サイモンの決断
「『パオ』」
私たちが、紅アゲハの異界に戻ってみると、茂みの外で、ガイとグレンが泡を吹いて倒れていた。主人を心配しない家臣はいない。慌てて、二人を、ここから遠ざけた。
「みんな来てくれてありがとう」
「途中まで、目的地に行っていたのよ。急にノイズが膨らむから心配したのよ」
「私たちもですわ」
「古の恐竜の魂が3万体。おじさま、驚くだろうな」
「良かったね千里。魔法が勉強できそう」
「サイモンが首を縦に振ってくれなかったら、難しんじゃないかな。寝ている人たちを起こすことになるって言ってなかった」
この後、ウィンディたちは世界樹に。私たちは、異界の出口に向かった。アクアが扇子を広げて私の肩にちょこんと座る。さっきの恐竜たちの話を考えているようだった。
異界の端は、穏やかで清々しい。二人を看病しながら私は、サラとおしゃべりして過ごした。恐竜たちの魔力は、火龍王と変わらないという話だった。
「ここを出たら、おじ様にも相談するでしょ」
「あっ、サラ様。さっき天国の光が見えました」
「う~ん」
「二人とも、目を覚ましました?」
「相談は、サラがやってよ。二人には、聞かせられない」
「わかった」
「二人とも、ちょっと待っててね。ウィンディとヒイラギが、世界樹の落ち木と葉っぱを採りに行っているから」
ウィンディとヒイラギが、世界樹の落ち木を3本も拾ってきた。
「落ち木を1本貰っていい?これを京爺のお土産にしたい。ちょっと大変なお願いがあるからね」
「いいよ。1本は、学術会議用。1本余ったね」
「エストに勉強させたい。京爺の話し相手になれるし」
「決まりだね」
アクアは、生命とは、魂とは、そして、魔力とはという考えさせられるテーマを貰って、思考に耽っていた。
「アクア、帰るよ」
アクアは、頷いて、もう一度、紅アゲハの繭がある茂みの方を一瞥して、紅アゲハの異界を後にした。
結局、他の、紅アゲハの次元門を確認できなかった。火龍王様にサラが、今回のことを報告してくれた。サイモンの決断次第で、こちらも対応を考えると言ってくれた。紅蓮洞は、龍王城の支配地域。移住が決まったら、竜人は、ここを出入り口にすることになる。
妖精カフェに帰って、京爺に世界樹の落ち木をお土産にあげた。そして相談。京爺は、腕組みして、難しい顔をした。
「わしは、賛成じゃよ。サイモンに話そう。じゃが、竜人の何人が、次元門を通れることやら。もしそうなっても、街は、ここと向うの二ついるということじゃ。この話は、世界会議の後でええんじゃないか。とりあえず妖精王達には、話さんのじゃろ」
恐竜たちが手放しで喜んでいたから、そこまで考えていなかった。でも、この話は、世界会議の後では、遅いと思う。
「駄目よ、サイモンの首の振り方で、この話がオープンにできるかもしれないのよ」
「師匠、千里君の言う通りです。私も一緒にサイモンの所に行きます」
「そうするかのう。やれやれ、飲み友達が遠くなる」
難しい顔をしていたのは、そこだったんだ!
「善は急げじゃな。今日、酒飲む約束しとった。こっちから出向くか」
「1本持って行きましょう」
「あっ、灘の春」
「なんじゃ」
「あゆが、妖精カフェに来たとき、京爺にって美代さんが、日本酒を持ってきてくれたのね。でもマスターもアンナも、ホムラの捜索でいなくなるから、京爺の歯止めが効かなくなるじゃない。だから大海家の台所に隠したのよ」
「そんな大事なこと忘れるな」
「まあまあ、師匠」
私は、東京側に走った。
「千里が、ミコト様たちから話を聞いたんじゃろ一緒に来い」
そう言われて、引っ張ってもらった。まだ、浮くことしかできないので、森の大樹の中腹まで行こうと思ったら相当大変。一人だと、よじ登る形になる。
行きがけ、アンナが、夕食を持って私も後から行くと言っていた。アンナもターシャが遠くなるのが寂しいのだ。
カタパルト家に行ってちょっと事情を話すと、ターシャが、サーシャとムシキングを呼んでくると言って向かいの家に走った。そして、やって来たサーシャに、アンナが来るまで、話を待ってと言われた。
みんな魔力の器。魂に、前世の記憶が刻まれるという話をすんなり受け入れた。
「それで、どうするサイモン」
「行く。明星様も喜んでくださる。ただ、わしらに、種族の純血主義はないぞ。それでもいいのか」
「多分、光か闇属性で、器の大きなものが生まれればいいだけの事じゃろ。明星様が、こっちで一生を終えることが出来たんじゃ。今のままでいいじゃろ」
「それで、どうなんだい。紅アゲハの異界に入れる者はいるのかい」
「自力だと数人かな。でも、京爺が押せば、1500。擬人化人や有翼人の希望者が、同じぐらいいるとして、3000人は、行けると思うぞ」
「わし、そんなことしたら、死ぬんじゃないか」
「師匠、手伝います」
「里帰りの時も、又、頼むか。千里も、そのうち憶えろ。それで、紅アゲハの異界は、どんな感じだ」
「竜族の町ができるようなところ。ノイズが無かったら、清々しいところよ。世界樹もあるし」
「新天地だな。我が一族も、希望者を募る」デビットも乗り気になった。
サーシャがアンナに、私は残るからと言って安心させていた。
「デビットに、擬人化人の連絡を頼むか。みんな、恐竜たちの器になれる素質があるはづじゃ」
「有翼人もね」と、ターシャ。
宵野明星様は、有翼人と結婚して一生を終え、その血を有翼人に残した。
「蜂族に連絡役を頼むか。少し事情を知っているしな。それで、サイモン。とりあえず、話し合いに行くんだろ」
「ああ、そうだな。 京爺、千里の背中を押すやり方を教えてくれ」
「サイモンならすぐ覚える」
「あなた、後は、食事をしながらでもいいのよね」
「そうしてくれ」
ターシャの一言で、緊張する感じの話し合いは、いったん終わった。京爺とサイモンの酒にマスターも加わることになった。私たちは食事の準備。
アンナが弱音を吐く。
「寂しくなるわ」
「私は自力で、次元門を超えられるようになると思うから、変わらないわよ。サーシャもそうなりなさい」
「飛べるから、近いしね」
「そうっか、そうよね」
アンナ復活。
そこからは、女同士の他愛もない話。私は途中で、京爺たちに捕まった。
「千里聞いたか。サイモンは、向こうに引っ越しても、当分こっちに来てくれるんだと」
「ターシャに連れて来てもらえばいいだけだからな。黒龍王の遺産捜査の現実味もおびたし、重要性が増しただろ」
京爺もアンナと一緒で、復活していた。
「黒龍王の話は、聞いたか?」
「まだよ。お妃さまのイソバ様がいらっしゃるから、詳細に聞けると思う」
「わしも一緒に話を聞こう」
「ミコト様とイソバ様の世界は、魂しか入れないのね。だから、私が、あそこに行ってから、来てね」
「なるほど。普段は、封印をしっかりしとかないといけない」
「千里、悪いんだが。最初は、ローグ隊と一緒に、擬人化人の各種族を回ってくれないか。わしらにとって、千里のビジョンは、覗きやすい。信ぴょう性が増すからな」
「そうする」
京爺とサイモンが、盃をクイッと出すものだから、お酒を注ぎながら話す。一升瓶重いから、とっくりほしい。
「そうそう、トニー君だが、なかなか見どころがあるじゃないか。一度、こっちに呼ぶか」
「ええじゃろ、博史」
「師匠がそう言うなら」
「7月に、トニーの友達のリチャードが来るのね。リチャードと一緒にいろいろしたそうだって。火龍王様に、玉がトニーを鍛えてるって言ったら、師弟供に此処に来させよって言ってたし、まだ先でいいんじゃないかな」
「それは、それじゃ。トニーは、自分の属性を光じゃと言うとったが、闇もいける。そうじゃろ博史」
「トニー君は、重力とか次元とか、物理の知識が深いんだよ。闇属性の魔法を使える者は、とても少ないんだ。もう、鍛え始めたほうがいいと思うよ」
「いいなー、トニー」
「そう腐るな。擬人化人の長と昵懇になったら、秘術を教えてもらえると思うぞ。ローグ隊と顔をつなげ」 デビットが慰めてくれた。
「そうする」
そんな話をしていたら、アンナ達が、ご馳走をどっさり持ってきた。夕食は、灘の春の一升瓶が、1/3になるまで続いた。




