第3部
この小説はビジュアルノベルゲーム用のシナリオとして書き下ろされたものです。
コミケなどに「螺旋艦隊」というサークルで参加しています。
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その日の夜 「ヴァルキリー」仮兵舎(旧合宿棟)
今日最後の仕事のために、俺は合宿棟の前に来ていた。
「えーと、第3小隊の隊長は…」
しかし、普通に生きていたら、一生かかっても体験できないような体験を、たった1日で体験してしまった。
・・・昨日までごく一般的な人間だったのなぁ。
それが今や私設自衛軍(でいいんだっけか?)の副指令とか、意味わからん。
全員戦闘力ヤバいし。
俺、生きて帰れるのだろうか・・・。
そんなことを考えながら、仮兵舎の階段を登っていくと、2階の扉の一つが勢いよく開いた。
「わー!琉月が怒った!逃げろー!!」
「・・・え?わ、私まで・・・?」
扉から飛び出してきた椎名姉・陽姫と手を引かれている妹・彩夜。
「わっ!?祐一どいてっどいてー!!」
「おっ?――っうお!!?」
一瞬の出来事に反応できない俺を、軽やかなターンで回避する陽姫。そして振り回されながらも、手すりに足をつけ姉に合わせる彩夜。
「・・・なんだったんだ?」
俺が階下を振り返ったときには、もう二人の姿はなかった。
「こらーー!・・・もうっ逃げ足だけは速いんだからっ!」
やや遅れて、一人の女の子がシーツを持ってでてきた。
初めてみる顔だな。
「あ。えーと・・・どちら様ですか?」
階段の途中で固まっている俺に気づく女の子。
「ん?あー、なんかおたくのお嬢様に、副指令とやらに任命された者なんだが・・・」
「あっ、ああ!!君が例の・・・!!」
どうやらもう有名人らしい。
「私は「ヴァルキリー」第3小隊長の北御門 琉月です。以後お見知りおきを」
シーツを持ったまま、ペコリと頭を下げる北御門。
「あぁ、君が第3小隊長なんだ。じゃあ話がはやい。鷹堂から「各小隊の手伝い」をするように言われているんだが・・・なにか手伝うこと、ある?」
「え?手伝うこと、ね・・・」
急に言われても思いつかないのか、むぅ、思案する。
すると、手に持っているシーツに気がついた。
「じゃあ、洗濯を手伝ってもらえる?」
「・・・せんたく?」
巨大兵器の操縦とか、地雷の設置とかじゃなくて?
「えぇ・・・不満?」
「いえ!やらせていただきますっ!!」
おかえり、俺の日常。
「実は陽姫が・・・あ、第4小隊長の椎名姉妹は知ってる?」
コクリとうなずく。
「まぁその姉の陽姫が、整備用のガンオイルを撒き散らしちゃってね」
ガンオイル・・・
微妙に遠ざかっていく俺の日常。
「で、シーツ総洗濯ってわけ。じゃ、中にまだあるから、持ってきてくれる?」
仮兵舎(合宿棟)一階 洗濯場
合宿棟備え付けの洗濯機(及び乾燥機)は、一階の片隅にまとめて置かれている。
「さて、これでひと段落だな」
最後のシーツを乾燥機に入れ、スイッチを押す。
「だね。おかげで助かったよ」
手をぱんぱん、と打ち合わせながら、北御門が言う。
「ちょっと休憩しようか」
「ん。そこに椅子があるぞ」
洗濯場備え付けの椅子を二つ出し、座る。
「しかし、大変だな。お嬢様のわがままで、こんな山の中のまで連れてこられたあげくに、椎名姉妹の面倒まで見なくちゃいかないなんて」
俺も、同じくお嬢様のわがままで、今回の騒動に巻き込まれたからな。
「ん?んー、そうでもないかな。私、妹とか欲しかったから、椎名姉妹も含めて、小さい子の世話とか結構好きだよ」
「へぇ。そういうもんか」
今まで会った「D.R.E.S.S.」の隊員たちは、みんな小さい子の世話とか苦手そうだったので、素直に意外だ。
「でも、『妹が欲しかった』ってことは、お姉さんはいるのか?どっちかというと、北御門ってお姉さんって感じのにな」
「え?・・・そう見える?」
どうやら後半部分にだけ反応しているようだ。
「面倒見てもらえる「妹」は、小さい子の面倒を見るのが好き、とか言わないだろ」
まぁ、北御門と椎名姉妹との身長差も、視覚的に作用しているだろうが。
「そう・・・かな。とりあえず、私には姉が1人いてね。その姉も「D.R.E.S.S.」なんだ」
「姉妹で「D.R.E.S.S.」の一員なのか・・・」
そういう意味では、椎名姉妹と一緒だな。
あいつらは二人で一人前だが。
「でも、私は・・・椎名姉妹がうらやましい・・・」
「え?」
「私たち姉妹は・・・なんというか、ぶっちゃけあんまり仲がよくないのよ」
たはは・・・と恥ずかしそうに苦笑する。
「・・・お姉さんが、嫌いなのか?」
「いや、私は姉さんが大好きだよ。だけど、姉さんのほうが・・・ね」
寂しそうに目を細める北御門。
「そう・・・だな。うん、一般人の祐一にならいいかな」
「ん?なにがだ?」
ふと目線をあげると、北御門が真っ直ぐにこちらを見ていた。
「うん。ちょっと君の意見を聞かせて欲しいんだ」
それをはっきりと意識できるようになったのは、中学生の頃からだったという。
ちょうど、北御門が習っていた「北御門一刃槍流」の稽古を、木刀ではなく本物の槍で受けることを許可された頃らしい。
「北御門一刃槍流」。
もともと武家の血筋であった北御門家は、大政奉還後の明治日本でも貴族の一員として迎えられた。
しかし、そんな「いくさ」と無縁の生活の中でも一族の者たちは鍛錬を重ね、ついに完成させた独自の流派。
この流派の最大の特徴は、「美しさ」を極限まで追及したこと。
もともと女系一族ということもあって、使う「一刃槍」は「槍」というよりは「薙刀」を少し小ぶりにしたようなもので、女性でも充分に扱うことが出来る。
技も流れるような「斬撃」が中心で、極めた者が行う「演武」は、まるで優雅な日本舞踊を見ているようだ、と語られるほどである。
そして、当たり前のように、北御門家の次女である琉月はその武道をならっていた。
もちろん、姉である北御門 流麗も。
しかも、2歳年上の姉であるが故に、琉月より2年も前に。
そんな二人が、ある日琉月の「本物の槍」の使用許可を記念して、試合をすることになった。
その試合は、姉であり、2年先輩である流麗が勝って当然の試合だった。
しかし・・・勝ってしまったのは、琉月だった。
お互い全力を出しての、流麗にとっての『完敗』だった。
「私、その時に嫌われちゃったみたい」
そのときを境に、徐々に姉の自分に対する態度が、変わってきたのだという。
始めは、なんとなくよそよそしくなり、しまいには無視されることが多くなっていった。
そんな姉の態度に、琉月はというと・・・
「なにも、何も言えなかった・・・。姉さんに、これ以上嫌われたくなかったから・・・」
そんなぎこちない、誤解を解決できないまま、
流麗は「D.R.E.S.S.」へ入隊してしまう。
「そして、私も「D.R.E.S.S.」へ入隊した」
元々貴族であった北御門家も、戦後の財閥解体の余波を受け、単体での生き残りは困難となった。
そのとき、救いの手を差し伸べたのが、「鷹堂一族」だった。
今でこそ「財閥」とか「コンツェルン」などと称されている「鷹堂」であるが、当時はまだ貴族の中でも「中の上」程度しかなかった。
自らも破産の危険を冒しながら、彼らは「北御門」を救った。
「北御門」と「鷹堂」に、大した違いはなかったのである。
ただ一点違っていたのは、「鷹堂」は複数の鉱山を所有していたことだ。
「鷹堂」はその後、重工業を発展させ、そこからみるみる事業を拡大。現在に至っている。
一方、共倒れの危険を冒してまで自分たちを救ってくれた「鷹堂」に、「北御門」は忠誠を誓った。
以後、「北御門」は「鷹堂」を護るためにその腕を磨き、その身を尽くすことを生きがいとするようになった。
流麗・琉月姉妹が「D.R.E.S.S.」へ入隊することは、いわば決定事項だった。
「・・・ふむ。んで、北御門は「D.R.E.S.S.」へ入隊したあとに、お姉さんに聞いたのか?」
「え、なにを?」
「だから、本当に自分を嫌いになったのか、さ」
今の話を聞く限り、琉月は一度も「自分の想い」を口にしていない。
「・・・ううん、そんなの、聞けないよ。・・・こわい」
(いい?いっせーので、一緒に謝るんだよ?)
(・・・で、でも、私なにもしてないよ?)
(そんなこといわないでさっ。ね?いいでしょ?減るもんじゃないし)
(・・・そういう問題じゃないよ・・・)
そのとき、出入り口のほうから、かすかな話し声が聞こえた。
・・・ん?この声は・・・椎名姉妹か?
「どうかした?祐一」
俯いていた北御門が顔を上げる。
「あぁ、それがな・・・」
(いっせのーっせ!)
そのとき、勢いよく開かれるドア。
ばあぁぁーーーん!!
「ごめん!!るう・・・っぶ!!」
べちぃぃーーーーん!!!
勢いよく壁から跳ね返ってきたドアに、顔面をモロにぶつける陽姫。
思わぬ不意打ちに、大の字にダウン。
「・・・だ、大丈夫?陽姫ちゃん・・・」
後ろから、彩夜が恐る恐る聞いている。
「え、陽姫に・・・彩夜?」
驚いた北御門が立ち上がる。
「ん・・・大丈夫、大丈夫」
真っ赤になった鼻を押さえつつ、答える。
「え、えと・・・とにかく、ごめん!琉月!!それだけ!じゃね!!」
言うと、さっさと退散しようとする陽姫。
「だ、ダメだよ陽姫ちゃん!」
去ろうとする陽姫の襟首を掴み、止める彩夜。
むぅ・・・華奢な身体に似合わず、意外と力あるな。
さすが「D.R.E.S.S.」といったところか。
「わっ!!わかったよ!わかったから離してーー!」
手足をバタバタ振り回す陽姫。・・・実際苦しいんじゃ?
「けほっ。あ〜、その・・・さっきはごめん。琉月」
「・・・えと、ご、ごめんなさい」
二人そろってペコリ、と頭を下げる。
・・・ってか、彩夜は謝る必要ないんじゃなかったか?
「・・・」
その様子をじっ、と見ている琉月。
・・・?どうしたんだ?
「・・・も、もしかして、怒って・・・る?」
なんの反応もしない琉月に、陽姫は恐る恐る聞く。
「いや、怒ってなんかいないよ」
ふっ、と微笑む琉月。
「え?ホント!?」
「でも、罰として乾燥機の中のシーツを全部持っていって、ちゃんと敷いておくこと」
ぱっと表情を明るくさせた陽姫に、琉月はぴしゃりと言う。
「ちぇー。結局怒ってんじゃん」
「・・・でも、陽姫ちゃん汚しちゃったんだし・・・」
「そうそう。わかったらこんぐらいばやりなさい」
妹にたしなめられた陽姫は、しかたなく乾燥機からシーツを取り出し始める。
1人では無理な量なので、結局彩夜も一緒になって運んでいく。
そして二人がいなくなった後。
「・・・祐一」
二人が出て行ったドアを見つめる北御門が、ふいに言う。
「私、ちゃんと姉さんに聞いてみるよ。そして―――」
くるり、と振り向く北御門。
「ちゃんと―――言うよ。私の、正直な気持ち」
「・・・そうか」
・・・がんばれよ。
「ん。・・・じゃあ、私は部屋に戻るね。椎名姉妹も気になるし」
ドアに手をかけながら、北御門が言う。
「―――ありがと、祐一。おやすみ」
言うと、彼女はドアの向こうに消えた。
夕方、俺は鷹堂に呼ばれ、1年F組の教室に来ていた。
一番窓側の机に腰掛けている鷹堂と、そのそばに控えている白神さん。
「別に司令室(旧視聴覚室)でもよかったんじゃないのか?」
「あそこは最終調整中なの。それに・・・」
「それに?」
「ひ、人がいるじゃない」
なぜかむくれる鷹堂。逆光でよくわからないが、顔色も赤いな。
「・・・まあ、いいけど。それで?話ってなんだ?」
「今回の出来事の、経緯を説明しようと思って」
「経緯って・・・思いつきじゃなかったのか?」
ぱこっ!
「いてて・・・冗談だって」
いつの間にあったのか、手に持った雑誌で頭を叩かれる。
「コホン・・・まず、私は鷹堂コンツェルンの令嬢よ」
「そんなことは「鷹堂」っていう名前聞いたときから気付いてたよ。こんなことできる「鷹堂」は一人しかいないからな」
ぱこっぽこっ!
「ちょ、なんで白神さんまで!?」
「お嬢様が真剣に話されているんだ。お前も真剣に聞け」
いつの間にか手にしていた雑誌を握り、白神さんが睨む。
ヤバイ。あの目はマジだ。
「そ、そうよ。真剣に聞きなさいよっ」
「わかったよ・・・で?」
「それで、お父様の考えに賛同できなかった私は、あえて鷹堂の家を出て、お父様に考えなおしてもらうことにしたのよ」
「それで、なんでこんなものものしいことになっているんだ?要するに家出だろ?」
まったく。人を巻き込まないでほしいものだ。
ぱこっぽこっぱこっ!
「だから!なんで白神さんは二回叩く!?」
「気のせいだ」
「こほんっ!・・・そこまでしないと、お父様が考えを改めてくれないからよ」
―――外がなんだか騒がしくなってきたな。
「鷹堂はそこまでして、その、鷹堂の親父の考えを変えたいのか?」
「も、もちろんよ!」
そこで、なぜか鷹堂は顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。
だからなぜそこでそっぽを向く?
「そこはお嬢様なりの考えがあり、旦那様譲りの強い意志があるのだ。察しろ」
・・・んな無茶な。
「とにかく、我々がこの高校を拝借した理由がわかっただろ?」
・・・まあ、だんだん軍事基地化していくこの学校を見ていればわかるが・・・。
あえて、俺はもう一度聞く。これは推測で済ませられることではない。
―――そのとき―――轟音。
―――外で何かの起動音。エンジンのようだ。
「なあ・・・おまえ一体何する気なんだ?」
轟音にかき消されないように、俺は目の前の少女に声を張り上げる。
少女はピクリ、と背中を震わせる。
「何って・・・」
透き通った声。少女は机から降り立ちながら、こちらに振り向く。
近づいてくる轟音。それと同調するように、カタカタ鳴り出す窓ガラス。
「決まってるでしょ」
不意に教室が暗闇に包まれた。
それは轟音の主、大気を振るわせる鋼鉄の石火矢。
―――戦車が、外からの日差しを遮る位置に、その姿を現す。
その暗闇の中でも、少女の瞳は確かに爛々と輝いていた。
「―――戦争よ」
「戦争って・・・本気で言ってるのか?」
「もちろん本気よ。そのために準備してきたんだもの」
「・・・!そんな簡単に言っていいことじゃないだろ・・・!」
「落ち着け、高郷 祐一。戦争といっても死者が出るわけではない」
「・・・は?」
死者の出ない戦争って・・・それは戦争なのか?
「お嬢様も語弊のある言い方はお止めください」
「ごめんごめん、調子にのっちゃった」
鷹堂はぺロ、と舌をだした。
「我々『ヴァルキリー』の制服には、特殊繊維『アイギス(Aegis)』が織りこめれている」
・・・アイギス?
「そうだ。鷹堂グループ内で保有する最新技術の一つで、高性能の防弾繊維だ」
「この「アイギス」は「硬くて弾をはじく」のではなく、「脆く、破けることによって弾の威力を受け流して」人体を守るのよ」
・・・意味がわからいんだが。
「だから。この「アイギス」は、弾が当たったときにあえて「破ける」ことによって、ダメージを外に逃がすのよ」
「要するに、この「アイギス」が入った制服を着ているから、死ぬことはない、と?」
「対戦車ライフルの直撃レベルまでならば、生存の可能性はきわめて高い」
・・・対戦車の直撃レベル・・・。
「でも、こっちは戦車まで持ち出しているじゃないか。やっぱり敵は親父さんなんだろ?」
「そうね。おそらく『D.R.E.S.S.』のほかの部隊でしょうね」
「だったらやばいんじゃないのか?戦車に撃たれたらさすがにヤバいんだろ?」
「だな。直撃すればな」
あっさりと、まるで他人事のように言い放つ白神さん。
「・・・!!なんでそんなに落ち着いて言えるんだよっ!!」
「それが『D.R.E.S.S.』というものだからだ」
「それが『D.R.E.S.S.』・・・?」
「そうだ。『D.R.E.S.S.』はあらゆるレベルの脅威に、決して臆することなく対峙し、これを排除する。これが任務だ」
「だからって・・・!!」
「あー、こほんっ。落ち着いて祐一。私たちだって同胞を殺したくはないわ。戦車はあくまでけん制。直撃はさせないわよ」
「しかしだな・・・」
「こほんっ!本題はこのことじゃないの!静かに話を聞いてってば!」
「まだ本題に入ってなかったのか・・・」
ぽこっ!ぱこっ!
「・・・・・・」
「「アイギス」はまだ世界中のどの国にも公開していないの。あまりに高性能すぎるからね」
「どういうことだ?」
「高度過ぎる技術は、同時に万人を焼く業火にもなりうる。今は世界にその存在を明かすときではない」
「・・・で?なんでそのことが本題なんだ?」
「だから、一般人である祐一には「アイギス」入りの服を渡せないのよ」
・・・俺から「アイギス」が洩れる、と?
「当たり前だ。私たちは完全に高郷祐一を信用したわけではない」
「信用って・・・そっちが勝手に学校占拠して、勝手に俺を副指令に任命したんじゃないか!そのへんの責任は持てよ」
「わかってるわよ。だから私的にも祐一に「アイギス」を渡したいのだけど・・・」
そこで鷹堂はちらっと白神さんを見る。
「いくらお嬢様でもそれだけは無理です。これは鷹堂コンツェルンだけの問題ではないのです」
「・・・で、俺に死ね、と」
「そのことなの、本題は」
・・・そのこと?
「責任がとれない以上、祐一はもう副指令でなくてもいいってこと」
言いづらそうにする鷹堂は、それでも言う。
「・・・・・・え」
「この学校には地下に避難施設もある。そこにこもってじっとしていろ。そうすれば死ぬ危険などない」
・・・ちょっと待てよ。
「もちろん、全てが終わった後には全てを忘れてもらうけどね」
・・・なんでだよ。
「最初に言ったでしょ?「一般人には知らなくていい事」だからよ。あなたは副指令だからここまで教えたけど」
「まあ、一般人として当然の選択だろう。無駄死にすることはない」
「勝手に決め付けないでくれ!」
耐え切れなくなった俺は、つい大声を出してしまう。
「あ・・・」
・・・全てを忘れる?出来るわけないだろう。あんな濃い連中を忘れるなんて。地下でじっとしてろ?そうすれば死ぬ危険はない?お前らが命がけで戦っているのに?
俺は・・・
「勝手に決め付けないでくれ!」
祐一が、初めて叫んだ。
「あ・・・」
・・・そうだ。私もお父様に勝手に、私の大切なことを決められたことが嫌でここにきたんだった。
雑誌「週刊 スポーツ野郎」に載っていたこの高校に。
・・・いや、今ならわかる。
―――私は、祐一がいる。それだけでこの高校に来たんだ。
でも、今私が祐一にしていることは、お父様が私にしていることとなにも変わらない。
それが祐一のためだと思っても。祐一に生きていてもらいたい、そう思う私の願いでも。
・・・そもそも、祐一を巻き込んだのは私の勝手な願いからだから。
だから、私は。
「だったら・・・祐一は、どうしたいの?」
言った。
「お嬢様!それは・・・!」
「いいの。綾香」
・・・俺が、どうしたいか。
「俺は・・・」
俺の半分がこんなことで命を賭ける必要はない、と言っているのに。
俺は、きっとバカなんだろう。
「俺は、『ヴァルキリー』の副指令だ」
でも、バカだから、きっと俺は俺なんだ。
「貴様・・・」
「確かに、救いようのないバカね」
そういう鷹堂は、しかしふわりと、うれしそうに笑っていた。
「綾香、わかったでしょ?時間がないから手短に副指令殿に状況を説明して」
「お嬢様、それでは高郷が・・・!」
それでも食い下がろうとする白神さん。
ちょっと副司令官っぽくふるまってみようかな。
さっき雑誌で殴られたお返しだ。
「―――くどいぞ、綾香」
副指令っぽく、太い声で言った。
『副』でも司令官だから白神さんよりも上・・・だよな?
「え・・・?」
「すいません、冗談です」
でも白神さんだからな、殴られはするんだろうな。きっと。
「・・・・・・」
「どうしたの?綾香?」
「な、なんでもありませんっ!状況を説明します!」
狼狽した様子でプロジェクターのスイッチを入れる白神さん。
・・・あれ?
白神さんの意外な行動に、拍子抜けしてしまう。
・・・まあいいか。
正面のモニターに衛星写真を拡大したものが映し出される。
「まず、本日13:30時に、鷹堂本邸から『D.R.E.S.S.』の一部隊と思われる装甲兵員輸送車群の発進を確認した」
・・・真昼から堂々とよくまあ・・・。
「おそらく、本日18:00時に本校に到着する。つまり・・・」
「決戦は、今夜」
・・・今夜か。まったく、こいつらはいつもやることが急すぎるんだよな。