第7話 違和感
目を開けると、また真っ白い空間だった。
どこからともなく声が聞こえる。
『なかなか楽しんでるようじゃないか。どうだい?英雄になった気分は?』
英雄?なんのこっちゃ
ってかまたこの空間か、って事は俺殴られて死んだの?
『いいや、死んでないよ。気絶しただけさ。それよりどうだい?英雄になった気分は?』
いやだかが英雄って何のことだよ!
俺一方的に殴られて気絶しただけなんだけど!?
『どうだい?英雄になった気分は?』
無限ループ怖いです!!
ああ、もうはっきり言ってやろう!!なんのことだかわかんねぇよ!
『武神の加護を受けた異動者からの攻撃を受けて生き残り、なんの加護ももたない身で、まぁほぼほぼ人任せだがCランクモンスターを倒す。それを英雄と言わずなんていうのかな?』
はっ?いや俺にはお前からもらった魔獣使いとストレージがあるだろ?
『・・・まぁいいさ』
おい!!一方的にいって帰るな!!
俺の言葉は届かず、また視界がブラックアウトして・・・
「・・・あ、気が付いた」
「いってぇ・・・」
目を開けると知らない天井だった。何気に異世界にきて初めての天井だったりもする。
そうだ、俺たしか浴場でぶん殴られて・・・顎にアッパー食らったのか
起き上がると、蒲団の裾に俺を殴った女の子がいた。長いプラチナブロンドの髪をツインテールに纏めて、旅館の備え付けの浴衣を着たその女の子はこっちを不機嫌そうに眺めていた。
倒れる前の光景がフラッシュバックしてちょっとだけ顔が熱くなる。
「ちょっと、変なこと思い出してるんじゃないんでしょうね!?」
弓子にめっちゃ睨まれた。
◇
気が付いたのがわかったのか部屋に入ってきた弓子を交えて三人でテーブルを囲んだ。
情報交換と自己紹介目的だが、ひとりだけ明らかに機嫌が悪い。
どうやら人に鉢合わせないように深夜に入っていたらしく、必死に事故だ。悪気はなかった。と説明し、土下座して謝るところから会は始まった。
とりあえず許してくれたのかまずは自己紹介という流れになる。
「わたしは佐々木・恋亜。あなたと同じ異動者。ちなみに15歳」
「篠間弓子、年は16歳ね。《天核》も異動者だったのね!よろしくね」
「弓子?なるほどあなたが《鎧通し》のFランクハンター、あえて光栄」
あれなんかキャラが違う。俺の事殴った時はもっと感情的だったのに・・・
冒険者トークのようなものなのか、お互いの異名みたいなのを言い合うと固い握手を交わしていた。恋亜が《天核》、弓子が《鎧通し》と異名がついているようだ。
弓子は鎧通しなんて二つ名ついてるのか。視線を送ると、まるで必殺技の練習が親にばれたみたいな顔をしていた。恥ずかしそうな反応をする弓子から、元中二病患者の匂いがすごくする。
「そこの私の全力攻撃を食らって生きてる人は?」
佐々木が俺の方を見て不機嫌そうな顔をしている。後で謝ろうと思ったが、全力で殴られたと知ってちょっと怖くなった。ってか全力パンチだったのか・・・そりゃ意識も失うわ。一瞬死ぬかと思った。
あとコイツ絶対キャラ作ってる。15歳だとまだ中二病真っ盛りだろそうなんだろ。
俺は大人の対応を心がけて紳士的に答える。
「えーと、山本恭弥。弓子と同じく異動者だ。こっちのスライムは俺の使い魔のメルカ、よろしくな佐々木。あ、年は23だ」
『友好個体と認定。よろしくお願いいたします』
「「えっ23歳!!?嘘っ?!!」」
おい、恋亜さん、キャラがぶれてるぞ
なんだよ、そんなに変か?そこまで童顔では無かった筈なんだけどな。
怪訝な顔をするとおもむろに弓子が携帯を取り出して俺の顔の写真を撮った。
そこには16歳くらいの時の顔立ちの俺が写っていた
「は?え?なんで・・・?」
なんで今まで気づかなかった?改めて自分の体を見直してみる。体格も身長も23の頃の身長ではないのに今までまったく違和感がなかった。自分の身に何が起きているのかわからなくて急激に気持ち悪くなる。
悪神の声が頭の中でリフレインしたような気がした。
◇
翌朝、とりあえずいろいろ調べるのにギルドに行こうという話になると、恋亜もギルドについてくるという事で三人で宿を出た。あのあと自分の体に起きた異変を、恋亜のスキル【AR鑑定】で調べてもらっても特段おかしなところはなく、徐々に違和感も気持ち悪さも薄れていってしまった。AR鑑定は、調べたい対象を視界に入れると、自動的にAR表示で対象物の名前、能力が表示される能力の事で、俺と弓子を異動者だと知ったのもその能力のおかげらしい。
「そういえばさ。佐々木の他の能力ってなんなの?」
「戦闘系の能力。戦闘能力向上」
こいつも戦闘系の能力か。羨ましいなぁ・・・俺も早いところ武器を調達いないといけない。
槍は壊されちゃったし。出来ることならモンスターに近寄りたくない。遠距離攻撃の武器は異世界だとなかなか手に入らないだろうしなぁ。弓子に教わって弓でも覚えるべきだろうか・・・
「なぁこの辺でさ、武器屋とかないかな?俺のっていうかメルカの能力なんだけど、防御一辺倒でさ攻撃手段が皆無なんだよね」
「それならいい場所あるわよ。鍛冶神の加護をもってる異動者がやってるお店」
「うん。オススメ。白銀工房」
白銀工房って名前なのか後で行ってみよう・・・
その前にギルドだな。