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妖精カフェ  作者: 星村直樹
魔王の巫女
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ゴールデンウイークは竜宮城へ

間野服飾専門学校、2A教室


 私とあゆは、精霊界で旅行をしようと計画していた。もう直ぐ、ゴールデンウィーク。バイトもするけど、3日ぐらいは、羽を伸ばしたい。行先は、竜宮!


「三日間もじゃあ、シップウにシュラの実をいっぱいあげないと無理よ」


「だから、一日は、シュラの実をいっぱい採りに行くのよ。確かにバイトを1日休むことになるけど、シュラの実を集めれば殆ど旅費がただよ、タダ」


「1日じゃないでしょ。旅行と合わせてで、4日休むってことでしょう」


「私たちはよく働いた。よく働いたのよ。4日休んでもマスターは、怒らないわ。それに、他の日を全日出れば、休日の穴埋めになるし。海の中って素敵よー。往復で、丸1日取られちゃうのよ。全部で3日無いと無理」


「そりゃ、アクアの家に遊びに行きたいけど。ウィンディがいないと海の中なんか入れないんじゃない」


「そこは、癒しの水衣の話を出すのよ。妖精の衣制作最難関なのよ。関係者に直接話を聞くしかないじゃない。そうすれば、ウィンディだけじゃなく、マスターもデビットも付いて来てくれるわ」


「最近、千里って悪知恵回ってない」


「ちがーう。物凄く難関だった息吹の蓑衣のご褒美が無いのよー。遊びたい、遊びたい、遊びたい、遊びたい、遊びたい、遊びたい、遊びたい、遊びたい、遊びたい」


「もう、分かった。ゴールデンウィークだし、お父さんに言って旅行していいか聞いてみるね」


「うんうん、じゃあ、アンナにも話してくれるでしょう」


「わたしが?」


「だって、私だと、これから、みんなで座学なのに何言っているのよって言われちゃうじゃない」


「はいはい、一つ貸しだからね」


「ふふーん、これでゴールデンウィークの予定が決まったわ」


 私は、トニーの苦労も知らないで、連休の事で、頭がいっぱいになっていた。


 翌日、水の国行がすんなり決まった。


 トニーもこの旅行の話に賛成だ。本当は、東京で不審な動きがあったから、それを調べるために、私を精霊界に隔離したいというのが本音。でも、マスターもアンナもみんな来てくれるというので、浮かれていた私は、トニー達のことを全く気づけなかった。




「アンナが羽を伸ばすなんて珍しいな」

 シュラの実をたくさんあげていたアンナにシップウがぼやいた。


 アンナは、マスターの為に妖精カフェを出て精霊界を旅したことが無い。マスターは、魔法の怪我の為に3年も療養していた。それが良くなったのだ、これは新婚旅行のようなものではないかと思った。以前イギリスに夫婦で行っているが、結局あれは仕事だった。それにしても、この新婚旅行に、こぶが、こんなにたくさんついているのも珍しい。


「本当ね、初めてよ。よろしくね、シップウ」


「任せろ。これは新婚旅行だろ。それで、あのこぶ達は、何処に捨ててくればいいんだ」


「ちょっと、私たちもっ、シュラの実を集めたのよ」

「そうですわ、里帰りさせてくれるのでしょう」

「ぼくたち頑張ったよね」

「うんうん」


 みんなついて行く気だ。ウィンディが、ここでシップウに口で負けるなと、目で合図してきた。しかし、ということは、アクアやサラやヒイラギの家人やメイドもみんな来るということだ。とんでもない人数になる。


 その、こぶの中に私も入っている。新婚旅行なのに、大半が女ばかり。マスターとデビットと、ガイとグレンを貴賓室に押し込めちゃおう。なんてみんなが言うから、シップウが気を使った。なんせ1泊は、シップウのリュクの中で過ごすことになる。


「女の子が多いから仕方ないわ。向こうで1泊できるから、のんびりできる」


「そうかー、いつでも言ってくれ、その辺に捨てるから」


 実際リュックの一泊は、どこか外でキャンプさせようと言っているだけの話。男がキャンプすることになるんだろうな。


「ひどい」

「人権無視」

「認否竜」

「ええっと」


「ヒイラギは、無理に言わなくてもいいから。シップウ大丈夫よ。癒しの水衣の話以外は、自由行動よ。アンナとマスターの邪魔はしないわ」


「ならいいけど。そうだ、おまえ等は、貝の里から移動しないんだろ。アンナ、1日ぐらい2人で、どこかに行くか?」


「嬉しい。博史さんと相談する」


 アクアが、水の国の観光名所を教えてくれた。

「それなら、グラシアスの港町に行ってみてはいかがです?。風光明媚な港町です。陸に上がった人魚や、甲殻人が住んでいますし、食事がとってもおいしいところですよ」


「竜宮城から近いのかしら?」


「アララテ海からすぐですわ。でも、大きな港町ではないところが魅力です。後ろに高原が迫ってきていますから、大きな町になれないのですが、おかげで、山の幸もそこそこあるので、食事が美味しいのですわ」


「よさそうね。映像アイテムを探してみる」


 アクアの勧めで、アンナが上機嫌になった。


「ラフォーレとシルフも来るの?」


「多分ね。ずっと森の大樹だったでしょう。高原に連れて行きたいわ」

 ラフォーレとシルフは、風のエレメンタル。アンナの使い魔。


 私の提案だったけど、アンナがメインになっちゃった。でも、こう言うのも楽しそう。竜宮城の食事って本当に美味しかったし、あのマナ藻荘園の景色が忘れられない。それに私だって見たいものがある。海には、透明な有機物の器がたくさんある。軽くて丈夫で、弾力性がある宝石の様な食器類だ。アクリルと違って厚みも重みもあったし、触り心地もよかった。私が気に入った器は、少しパール掛かっていた。その器をアクアに見せたら、「これは、ちょっと濁っていますわね。不良品です」と、言われた。つまり、私でも手が届く品物だということだ。パールの食器がほしい。


 私たちが旅行の話で浮かれているとき、トニーは、本国のリチャードから、新たな情報を貰っていた。



 トニーの親友リチャードは、バスク魔法学校で留年中。しかし、後輩たちは、リチャードを同級生としてみていなかった。なぜなら、学校が始まって同級生になったとき、リチャードはすでに、卒業できる実力を持っていたからだ。本人が、闇魔法家で風魔法研究家のクロウ校長やアイテム収集家で光魔法のドリア先生に、死ぬほど鍛えられて、更に実践をやらされているのを目の当たりにしていたからだ。


 そのリチャードから久々にネットテレビ電話をして来た。


「やあ、トニー、一カ月ぶり」

「元気そうでよかったよ」

「元気じゃないよ。後輩が心配してくれるぐらい、毎日過酷な目に合ってる」

「後輩って、今は、同級生だろ。留年したんだから」

「みんな、そう、思ってくれていないと思うな。待遇の違い?過酷な修行の日々を送っているから」

「ははは、ドリア先生にクロウ校長だろ、実践になると鬼だもんな、わかるわかる。それより、良い時に電話をくれたよ。東京で異変が起きているんだ」

「こっちも、魔法使い防衛隊のニコルさんから情報を貰ったから電話したんだけど、先に聞かせてくれよ」


「魔王復活の話は聞いたことがあるか。それをやっている秘密結社が、魔王とコンタクトしようとして、5人も死者を出している。その5人目が、巫女、魔王の巫女と言って絶命したそうだ。その怪しい彼らが巫女を探して多数東京を徘徊している。その本拠地らしいレストランに、今夜、京極さんとサイモンとで行く予定になったんだ」


「魔王?オレの方は反対だ。とても強力な天使が、復活する兆しがあるそうだ。天使は、癒しの力を与えてくれる。ところが、その力を制御できなくて、難病を癒しはするけど、副作用で死んだり、大怪我が治りはするけど一時的で、そこが壊疽したりと、被害報告が入ってきているそうだ。だから、トニーに、気をつけるように言ってくれって言われた」


「天子?ぼくの情報と真逆だね」


「こっちは、その光魔法を使うカルト教団の名前も割れている。光魔法教団。通称レジュメ。レジェンドメイジだそうだ。これの名前を聞いたから気をつけろ」


「そうするよ、こっちも何か情報が入ったら連絡する」


「ところで、ドワーフの国で修業しているジャッキーさんはどうしている。ホグナスが心配しているんだ」


 ホグナスは、先の事件で、火龍王のタマゴを盗んでいたモバイ・カーの下男だった男。今は、ジャッキーに拾われ、相棒の火トカゲのロイと、主人のジャッキーカフェを切り盛りしている。


「土魔法の修行は、順調らしいんだけど、ドワーフって酒飲みだろ。ずいぶん影響させられているって聞いた。隠密性の高い情報屋を目指している割には、ワイルドな性格になっているみたいだって千里が言ってたぞ」


「う~ん、でも、ジャッキーさんだからな。似あっているかも。アハハ、また連絡するよ」


「ホグナスに、よろしくな。また、おいしい紅茶が飲みたいって言っといてくれ」


「言っとくよ、オレ、いつも行っているんだ」



 トニーは、今晩京爺とサイモンを連れて、お台場にあるレストラン「シャンテワール」に行く。今日は、吟遊詩人のボイルにも来てもらう。食事をおごるからというと喜んできてくれた。ボイルには、店と交渉してもらって、ピアノを弾く。ぼくらは、その間、ちょっと敵に仕掛けようという話になった。サイモンが、ほんのちょっと魔力を開放して、敵の気を引くというもので、その交渉窓口がぼくになる。しかし、直接では困るので、吟遊詩人のボイルが仲介役になってくれるという作戦だ。

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