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その日1

お立ち寄り下さった方、ブックマークを付けて下さった方、いつも心より有難く思っております。

申し訳ございません、今回、一部に残酷な描写が含まれています。お嫌いな方は****に挟まれている部分を飛ばしてお読み下さい。

このようなことになりましたことを誠に申し訳なく思っております。お詫びの気持ちとして、9/22の活動報告、もしくは活動報告コメント欄にこぼれ話を上げる予定です。お詫びにお手数をおかけするのは本末転倒でございますが、そちらにもお立ち寄りいただければ有難く存じ上げます。

「セディも、王宮通いには慣れてきたようだね。」


 殿下と学ぶようになって半年も過ぎたころのお茶の時間、殿下がにやりと笑いながらおっしゃった。

 相変わらず、殿下は並々ならぬ集中をしてまず自分からお茶を飲む。


「うん、今日も美味しい。」


「そうですか、よいことです。」


 僕は上の空で相槌を打った。視線がお茶の横のお皿から外せられない。

 

 なぜ、あるんだ?あれから一度も出ていなかったのに!


 お皿にはフルーツケーキが乗せられていた。フルーツが前回よりもたっぷり入っていて、見ているだけで甘さが伝わってくる。「これ」にも慣れろという意図なのだろうか。

 思わず殿下を見ると、やはり既にケーキを味わっている。

 この後、いつも通り、僕にもようやく勧めてくるのだろう。それまでに覚悟を決めなくては。

 ライザ殿は僕を見て笑っていないか、さりげなく彼女へ視線をやった。

 彼女は笑ってはいなかった。

 彼女の顔は普通ではなかった。いつもの温かい笑顔があるような、泣きそうな叫びそうな強張ったものだった。

 

 瞬間、僕は立ちあがりながら殿下を振り返った


 ガシャン!


 何もかもが一瞬で起こり、そしてとてもゆっくりに感じた。

********************************************************************************







 殿下は飲んでいたカップを落とし、血を吐き出した。

 ライザ殿は握りしめた手を口に当て、何かを飲み、その途端、目からも口からも血を流し倒れこんだ。

 殿下の衣服の下から、銀色の光があふれ、何かが割れる音がし光は止んだ。

 あの色はハリーの魔力だ。

 あの波動はシルヴィがけがを治してくれる時に出るものだ。

 ハリーの治癒魔法が発動したんだ…!

 それでも、殿下はまだ血を吐いて、床に倒れこんだ。

 僕は震えながらドアに飛びつき、護衛に医師を呼ぶように叫んだ。


 ようやく殿下に駆け寄ると、

「触るな…、毒が、つく…」


新たな血を吐きながら、殿下が言う。



*******************************************************************************







「バカっ!」


思わず怒鳴った。

頭の中に浮かんだ応急処置は二つ。毒を吐き出させること、水を飲ませて薄めること。

殿下は吐けるものは既に吐き出している。水は、毒が含まれているかもしれない。

背中をさするぐらいしか、思いつかなかった。さする手が震えていた。

殿下の喘鳴が部屋に響く。

医師はいつ来るんだ!

あまりにも自分のできることがなく、歯噛みしたい思いだった。


部屋の空気が急に重くなり、銀色の光の玉が浮かんだと思ったら、ハリーが現れた。


「殿下が!」


「分かっている。」


ハリーは殿下に触れ、眉を顰め両手をかざし、殿下に光をまとわらせた。

殿下の喘鳴が少し和らいだ。

治ったのか?


「一時的に感覚を遮断しただけだ。苦痛を感じていないだけだ。」


ハリーは殿下を抱きかかえ、誰の目にも絶命が明らかなライザ殿に近寄り、彼女の手から小さな瓶を浮かび上がらせた。中に少し液体が残っている。

ようやく到着した医師の前まで瓶を移動させ、医師はあわてて受け取った。


「その薬が使われた。調べよ。」


医師はうなずき、また部屋から飛び出していった。

ハリーは殿下を寝室へと運んで行った。

僕は根が生えたようにそこから動けず、ハリーの背中を見送っていた。

やがて戻ってきたハリーが、驚くほど優しい手つきで僕の涙をぬぐい、すべてを貫き通す澄んだ瞳で僕をのぞき込んだ。


「お前にとてもつらいことがあったのは、わかっている。」

 身体に染み込むような深い声に、また涙があふれる。

 ハリーは、再び涙をぬぐってくれながら続けた。


「だが、詳しいことを知ることが必要だ。話してくれ。」


 頷いた途端、部屋の空気がまた重くなり、陛下と、宰相、―父上、が現れた。

 二人は青ざめ硬い表情だったが、驚きは見せていなかった。

 僕は、3人にお茶の話をした。


 そして、話しながらようやく気が付いたのだ。

 どうして、殿下はいつも並々ならぬ集中をして味わってから、僕に勧めたのか。

 殿下はあろうことか毒見をしていたのだ。

 悔しくて泣きそうだ。

 昔、毒見役が死んだことがあったらしい。そのことを殿下は思い詰め、断固として毒見役を拒否していたと、今更、聞かされた。

 どうして、今日はフルーツケーキが出たのか。

 殿下がケーキを食べた直後は反応が出なかったことから、恐らく、毒は水分を含むと作用するものだった。

 ライザ殿は殿下が先にケーキを食べることを知っていた。

 僕がフルーツケーキを食べるまでには時間がかかるのも予想していた。先に食べた殿下が反応を示し、僕が食べない可能性が高いことも分かっていた。

 ライザ殿は僕を巻き込まないために、フルーツケーキを出させたのだ。

 

 あまりの不甲斐なさに吐きそうだった。

 

 結局、3人に伝えられたことは、ライザ殿が実行犯だという分かり切ったことだけだった。


お読みくださり、ありがとうございました。残酷な描写の件、重ねてお詫び申し上げます。

9/22 10:50ごろ、活動報告をいたしました。お詫びの形としてこぼれ話を上げております。

お立ち寄り下されば幸いです。

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