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私の誓い

お立ち寄りくださりありがとうございます。申し訳ございません、今回は長くなりました。

頭の中に浮かぶことは、セディの名前だけでした。


――セディ!


目の前に、驚きに目を見開いたセディの顔が現れました。

私は転移していたのです。

宙に浮いたまま、私はセディにしがみつきました。

セディの身体が強張り、一瞬、離れようとするのを感じましたが、私はひたすらセディにしがみつきました。

セディを感じていたかったのです。

しばらくセディは固まったままでしたが、やがて耳に微かな吐息が聞こえ、次の瞬間、空間が歪みました。

ほんの短い時間で、空間は定まりました。セディがお城で泊まるときの部屋に転移していました。


「ごめん、僕の力では二人でシルヴィの屋敷に転移することはできないんだ」


私は再びセディにしがみつく腕に力を込めました。

セディがいてくれればどこでも良かったのです。

微かに流れ続ける殿下の魔力に、意識が向きそうになります。

魔力を忘れたくて、少しでもセディを感じ取りたかったのです。


「一体、どうしたの」


セディは尋ねながら、慎重な手つきで髪を撫でてくれます。

私は嗚咽を必死に抑えつけようと、何度も大きく息を吸ってみたものの、涙は止めどもなく溢れ続けます。


突然、ノックの音が響きました。


「セドリック殿、ご在室ですか?殿下がお呼びです」


殿下という言葉に、私は息を呑み胸元を握りしめました。

セディは「すぐ伺います、とお伝えください」とドア越しに返事を投げかけ、私に向き直った途端、俯いた私でも分かるほどにセディは硬直しました。

喘ぐような声が降ってきました。

「誓いの印?…殿下の魔力?」


セディの腕輪から私の魔力が発動するのを感じました。

顔を上げると、セディの顔は白いまでに血の気が引いています。


「違うの!違うのっ!これは殿下が、ふざけて…!」


私は叫んでいました。気持ちが昂り、魔力が溢れだし封印石は強く光を放っています。

呆然とした様子で、セディは呟きます。


「誓いの印は、誓いに真摯な想いを込めなければそもそも術が発動しないと、ハリーが…」


分かっています。殿下の想いがふざけたものではないことは分かっています。

ですが、今の私には、殿下を思いやる気持ちはありませんでした。

私はセディの腕にしがみつきます。セディの身体は固いままです。


「私は、セディから印をもらいたかったの!」


そうです。印のことを知ったときから、いつかセディからもらいたいと夢見ていました。


「誰かに印をもらうなら、セディが良かったの…!」


封印石の光は目を開けていられない程です。私は石をかなぐり捨てました。


「シルヴィ…」

「こんなこと、嫌!」

体を壊せば印も何もかもが消えるのではないかと、私は自分に魔力の攻撃をかけようとしました。

「シルヴィ、落ち着いて…!」


セディは私を抱きしめてくれました。腕輪の治癒は発動したままなのに、それでも「落ち着いて…」と何度も声をかけてくれます。

セディと私の息遣いが聞こえるほどには落ち着いたころ、

これを否定されたら私は息絶えるだろうと、緊張のあまり体が冷えていくのを感じながら、私は一番恐れていることを口にしました。


「セディ、こんな私でもセディの隣に場所はある?」

私の声は震えていました。

セディは私の頭を撫でながら、間髪入れずに答えを返してくれました。


「君がだれを選ぼうと、僕の隣は君の場所だよ。それは変わらない」


その答えは思わず涙が零れるほどうれしいものなのに、私の口から出た言葉は違っていました。


「隣では嫌」


口に出したことで、私は自分の望みをはっきり悟りました。

私はセディの淡い緑の瞳をしっかりと見つめました。


「隣では嫌なの。セディの中に場所が欲しいの」


セディは明らかな戸惑いを浮かべます。


「僕の中…?」


私は頷きました。望みというよりも祈りに似た思いでした。


「お願い…、セディの中にいさせて」

私の声はかすれていました。

セディは戸惑いを隠せないまま、私を見つめ返します。


「お願いよ、セディ」

セディの服を握りしめます。涙が溢れましたが、セディから目を逸らしませんでした。

セディは指で涙を拭いながら、困ったように眉を下げて、囁きました。


「僕にできることなら」


私は感謝の想いを込めて、頷きました。

私は卑怯です。

お願い、と言いながら、セディは私の望みを叶えてくれるとどこかで確信していました。

――それでも

私は自分の願いを取りました。

セディのシャツに手を伸ばします。

手では嫌です。手では足りません。

ボタンを襟から順に外していきます。

セディは息を呑みましたが、私を止めることはありませんでした。

やがて、鼓動が最も大きく聞こえる場所までシャツを開けると、私は淡い緑の瞳をもう一度見つめました。

その瞳は緊張に見開かれながらも、私の全てを受け入れてくれるものでした。

私は目を閉じ、想いを言葉に載せました。


「私は、私の魔力の全てをかけて、生涯の愛を貴方に誓います」


セディの胸に口づけました。

その瞬間、私の魔力は強さを増し、セディの身体へ流れ込みます。

魔力はあらゆるところへ行き渡り、私は魔力を通してセディの指先、心臓、髪の先まで感じ取ることが出来ました。

そして、私の魔力が収まると、セディの胸にはっきりと印が刻まれていたのです。


胸から唇を離しても、私は、セディの鼓動を、魔力を通して感じ取ることができました。セディの魔力に包まれる心地がします。

私は心地よさとうれしさから涙がまた零れてしまいました。

セディが私を抱きしめます。

息が苦しくなるほど、力の限り抱きしめてくれます。


「僕の中に、シルヴィ、君を感じる」


髪に口づけが落とされ、耳元に囁かれます。


「シルヴィ、君が僕の中にいてくれるんだね。ずっと」


セディは、髪を撫でながら、耳に、額に口づけを落とします。

私の頬を包み込み、顔を上げさせました。

迎えたセディの顔は、私の大好きな、あの見惚れずにはいられない綺麗な笑顔でした。

強い歓喜が私の体を貫くのを覚えました。

やがてセディは眼差しをゆっくりと強いものに変えると、目を伏せ私の顔に近づいてきます。

セディの息が私にかかったとき、再びノックが響きました。


「セドリック、殿下が気落ちしている。傍についてやれ」


叔父様の身体に沁みこむ声でした。

私とセディは思わず見合って、笑いをこぼしました。

それでも、セディはドアを開ける前にもう一度額に口づけ、私は頬を熱くして叔父様に向き合うことになったのでした。




お読み下さりありがとうございました。長くなりましたこと、申し訳なく思っております。

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