狩人と獲物②
仙人がやっと出せた…
ここから大量投入とはなりませんけどね(-.-;)y-~~~
ウーズとガンゾは草叢の両脇を先行して走りながら、片手で大きな音を出す竹筒を鳴らす。
魔兎の巣と思しき草叢は、火を放てば燃え広がりそうな、乾燥しきった枯れ木と草に覆われている。
追い込みの3名は、少し遅れて中央から大声でわめきながら、草叢へ突っ込んでいく。
草叢の丈は腰よりやや上ほど、子供たちにとっては少々深い。
草だけでなく低木も多い。突っ込むにも注意が必要だ。
ほどなくしてギイイという大きな鳴き声と共に、巨大な後ろ足の魔兎が数匹飛び出してきた。
「おった!脇へそらすな!!」
ウーズは興奮して対極にいるガンゾへと叫ぶ。
「任せるっしょ!逸れてきたら悪いけど射殺すけど!」
横を向いてスキップを踏むように、ガンゾは跳ね回りながら竹筒を振り回す。
追い込みの3名は初めての狩りに気が焦るも、草叢に足がとられて思うように進めないでいる。だが魔兎は十分驚き飛び出しているので、もはや方向を変えて進むこともない。
褐色の魔兎は驚くべき跳躍力で、ぐんぐんと仕掛けの3人に近づいてくる。
「4匹だ!俺が中央で2匹!二人は両端!」
「収到!」
「まかせて!」
数呼吸のうちに役割を決めた3人は、それぞれの武器で構えを取る。
ジェズとガンゾの斬馬刀は、木製の5尺ほどの柄の先に、刃渡り2尺5寸の反り返った片刃刀をつけた武器である。
大力の者は戦場で振り回して使うが、バランスが悪いので力がないものは突きで使うのが一般的だ。
魔兎の武器は後ろ足での跳躍と蹴り、そして鋭い前歯での噛みつきだ。
この速度で移動していれば、攻撃の選択肢はなくなり、前の敵には噛みつきを試みてくるはずだ。
そうして敵が怯んだところを逃げるのが彼らのセオリーである。
逃がさぬためには最初の一撃で足を止める必要がある。
体長は4尺ほどもあり、子供には簡単なサイズではない。
アモンはおおしっと吠えて斬馬刀で突きの体勢を取り、正面から脇にかわしつつ首元を捉えた。
鋭い踏み込みが魔兎のスピードに負けぬほどの威力を太刀先に与える。
魔獣の勢いがやや勝ってか、突きが決まった後に小柄なアモンはやや引きずられ、ドドッと草叢へ倒れこむが、見事に一太刀で仕留めた。
イェンは長剣を下段に構えている。
その手は草叢に隠れて見えないが、定石通り魔兎が向かってくるのをじっと待っていた。
ジェズは斬馬刀を片手で構える。
自分に向かって来る2匹は、ほぼ同じ速度で走っており、到達するのもほとんど同時に思えた。
だとすれば少々工夫が必要となる。
「あの時の動きだ。同時に葉を切り落とした動き・・・」
ジェズはぶつぶつとつぶやきながら、大刀をゆっくり振り回す。
体に力を込める。
ダロンが言うには、この時ジェズには龍脈から仙精が流れ込み、体を強化しているらしい。
― よくわからねえけど、ダロンが言うならそうなんだろう。
最近は何かが体に流れ込むような状態をイメージしている。
ジェズの左横でイェンが動いた。
魔兎の側面に数歩突っ込むと、イアアアという甲高い気合と共に剣を切り上げる。
驚異的な斬撃が魔兎を浮かび上がらせ、数拍後にドサリと地面に横たわらせた。
同時にジェズも動く。
咆哮を上げて左手からくる魔兎の頭蓋を、唐竹割に打ち砕く。
大刀の遠心力を体を軸にして受け止め、振り回した勢いで右手に大きく回り込む。
魔兎はジェズと交差しながら逃げ切ったに見えたが・・・ジェズのもう一回転が後ろ足を捉える。
ギイイという悲鳴と共に、片足を失った魔兎が草叢へドドッと倒れこんだ。
ジェズは素早く駆け寄り、とどめを刺す。
「フーッ!!いやあ早いなこいつら。危うく逃すところだった。」
「・・・お前いまどう動いた?右側の魔兎をすり抜けたように見えたぞ・・・」
アモンは唖然としてジェズを見ている。
イェンはきゃあきゃあ言ってジェズに抱き着いている。
「すごい!!ジェズったら2匹同時に仕留めた!」
ダロン達も草をかき分け近寄ってきた。
「おお、全部仕留めたんだ!すっごいねー!」
「ううーん、1匹余りそうだったのに残念っしょ!弓の出番がないじゃん!」
ウーズはニッコニコでジェズを褒め称える。
「若!お見事でございました。最後の体さばきはこれまでにない動きでしたなあ!」
「うん。最近剣術をやっていて、速度を上げるコツが見えてきたんだ。」
「本当にすごかったの!ジェズったらほとんど同時に二太刀放ったようにみえた!」
「わかったからその手を離せというのに・・・この女マジ油断ならん!」
笑顔でジェズに抱き着いているイェンを、リイファは引きはがそうと懸命に引っ張っている。
そして全員がそれを感じた瞬間、巨大な岩が落ちたような轟音と共に、馬よりも大きい巨大な金色の狼が彼らの前に現れた。
文字通り空から降ってきたようにそこにいる。
その存在感は暴力的であり、先ほどの魔兎などはこれに比べると魔獣のうちにも入るまい。
「な・・・なんじゃコイツは?!」
ウーズが身構える。
同時にこれに襲われれば勝ち目がないこともはっきり感じられる。
この場にいるどの生き物よりも一段上にある存在。
「なんだコイツ?魔狼かなー?」
「ス、スゲエ・・絶対かなわねえぞこりゃあ。」
だがその怪物は特に動こうとせずペタンとその場に座ってしまい、ジェズ達に敵意を向ける様子はない。
脅威として見ていないのだろう。そしてまた幸いなことに、エサともみられていないようだ。
ジェズ達は徐々に警戒を解いた。というより衝撃から立ち直って動けるようになった。
イェンなどはまだ顔がこわばり、口がきけるようになっていない。
「どうやら危険ではないようだが・・・何でしょうかこの魔獣は?」
狩りの名手ウーズも初めて見る魔獣だった。
「それは魔獣ではない。私の使役する神獣だ。」
よく通る澄みきった声がジェズ達に向けられ、一同後ろを振り返る。
そこには燃えるように赤い長髪の男が、小山のようにそびえ立っていた。
背には三尖刀と呼ばれる大刀を背負い、髪と同じ真っ赤な袍を着込んでいる。
「それよりいま波動を使ったのはお前たちか?」
あまりの出来事に全員返事を忘れていると、男は笑ってもう一度聞いた。
「東の果てリュー公国では言葉が通じんかったかな・・・?お前たちに聞いているのだが?」
その場のほとんどの者が、この男が何を言っているかすら分からなかった。
ただし男が言うような言語の違いの問題ではない。
言っている話しの中身がさっぱりわからないのだ。
ところが少しおいてダロンが突然口を開く。
「波動を使ったとしたら彼ですねー。」
ダロンは臆することなく巨大な男に答えた。
「僕たちはまだ元服前で、波動の発動すらできていないから。」
「ダロン何を言っている?」
リイファが聞くが、ダロンは任せてくれと目配せをするのみだ。
「うんそうか・・・だがお前たち、みんな波動の兆候がある。」
そう言った男は額の中央にある ― 目を見開いた。
全員あっと息をのむ。
「うむ、間違いない。いつ波動が起こせても不思議ではない。」
ギロギロと全員を見回すその眼は・・・魔眼だった。
「それにしても先ほどのは、大変な質量の仙精が動いていた。お前が一人で使ったのだとしたら、並みの道士ではあるまい。名を聞いておこう。」
ジェズは先ほど来この男から、ただ事でない圧力を感じていた。
その圧力は彼に向けられたものではなく、あふれ出る力を抑え込んでいるような、そんな状態が周囲に与える圧力である。
噴火前の火山のような、深海の水圧のような底の知れぬほどの力だ。
これでこの男に殺意を向けられたら・・・ジェズは想像してうんざりとした。
― 底の知れない奴がいるもんだ。コイツと相対しただけで、頭がおかしくなっちまうだろう。
ジェズは相手を刺激しないよう、穏やかに口を開く。
「俺はジェズ・ジャン、リュー公シャオバイの第5男だ。」
「おお、この国の公子であったか!これは無礼だった、許せ。」
怪物は頭を下げて名乗った。
「私はアルラン・ヤンという。見ての通り仙人である。そこの神獣は哮天犬という。」
アルランは二郎真君、つまり封神演義の楊戩ですねー
イメージ違うかもしれませんが、中国一般では道士と言うより仙人ですかね