表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D.R.E.S.S.  作者: 藤平重工
3/5

第3部


この小説はビジュアルノベルゲーム用のシナリオとして書き下ろされたものです。

コミケなどに「螺旋艦隊」というサークルで参加しています。

よろしかったらブログの方もご覧ください。

制作ブログ→http://synthesize2.blog44.fc2.com/

その日の夜 「ヴァルキリー」仮兵舎(旧合宿棟)

今日最後の仕事のために、俺は合宿棟の前に来ていた。

「えーと、第3小隊の隊長は…」

しかし、普通に生きていたら、一生かかっても体験できないような体験を、たった1日で体験してしまった。

・・・昨日までごく一般的な人間だったのなぁ。

それが今や私設自衛軍(でいいんだっけか?)の副指令とか、意味わからん。

全員戦闘力ヤバいし。

俺、生きて帰れるのだろうか・・・。

そんなことを考えながら、仮兵舎の階段を登っていくと、2階の扉の一つが勢いよく開いた。

「わー!琉月が怒った!逃げろー!!」

「・・・え?わ、私まで・・・?」

扉から飛び出してきた椎名姉・陽姫と手を引かれている妹・彩夜。

「わっ!?祐一どいてっどいてー!!」

「おっ?――っうお!!?」

一瞬の出来事に反応できない俺を、軽やかなターンで回避する陽姫。そして振り回されながらも、手すりに足をつけ姉に合わせる彩夜。

「・・・なんだったんだ?」

俺が階下を振り返ったときには、もう二人の姿はなかった。

「こらーー!・・・もうっ逃げ足だけは速いんだからっ!」

やや遅れて、一人の女の子がシーツを持ってでてきた。

初めてみる顔だな。

「あ。えーと・・・どちら様ですか?」

階段の途中で固まっている俺に気づく女の子。

「ん?あー、なんかおたくのお嬢様に、副指令とやらに任命された者なんだが・・・」

「あっ、ああ!!君が例の・・・!!」

どうやらもう有名人らしい。

「私は「ヴァルキリー」第3小隊長の北御門きたみかど 琉月るうなです。以後お見知りおきを」

シーツを持ったまま、ペコリと頭を下げる北御門。

「あぁ、君が第3小隊長なんだ。じゃあ話がはやい。鷹堂から「各小隊の手伝い」をするように言われているんだが・・・なにか手伝うこと、ある?」

「え?手伝うこと、ね・・・」

急に言われても思いつかないのか、むぅ、思案する。

すると、手に持っているシーツに気がついた。

「じゃあ、洗濯を手伝ってもらえる?」

「・・・せんたく?」

巨大兵器の操縦とか、地雷の設置とかじゃなくて?

「えぇ・・・不満?」

「いえ!やらせていただきますっ!!」

おかえり、俺の日常。

「実は陽姫が・・・あ、第4小隊長の椎名姉妹は知ってる?」

コクリとうなずく。

「まぁその姉の陽姫が、整備用のガンオイルを撒き散らしちゃってね」

ガンオイル・・・

微妙に遠ざかっていく俺の日常。

「で、シーツ総洗濯ってわけ。じゃ、中にまだあるから、持ってきてくれる?」


仮兵舎(合宿棟)一階 洗濯場


合宿棟備え付けの洗濯機(及び乾燥機)は、一階の片隅にまとめて置かれている。

「さて、これでひと段落だな」

最後のシーツを乾燥機に入れ、スイッチを押す。

「だね。おかげで助かったよ」

手をぱんぱん、と打ち合わせながら、北御門が言う。

「ちょっと休憩しようか」

「ん。そこに椅子があるぞ」

洗濯場備え付けの椅子を二つ出し、座る。

「しかし、大変だな。お嬢様のわがままで、こんな山の中のまで連れてこられたあげくに、椎名姉妹の面倒まで見なくちゃいかないなんて」

俺も、同じくお嬢様のわがままで、今回の騒動に巻き込まれたからな。

「ん?んー、そうでもないかな。私、妹とか欲しかったから、椎名姉妹も含めて、小さい子の世話とか結構好きだよ」

「へぇ。そういうもんか」

今まで会った「D.R.E.S.S.」の隊員たちは、みんな小さい子の世話とか苦手そうだったので、素直に意外だ。

「でも、『妹が欲しかった』ってことは、お姉さんはいるのか?どっちかというと、北御門ってお姉さんって感じのにな」

「え?・・・そう見える?」

どうやら後半部分にだけ反応しているようだ。

「面倒見てもらえる「妹」は、小さい子の面倒を見るのが好き、とか言わないだろ」

まぁ、北御門と椎名姉妹との身長差も、視覚的に作用しているだろうが。

「そう・・・かな。とりあえず、私には姉が1人いてね。その姉も「D.R.E.S.S.」なんだ」

「姉妹で「D.R.E.S.S.」の一員なのか・・・」

そういう意味では、椎名姉妹と一緒だな。

あいつらは二人で一人前だが。

「でも、私は・・・椎名姉妹がうらやましい・・・」

「え?」

「私たち姉妹は・・・なんというか、ぶっちゃけあんまり仲がよくないのよ」

たはは・・・と恥ずかしそうに苦笑する。

「・・・お姉さんが、嫌いなのか?」

「いや、私は姉さんが大好きだよ。だけど、姉さんのほうが・・・ね」

寂しそうに目を細める北御門。

「そう・・・だな。うん、一般人の祐一にならいいかな」

「ん?なにがだ?」

ふと目線をあげると、北御門が真っ直ぐにこちらを見ていた。

「うん。ちょっと君の意見を聞かせて欲しいんだ」


それをはっきりと意識できるようになったのは、中学生の頃からだったという。

ちょうど、北御門が習っていた「北御門一刃槍流」の稽古を、木刀ではなく本物の槍で受けることを許可された頃らしい。

「北御門一刃槍流」。

もともと武家の血筋であった北御門家は、大政奉還後の明治日本でも貴族の一員として迎えられた。

しかし、そんな「いくさ」と無縁の生活の中でも一族の者たちは鍛錬を重ね、ついに完成させた独自の流派。

この流派の最大の特徴は、「美しさ」を極限まで追及したこと。

もともと女系一族ということもあって、使う「一刃槍」は「槍」というよりは「薙刀」を少し小ぶりにしたようなもので、女性でも充分に扱うことが出来る。

技も流れるような「斬撃」が中心で、極めた者が行う「演武」は、まるで優雅な日本舞踊を見ているようだ、と語られるほどである。

そして、当たり前のように、北御門家の次女である琉月はその武道をならっていた。

もちろん、姉である北御門 流麗るうらも。

しかも、2歳年上の姉であるが故に、琉月より2年も前に。

そんな二人が、ある日琉月の「本物の槍」の使用許可を記念して、試合をすることになった。

その試合は、姉であり、2年先輩である流麗が勝って当然の試合だった。

しかし・・・勝ってしまったのは、琉月だった。

お互い全力を出しての、流麗にとっての『完敗』だった。

「私、その時に嫌われちゃったみたい」

そのときを境に、徐々に姉の自分に対する態度が、変わってきたのだという。

始めは、なんとなくよそよそしくなり、しまいには無視されることが多くなっていった。

そんな姉の態度に、琉月はというと・・・

「なにも、何も言えなかった・・・。姉さんに、これ以上嫌われたくなかったから・・・」

そんなぎこちない、誤解を解決できないまま、

流麗は「D.R.E.S.S.」へ入隊してしまう。

「そして、私も「D.R.E.S.S.」へ入隊した」

元々貴族であった北御門家も、戦後の財閥解体の余波を受け、単体での生き残りは困難となった。

そのとき、救いの手を差し伸べたのが、「鷹堂一族」だった。

今でこそ「財閥」とか「コンツェルン」などと称されている「鷹堂」であるが、当時はまだ貴族の中でも「中の上」程度しかなかった。

自らも破産の危険を冒しながら、彼らは「北御門」を救った。

「北御門」と「鷹堂」に、大した違いはなかったのである。

ただ一点違っていたのは、「鷹堂」は複数の鉱山を所有していたことだ。

「鷹堂」はその後、重工業を発展させ、そこからみるみる事業を拡大。現在に至っている。

一方、共倒れの危険を冒してまで自分たちを救ってくれた「鷹堂」に、「北御門」は忠誠を誓った。

以後、「北御門」は「鷹堂」を護るためにその腕を磨き、その身を尽くすことを生きがいとするようになった。

流麗・琉月姉妹が「D.R.E.S.S.」へ入隊することは、いわば決定事項だった。


「・・・ふむ。んで、北御門は「D.R.E.S.S.」へ入隊したあとに、お姉さんに聞いたのか?」

「え、なにを?」

「だから、本当に自分を嫌いになったのか、さ」

今の話を聞く限り、琉月は一度も「自分の想い」を口にしていない。

「・・・ううん、そんなの、聞けないよ。・・・こわい」



(いい?いっせーので、一緒に謝るんだよ?)

(・・・で、でも、私なにもしてないよ?)

(そんなこといわないでさっ。ね?いいでしょ?減るもんじゃないし)

(・・・そういう問題じゃないよ・・・)

そのとき、出入り口のほうから、かすかな話し声が聞こえた。

・・・ん?この声は・・・椎名姉妹か?

「どうかした?祐一」

俯いていた北御門が顔を上げる。

「あぁ、それがな・・・」

(いっせのーっせ!)

そのとき、勢いよく開かれるドア。

ばあぁぁーーーん!!

「ごめん!!るう・・・っぶ!!」

べちぃぃーーーーん!!!

勢いよく壁から跳ね返ってきたドアに、顔面をモロにぶつける陽姫。

思わぬ不意打ちに、大の字にダウン。

「・・・だ、大丈夫?陽姫ちゃん・・・」

後ろから、彩夜が恐る恐る聞いている。

「え、陽姫に・・・彩夜?」

驚いた北御門が立ち上がる。

「ん・・・大丈夫、大丈夫」

真っ赤になった鼻を押さえつつ、答える。

「え、えと・・・とにかく、ごめん!琉月!!それだけ!じゃね!!」

言うと、さっさと退散しようとする陽姫。

「だ、ダメだよ陽姫ちゃん!」

去ろうとする陽姫の襟首を掴み、止める彩夜。

むぅ・・・華奢な身体に似合わず、意外と力あるな。

さすが「D.R.E.S.S.」といったところか。

「わっ!!わかったよ!わかったから離してーー!」

手足をバタバタ振り回す陽姫。・・・実際苦しいんじゃ?

「けほっ。あ〜、その・・・さっきはごめん。琉月」

「・・・えと、ご、ごめんなさい」

二人そろってペコリ、と頭を下げる。

・・・ってか、彩夜は謝る必要ないんじゃなかったか?

「・・・」

その様子をじっ、と見ている琉月。

・・・?どうしたんだ?

「・・・も、もしかして、怒って・・・る?」

なんの反応もしない琉月に、陽姫は恐る恐る聞く。

「いや、怒ってなんかいないよ」

ふっ、と微笑む琉月。

「え?ホント!?」

「でも、罰として乾燥機の中のシーツを全部持っていって、ちゃんと敷いておくこと」

ぱっと表情を明るくさせた陽姫に、琉月はぴしゃりと言う。

「ちぇー。結局怒ってんじゃん」

「・・・でも、陽姫ちゃん汚しちゃったんだし・・・」

「そうそう。わかったらこんぐらいばやりなさい」

妹にたしなめられた陽姫は、しかたなく乾燥機からシーツを取り出し始める。

1人では無理な量なので、結局彩夜も一緒になって運んでいく。

そして二人がいなくなった後。

「・・・祐一」

二人が出て行ったドアを見つめる北御門が、ふいに言う。

「私、ちゃんと姉さんに聞いてみるよ。そして―――」

くるり、と振り向く北御門。

「ちゃんと―――言うよ。私の、正直な気持ち」

「・・・そうか」

・・・がんばれよ。

「ん。・・・じゃあ、私は部屋に戻るね。椎名姉妹も気になるし」

ドアに手をかけながら、北御門が言う。

「―――ありがと、祐一。おやすみ」

言うと、彼女はドアの向こうに消えた。


夕方、俺は鷹堂に呼ばれ、1年F組の教室に来ていた。

一番窓側の机に腰掛けている鷹堂と、そのそばに控えている白神さん。

「別に司令室(旧視聴覚室)でもよかったんじゃないのか?」

「あそこは最終調整中なの。それに・・・」

「それに?」

「ひ、人がいるじゃない」

なぜかむくれる鷹堂。逆光でよくわからないが、顔色も赤いな。

「・・・まあ、いいけど。それで?話ってなんだ?」

「今回の出来事の、経緯を説明しようと思って」

「経緯って・・・思いつきじゃなかったのか?」

ぱこっ!

「いてて・・・冗談だって」

いつの間にあったのか、手に持った雑誌で頭を叩かれる。

「コホン・・・まず、私は鷹堂コンツェルンの令嬢よ」

「そんなことは「鷹堂」っていう名前聞いたときから気付いてたよ。こんなことできる「鷹堂」は一人しかいないからな」

ぱこっぽこっ!

「ちょ、なんで白神さんまで!?」

「お嬢様が真剣に話されているんだ。お前も真剣に聞け」

いつの間にか手にしていた雑誌を握り、白神さんが睨む。

ヤバイ。あの目はマジだ。

「そ、そうよ。真剣に聞きなさいよっ」

「わかったよ・・・で?」

「それで、お父様の考えに賛同できなかった私は、あえて鷹堂の家を出て、お父様に考えなおしてもらうことにしたのよ」

「それで、なんでこんなものものしいことになっているんだ?要するに家出だろ?」

まったく。人を巻き込まないでほしいものだ。

ぱこっぽこっぱこっ!

「だから!なんで白神さんは二回叩く!?」

「気のせいだ」

「こほんっ!・・・そこまでしないと、お父様が考えを改めてくれないからよ」

―――外がなんだか騒がしくなってきたな。

「鷹堂はそこまでして、その、鷹堂の親父の考えを変えたいのか?」

「も、もちろんよ!」

そこで、なぜか鷹堂は顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

だからなぜそこでそっぽを向く?

「そこはお嬢様なりの考えがあり、旦那様譲りの強い意志があるのだ。察しろ」

・・・んな無茶な。

「とにかく、我々がこの高校を拝借した理由がわかっただろ?」

・・・まあ、だんだん軍事基地化していくこの学校を見ていればわかるが・・・。

あえて、俺はもう一度聞く。これは推測で済ませられることではない。

―――そのとき―――轟音。

―――外で何かの起動音。エンジンのようだ。


「なあ・・・おまえ一体何する気なんだ?」

轟音にかき消されないように、俺は目の前の少女に声を張り上げる。

少女はピクリ、と背中を震わせる。

「何って・・・」

透き通った声。少女は机から降り立ちながら、こちらに振り向く。

近づいてくる轟音。それと同調するように、カタカタ鳴り出す窓ガラス。

「決まってるでしょ」

不意に教室が暗闇に包まれた。

それは轟音の主、大気を振るわせる鋼鉄の石火矢いしびや

―――戦車が、外からの日差しを遮る位置に、その姿を現す。

その暗闇の中でも、少女の瞳は確かに爛々と輝いていた。

「―――戦争よ」


「戦争って・・・本気で言ってるのか?」

「もちろん本気よ。そのために準備してきたんだもの」

「・・・!そんな簡単に言っていいことじゃないだろ・・・!」

「落ち着け、高郷 祐一。戦争といっても死者が出るわけではない」

「・・・は?」

死者の出ない戦争って・・・それは戦争なのか?

「お嬢様も語弊のある言い方はお止めください」

「ごめんごめん、調子にのっちゃった」

鷹堂はぺロ、と舌をだした。

「我々『ヴァルキリー』の制服には、特殊繊維『アイギス(Aegis)』が織りこめれている」

・・・アイギス?

「そうだ。鷹堂グループ内で保有する最新技術の一つで、高性能の防弾繊維だ」

「この「アイギス」は「硬くて弾をはじく」のではなく、「脆く、破けることによって弾の威力を受け流して」人体を守るのよ」

・・・意味がわからいんだが。

「だから。この「アイギス」は、弾が当たったときにあえて「破ける」ことによって、ダメージを外に逃がすのよ」

「要するに、この「アイギス」が入った制服を着ているから、死ぬことはない、と?」

「対戦車ライフルの直撃レベルまでならば、生存の可能性はきわめて高い」

・・・対戦車の直撃レベル・・・。

「でも、こっちは戦車まで持ち出しているじゃないか。やっぱり敵は親父さんなんだろ?」

「そうね。おそらく『D.R.E.S.S.』のほかの部隊でしょうね」

「だったらやばいんじゃないのか?戦車に撃たれたらさすがにヤバいんだろ?」

「だな。直撃すればな」

あっさりと、まるで他人事のように言い放つ白神さん。

「・・・!!なんでそんなに落ち着いて言えるんだよっ!!」

「それが『D.R.E.S.S.』というものだからだ」

「それが『D.R.E.S.S.』・・・?」

「そうだ。『D.R.E.S.S.』はあらゆるレベルの脅威に、決して臆することなく対峙し、これを排除する。これが任務だ」

「だからって・・・!!」

「あー、こほんっ。落ち着いて祐一。私たちだって同胞を殺したくはないわ。戦車はあくまでけん制。直撃はさせないわよ」

「しかしだな・・・」

「こほんっ!本題はこのことじゃないの!静かに話を聞いてってば!」

「まだ本題に入ってなかったのか・・・」

ぽこっ!ぱこっ!

「・・・・・・」

「「アイギス」はまだ世界中のどの国にも公開していないの。あまりに高性能すぎるからね」

「どういうことだ?」

「高度過ぎる技術は、同時に万人を焼く業火にもなりうる。今は世界にその存在を明かすときではない」

「・・・で?なんでそのことが本題なんだ?」

「だから、一般人である祐一には「アイギス」入りの服を渡せないのよ」

・・・俺から「アイギス」が洩れる、と?

「当たり前だ。私たちは完全に高郷祐一を信用したわけではない」

「信用って・・・そっちが勝手に学校占拠して、勝手に俺を副指令に任命したんじゃないか!そのへんの責任は持てよ」

「わかってるわよ。だから私的にも祐一に「アイギス」を渡したいのだけど・・・」

そこで鷹堂はちらっと白神さんを見る。

「いくらお嬢様でもそれだけは無理です。これは鷹堂コンツェルンだけの問題ではないのです」

「・・・で、俺に死ね、と」

「そのことなの、本題は」

・・・そのこと?

「責任がとれない以上、祐一はもう副指令でなくてもいいってこと」

言いづらそうにする鷹堂は、それでも言う。

「・・・・・・え」

「この学校には地下に避難施設もある。そこにこもってじっとしていろ。そうすれば死ぬ危険などない」

・・・ちょっと待てよ。

「もちろん、全てが終わった後には全てを忘れてもらうけどね」

・・・なんでだよ。

「最初に言ったでしょ?「一般人には知らなくていい事」だからよ。あなたは副指令だからここまで教えたけど」

「まあ、一般人として当然の選択だろう。無駄死にすることはない」

「勝手に決め付けないでくれ!」

耐え切れなくなった俺は、つい大声を出してしまう。

「あ・・・」

・・・全てを忘れる?出来るわけないだろう。あんな濃い連中を忘れるなんて。地下でじっとしてろ?そうすれば死ぬ危険はない?お前らが命がけで戦っているのに?

俺は・・・


「勝手に決め付けないでくれ!」

祐一が、初めて叫んだ。

「あ・・・」

・・・そうだ。私もお父様に勝手に、私の大切なことを決められたことが嫌でここにきたんだった。

雑誌「週刊 スポーツ野郎」に載っていたこの高校に。

・・・いや、今ならわかる。

―――私は、祐一がいる。それだけでこの高校に来たんだ。

でも、今私が祐一にしていることは、お父様が私にしていることとなにも変わらない。

それが祐一のためだと思っても。祐一に生きていてもらいたい、そう思う私の願いでも。

・・・そもそも、祐一を巻き込んだのは私の勝手な願いからだから。

だから、私は。

「だったら・・・祐一は、どうしたいの?」

言った。


「お嬢様!それは・・・!」

「いいの。綾香」

・・・俺が、どうしたいか。

「俺は・・・」

俺の半分がこんなことで命を賭ける必要はない、と言っているのに。

俺は、きっとバカなんだろう。

「俺は、『ヴァルキリー』の副指令だ」

でも、バカだから、きっと俺は俺なんだ。

「貴様・・・」

「確かに、救いようのないバカね」

そういう鷹堂は、しかしふわりと、うれしそうに笑っていた。

「綾香、わかったでしょ?時間がないから手短に副指令殿に状況を説明して」

「お嬢様、それでは高郷が・・・!」

それでも食い下がろうとする白神さん。

ちょっと副司令官っぽくふるまってみようかな。

さっき雑誌で殴られたお返しだ。

「―――くどいぞ、綾香」

副指令っぽく、太い声で言った。

『副』でも司令官だから白神さんよりも上・・・だよな?

「え・・・?」

「すいません、冗談です」

でも白神さんだからな、殴られはするんだろうな。きっと。

「・・・・・・」

「どうしたの?綾香?」

「な、なんでもありませんっ!状況を説明します!」

狼狽した様子でプロジェクターのスイッチを入れる白神さん。

・・・あれ?

白神さんの意外な行動に、拍子抜けしてしまう。

・・・まあいいか。

正面のモニターに衛星写真を拡大したものが映し出される。

「まず、本日13:30時に、鷹堂本邸から『D.R.E.S.S.』の一部隊と思われる装甲兵員輸送車群の発進を確認した」

・・・真昼から堂々とよくまあ・・・。

「おそらく、本日18:00時に本校に到着する。つまり・・・」

「決戦は、今夜」

・・・今夜か。まったく、こいつらはいつもやることが急すぎるんだよな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ