陰謀と正義③
陰謀編ちょっと引っ張ります(´・ω・`)
「いやー、友人として信頼してくれるのは嬉しいけど…コレ国家機密だろー。」
ダロンの反応もアモンと同じだった。
「細けえこと言うんじゃねよ。」
「細かく無い、というより国家規模で話が大きすぎる・・・」
リイファも同じ意見のようだ。
「大きい括りでお前達にも関わりある事だ。いいから知恵貸せや。」
「相談に乗るのは良いんだけどねー。」
やれやれといった感じで自室の戸を開けるダロン。
孤児院に長年育った彼は、個室を与えられていた。
30平方歩ほどの部屋には多くの書が積み上がり、椅子がいくつかあるから辛うじて何人か座れる空間がある、という程の散らかり方だ。
綺麗好きのアモンは顔をしかめたが、ジェズとリイファは眉ひとつ動かさず席に着いた。
埃が舞い上がり午後の陽射しにキラキラと光る。
ばあちゃん家の物置きみたいとアモンは呟く。
「で、お前はどう思ったアモン。」
「ばっちい部屋・・・」
「この部屋の感想じゃねえ、ふざけんな。」
アモンは椅子の埃を払い、手についた埃にまた顔をしかめてソロソロと座った。
「シャオ様には十分な正義がある。ジャン公から信頼を受け、王家からもお墨付きだ。むしろ他の公子が太子になる隙を見出すことは出来ないだろう。正攻法ではね。」
「だからジェズがこの話に乗っかるとしたら、確実に他の公子たちと一戦交えることになる。」
ダロンはいつになく厳しい顔でそう言う。
「そうか?案外すんなり行くんじゃねえ?だってお前、王国からのお墨付きだぜ。」
これをアモンもダロンも首を振って否定する。
「まず何と言ってもジョー王国は弱体化している。リュー公国内の別勢力がこの決定を覆しても、懲罰を与えれるほどの力はない。だって極論すれば、今王国はリュー公国の言いなりになって、太子の擁立を承認する機関に過ぎないだろ?」
「むう・・・」
「リュー公国に内乱が起きて違う太子を擁立したところで、再度承認するだけだろ。王国には権威はあっても実力は無いんだ。」
「ううむ。」
「おまけに昨日の状況からも、公子ウグイはかなり国内の勢力をまとめつつあるんじゃないのー?だとしたらすんなり行くっていう読みは楽観的すぎだよねー。」
「むむう。」
「そうすると、ジェズがこの話に乗れば、他の公子たちとの争いは避けられない。乗らなければ?」
リイファが尋ねる。
「まあ自ら後継者にって手も無いでは無いよねー。」
「無い」
ジェズの否定は早かった。
「だったら権利放棄して中立を保つって手はある。それこそかつてのトイ卿のように。」
「その場合、一兄が権力握ったら、俺の居場所はなさそうだな。あの人身分とかに超ウルセエし。」
「それにさー、ジェズが中立を決め込んでも、シャオ様を追い出すのに協力しなかった勢力は、後から報復受けそうだねー。」
クソっと叫んだジェズは、椅子の肘掛をドンと叩く。
舞い上がるホコリに咳き込むアモン。
「一先ずシャオ様のご提案に前向きに返事して、他方で家臣たちがどの公子についているか調べるってのはどう?」
アモンは呼吸を整えるとそう提案した。
「俺たちには情報が不足し過ぎている。」
「時間がかかりそうだけど、どうやって調べる?」
首をひねるダロンにアモンは言う。
「これは明らかに非常事態だろ?あらゆる手段で情報を集めるべきだ。例えば・・・学舎の卒業生は?」
ダロンはドンと卓を叩く。
「アモンは天才!」
ホコリが鱗粉のように舞う。
アモンはたまらず部屋から飛び出して行った。
― 翌日。
新年初三(1月3日)の朝は、リンズ城の仕事初めである。
3卿が27名の大夫と会議を行うが、例年年初の会議は儀礼的なもので、それほど内容があるわけではない。
今日は2卿の出席で、新年のあいさつと共に和やかに会議は始まった。
50歩(12m)ほどはある縦長の部屋は開け放たれており、明るいが外の冷気そのままの気温である。
とにかく寒い。
それでも真新しい長袍を着込んだ大夫たちは、新年の華やかな気分でなんとなく明るい。
しかし開始後すぐに、折衝方(外交係)から緊急の報告がもたらされる。
「昨日夕刻にジン公国第2公子ジョンアル・ジー様のご使者が参られました。当家へのご訪問をご希望とのことです。」
ジン公国は西方の大国である。
お家騒動で国力をそがれてはいるが、元々リュー公国と遜色ない国力を持つ。
途端に会議場は緊張に包まれる。
「ジョンアル殿といえば、ジン公国を追放された言わばお尋ね者。」
折衝方が言葉を続ける。
「しかしながら聡明・公正の評判高く、一方で現当主の弟君は暗愚。隣国との揉め事が多く、遅かれ早かれジョンアル殿が家臣から呼び戻されるのでは・・・という専らの噂でございます。」
ふーむと議場からため息が漏れる。
当主が不在の今、それを言い訳に保護を断ることもできる。
しかし天下に覇者を名乗る国が、亡命者をはねつけるような狭量と言われるのは面白くない。
「それで公子はいつのご到着だ?」
尋ねるディアオ・シュウ卿の前で頭を上げぬまま、折衝方は報告する。
「はっ、明晩のご到着を・・・ご希望とのことでございます。」
「明晩!馬鹿な、急すぎる!!」
「新年のこのような時期に、ロクな準備もできませぬ。これはお断りしてもよろしいかと。」
シュウ卿はカイファン・トイ卿に訴える。
「しかし新年のこのような時期に、頼る場所もなく当家をお頼りいただいた。主不在と寒空へ追い帰せば、かえって主の顔を潰すようなものではないか。」
そういわれれば、シュウ卿に返す言葉はない。
「使者殿はまだご滞在だな?」
「はいっ!昨晩は寝ずに我らが返事をお待ちのご様子。」
折衝方は顔を上げる。
どうやら随分と使者に同情があったようだ。
「では即刻使者殿に伝えよ。リュー公国は公子の窮状に対し、常々同情を持っておったと。早急に受入れを整える故、明晩と言わずすぐにもお越しあれとな。」
「かしこまりました!」
議場よりすっ飛んで出て行く折衝方を見送り、トイ卿は一同に向かって告げる。
「リュー公国は公子ジョンアル・ジー殿を援助する。早急に王国の主とガン卿へこの儀を伝える使者を出せ。急げは半月で王国に届けられよう。」
「何なのだ!なんと間が悪いのだ!!」
三ノ城の個室では第1公子ウグイ・ジャンが喚いていた。
「なんだ?そのジョン何とかいう公子は?我らに何の関係がある!」
ウグイはつい最近貰った玉を卓ごとなぎ倒し、椅子を蹴散らして暴れている。
「お止しなさいませ!貴族の付き合いというものがございましょう。」
シュウ卿は平静を保って公子を諌めた。
従者のアルランが横で呆れたように公子を見ている。
「公子、恐れながら左様な亡命者が何名来ようが、計画の進行に妨げとなるものではありません。」
アルランがそう言うと、ウグイはぴたりと動きを止める。
「ご決断なさいませ。王が立太子の儀に同意すれば、いずれこの動きは避けられませぬ。」
「くう・・・そうだ、そうだな。」
「シュウ卿、我らに組する士大夫はどれほどいるのか?」
「すでに7名の大夫が公子の勤王に賛同しております。ガン卿の不在に乗してさらにトイ卿を味方につければ、逆らう者などおりますまいよ。」
「謀略は素早く動かねばなりません。公子、ご決断を。」
「う、わ、分かった。」
ウグイは蹴り倒した椅子を直し、ヨロヨロと座り込む。
「シュウ卿は引き続き味方を集めてくれ・・・そして計画を・・・実行しよう。」
ウグイは虚空を見つめ、誰ともなくつぶやく。
「これが平和を貫く道、開祖リューシャンの道なのだ・・・」
亡命の公子!
この人は史実からちょっと有名人をヒントにしてます。




