第五話 ベイルーシャ国境城壁
いつのまにか100人にも読んで貰えたんですね。ありがとうございます。
楽しんでもらえればうれしいです
「改めて、篠間弓子。あなたと同じ日本人よ。よろしくねキョウヤ」
両手の指に串焼きを挟んでレッツパーリーしながらその女の子は自己紹介をした。
うん、この子はあれだ。美人なのに残念なパターンの子だ。
俺は、果物を鞄から出しながらまた妙な事に巻き込まれたもんだとため息を吐いた。
◇
弓子を一目見るなり興味なさそうにさっさと寝息を立てて眠ってしまったベルナをよそに、俺は弓子との認識や知識のすり合わせを行っていた。弓子も環七での事故に巻き込まれてこの世界に転移したらしい。
俺との最大の違いは、転移の際にあった神様が悪神ではなく弓と狩猟の女神様だった事だ。
弓道一筋16年必死に弓に打ち込んできた彼女が不運な事故で命を落とすのが絶えられなかったらしい。
女神さまはみてるとかどこのマンガのタイトルですか?
こちとら使えない能力とちょっと便利なアプリだぞ。俺も戦闘系の能力が欲しかった!!
まぁ実際貰ったところで使えるはずもないんだけどな。
「で、このケータイに能力と自分のスペックを登録してくれたのよ。だいたい3ヶ月くらい前かな?」
「え、そんな前からこっちに来てたの?生活どうしてたんだよ?」
「冒険者よ。幸い戦闘系の能力だったし、武器には困らなかったからね」
戦闘系の能力ってだけで羨ましい。俺にはメルカがいるから防御には困らないが、数日前に攻撃手段がなくて大変な目にあったばかりだ。路銀を稼ぐなら冒険者を目指すのだろうが、まずは攻撃手段を考えないといけない。ベイルーシャについたらいろいろ調べないといけないな。
「あなたは?どんな能力を神様に貰ったの?いつこっちにきたの?」
「こっちに来たのは三日前だ。大した能力じゃないから教えるのは別にいいけど、教える代わりにそっちも教えろよ?」
「まぁ別に構わないわよ。お互い他言無用にしましょう。ちょっと待っててね?いま準備をするから」
弓子がポケットから小さめな紙を取り出して俺との間に置く。
「強制」
何かの呪文だったのだろうか?紙に火をつけると、一瞬で燃え上がり緑の光を放った。
不思議そうな顔をしていたら説明してくれた。
「相手の了承がないと相手の能力を他人に明かせないルールを魔法具でかけたの。これで安心ね」
「魔法具なんてあるのね。」
ひさびさのファンタジーにちょっと心躍る。
「私の能力は三つよ。順番に行くわね。一つ目は弓を出す能力」
弓子が空中に手を伸ばして携帯の1を押す。さっきの穂先がついた弓が出てきた。
戦国時代の槍がついた弓、はずゆみだ。
「弓の種類はいろいろ選べるわ。バリスタなんかも出せるから大型の魔物を倒すのも楽ね」
「戦闘能力高そうな能力で羨ましいっすネ」
「二番目の能力は矢を作り出す能力。鏃も種類を選べるからこっちも重宝してるわね」
むむむ、マジで羨ましい。俺からしたらチート能力じゃないか!!
こうなると三つめの能力も強いんだろうな・・・マジであの悪神ぶっころしてやろうか。
「三つめの能力は?」
「あ、聞いちゃう?これがさぁ、使いどころがない能力なのよ。弓と鏃に魔法を込めれる能力」
え?めっちゃ強いやん。とりあえず分解魔法があるのはベルナの口から聞いてるし、当たった瞬間に分解ー!!とか出来るんじゃないの?
「この三か月で覚えた私が使える魔法は、身体強化魔法の身体強化魔法の初級とすんごい簡単な火魔法だけ。それこそライタークラスの火を起こせるくらいね」
「え?」
「というか日本から異動してきた人は魔法の才能ないみたいなのよ。だから三つめの能力は死にスキルなのよ。大体火魔法の矢って火矢でいいじゃない」
え、じゃあ俺も魔法は使えないのか。ちょっと残念。
まじか、メルカに守ってもらって安全に魔法を放つって計画が・・・
やっぱり槍か何か買わなきゃダメか・・・
◇
その後、俺の能力を説明すると、魔獣使いの処で大笑いされ(イラッとしたので串焼きに塩ぶっかけてやった)アプリ、特にアイテムストレージで羨まがられた。アイテムストレージあたりは標準対応ではないらしく、ブラウニーバックも高級品の為この世界ではアイテム運搬が大変のようでアイテムストレージを使った卸売りとか行商人をしたら?と勧められた。異世界に来てまで通運業とか勘弁願いたい。
スマホを見せると初めて触るみたいな反応をして、ふぉわぁとか言ってた。
今時珍しい女子高生もいたもんだ。
弓子は元の世界に戻る手段を探しているらしく、ベイルーシャまで一緒についていくことになった。
妖精郷のマントを出して包まると弓子も自分のマントに包まって眠るところだった。
明日はさっさとベイルーシャまで行こう。
大きなあくびをして眠りについた。
◇
翌朝三人でベイルーシャまで歩いていく。
あと5キロの地点で、ベルナの迎えの騎士団が来た。
どうやら野営していたところを見た人が親切にもベルナの家に連絡してくれたらしい。
迎えの馬車に一緒に乗り込もうとすると止められる。どうも冒険者と貴族が一緒に相乗りするのは世間体がよろしくないとのこと。
弓子はかなりむっとしていたが、そんなもんかと割り切って先に行って褒美を用意しておけとベルナに笑いかけた。
「お屋敷で待ってるわ。これをお持ちなさい。」
ベルナから家紋入りのメダルを渡される。どうやら通行証の証らしい
ベルナを見送って、弓子とのんびり歩いていく。
「あれがベイルーシャ国境城壁ね」
「おお、でけぇ・・・」
高さ15メートルはあるだろうか。巨大な石造りの城壁が左側の山の麓まで続いている。
ところどころには防衛用のための兵器がおかれ、ここが国境の国門で、有事の際には前線にだってなりうることを物語っていた。昔、テレビでみた中国の万里の長城のようなスケールの大きさにただただ圧倒される。
巨大は正義!!
城壁の割に小さ目な門をみて弓子が不吉なことをつぶやく。
「やっと帰ってきたわ・・・何事もなくついたわね」
「おいやめろ。そういうのをフラグって言うんだ」
全く縁起でもない。まぁそうそうそんなトラブルなんて・・・
「おい大変だ!!鉱床ゴリラだ!!」
「早く城門へ入るんだ!!」
「おい、あんたらもさっさと逃げろ!!」
後ろから悲鳴が聞こえ、振り向くと高さ10メートルはある岩と金属でできたゴリラがドラミングをしていた。荷馬が握りつぶされてるのが見える。
足元でひぃいと悲鳴を上げた痩せ型の男の人が次の瞬間に踏みつぶされた。
「・・・あれってさ、よくでるもんなの?」
「出るわけないでしょ!!?あれはCランク相当モンスター、私たちじゃ敵わないわ!!早く城門が閉まる前にベイルーシャへ行くわよっ」
慌てて城門へとダッシュで向かう。ガンガンガンと鳴り響く銅鑼の音にまじって悲鳴や断末魔の叫びが聞こえる。後500メートルってところで城門が閉まる。前を行く人が城門をたたいて開けろーと騒いでいた。
とっさに周りを見渡す。城壁以外には何もなかった。
非常にまずい。身を隠すところがない!!
「おい、Cランクモンスターって倒せないのか!」
「あんなのソロで倒せるのは《ベルダルの勇者》か、《天核》くらいよ!!」
言ってみただけなんだけど、アレをソロで倒せるやつが居るのか、すごいな。
「城壁沿いじゃ逃げ場がない。山側に逃げよう!!」
グルオォォン!!
鉱床ゴリラがよりにもよってこっちに向かってくる。
ドシンドシンと足跡が響いたと思ったら飛び上がって・・・
両手を思いっきりたたきつけてきた。
「メルカ!!!!」
『球状防御展開。少し跳ねますのでお気を付けくださいマスター』
俺は素早く弓子を抱き寄せる、きゃぁと悲鳴が聞こえるが構ってられない。
メルカが球状に俺達を包んだあとすぐにふわっとした浮遊感と落下感に見舞われる。どうやら吹き飛ばされた後無事に着地できたらしい。抱き寄せていた弓子を見ると顔を真っ赤にしていた。抱き寄せたのが恥ずかしかったみたいだ。
「とりあえずは安全だけど、この状態がいつまで持つか・・・」
「こうなると、倒されるの待つしかないでしょうけど、しばらく無理そうね」
「え?あの城壁についていた兵器とか使えないの?」
「投石砲の事ね。すぐには無理よ。石を打ち出す加速魔法を使える魔術師も、石を作る土魔術師もどっちもベイル山脈の魔術院にいるもの。どう考えたってここに来るのに3日はかかるわね」
「弱点がわかればなー。倒せるのかもしれないけど」
あの巨体が重力下でなんで動けるんだとか気にしても仕方ないとして、石でできたゴリラじゃ槍も剣も弓もささりはしないだろう。元居た世界の銃でさえまともにダメージを与えられない気がする。
それこそ戦車とかロケットランチャーとかがないと無理そうだ。
「へ?」
「え?」
「あぁ、そうよね。こっち来たばっかだものね。鉱床ゴリラに関わらずゴーレム系のモンスターは魔石核かゴーレム文字が弱点よ?」
え、あいつゴーレムだったの!?
ってか弱点があるのか!!
「天然のゴーレムなら魔石核、人工的なゴーレムなら魔石核かEMETHのEを壊せば死ぬわ」
「ならなんとかなるんじゃないか?こう、なんとかそこだけ狙って壊せない?」
「素材が普通のゴーレムならね。鉱床ゴーレムは全身が金属で普通に攻撃が通らないわ。いや、通る攻撃もあるんだけどね、超ド級の質量攻撃とかなら。私の能力なら攻城弓とか大床弩とか出せるんだし・・・」
「ならそれで狙えば・・・」
「無理よ。タメが長くて連射が出来ないし、そもそも相手が動くもの」
あー。そうだよね。相手動きますものね。
動く敵にあてるってのは思ったよりも難しい。大学の時にお試しで入ったサバゲサークルで俺はそれを知っていた。結局動いている敵にあてるには手数と狙いを・・・待って・・・待つ・・・待つ?
「待ちエイムだ」
「へ?」
「あいつがこっちの射線上に入った瞬間を狙う。ああ、待て待てそもそも魔石核の場所は同じなのか?」
「心臓の処よ」
「よかった。なら大体で標準をつけて相手がこっちの狙いに入った瞬間を狙うのはどうかな?」
「悪くはないけどまず私たちがどっちを向いてるか把握しないといけないわね」
まさか防御を解く気?とけげんな顔をする弓子にスマホを見せる。
「それなら心配ないよ。メルカ、探索モードを使ってくれ。一匹でいいから、ゴリラの方向を教えてほしいんだ。」
『オーダー承認。探索個体を敵個体に取り付けます。球状を維持したまま探索展開』
よし、これでマップとリンクさせればゴリラの方向が分かる
スマホのアプリマップを開く。赤い点がすごい速さで直線的に移動して・・・ある地点で変則的になった。城壁に向かって細かく移動している。体当たりでもしてるかのようだ。
『心臓近くまで登らせます。マップを3Dモードに切り替えることを推奨します。マップをタップしてください』
俺はメルカに言われるままマップを触る。
赤い点が三次元表記される。距離や高さもばっちりだが射軸があってない。
「射軸くらいなら、任せなさい。こう見えても数学と物理だけは得意なのよ私」
弓子がふふんと笑うとガラケーを操作してクロスボウを取り出した。どや顔で地面におくと狙いよーしとご機嫌そうだ。いや全然狙いよしじゃないからね!?
「おい、クロスボウじゃ無理だろ?」
「黙ってみてなさい。ここからなんだから!メルカ、ちょっと中で大きくなるわよ?」
『了承。「ひぎいらめえ」と呟きます。サイズ変更をクロスボウの割合に比例』
「サイテー!!アンタなんてもの覚えさせてんのよ!!」
ちょっお前どこで覚えたそんなの。あ、俺の本か。そいやエロ本も入ってたっけあの鞄
「ちょちょいとな」
弓子が携帯のボタンを操作するとクロスボウが巨大化する。漫画で見た兵器に似てるな。
確か・・・
「攻城弩か。初めて見た」
「撃つのは携帯のボタンで出来るから、タイミング勝負ね」
『狙撃タイミングに合わせて球状形態を解除します。狙撃時に掛け声をください』
「おっけーカウントするわ。ヤマモト!スマホ持ってて!!前にいられると邪魔だから後ろからね」
メルカさんが有能すぎてつらい。俺いいとこないなーとか思いながらスマホを両手で弓子の目の前で固定する。後ろから両手を伸ばして気分は小学生のころにやったキャノン砲ごっこだ。
うーんこれどうみても犯罪だよね?23歳が女子高生(仮)と密着とか・・・
弓子が画面を真剣に見つめる。
ゴリラは城門になんどか体当たりをしていたようで、小刻みに点が横に動いていた。
「こいつタックルしかしてない。人工のゴーレムね。城壁を壊すつもりかしら?動きが単調なのは有難いわ」
「狙えそう?」
「上下左右の微調整くらいなら携帯の十字キーで出来るのよ。すごくゆっくりだけどね」
携帯で高さを調整する。確かに微妙にラグがあるらしい。動いているものを狙えなくても待ちエイムするにはもってこいだ
「3・・・2・・1・・0ッ!!」
バシュッとしか音を認識できなかった。メルカが球状を解いた瞬間に撃った巨大矢は、まっすぐと狙いに向けて飛んで行って
吸い込まれるように、ゴリラの胸部分を脇腹から串刺しにした。
グルァアアアアアン
巨大な叫び声をあげながら、鉱床ゴリラは地面にその巨体を横たえたのだった。
「「倒せた!?」」
おもったよりうまくいってびっくりだよ!