プロローグ① 仙人世界
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昊天宮は白く輝く光に包まれ、あまりの明るさに物の輪郭すら捉えることができない。目を凝らせばそこには何かの形が見とめられるものの、強烈な光に外縁はにじみはっきりとした形は分からない。
やがて輪郭のぼやけた何かが近づくにつれ人の形を成し、一人の仙女が行く手を阻むかのように挨拶する。
「これは瑤姫さま、ご機嫌麗しゅう。」
瑤姫と呼ばれた訪問者は、ややうんざりした様子で挨拶にこたえる。歌って踊るだけの仙女たちは、彼女が苦手の相手なのだ。
「おや紫衣の・・相変わらず素敵だね、そのお召し物は。」
かなりぎこちない彼女の世辞に、紫衣仙女は笑顔を作る。だが目は全く笑ってない。
「・・・して本日は何用でございますか?お忙しい瑤姫さまが!わざわざ!お越しになるなんてえ?」
―クソムカつくわこのガキ・・
主である仙界最強の女を頼んで、自分に対等の口をきく仙女に、瑤姫はいら立ちを抑えることができない。
「西王母さまにね、お話があるのだけれど!」
こめかみがヒクつくのを抑え、瑤姫は自分史上最大のエレガントさを発揮した。自分自身の故郷とはいえ、光り輝く昊天宮は彼女にとって勝手が違う。
すると仙女は大げさにのけぞり、さげすむようにわめき立てた。
「まあ!西王母様に!アポなしで!さすが瑤姫さまともなると、それは大胆であらせられますのねえ!そんな真似をすればこの私など、存在ごと消し去られてしまいますわあ!」
この女なら消されもしよう。
むしろ私がこの場で消してやりたいと瑤姫は思う。
すると光溢れた空間の右手奥にするすると通路が描かれていき、その米粒ほどに見えるはるか先には、黒い着衣に着ぶくれた高貴な女が黒点のように見ることができた。
「瑤姫!そいつはほっといてこっちへおいで!」
昊天宮に女主の声が響き渡る。
「まあ西王母さま!私めをそいつなどとお気安く・・・紫衣は感激でございますう!」
瑤姫は不気味に身もだえする仙女を捨て置き、滑るように通路を進んで西王母の前にふわりとたどり着く。腰をかがめて礼を見せると、彼女は穏やかに切り出した。
「お久しゅうございます、お義姉さま。」
「まあほんと、何百年ぶりだろうね。よほど人間界が居心地いいとみえるね。」
漆黒の髪はまるで金属のように光沢と質量を持ち、豊かに黒衣へと流れている。額にあるホクロは意志の強さを感じさせ、ただ美しいわけではない彼女の凄みを思い起こさせる。
昊天宮無極四母の頂点に立つ西王母の年齢を、瑤姫は正確には知らない。ただし自分の歳をはるかに超え、一万年は生きているであることは想像がつく。なのに地上で日焼けした自分の肌とは比べ物にならぬほど、彼女の肌は陶器のように白くなめらかであった。
「お義姉さまあの・・・うちのアルランに・・・御用でも命じられましたか?この幾日かというもの姿も見せず、あたしに黙って何日も留守にするような子ではありませんのでねえ。もしや・・」
「おやおや、それでいきなりあたしの所為かね?」
すっとぼける西王母にバチリと視線を強める瑤姫。
「ああらお義姉さまの所為だなんて、申し上げるつもりもありません。ただねえ、5日ほど前でしょうか・・我が家の使用人の幾人かが、神鷹が飛び立つのを見たと申しておりましてね。その日のうちに息子の姿が見えなくなったのですよ。」
「神鷹を使役するのはあたしだけじゃあないよ。それに何ぞ用向きを頼むにしたって、昊天宮は使いの者に不自由しているわけじゃないさ。」
「そこまで惚けんのかい。ますます怪しいねえ?」
瑤姫の口調は強いものに変わる。
もう雰囲気は一触即発のバッチバチである。
彼女の全身に仙力が漲るのを、西王母はまともに正面から受け止める。すでに空間がひん曲がるくらい強烈な圧力となっているが、西王母はニヤリと笑ってあわてた様子もない。
「・・・なんだって?」
「あんたの鷹かどうかなんて、ウチの家宰が見間違えると思うのかね?あんまりあたしを見くびってもらっちゃ困るよ、娘娘!!」
昊天宮の空気はビリビリと震え、白く輝くその光は一段とその輝きを増したかのように見えた。
その天変地異なみの圧力の中を、先ほどの紫衣仙女が這いつくばるほどビビリながら、止めに入ろうと必死にニジリ寄ってくる。
「おおおおお待ちくださいませえ、ようきさまあ!」
「邪魔だね!!!」
瑤姫は意に介せず、左手のひと払いで紫衣仙女を空間ごと薙ぎ払う。あれっと声だけ残して紫衣仙女は昊天宮の彼方へすっ飛んでいった。
「・・・相変わらずキレッキレだねえ・・・。さすが仙界一の武闘派仙女よ。」
西王母は苦笑いしながら、まだ自分に仙力を向ける義妹を見つめた。
古の仙界大戦で黄帝を援け、自身の父である炎帝と戦ったほどの大仙女。西王母が身内の中でもとりわけ彼女を気に入っているのは、その一本筋の通った性格を好ましく思っているからに他ならない。
まあかの炎帝閣下と戦うことに比べれば、自分にたてつくことなど野良妖魔を蹴散らすほどにも思っていまい。
ゆったりした粉紅色の上着に同色の短褲を穿き、惜しげもなく見せるすらりとした足には、戦闘系の魔具であろうと思しき白い長靴を履いている。鮮やかな赤い髪はよく日に焼けた肌に映え、大きなとび色の瞳は今にも自分を焼き殺さんと敵意をむき出しにしていた。
女仙の長である自分から見ても嫉妬するほど美しく、戦闘力は最強レベル。
それでも一対一の戦いで後れを取るつもりはないが、ここでもし二人が全力で戦えば、工仙の技術の粋を集めたこの昊天宮でさえ無事で済むという保証はない。
― ここは穏便におさめるしかないね。
観念した西王母は、まず自分も落ち着くべく穏やかに声を出す。
「別に惚けようってんじゃないよ。まあお聞き。」
西王母がスッと手を伸ばし床を指し示すと、そこには座り心地のよさそうな椅子が現れる。
瑤姫が鋭さをこめた眼光のまま、それでも椅子に腰かけると、程よい高さの側卓と茶器がカチャカチャと現れた。蓋をそっと持ち上げれば、そこには薫り高い茶が満たされている。
「あんたに黙って事を運んだのは悪かった。この通り謝るよ。」
いきなりこの最上位者が謝罪をしたことに、瑤姫は茶器を落としそうになるほど驚いた。西王母が誰かに謝るなど聞いたこともない。
「最初からあんたに相談しなかったのは、もちろん反対されると思ったからさ。」
随分な言いぐさである。瑤姫の表情は抗議の色を濃くした。
「でも勘違いをおしでないよ。アルラン坊やを危険な目に遭わせようってんじゃないんだ。」
すべての女仙の上に立つ彼女は、武術のみならず工・医・理・文の五術すべてにおいて高い能力を持つ。
早い話が、口では負けない。
「ちょっと時間がかかる、面倒なことを頼んじまったのさ。天仙が矢面に立つわけにもいかない、かといって並みの地仙や道士じゃ勤まりそうにもない仕事でね。秘密裏に進めるから大勢で事に当たるわけにもいかず、能力もよほど高くなきゃ勤まらないって話よ。」
西王母は話を続けながら、自分も一口茶を啜った。
ふうと吐いた息から香りが立ち上り、昊天宮を包んでいた光がぐらりと揺らぐ。
光は揺らぐと白き雲となって霞み、やがて途切れてその先には桃源郷が現れた。
女仙二人が腰かけていた場所は雲の上に、眼下には仙水の流れ豊かな花園が広がる。
瑤姫にとっては久々に眺める、仙雲の晴れた昊天宮だろう。彼女の心は落ち着きを取り戻し、故郷の眺めに晴れやかなものに変わっていくはずだ。
「頭がよくって腕っぷしもある、おまけに自分で判断もできる。身内の中じゃあんたの息子が適任だったんだよ。でも随分と時間のかかる仕事だから、あんたに反対されると思ってつい直に頼んじまったのさ。」
ホメ殺しというやつである。
ここまで自分の息子を持ち上げられて、悪い気のする母親はいない。
「ああらそんな、息子だってもういい大人ですし。あたしも子離れできてないわけじゃあございませんしい?ズズー。」
すっかりご満悦で茶をすする。
しかしふと眼下を見下ろして、木の一本も生えていない岩山の頂上に、見事な姿の神鷹がその体を休めているのが目に飛び込んできた。
その姿はまるで、絵画の一部のように美しい。
だが神鷹の姿はそれだけに止まらず、彼女にここまでやってきた目的も思い起こさせた。
まだ何も聞き出せていない、目的は果たされていない。
瑤姫は頭を切り替えると、冷静な声になって義姉に問いかける。
「昊天宮のご用向きでしたら是非もございません。でもお義姉さま、差支えなければどんなお勤めでどこへ向かったのか、詳しくお聞かせ願えません?」
― ちっ!
西王母は心の中で舌打ちする。
ごまかし切れずに話がふりだしへ戻った。さすがに息子の事ともなると、いかな武闘派とはいえ少しは頭が回るようだ。
彼女の落胆をよそに瑤姫はしゃべり続ける。
「お話しいただいた事である程度察しはつきますが・・・。」
明日明後日は多めに投稿します。
今日はたまたま会社のイベントで。。。。
一つしか書けませんでした。