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疑問が生まれた日

お立ち寄りくださりありがとうございます。今回はダニエル視点です。

それでいいのか?それで…、刺客を防げるのか…?



あいつは、予想通り体の成長とともに魔力の強さも増していった。

初めの対戦の時には俺の胸の高さよりも低かったあいつは、今では肩に届かんばかりになっている。魔力の容量も増えたのだろう。

俺が必死に練習して、何とか引き分けか運が良ければ勝つ、そんな具合だった。

あいつの成長は予想の範囲内で覚悟もしていたが、もう少し時間がかかると思っていた。

俺はあいつに全力を出させる相手になっているのか、不安になることもあった。


そんな時だった。

突然の模範演技に、俺は足元が崩れるほどの衝撃を受けた。

離れた位置から技をかけあい、お互い位置を移動することもほとんどない「試合」しか経験していない俺には、「現実」の戦いを見せつけられた思いだった。

あいつは立ちあがって震えながら試合を見つめていた。

生きるために訓練しているあいつには、「死」を突き付けられるものだろう。

劇場から逃げるように走り去るあいつの背中を見ながら、俺は自分の不甲斐なさにも打ちのめされた。

俺がもっと強く、あいつの脅威になっていれば、あいつはあそこまでの衝撃を受けずに済んでいただろう。

俺はあいつに「死」を思い浮かばせるほどの攻撃など成功したことがなかったのだ。

俺は自分が情けなかった。


胸の中の苦いものを抑え込んでいると、深く貫くような声が隣から聞こえた。

「お前が、ダニエルか」

もう一人の覆面の男だった。

覆面をしていても、男が誰だかは分かっていた。ウィンデリア国に銀の魔力を持つものは一人しかいない。

ハリー守護師だ。確か、あいつの叔父でもあったはずだ。

「何か御用ですか」

苦いものがまだ抑えきれない俺は、やや億劫に思いながら答えた。

その瞬間、刺さるような銀の魔力が立ち上り、アリソンは後ずさりした。いや、魔力を感じることのできるやつは全員後ずさりしている。劇場は静まり返った。

だが、俺は別のことに意識がとられていた。

確かに、守護師の魔力は人間と思えない量と強さだ。

なのに、俺はたいして驚いていないのはなぜなんだ?

ふと答えがよぎった。

そうだ、初めての試合の時、あいつの魔力の放出を肌に感じる近さで見たからだ。

あいつからも守護師と同じ人間とは思えない魔力を感じた。もちろん守護師より十倍は小さいが、いわば「種」としてはあいつと守護師は同じ種だ。


「なるほど、なかなかの相手のようだな」


深く染みとおるような声が、俺の思考を断ち切った。

「シルヴィはお前に勝てることを目標にしている。あいつの目標になってくれていることに、叔父として礼を言う」

魔力を感じる深い声が、一瞬前まで受け入れがたかった「目標」という位置づけを、事実として受け止めさせられた。

俺は、あいつの「目標」になっていたのか。これでも。

あの騎士の足元にも及ばない、俺が。

複雑な思いで、対戦場をみたとき、騎士の姿はなかった。

魔力の名残がある。転移か?

「ほぼ3年ぶりだからな。しばらくは見逃してやる。しばらくだけだ」

よく分からないことを、再び刺さるような魔力を立ち上らせながら、守護師は呟いていた。



そして、その後、あいつの戦い方が変わった。

始めは、あいつの新しくなった封印石のためかと思ったが、どうやら違った。

勝つために攻撃を加え続けるのでなく、どうも退路を確保することを想定した戦い方をするようになった。

弱くなったわけではない。むしろ魔力の放出の大きさと種類は増えたぐらいだ。

あいつはクリス先輩の結界まで解除できるようになった。

「魔法を魔素まで分解したのです」

さらりと高度な技を言ってのけ、あいつは俺の手を取って、魔法の組み方を誘導してくれた。

あいつのお陰で俺にも何とかわずかに分解できると――本当にわずかだったが――あいつはうれしそうに輝くような笑みを浮かべて俺を見上げた。


―ッ!


俺は初めてあいつのことを可愛いと思った。

アリソンの気持ちが分かる。確かにこの笑顔は可愛い。

隣のアリソンが「あぁっ」ともだえるような声を上げている。

俺は頬が熱くなり何だか思考が飛びそうな気配がしたが、あいつの言葉を何とか聞いていた。

封印石を作った過程で身に着けた方法だとあいつは話し、最後にこう締めくくった。

「封印を変えたので、力の放出に縛りがなくなったのです」

必死に話が終わるまで意識をつなぎ留め、ようやく別れて歩き出したとき、俺は突然足が止まった。

背中にアリソンがぶつかり、文句を言っていたが全く聞いていなかった。


お前、縛りがなくなったのに、全力で攻撃を出していないじゃないか。


新しい封印石での試合で、一度も封印石は光らなかった。

相手に怪我をさせないためではないはずだ。

アレクサンドラ先輩の木に攻撃を加えても先輩に被害は及ばない。


背筋が寒くなるような予想が俺の頭によぎった。


幼いころからの習慣で、無意識に力を抑制することが抜けないのか?

意識して全力を出す技が、身についていないのか?


お前、それでは、刺客に対して…



俺はしばらく動けないままだった。



お読み下さりありがとうございました。今回の投稿は、途中で何度か通信が落ちてしまい、これで成功していることを祈っています。

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