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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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息吹きの蓑衣

 一週間後、妖精カフェ全員とその関係者という大人数で、紅アゲハの異界にやって来た。思った通り、京爺やマスターとサイモンには、紅ガラスの衣は、必要なかった。ヒイラギのお父さん、ノックおじさんと執事のセバスチャンの為に、2着の紅ガラスのローブを作るだけで済んだ。


 アンナに頼んで、クロアゲハの繭を探してもらう。その採取量は、そんなにたくさんないと思う。それに、次の世代のためにいっぱいは取れない。


 6竜とサイモンとの話し合いは、順調に合意していると思う。新しく生まれた命は、その人の人生だ。それは、6竜も一致した考え方だった。


 京爺は、セッパと意気投合。ミコト様とイソバ様の異界で、魂の酒を飲むんだと、盛り上がっていた。それ、私が付き合わないと無理なんだけど。



 私はと言うと、ここで修業していいみたい。そのたびに、いろいろな人が、6竜を表敬訪問する。精霊界の人は、みんな魔法に長けているので、6竜の人が目を丸くしていた。2億5千万年の進歩の差はとても大きいと思ったみたい。そのブランクは仕方ない。


 そのうち、紅アゲハの異界の出入り口をもっと調査して、竜族の通れるところがあったら、その次元門を拡張するつもり。古の知識は、少しでも後世に残したい。でも、超大技は、普通の人では無理。例えば、ホーリーノバを操ることが出来ると思われる水龍王様が、ここに入れないと継承されないと思う。


 とにかく、サイモンの決断で、紅アゲハの異界の話がオープンになる日も近い。ノックおじさんは、オープン反対派。精霊界が平和になるまで急ぐなと言っていた。みんなそれに同意。族長クラスの人にしか、これを話さないことに決まった。



「あったわね黒い繭」

「やった」


「ミコト様とイソバ様の龍眼の大きさが分かるまで、息吹の蓑衣は作らなくていいわよ。ヒイラギの課題は、達成したでいいわ」


「アンナ、魔法を教えてくれるんでしょ」


「そうねえ、ヒイラギだけって言うのだと、面倒だから、みんなに座学を教えようかしら。それなら千里も参加できる」


 アンナの所に、みんな集まった。


 アンナの詠唱呪文は、魔法を深く理解できるだけじゃなく。新たな魔法を想像できる切っ掛けを内包している。これは、人間界では宝の持ち腐れのような知識なのだ。


「千里は、恐竜の異界でしか魔法を練習してはダメよ」


「う~」


「それに千里は、全部、古代語の注釈付きよ。そっちで全部覚えてね」

 恐竜の異界で魔法を使うということはそうなる。


 私の場合、千日草の研究は、エストに頼りっぱなし、妖精の衣制作は、ノーラに頼りっぱなし。それから、龍王城への伝達や擬人化人への伝達は、スミスに頼りっぱなし。私って、お願いしてばっかりだ。アクアは、そんなの当り前ですわと言う。一人で何でもできるわけがない。


 作業場で、赤い絹糸と青い絹糸を紡いでいて分かったんだけど、それぞれの糸を紡いでいる時、私の目の色が違うみたい。ノーラがそう言うのを全部メモしてくれる。映像付きで、後世に残すって言っていた。



 4月の終わりの週 妖精カフェ


 精霊界側は、午後の暇な時間に突入していた。学校の授業を終えて、カウンターに立ってみると、コップ洗いぐらいしかすることが無かった。サラとアクアは、カウンター近くの、いつもの席で、グデーッとしている。


「ウィンディと、ヒイラギは?」


「2階の雑貨店だよ」

「わたくしたちの売り場は、看板だけだったでしょう。ノーラがいてくれるおかげで、反物やハンカチの在庫が増えましたの。1ゴールドで、ハンカチを売る出すことに決まって、限定販売中ですのよ」


「1ゴールドは、高くない?」


「もちろん羽の模様や、四葉のクローバーの刺繍付きだよ。ガラスの糸って色の種類が豊富じゃない。刺繍の種類は、これからかな。千里も何か考えてよ」


 ふーんと思って、二階を見上げてぞっとした。物凄い妖精だかり。ハンカチが飛ぶように売れている最中だった。


「何だか、すごいことになっているわ」


「初日は、妖精限定だって。でも、すぐ売り切れるんじゃないかな」

「あのお客様方が、この後、カフェに降りてくると思いますわ。忙しくなりますわよ。手伝いましょうか?」


「二人に頼んだら、クリスタ先生に、叱られるよ。もう、コーヒー淹れる準備しとこ」


 私が慌てて、喫茶の準備に取り掛かっていたら、ノーマとエストが、勢い込んで、作業場から出てきた。


「息吹きの蓑衣の反物が、完成しました」


「本当に」

「見たい」

 アクアとサラがカウンターにやって来た。


「どうですか、サラ様、アクア様。リバーシブルになっていますか?」


 息吹きの蓑衣は、オーラが見える人でないと、その価値が分からない。見た目は鉄さび色で、やぼったい生地に見える。


「綺麗ですわ」

「成功だね。リバーシブルになってるよ」


 私も見たいけど、準備しないと落ち着かない。


「千里さんも」


 ええい、お客さんが来たら、来たときよ。


「綺麗、肌触りもいいわね。こんな薄い生地で、ミコト様とイソバ様のノイズを封じ込めちゃうんだ」


 触って喜んでいたのもつかの間、そろそろ、二階のお客さんが、下に降りてきた。息吹きの蓑衣は、現在、門外不出。私たちが黙っていれば、何の生地かなんてわからないことだけれど、エストが気を使った。二人は、早々に、作業場に退散する。


 あの人数は、無いわー

「アクアとサラも手伝って。ケーキセットをおごるから」


「いいですわよ」

「任せてよ」


 お客さんは、巡礼ではないのだけれど、最初にカウンターに来て、ターシャとサーシャの絵を見ていく。それを見ながら私は、カフェラテとか、紅茶とか、セットのケーキを準備して、カウンター内に並べていく。蜂蜜は、入れ放題なのが、妖精カフェのサービス。それも準備した。

 あゆが、エストから聞いて、作業場からカフェに出て来てくれた。二階からは、アンナが、カフェを覗いてくれている。サラとアクアがカウンターで手を振っているのを見て、にっこりしていた。


 二階から、ウィンディとヒイラギがやって来た。


「ハンカチは、間違いなく完売よ」

「カフェが、忙しくなりそう」


 妖精4人が揃った。そして4人がパッと注文を取りに散らばった。カウンターの中では、あゆと私。


 妖精カフェの総力全開。お客様のにこやかな顔。楽しそうな笑顔。カフェは、大繁盛になった。

息吹きの蓑衣編は、ここで終了します。黒龍王の龍眼とそれを狙う悪漢の話が回収されていません。この時点で、敵は、黒龍王ではなく聖龍王の龍眼見つけて、問題を起こしだしています。ですが、こっちには、聖龍王様や黒龍王のお妃さまもいらっしゃるので、何とかなるでしょう。力なきものが龍眼を扱ったから、大惨事が起きます。地球側は、正邪入り乱れて大騒動になります。最後は、修行中の千里たちが、解決のカギになるお話は、また今度。

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