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セディの視察3

お立ち寄りくださりありがとうございます。

村長が紹介してくれた宿泊先は、宿屋ではなかった。

大人数の支援を予想して、村の集会所に用意が整えられていたのだ。

行き届いた配慮に申し訳なさから胸が痛むが、本当の支援を招くために尽力することで許してもらうとしよう。


早速、僕はトレントに視線を向けた。

彼は咄嗟に僕から視線を逸らしかけ、慌てて向き直った。

そこまで、彼に八つ当たりしていただろうか。

少しばかりの反省をしながら、口を開いた。


「トレントさん、貴方の力で領主の館にいるハリーへ手紙を転移させることは可能ですか」


彼はカクカクと頷いた。

そこまで恐がられるほどの八つ当たりは絶対にしていない。

「若様、剣から手をお離し下さい。手入れをさせていただきます」

チャーリーから遠回しに剣を取り上げられた。


恐がるトレントを忘れることにした僕は、2通手紙を認めた。

1通は、辺境伯に宛てた手紙で、早急にこの村に支援が必要な状態であることを訴えたもの。

残る1通は、父、宰相に宛てた手紙だ。僕の予想が当たった場合に備えて、許可を求めるものだった。


2通をひたすら認めている間に、胸に忍ばせていたシルヴィからもらった治癒石がほのかに熱くなった。

―― ?

空間が歪み、手紙が舞い降りた。

シルヴィの手紙が屋敷ではなく、治癒石を頼りにここに転移されたようだ。

嬉しさに疲れが吹き飛ぶ心地だったが、ハリーへの苛立ちが蘇った。


本当なら、手紙なんか必要なかったはずだった。

薄い青の瞳を輝かせたシルヴィを直接見ることができるはずだった。

背は伸びているのだろうか。

かなり攻撃の練習に時間を注いでいるようだけれど、本当に元気なのだろうか。


次々と湧き上がる思いを、吐息を吐いて抑え込む。

目の前に課題が、それも急を要する難題が確かにあるのだ。

まずは手紙を仕上げようとペンを持ち上げた時、ふと思いついたことがあった。

2通はひとまず横に置いて、

――決して、現実逃避ではない、と自分に言い聞かせる

シルヴィへの手紙を書き上げた。

彼女への手紙は、どこで書くことを諦めるかが難しいところだ。

手紙は便せん4枚までといつも自分に決めていた。もちろんできる限り小さな字で書く。

あっという間に書き上げて、転移させた。

この距離なら、ハリーの石を頼りにしなくても、彼女に贈ったイヤリングを目印に転移させられる。

近い距離を思い出しもどかしさが募ったが、何とか残りの2通を仕上げて、まだ僕と視線を合わせないトレントに転移してもらった。

チャーリーは丹念に剣の手入れを続けていた。


日も暮れ始め、村長宅で様々な食材をふんだんに使った恐らくこの村では年に一度のご馳走を頂き、夜を迎えた。

村長とトレントは酔いつぶれていた。


「少し、外の空気を浴びてくる」


チャーリーに声をかけて村長の家から出た。

攻撃を警戒し、村に人通りはもう全く見られない。有難いことだ。櫓への攻撃だけに注力できる。

僕は櫓に向かって歩き出した。

途端、背後から声がかかった。


「若様、忘れ物がございます」


チャーリーは剣を差し出しながら立っていた。


「全く気配に気が付かなかった」

「それでは、王都に戻りましたら、気配を察知する訓練をしましょう」

「そのような訓練があるのか?」


チャーリーは紛うことない怒りを滲ませた。

「まさか誤魔化されると思っていませんよね」

溜息を吐いて肩を竦めた。訓練に興味があったのは本当だったのだが。

「櫓を越えてこないか見回るだけだ」

「若様―、

「「『いかなる場合でも抜刀させるな』」」

チャーリーは肩を竦めた。

「それでしたら、我々こそ見回りに行きましょう」

いつの間にか、アンディとトレントが出てきていた。トレントは酔いが抜けていないらしく赤ら顔だ。

「トレントさん、村長が付いてこないように見張っていて下さい」

「もう酔いは抜けています!これは興奮から赤いのです!」

もう夜の闇は濃く、言い張るトレントを説得する時間的余裕もなく、僕は諦めて見回りに向かった。

トレントはずっと「酔いではないのです、信じて下さい」と言い続け、アンディに肩を叩かれていた。


櫓はまだ破壊されていなかった。

しかし、対岸から何かしらの準備をしている音が聞こえる。

僕はアンディに振り返った。

「結界は張れますか?」

「それが、私では櫓の高さまでの結界は張れないのです」

確かに背丈は優に超えている高さだ。

「塀の方には結界は張れますか?」

アンディは声をしぼませた。

「それが、この長さだと上手く全体を結界では覆えなかったのです」

なるほど。城壁を思わせる長さだ。無理もない。

念のため、トレントを見た。首と手を激しく振っている。


ならば、来た攻撃を返すのみだ。

向こうももう限界を迎えつつあるだろう。

まるで僕の考えを読んだかのように、空気を切り裂く音がした。

咄嗟に音に向けて氷の攻撃を放った。

当たったようだが、上手く落とせたのか闇で確認できない。明かりを灯せば格好の標的になる。

向こうは何発まで用意しているのだろう。

対岸からまた音が聞こえ始めた。

この闇で攻撃を上手く跳ね返し続けるのは難しい。対岸まで打ち返して被害が出るのは絶対に避けなければならない。

――『いかなる場合でも抜刀させるな』

いかなる場合も被害を出してはならない。

僕は歯を噛み締めて、櫓が攻撃を受けるのを見ていた。



お読み下さりありがとうございました。2019年初めの投稿です。今年もよろしくお願いいたします。

続きの投稿に随分と間隔が空いてしまいました。そして、まだ続きます。

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