変化
お立ち寄りくださりありがとうございます。今回はかなり短めです。
ドアがノックされた。
私は顔を跳ね上げた。
そしてドア越しでもよく透る声が耳に入った。
「殿下、入ります」
今、一番顔を合わせたくない、同時に、今、最も顔を見たい者が入ってきた。
夜中になっても明かりを増やすことを忘れていたため、顔が見えない。
私は唾を飲み込んだ。
何から言えばいいのか、何を言えばいいのか分からない。
セディは淡々と私に声をかける。
「ハリーは、殿下が気落ちしていると言っていました。
明かりを落としたままでは、気が滅入るばかりでしょう」
ハリーの腹立たしい発言については今は脇に置いた。
鼓動がセディにまで聞こえるのではないかと思うほど大きい。
セディは鮮やかな魔法で明かりを増やしていった。
部屋は薄っすらと明るくなった。
ようやくセディの顔が見えた。
怒っているようには見えない。
私はセディの顔を正しく読めているか自信がなかった。
セディの顔は、表情が乏しいものの、長年の経験では明るく穏やかな、満ち足りたものに見える。
私が乾いた口を何とか開いたとき、セディが眉をひそめた。
身体が竦んだ。
「せっかく明かりを付けましたが、ハリーが緊急の会議だと呼んでいます。
行きましょう」
一瞬にして部屋の明かりが消された。
暗闇の中、セディの腕輪だけが光り、まるで光が浮いているようだった。
「行きましょう。ハリーが不機嫌になりつつあります」
セディが小さな火の玉を浮かび上がらせ、私の足元を照らし先導を始めた。
後ろを歩いていた私は、不意に足が止まった。
――腕輪「だけ」が見えた。
「殿下?どうしました?」
「ああ、すまない、今、行く」
私の声は滑らかに出て、待っているセディの傍まで足取りも軽く追いついた。
――治癒の光が弱まったからだ。
今までは、腕輪の光はセディを包むように光っていた。
シルヴィアの治癒の力が衰えることはあり得ない。
つまり、それは――、
私は希望が芽生えるのをはっきりと感じた。
お読み下さりありがとうございました。