっ!国王ジー家のちがながるるからこそじゃろう!たーのもしきかぎりゃりゃ!」

アン卿は既にベロベロだ。


「その通りだアン卿!私はこの血筋を誇りに思っている。畏れ多くも国王陛下につながる血筋、そして勤王の英雄開祖リューシャンの血筋。この家に生まれて勤王に目覚めぬわけにはいかぬ!」

まったくじゃあ!かんぱいじゃあ!とアン卿は喜びを爆発させている。


「それなのに父上ときたら、少々度が過ぎますよ!」

トイ卿とシュウ卿は、ぴくっと眉を上げる。

「ほおお!じゃん公が・・・どーかさりゃりゃしたきゃあ?!」

謎の方言のようなアン卿の言葉を気にせず、公子ウグイは口滑らかにしゃべり続ける。


「父は帰国後南へ兵を向けるつもりです。」

「にゃ?にゃんと!」

「ウグイ様何を仰せですか!」

トイ卿は驚き慌てて発言を止めようとする。


「トイ卿、実はそうなのだ。父はこの度の王国へ出発前に、チユ国への南征を言い残して行かれた。」

「そっ・・それは誠にございますか?!」

「そっそそそそりゃりゃみあみゃにま?!」


「そしてその間の留守役として・・・私を太子に指名すると。」


皆混乱して声も出ない。

ルー妃にしても驚きのあまり口を手で押さえ、声を発せずにいる。

シュウ卿もただ信じられぬ様子で首を振るばかり。


「ウグイ様、何故今までお話にならなかったものを、この席でお話になられましたので?」

「すまんなシュウ卿。父上からは口止めされておった。」

ウグイは素直に詫びを言う。


「しかし新年も過ぎて、父上も国王陛下に上奏を済まされたはず。おまけに今日は身内だけの宴会じゃ。話して困ることなどなかろう?」

なるほどとシュウ卿が頷く横で、まだ衝撃からさめぬトイ卿。


「それは・・・誠にございますか?ウグイ様?」

「おや?卿は私の話を信じぬのか?」

ニヤリと不敵に笑うウグイ。

「まあ心配いらぬ。来月早々には父上もお戻りになろう。本人からゆっくり説明を受ければよい。」


トイ卿はシュウ卿に目をやる。

相手はこちらを見て頷き返している。

「公子のおっしゃるとおり、もう少々待てばお2人がお帰りになる。我らは戦支度をして、お待ち申し上げましょうぞ。」

シュウ卿の眼は笑っていない。




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