第1部
自作同人ゲーム用に書き下ろしたシナリオです。
制作ブログ→http://synthesize2.blog44.fc2.com/
今回は短編にしました。よろしくお願いします。
「東館に展開している第5から第8小隊には現状を維持させろ。ヘルヴォルの隊を援護に向かわせる」
突き抜けるような晴天の下、品格を感じさせるアンティークで統一された屋敷の窓辺に、給仕服を身にまとった少女たちが、まるで何かから隠れるように背を低くして集まっていた。
そこへもう1人。何か荷物を携えた、やはり給仕服を着た少女が現れた。
…いわゆる“メイド”である。
「第4小隊の浅野です。伝令と補給に戻りました」
やはり背を低くして現れたメイドは、その集まりの中心にいるメイドに声をかける。
「ご苦労。で、旦那様はなんと?」
「旦那様たちは中央館に留まるということです。護衛には「ノルニル(第1近衛中隊)」と「アムシャ・スプンタ(第2近衛中隊)」が就いています。「ヴァルキリー(第3近衛中隊)」は第一防衛大隊とともに、敵勢力の無力化に全力をつくせ、とのことです」
言いながら、少女は携えていた荷物から、いくつかの箱を取り出す。
「すみません。M16か89式を用意できればよかったのですが…」
その中に入っているのは、5.7mm×28のP−90専用カートリッジ弾。
見ると、彼女たちは全員、サブマシンガン「FN P−90」を装備していた。
「無いのなら仕方あるまい。本邸の防衛は防衛大隊に花を持たせてやらないとな。よし、我々はこれより正面玄関の敵主力を迎え撃つ。フレックとエルルーンはどうした?」
耳を澄ますと、かすかに聞こえるのは、銃声。
「隊長たちは、西の格納庫前で敵部隊に足止めされています。RPGを装備しているようで、手間取っています」
予備弾倉をメイド服のポケットに収納する。弾倉はピッタリ収まった。
…いや、これはメイド服ではない。彼女たちが着ているのは、メイド服のような『戦闘服』だ。
「ふむ、ならばレルルの隊にだけでも、合流するように伝えてくれ。直接正面玄関に向かうよ…伏せろ!!」
指示を出していたメイドが叫ぶと、間をおかずに窓際に置いてあった花瓶が砕け散った。
続けて木製の窓枠が次々弾ける。
正面から迂回してきた、敵の遊撃部隊だ。
中東系の顔をした数人の男たちが、すばやく左右に散りながら距離を詰めてくる。
しかし、全員バラバラの装備ゆえか、あまり統一感はない。装備している小銃も一世代前の旧式だった。
「ちっ!応戦!」
敵の斉射が終わるのと同時に、窓枠から銃口のみを出した、全員のサブマシンガンがそれぞれ目標を捕らえた。
「撃ち方、はじめ!」
乾いた発射音と共に、5.7mm弾が目標へと殺到する。
それは彼らのボディアーマーを貫き、人体の奥深くに突き刺さる。
「敵戦力歩兵5!小火器装備、脅威レベル2!」
「―――ぐはっ…!」
敵戦力を分析していたメイドが言い終わるのとほぼ同時に、最後の敵兵が崩れ落ちていた。
「状況報告!」
「敵勢力完全に沈黙。損害なし、作戦続行に支障なし」
浅野と名乗ったメイドが、瞬時に成果を分析、報告する。
指示を出していたメイドが立ち上がる。
残弾確認。ほとんど減っていなかった。
「では、レルルの隊には直接玄関に来るように伝えてくれ。二人はヤツらの後始末を頼む。残りは私について来い」
彼女たちは一つ頷くと、それぞれの目的地へと駆け出していった。
十分後、敵勢力は完全に沈黙した。
―――D.R.E.S.S. FIRST―――
「今回の攻撃も小規模だったようだな。奇襲にもかかわらず、13分しか持たぬとは。まあ、故に奇襲なのだろうが。・・・で、さっきの話の続きだがな」
「・・・・・・・・・」
「・・・おい。聞いてるのか!?」
苛立ちを孕んだその声に、私は意識を上に向ける。
「・・・え?」
どのくらいお父様は話していたのだろう。いつの間にか雑誌を読むのに集中してしまっていたようだ。
―――「週刊 スポーツ野郎」今号の特集はこの間行われた高校陸上の全国大会についてだ。
―――そこには、今年優勝した熊田高校陸上部へのインタビューが載っている。
お父様はそんな私の様子を見るとため息をつき、再び窓の外へ顔を向ける。
「まったく。これだから・・・。いいか?お前はいずれこの・・・」
なんだろう、さっきからドキドキと鼓動が早い・・・。
頭が・・・ぼうっとする。
「・・。だから、今回はこの間新調したドレスを着ていきなさい。くれぐれも先方に失礼のないようにな」
・・・先方?
「ずいぶん手間取ったが、やっと話がついたんだ。失敗は許されん」
そこまで聞いて、やっと頭が覚醒してきた。
「・・・え?失敗できない?」
顔を外に向けたままのお父様は、私の言葉が聞こえなかったのか、そのまま言葉を続ける。
「これで一ノ瀬家との関係を作れれば、わが一族のさらなる繁栄につながる」
お父様の声が部屋に響く。今、居間には私とお父様しかいない。いつもは十人近いが控えているのだが、今はお父様が下がらせていた。
「・・・まさか、お父様」
「『血は水よりも濃い』。血縁関係ほど確実な信頼関係はないからな。それに相手は噂に名高い一ノ瀬の御曹司だ。悪い話ではない」
そうか、重要な話って・・・!
―――お見合い―――!!
「私はそんな話聞いてない!なぜいつも勝手に決めてしまうの!?」
いつもそうだ。私の意思に関係なく、知らないうちに私のことが決められている。
憤慨する私を見て、お父様は再びため息をついた。
「・・・やはり聞いていなかったのか。まあいい、この件はもう決定したことだ。わかったら、新調したドレスに袖を通してみなさい」
「・・・!!もういい!!」
私は踵を返すと、出口へと向かう。
「私、お見合いなんて絶対出ないから!!」
ドアを開ける前にそう言い残して、私は居間を後にする。
背後で、お父様のため息が聞こえた気がした。
「あーもう!なんでいつもこうなのよ!!」
私の部屋で、私はこの行き場のない怒りをクマのぬいぐるみ(1/1スケール)とのスパーリングで発散していた。
「お嬢様、落ち着いてください」
私付きのメイド長―――白神 綾香がぬいぐるみに哀れみのこもった視線を向けながら、私を諭そうとする。
「なんで!?なんでいつも私の意思が無視されるのよ!」
「そんなことは・・・。旦那様はお嬢様の将来を考えられていらっしゃるのです」
「人生を勝手に決められたら迷惑なの!もういい、綾香」
こうなったら徹底的に抵抗してやるんだから。絶対お見合いには出ないんだから!
・・・家出してやる。
「・・・はい、なんでしょうか」
「『ヴァルキリー』を緊急招集。直ちに出撃準備に入りなさい」
「は?出撃・・・ですか?」
普段は冷静な綾香も、さすがに驚いたようだ。
「ええ、名づけて『お父様に目にもの見せてやるんだから!屋敷脱出大作戦』よ!」
「・・・・・・」
ふふ、もうお父様の言いなりになんてならない。結婚相手ぐらい自分で決める!
「決行は今夜。それまでに集まれるだけの物資を集めなさい。お父様たちはもちろん、他の使用人にも気付かれないようにね」
「しかし、お嬢様。旦那様に無断で『ヴァルキリー』を動かすということは・・・」
「綾香らしくないわね。・・・作戦名は?」
「え・・・『お父様に目にもの見せてやるんだから!屋敷脱出大作戦』・・・です・・・」
綾香の頬がほのかに朱に染まる。
「・・・・・・」
人に言われると、かなり恥ずかしいわね。コレ。
もうちょっと考えたほうがよかった・・・かな?
「と、とにかく、わかったでしょ?」
「ええ、しかし本気なのですか?」
「本気も本気よ。わかったなら早く『ヴァルキリー』を集めに行ってきて」
「・・・」
まだ一言言いたそうだったが、一礼して部屋を後にする綾香。
「『ヴァルキリー』を動かせば、お父様も考え直してくれるハズ」
私にだって意思はある。私はもう子供じゃない。
「自分のことは自分で決める」
そのこと、今夜ハッキリさせてやるんだから!
私、鷹堂 舞華は決意した。
それが、どんな結果を生むのかも知らずに・・・
夜、鷹堂本邸内、第3脱出経路。
厳重な警備を誇る鷹堂本邸が敵の手に落ちる、という最悪の事態に備えて地下に作られた逃げ道のひとつである。(逃げ道といっても、軍用車が楽々通れるほどの規模があるのだが)
「お嬢様、『ヴァルキリー』各員配置に就きました。いつでも『出撃』できます」
整然と並べられた装甲兵員輸送車を背に、『ヴァルキリー』各小隊員が整列する。
―――鷹堂財閥 私設自衛軍『D.R.E.S.S.』 第3近衛中隊『Valkyrie』。
強大な財力と権力を手に入れ、栄華を誇る『鷹堂コンツェルン』だが、それゆえに敵も多く、国内に留まらず世界中から、鷹堂総裁の自宅である鷹堂本邸などに組織的なテロ(ピンポンダッシュからRPG(「Rocket Propelled Grenade」の略で、日本語に直すなら「ロケット推進式榴弾」)による砲撃まで)が毎日のように繰り返されるようになる。
そして、それらのテロに対抗するために組織されたのが私設自衛軍(正確には組織)『D.R.E.S.S.』(Defense reaction expert security service(防衛対応専門警備隊))である。
この組織の構成員のほとんどは女性で、普段はメイドとして家事一般をこなすが、いざ有事となると要人の安全確保及び敵性勢力の無力化に全力を尽くす。
人員の規模こそはとても『軍』などとはいえないが、鷹堂コンツェルンの総力を結集して開発された各装備は世界最強といっても過言ではなく、事実設立以来『D.R.E.S.S.』は一度も敗れていない。
出典:『現代の特殊部隊完全解析』民明書房刊
『D.R.E.S.S.』は大きく分けて鷹堂一族に仕える第1〜第3まである精鋭部隊『近衛中隊』とその他の部隊に分けられる。
第1〜第3近衛中隊はそれぞれ鷹堂総裁、総裁夫人、そしてその娘・舞華の直属として仕える。
つまり、第3中隊『ヴァルキリー』は舞華が唯一指揮権をもつ部隊というわけだ。
その『ヴァルキリー』中隊は4つの小隊によって編成されている。
私は目の前に整列している各小隊長の顔を順に見回した。
・第1小隊長 白神 綾香 コードネーム:ヘルフィ
私に仕えるメイドの長にして『ヴァルキリー』最強の実力者。何よりも私のことを考えてくれるメイドの鑑。
・第2小隊長 天川 砌 コードネーム:ヘルヴォル
幼い頃から『D.R.E.S.S.』の隊員になるべく訓練された「養成組」の出身。何事にも動じない、おとしやかな大和撫子(しかし男にはあまり耐性がない)。
・第3小隊長 北御門 琉月 コードネーム:レルル
自身も華族ながら、長年にわたって鷹堂家に仕えてきた一族の出身。故に、その所作一つとっても気品が漂う。
・第4小隊長 椎名 陽姫/彩夜(しいな あき/あや) コードネーム:フレック/エルルーン
一人ひとりの戦闘能力は決して高くないものの、そのコンビネーションは他を圧倒する双子。そういった事情から特例で「2人で1小隊長」として登録されている。
「お嬢様、ご命令を」
私は頷き、一歩前に出る。
「これより『ヴァルキリー』は本邸より移動する!可及的速やかに本邸を離れよ!」
・・・決まった。
「・・・お言葉ですがお嬢様」
「うん?」
「移動先は・・・?」
「・・・あ」
・・・しまった。考えてなかった。
「お嬢様。今ならまだ間に合います。すぐにお部屋に戻ってください」
「そ、そんなのイヤ!今夜こそお父様に考えを改めてもらうんだから!」
「お嬢様・・・しかし」
「行き先があればいいんでしょ?だったら・・・・」
そのとき、頭に思い浮かんだ一つの場所。「週刊 スポーツ野郎」の特集で紹介されていた・・・。
「・・・熊田高校・・・」
「熊田高校・・・ですか?」
「そうよ。これで文句はないでしょ?いざ、出陣!!」
言うと、私はさっさと専用車両に乗り込む。
「はぁ・・・。「敵は高校にあり」なんて、冗談にもなりませんよ、お嬢様・・・」
『ヴァルキリー』を乗せた軍用車が、隊列を崩さずに脱出路を進む。
それらはやがて、漆黒の中に見えなくなっていった。
翌日、私立熊田高校
真夏の校庭に火薬の炸裂する音が聞こえる。
その破裂音を合図に、僕たちは弾けるように前に飛び出す。
全身の筋肉を一瞬で全開にして、爆発的な加速力を得る。
・・・ゴールを走り向けるのは、たった数秒後だ。
「ふぅ。今日も暑いなあ」
脇の芝生に座り、カラカラの喉に温まったポカリを流し込む。
真夏の校庭にいるのは、合宿をしている陸上部の部員だけだ。
「おーい、高郷―!桑島が部員全員F組に集まれってよー!」
使い終わった練習道具を片付けに行っていた岡山が、大声を張り上げている。
ちなみに桑島とは俺たちの顧問だ。
「わかったー!すぐに行くー!」
・・・いったいなんだ?ただでさえ今は夏休み中で生徒自体それほどいないのに・・・。
なぜ呼び出されたのかわからぬまま、俺たちはF組の教室へ向かう。
―――私立熊田高校。
全国的にもちょっとは名の知れた高校で、特にスポーツの分野に力を入れている。
人事のように言っている俺はスポーツ特待生(陸上)なのだが。
なぜか人里離れた山の中にあり、外界との繋がりは一本の道路だけ。
そんなわけで全寮制である。今は夏休み中なので、基本的に生徒は帰省しているが。
熊田高校 1年F組教室
「あーなんだ。この時期になんなのだが・・・転校生を紹介する」
「・・・は?」
今は合宿中の部活動員しか学校に残っていないとはいえ、さすがに一つの教室に詰め込むとギュウギュウ詰めになっていた。
ただでさえ酸素が足りない状況だというのに、桑島のヤツ、さらに酸素が足らない発言をしやがった。夏休み中に転入とか意味不明なんですが。
「あー、・・・どうぞこちらへ」
こちらの疑問などさっぱり無視して、その『転校生』とやらを向かいいれる桑島。
しかしなぜ敬語?
そして入ってきた3人の女生徒(?)。
・・・なぜ3人?っていうか後ろの二人が着てるのって、その、一般的にいう・・・メイド服ってやつだよな?
一同の視線を一身に集め、少女は宣言する。
「こほんっ。私はアテナ。後ろの二人は『Dress』第3中隊所属のヘルフィとヘルヴォルです。もちろん本名ではありませんが。・・・只今を以って、一時的にこの熊田高校を第3中隊『ヴァルキリー』の管理下に置きます。一切の危害は加えませんが、一切の質問は受け付けません。抵抗したい方は今のうちにどうぞ。苦しまないように葬ってあげます」
「「「・・・・・・?」」」
「おい、それじゃ話が違うぞ!なんだ管理下に置くとは!」
話が理解できない俺たちに対して、急に怒りだす桑島。
「連れて行って」
「・・・は」
少女は桑原に一瞥をくれると、後ろの二人に告げた。桑島を両側から抱えると、あっというまに教室から運び出していくメイド二人。
「あ?なんだ、え、ちょっと、やめろ離せコラちょ、あ・・・」
ぴしゃり、と引き戸が閉められた。
「・・・・・・」
「了解したなら、あとは『ヴァルキリー』の指示に従って。・・・あと、高郷 祐一は視聴覚室へ来て」
それだけ告げると、教室を出て行く少女(アテナと名乗ったか?)。
そのあとは、俺が全員の視線を浴びる番だった。
・・・俺、なんかしたか?
視聴覚室
・・・とりあえず、ノックしてみるか。
「えーと、高郷ですけど・・・」
「ええ、入って」
あの少女の声だ。中に入る。
「よくきたわね、歓迎します」
すでに視聴覚室の主になっている少女。
「改めて。私の名前は鷹堂 舞華。彼女は白神 綾香」
「え?でもさっきはアテナとかなんとか言ってたんじゃ・・・」
「彼らは知らないほうがお互いいいの。でも貴方はそうはいかないわ」
「・・・?なんで?」
俺と奴らの決定的な違いなんてないと思うが・・・。
すると舞華はにんまりと笑った。まるでおもしろいイタズラを思いついた子供のように。
「こほんっ。えー只今を以って高郷 祐一を第3中隊『ヴァルキリー』副司令官に任命します。パチパチ」
「パチパチ」
「・・・・・・」
なにいってんだ?っていうか口だけで拍手されても全然うれしくないんですけど。
「じゃあ、早速副指令としての初仕事をあげるわね」
「ちょ、ちょっとまて。なんで俺なんだ?せめてそれだけでも教えろ」
「え、なんでって・・・」
俺としては当然の質問だと思うのだが、なぜか舞華は顔を真っ赤にして口ごもってしまう。
「貴様はスポーツ雑誌にも取り上げられて、この学校の中に知らない者はいないらしいじゃないか。お嬢様はこの学校のことはなにもご存知でない。生徒たちを統率するために、この学校のカリスマが必要なのだ」
・・・知られていたって、人気者とは限らないがな。
まあ、そういう理由から任命したとなれば、あながちはずれでもない。事実俺は友達は多いほうだ。
「一応確認するが、辞退は出来ないんだな?」
「あ、あたりまえでしょ。私直々の任命なんだから、謹んで受けなさいっ」
「あとひとつ。お前たちは学校なんか占拠して、一体なにをする気なんだ?」
「それは・・・軍事機密よっ」
軍事機密って・・・半分教えたようなもんじゃないか?
「とにかくっ、時間がないわ。祐一は各小隊の作業状況を見回って、手伝いが必要なようだったら手伝ってきて」
「そんな漠然と言われてもな・・・とりあえずどこから行けばいい?」
「校庭に向かえ。ヘルヴォルの第2小隊が補充物資の試験運転を始めている」
・・・なんかこの人たち、まともなことちっとも話さないな。
補充物資って運転できるものなのか?
「とにかく、早く行け。小隊は全部で4つある。全て回って来い」
それに、なんでこの白神さんはこんなに不機嫌なんだ?
「ほらっ、早く回って来てってば」
しかたない、とりあえず校庭に行くか。