英雄と亡命②
香港の問題はやっと進展ありましたねー( ・∇・)
報道は取材にもいかず若者を煽るだけで、すごく残念です。
o(`ω´ )o
初四の朝、ジェズは早朝から起き出して木剣を手に庭へ向かった。
朝日もまだ昇らぬ時間、寒さは骨身にしみるようだ。
冬期休暇で実家に帰っているのに、稽古をするときには学舎の胴着を着込んでしまう。
― まあ気分が引き締まるし。
暗闇の中、剣を上段に構える。
先日の狩りで出くわした、魔兎が闇の向こうから走ってくるのを想像する。
この前は左を先に切り倒し、回転しながら右側の後足を切り捨てた。
だが・・・2匹とも正面から切り捨てる程の速さがなければ、強敵が来た時に立ち向かえないとジェズは考え始めている。
たとえば、森で出会った仙人のアルラン・ヤン。
あの男ならば正面から2匹切り捨てるなど、造作もなくやってのけるだろう。
手合せはしていない。だが体からにじみ出るような圧力を感じ、圧倒される思いだった。
― 斬りあえば間違いなく寸断される。
想像の向こうから、魔兎が迫る。
斬撃。
直線的で力任せな動きは影をひそめ、最近では意識して円を描くように動いている。そうすることで無駄な力が去り、刃先が速く動くと思う。
しかし右の魔兎はジェズの脇をすり抜け、剣は空を切った。
まだまだ速度が足りない。
更に早く出来る、もっと早く出来るはずだとジェズは思う。
「若旦那よ。」
声に驚いて後ろを振り向くと、昨日から客として迎えている公子ジョンアル・ジーの従者、ジェン・センがにこにこして立っていた。
「ジェン・セン殿か・・・まったく気が付かなかった。」
「こりゃあ失礼。いや早朝からただならねえ気配がしたのでな。見に来たら剣を振ってるあんたが見えた。なかなか使えるねえ!」
「いや・・まだ遅い。」
ジェズは思ったままを口にする。
「剣を稽古してるんだな。珍しい。俺も実は好きなんだ。」
そういって手を伸ばし、ジェズから剣を借り受ける。
「なかなかよく出来た剣だ。」
「我が家で生産している。近頃技術も上がってきたのでな。」
ティエル=ジャン家の武器商会が、剣を本格的に生産し始めている。
「今の動き、恐らくこれくらいの速度が必要だ。」
そういってジェン・センは剣を正眼に構える。
と思った瞬間、一呼吸せぬ間に、空間を2度切り下げた。
剣先が輝き、二つの輪が同時に暗闇に描かれる。
圧巻だった。
「い、今のは・・・」
「はっはっは。戯れ事で済まねえ。実は俺、武道士なのよ。」
「武道士・・・」
仙人の修業を積み、ある程度の水準に達したものは、道士の称号を名乗ることが許されている。
武仙に教えを受け、武術を極めた者を武道士と呼ぶ。
「若旦那もどこぞで修業なすったろ?仙精が漲っているのを感じるよ。まだ仙力はうまく使えてねえみたいだが、時間の問題だな。」
「いや実は、修業といっても学舎で剣の型を学ぶ程度でね。」
「・・・波動はどこで覚えたんだ?」
「特に何もしたことはない。自然とできているようだ。」
ジェン・センは少し気を悪くした風だった。
「若旦那、からかっちゃあいけないよ。どこの世界に修業もせず波動を使える奴がいるってんだ。」
「いや冗談言ってるわけじゃなくてね、本当に。魔眼持ってる人に波動出来てるって言われて、初めて自分でも知ったんだ。」
「そんなことってあんのか・・・?あれだけ苦しい修業こなした俺の立場は・・・。」
信じられないといった風に、ジェン・センは首を振った。
「なんか悪いことしたみたいでスマン。」
ジェズも意味なく詫びる。
「それより今のやつ教えてくれないか?あんな感じに振れたこともあったんだけど、もう一度やろうとすると出来なくってね。」
「若旦那。さっきの話が本当とすると、あんた恐ろしく才能に恵まれてるか何かだ。しかし仙力の発動を制御するのに、やはりある程度訓練は必要と思う。」
ジェン・センはゆっくり言葉を選びながら言う。
「そこまで含めて教えてもらえないだろうか?」
「いや若旦那、今のおれの立場で断れるわけないだろう。」
笑って剣を返しながらジェン・センは言う。
「だがそう簡単と思ってくれるなよ。『風斬』の習得に数十年かかる奴だってザラにいるんだ。」
初四の午後、ダロン、ジェズ、アモンは再び孤児院のダロンの個室へ集合した。
部屋の中は綺麗にとはいかないまでも、人がくつろげる程度には片付けられていた。
「レンさんが昨日やってくれてさー。」
さすがに申し訳なさそうにダロンが言う。
ジェズは何も言わずに椅子の一つに倒れこむ。
「つ・・・疲れた。足が動かねえ・・・。」
動けずにいるジェズをその他2人は面白そうに見ている。
「何やったんだお前?」
「胴着も汗でびしゃびしゃだねー。」
「客人に・・・稽古つけてもらってた。ああ、そういやあダロンに礼を言わなきゃな。」
「道場のことなら問題ないよ。もともと近所の人にも開放している施設だしね。」
「客人って?」
アモンだけは昨日の騒ぎも聞いていなかったので、ジェズはぐったりしながらも説明する。
「ほー、そのジン公国の人が稽古をねえ。ジェズがぶっ倒れるとなれば相当な中身だろうな。」
「信じられねえ・・・剣なんざ振らねえんだ。逆立ちして腕の曲げ伸ばしやら、木に足でぶら下がって起き上がるやら、仙人ってあんなことするもんか?」
「まー武仙の訓練なら、体力系のものも多いんじゃない?」
「あんなことして、剣が速く振れるようになるのか・・・?」
そこにレンさんが白湯を持って来た。
「ジェズ様、年越しにはたくさんの差し入れをありがとうございました。おかげで子供たちにも不足なく料理を作ることが出来ましたし・・・」
そこでレンさんは少し頬を赤らめて、
「それにウーズ様がことのほかお優しくしてくれますので、子供たちも楽しく過ごせました。」
唖然とする3人を尻目にレンさんが下がって、彼らは感想もそれぞれな呟きをもらした。
「ウーズさんが?そんなに来てたんだー。」
「ウーズも家の事で忙しいだろうに。」
「野郎・・・どうも見ねえと思ったらここでサボってやがった・・・。」
彼らはひとしきりウーズの恋について展望を語り合う。
どうやら今の様子を見れば、家宰には十分チャンスがありそうだった。
「ところでなんか今年の正月は忙しいぞ。例の件はどうなった?」
ジェズの問いに2人はニヤリと顔を見合わせ、
「昨日と今朝でかなり情報集まったねー。」
「ふふん、聞いて驚くなよ。」
と余裕を見せる。
「あれ、今日はリイファは?」
「おお、その事なんだけど。」
ダロンはちょっと改まって言う。
「彼女も情報収集は手伝ってくれた。それを皆で報告しあっているうちに、他国の出身である彼女はかかわらない方がいいって自分から言い出したんだ。」
「俺たちは別にかまわんだろうと思ってたんだけど、事が事だからいざ何か起きた時迷惑かけたくないって。」
「ふーん。そういうもんか。」
「気にする事もないと思うけどな。」
「本人の意思を尊重したわけさー。で結果だけど、かなり現状がわかったね。」
ダロンはそう言って、大き目の砂版を取り出す。
「知ってのとおり、リュー公国は27大夫の制度があるからねー。ウチの卒業生は優秀だから、ほとんどの大夫の所で必ず雇われている。昨日のうちにできるだけ多くの使いを送って質問しておいたよ。」
ダロンはレンさんの持って来た白湯を啜る。
ジェズとアモンもここでズーっとやった。
「そんで今朝早くから沢山返事が来た。まとめると・・・」
ダロンは砂版に『公子ウグイ』と書く。
「公子ウグイ様はどうやら勤王派に激しく傾倒されている。そこに賛同しているのはこの7人の大夫。」
砂版には7名の大夫の名が書かれた。
「勤王派ってなんだ?」
ジェズが質問するのは予想されたことらしく、アモンが簡単に説明する。
「ジョー王国連邦は王国を中心とした国同士の繋がりだ。この国々は『王から土地を預かった』という前提で忠誠を誓っている。」
ジェズはフムフム頷いている。
「近年の王を蔑ろにする風潮を、見過ごせない人々が『王の復権』を主張しているんだ。これが勤王派だ。」
「おー、ウグイってそんな奴だったんだ。意外とまともな考えじゃねえか?」
「まあ理屈として間違いじゃないけどねー。」
ダロンは賛同できない様子で言う。
「なんか問題あんのか?」
「ジャン公だって別に王を敬っていないわけじゃない。王国のために自腹で軍隊を集めて、異民族の侵入を防ぐために指揮を執っているんだ。これだって立派な勤王と思うけどね。」
ジェズはまたフムフムと頷く。
「うーんダロンの言う通りじゃねえか?」
「ところがそうじゃねえんだ。勤王派からすると、王に代わって各国に号令するのは不遜だし、『覇者』の称号を受けるなんてとんでもないって話になっちまう。」
「・・・じゃあ勤王派は父上のやってることに反対な勢力か。」
「そういうことー。『覇者の金印』を潰すことが勤王だと信じてるわけだねー。」
『覇者の金印』はジョー王から送られた印章である。
一代限りのもので本人の名が刻まれている。
「状況は分かった。」
ジェズは茶碗をおいて話を続ける。
「今7名の勢力が一兄側だ。残りは父上を支えていると思っていいんだな?」
「いや残りの20名のうち、はっきりとジャン公を支えていると言えるのは10名ってとこだねー。」
ダロンは悲観的な数字を語った。
「リュー公国は3軍、3万人の常備兵力を持っている。各大夫は3軍に振り分けられていて、それぞれ500人の兵力を持っている。その配下に2人の上士が振り分けられ、各上士は250人の兵力を持つ。」
ダロンの説明はリュー国軍の配備状況の最新版だ。
「7名の大夫の戦力は3500人、恐らく配下の上士も同調しているはず。だからウグイ様は7000人の反乱軍を起こせる勢力だってことだ。」
それは容易でない数字だ。
準備を整え蜂起をいつでも好きな時に行える7000人と、通常状態にいる10000人では、事が起きた時に強度が違う。
そこを突かれれば数の差があっても負ける。
「こっからどう動く?」
「まずはお前が旗幟を鮮明にすることじゃない?」
「きしを・・・なんだ?」
「立場を明らかにするってことー。どっちにつくか。」
ジェズは少し考えてキッパリと言った。
「2人のおかげで気持ちは決まった。俺はシャオ兄を助ける。中立などという真似はしない。」
「それなら次は、シャオ様にそのことを告げることだねー。」
ダロンはウンウン頷いている。
「それからジャン公支持と思われる10名へ、自分の太子即位を根回しすること。もうやってるかもだけどね。それから残り10名へも接触しないと。」
「そして反乱への準備と、大事なのは2卿の説得。」
アモンは自分のくせ毛をモシャモシャといじくって顔をしかめる。
「ダロンの情報だとシュウ卿はガッチガチの勤王派だ。ウグイ様についていると思って間違いない。問題はトイ卿だな。」
「うーん、叔父貴は父上に楯突くことなどないと信じたいが・・・こないだの祝辞式の事もあるしな。」
考えれば考えるほど、ジェズも不安になってくる。
すぐ行動に移すべきだ。
「よし動こう!2人ともついてきてくれ。いまから登城してシャオ兄に会う!叔父貴にも会っておこう。」
「よし!」
「ジェズ大丈夫?疲れてるんでしょ?」
ダロンはジェズに気を使って言う。
「ここで動かなきゃあ疲れはとれるかもしれないが、そのあと命を落とすこともありえるぜ。」
太ももをパシンと叩いて気合を入れ、ジェズは立ち上がってううんと伸びをした。
「まったく忙しい正月だ。」
昨日はPVがずいぶん伸びました(*´∀`*)
たくさん読んでいただいて、ありがとうございます!
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明日も16:30ごろ投稿します。




