第4話 貨幣価値とコッカ
夜もあけてベルナを起こして出発する。
どうも俺たちが野宿していた場所は野営のメジャースポットだったらしく、木の反対側から何組かの旅人が旅支度をしているのが見えた。
「旅のお兄さんたち。コッカの串焼きはどうだい?美味いよ!一本鉄貨1枚さ!」
歩いていると後ろから四足のダチョウみたいなのに乗った行商人が声をかけてきた。野宿している旅人相手にご飯を売っているらしい。
コッカってそもそも何さ?って顔をしていたのを察したのかフラスコからメルカが触手を伸ばして耳打ちしてくれた。
『マスター、コッカというのは大型の鳥類です。朝にコケコッコーと鳴き、卵を産みます』
いや、それって鶏じゃん。つまり焼き鳥ってことか。むむ、買いたいけど路銀が無いんだよね。
でも正直パンと干し肉に飽きてきたとこだし食べたい。
「ベルナはお金もってない?」
「鎧に財布ごと縫い付けていたんですのよ。私の路銀もどこかの誰かさんが粉みじんにしてくれましたわ」
「あっちゃー文無し?時間無駄にしたかな」
恨めしそうにこっちを睨んでくる。粉みじんにしてないです、話すタイミングがないだけで鎧は無事です。
ん?ということは鎧にはお金が付いているって事か。
鞄の中でスマホを操作する。ストレージの鎧をタッチして触ると、アイテム欄に財布が表示された。
財布を鞄経由で取り出す。
「ごめん、返すタイミングなくてさ」
「いろいろ言いたい事はありますけど。お嬢さんコッカの串焼きあるだけくださいな」
「ごめんまじごめん。あと奢ってください」
「報酬から天引き・・・言いませんから安心しなさい。昨日のパンと干し肉分でチャラですわ」
「まいど、50本くらいあるけど大丈夫かい?」
「彼はカバン持ちですから。大丈夫ですわ」
ベルナが5枚銀貨を渡すのを待ってから行商人からコッカを受け取ると、持ちきれない分はストレージにしまった。
いい機会だからこっちの通貨を行商人に教えてもらう。
すごくバカにされながらも話を聞くと、幸いなことに10枚単位で貨幣が変わるとのこと。
焼き鳥一本が鉄貨幣1枚って事はだいたい100円だとして
青銅貨が1円
銅貨が10円
鉄貨が100円
銀貨が1000円
金貨が10000円
大金貨が100000円
この上に白金貨や真銀貨、神金貨がくるんだとか。
めったに使われるものでもないらしく、下町なんかで出してもお釣りが出せないからお断りされるとのことだった。
行商人に別れを言って歩き出すと、すごい速さで四足ダチョウがかけていった。
◇
暫く歩いていくとまた大きな木が見えてくる。
どうやら定期的に休憩を取るスポットみたいになってるらしい。
木陰の下には出店が並んでいた。果物屋やパン屋、薬草売り
どうやらさっきのコッカ売りの行商人に話を聞いたらしく、こっちに群がってきた。
ベルナが果物を大人買いしてはまた俺の鞄に詰め込む。うちもうちもと売り込んでくる。
俺のパンは鞄に十分にあるとの意見は聞いてもらえず、パンと薬草も全部大人買いした。
返したサイフもブラウニーバックの一種だったらしく、大きさの割にお金が出るわ出るわどこに詰まっていたのだろうと思うくらい出てきた。まるで打ち出の小づちみたいだ。
俺は報酬の前渡し分だけ貰い、武器屋台で短めの初心者ようの槍を購入した。
メルカの防御力や信用してるんだけどね。攻撃手段がないとさ。
「これで安全に旅ができるな!」
「どうかしら?初心者が持つ武器ほど危ないものはないと思いますけど?」
うるさいな。俺はこの槍に名前を付けるほど気に入ってるんだ!
多少ケチがついたけど、俺達は満足げにその場を後にした
◇
巨大な木から野営をしながらまた一日歩くと、次の日の夕暮れには野営スポットに出る。そこで休もうかと思うと、どうにもガラの悪そうなのがたむろしてた。内訳は世紀末スタイルの盗賊みたいな風貌のおっさん×5
めっちゃこっち睨んでくる。うんこずわりしてる。
うん、絡まれるのが目に見えるネ。すげぇめんどくさそうだネ。
視線をスルーして、そこから暫く歩いたところに生えている木の下で休むことにした。
暫くすると野営スポットの方から騒ぎ声が聞こえる。どうやら悲鳴のようだ。
うん、場所変えて正解だったネ!
「あともうちょっとですわね。報酬は決めまして?」
「いや、護衛依頼の相場が分からないからまだ決めてないな。あと一日ってとこか」
「ええ、このペースなら明日の昼には着きますわ。」
「こっちには槍があるし、安全にいけそうだな。何事もな・・・・く?」
槍を掲げて眺めていた時だった。ヒュンって音がしたかと思うと折れる音がして槍の先端部分が消えた。
えっ!?何が起きたの!?魔物への襲撃!?
『弓による狙撃を確認。狙撃対象は槍を狙ったものと思われます。防御展開しますか?』
おいいいいいメルカァああああああ!!何をのんきに言っとるんじゃあああああ
思わず荒ぶる。
-カツ、カツ
闇の向こうから足音が聞こえる。
薪の灯りの中に現れたのは女の子だった。
高校生ぐらいのその子は、茶色い髪をボブに纏めて、弓道着の上から朱色のマントを羽織っていた。顔立ちも整っているその子の目は殺気にまみれていたがマントを外して、首から古いガラケーをさげているところだけを見たら完全に弓道部の美人女子高生だろう
手に先に槍の穂先が付いた弓と、矢じりが付いた矢を持っていなければ-
「やっと、みつけた。貴方ヤマモトキョウヤよね?」
「えっと、君は?」
「あんたに食い物を独占された恨みここで晴らす!」
弓に矢を番えてこっちを向くその子は明らかに瞳にさっきよりも殺気を込めていた。
ちょっ!!状況がわからないまま殺されるのは嫌だっ!!
引き絞られた弦が緩んで・・・・・・
ドサッ!!
矢は俺を射抜く前に弦から外れて地面に落ちた
一緒に非常な大きなお腹の音を立てて女の子も崩れ落ちた。
「へっ!?」
「うぅ、ご飯、ください・・・・」
えぇっと、とりあえずコッカでいいですか?