凡庸と能力
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ガンゾ少年は、比較的豊かな地主の三男だ。
リュー公シャオバイ・ジャンが国を治めるようになってからというもの(その前の停滞の時代は小さすぎて記憶にないけれど)、宰相ジョン・ガン卿の法制改革が進んで、地主たちの所有権は守られ国は安定した。
おまけに農業でいくつかの画期的発明があり、農業生産量は飛躍的に成長した。
ジョン・ガン卿は身分・家柄に関係なく積極的に人材を採用したため、もともと高かった教育水準がさらに高まり、農業・工業分野にその成果が表れたのだ。
ガンゾの家は地主とはいえ平民であるため、これまで三男となればどこかに養子に出るか、傭兵になって手柄を立てるか、狩人になって妖魔狩りで生計を立てるか程度の将来しか考えられなかった。
今では士官の道がある。
学舎で学び、基礎の文術・武術を身に付ければ、士大夫の下で従者となって働いたり、やがては下士・官吏になる機会まである。
豊かな商人や地主の次男・三男は、競って有名な学舎へ入学を希望した。
そんな中でもリュー公国リンズの大同学舎といえば、名門中の名門である。
2年間の基礎級を卒業できれば、その上の学術を習いに有名な道士の門をくぐることも、高位の士大夫の従者になることも可能だった。
そんな名門にまさか自分が合格できると思わなかったガンゾ。
試験の結果も全く自信なく、記念受験といったものだった。そもそも13歳のこの年になるまで、人より優れたところなど自分でも発見できていない。平均的身長、平均的容貌、当たり前の記憶力に当たり障りのない性格。少し目立つのは黄色みの強い髪の毛だけだった。
地主の三男にはこれ以上ない人間だと思う。
それでも小金を持つ彼の父は、受けるだけでも受けてみろという。
― いやー無理っしょ、受かるわけがないっしょー。
父の顔を立てるだけの受験、自分では地元の学舎へ通うものだと決めていた。
それがまさかの・・・合格!だけでなくなんと最上級クラスである『甲級』への入学となるという。
これは・・嬉しくない。悪い夢であってほしかった。
自分はこの派手な髪の毛以外これといって目立ちもしない人間で、平均的な人生を送り親に少しばかり土地をもらって、農民にでもなるのが向いていると思っていたのだ。
「お前はそんな人生は送らんさ、ガンゾ。ワシは何も見栄や体裁で、お前をゴズ・リー学舎に受験させた訳じゃない。」
父は言葉とは裏腹に得意げな顔で、誇りではち切れそうな顔で、周囲に聞こえよがしに彼に語りかける。
「・・・受かると思ってなかったっしょ。」
「そんなことがあるものか。可能性はないわけじゃないと思っておった!」
せいぜい出たとこ勝負くらいに思っていたわけだ。
「お前の器用さだよ、ガンゾ。」
「?」
父は自身の農場の柵にもたれかかり、ガンゾの肩を片手で抱え込んで引き寄せる。
自分とは違う枯れた茶色い髪と、太っちょの腕が絡み付いて暑苦しい。
だが父がこんなに誇らしそうに自分を抱いてくれたのはいつ以来だろう。
そう思えば少々苦しい抱擁も、なんか久しぶりで悪くないと思ってしまう。
「見てみろ、この農場!お前が考え出した新しい犂やら整地やら・・・どれだけ沢山の収穫を生み出したと思う?お前のような者こそ、本当の天才というのさ!。」
今年も順調に育っている麦やら粟やらが、広大な土地に緑の波を作り出している。
見渡す限りの緑の海の上には、真っ白な入道雲がぽかりと浮かぶ。
ガンゾは昔から農場で土を弄っているのが好きだった。
家畜の面倒を見るのも苦に感じなかったし、収穫の喜びは何よりも彼の心を虜にした。
でもこんなのは・・・才能とは言わない。ただの農民の知恵だ。
「学長のゴズ・リーは、人の才を見抜く不思議な目を持つという。お前が入学できたのは、その才が凡庸なものではない何よりの証拠だ。自信を持って学んできなさい。」
そんな風に父に送り出されたガンゾ。
しかし学舎に入学してみれば、やはり気後れすることハンパではなかった。
甲級のきらびやかな才能あふれる者たちの中、自分の能力はやはり下から数える方が早く、武術に至っては全くお話にならなかった。
打ちのめされている彼に手を差し伸べてくれたのは、甲級の中でひときわ優秀であるダロンだった。
爽やかな容貌、明晰な頭脳、トップクラスの武術と欠点など見当たらない彼は、数日のうちにやっかみの対象となっていた。
「大体あいつ、俺らより早く師範に教わってんだろ?何でもできて当たり前じゃね?」
そんな風に敬遠されがちだった優等生と、なぜ合格できたかわからない劣等生のガンゾ、さらに不思議なのはリイファの存在だ。
「彼女さー、結構変わってるよねー。」
ダロンの一言からその存在に気付いた。誰とも会話をせず一人行動する女の子。
しかし武術の授業では、並み居る男子も歯が立たぬ速さで大刀を扱い、片っ端から体術で転がされる最強女子だった。
異色の3人組は結構ウマが合った。
ダロンとリイファの二か月にわたる指導のおかげで、武術において何とか落ちこぼれずについていけそうな気がしてきた、そんな頃。
「シヨン君がねえ、ちょっと不良に絡まれてるんだ。」
ダロンから相談を受けた。シヨンはダロンと同じ孤児院を出て、今はゴズ・リー商会で働く少年だ。
気の強い性格が災いしているのか、何度か問題を引き起こしていて、今度何か商会に迷惑をかければ孤児院出身者といえどやめさせられぬとも限らないという。
「だからねー、そのケンカ僕が引き受けようと思って。」
こともなげに言う。
「・・・相手は誰なの?」
「『二環北のジェズ』っていうたちの悪い奴でさー。」
ダロンの言葉を聞いて、リイファは目を剥いている。
「ダロンそれは・・・ジャン家公子のジェズ・ジャンのことか?」
「公子!こうしって!え!跡継ぎの事だよね?」
それはむりでしょと普通は思う。
それでもガンゾは自分なりにダロンに恩義を感じている。
「もちろん手伝うっしょ・・・」
「・・・あたしも。」
「ありがとう!ふふーん、まあちゃちゃっとやっちゃおう!」
そんなお気楽なものとは到底思えないが、でも彼なら本当にやってしまうかもと思わせる何かがある。
そしてその作戦は・・・
「ダロン本当に考え直さないかねえねえねえ?僕のために考えてくれたのに悪いんだけど、これが仮に成功したとしても良くて監獄行きのような気が・・・」
シヨン君は真っ青になって反対している。
「えー結構よくデキな作戦だけどなー。みんなどう思う?」
ダロンは不満気である。でもシヨン君の気持ちはよくわかる。
「ちょっと私達にも分かるように説明してくれないか。」
リイファも不安そうだった。
「これはねえ、目的は大きく3つ。まずシヨン君が問題の中心人物だと忘れるくらいの大騒ぎにしちゃう事。これで市場での揉め事なんかどうでもよくなっちゃうでしょ?」
その狙いだけは確実にあたるだろう。
「次に誰にも怪我をさせないこと。これなら仮に怪我したとしても、自分で転んだだけで済む。」
「公子に直接手を上げないってこと?」
ダロンはふんふんと得意気に頷く。
「最後にさ、うんとバカバカしい負け方にする。恥ずかしくって訴えても来ないほど。」
ガチンコの戦いにさせない。これなら相手が貴族の子弟でも、文句を言ってこない可能性もある。
「おまけにこっちも僕以外顔を見せないで済むしさー。よくデキじゃない?」
聞いてみればなるほどであった。ガンゾもリイファも異議はない。
嫌がるシヨン君をなだめすかして当日となった。
朝からの準備が効果を発揮し、『二環北ジェズ軍団』は壊滅状態になった。
ダロンはやっぱりすごい。なのに・・・
ジェズ・ジャンというのは普通じゃなかった。
あのまま奴が暴れ続けたら、ダロンが吹っ飛ばされたように全員お陀仏だったろう。
ジャン家の家臣の方々が出てきてくれなかったら。
そのままお説教程度で解放されたのは奇跡だった。
そして今ガンゾの目の前で、またしても奇跡は起きている。
さっきまで戦っていた二人は、いましゃがみこんで地面に何やら書きながら、夢中になって剣術を語っているのだ。
「うーんそうか。剣先が俺に対して間合いで有利を作る。聞いてみりゃあアタリマエの話だな。」
「そういうこと。ジェズはきっとこの後すぐに剣術覚えちゃうから、今日が勝つチャンスと思ったんだけどなー。」
「・・・意外と性格悪いなお前は。」
「いやーそれほどでも。」
「褒めてねえし。」
何というか、まるで長年の友人であったかのように、ジェズとダロンは語り合う。
脇にいたガンゾは、彼らが笑うたびに何だかこれまでの経緯もわだかまりも、それよりもっと前からあった学舎に入った不安やら、田舎の三男に生まれた身分の低さやら、一切が流されて別のものに変わっていくような感覚を覚えた。
「まあなんだ、結果として悪くないな。」
チビのアモンがそう言って、それは唐突だったけどガンゾの心も代弁しているかのようだった。
「それにダロン、今日はジェズにケンカ売ってくれてありがとな。」
「ん?なにそれー?」
「いや、ジェズがあのまま暴走してたら、俺がオヤジに成敗されていた。」
全く変な奴らだとガンゾは思った。
でも全然、悪くはない。
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