王妃ミコトの世界
空は、蒼く澄渡り、この広大な庭の中にポツンとある巨大な祠の魔法陣の中にいる自分に驚いて、周りをきょろきょろしてしまった。
・・・・・異世界?
「マーマーマーマー、いつ振りのお客様かしら」
「イソバ様、初めてのお客様です」
ゲッ、恐竜!
なにを言っているかわかるから、風硝石で、ウィンディと繋がっていると思う。じゃあ、他のみんなとも、唐津勾玉や赤夏や氷水晶で繋がってると思う。これらのアイテムは、妖精たちの魔力をスムーズに受ける触媒だ。
恐竜たちに、衣服はいらないはずだけど、イソバ様と言われた人は、人ぐらいしかない腕の根元が肩なのかな、マントのようなものをしている。よく見ると、とても小さいが装飾品も身に着けている。とにかく、レックスだ。手が人のように見えるので、そう感じるのだろうが、暗緑色の精悍そうな肌をしている。なのに、おばさまのような振る舞い。もう一人は、背中の何枚もあるヒレ?をゆらゆらさせている。あれは、ステゴサウルスに違いない。
食われる!!!
真っ青になって逃げようと振り向いたら、そこに、白と青の模様をした巨鳥竜が、私をのぞき込んでいた。羽毛がある恐竜だ。これは、逃げられないと思った。
多分、ここは、聖龍王様のお妃さまの心の中だ。お妃さまに、助けてもらわないと。
聖龍王様とお妃さまは、風龍と火竜の混ざったような姿をしている。バハムートかな。体躯は、ワイバーンの2倍はある。リクシャン王妃のように真っ白で美しい姿。わたしは、王妃様を探して周りを見回した。
見回して、ちょっと絶望してみる。巨大な恐竜が6匹。その中にお妃さまを見つけた。
「お妃様、お妃様、千里です。助けてください」
白いバハムートは、きょとんとしている。
「ミコト様、お知り合いで」
何て言えばいいんだろ巨大なサンショウウオ?〈ディノサウルス〉頭でっかちな恐竜が首をかしげた。
「わしら、みんなの子孫じゃ」
サイズは大きいが、人形に近い恐竜〈ディノサロイド〉が、何言っとるんじゃと言う感じで、話をまとめた。
「お妃様!」
「ごめんなさい。そういう風に呼ばれたの、とっても久しぶりだったから。お妃と言ったら、イソバもそうよ黒龍王の妃ですもの」
「すまん。びっくりしたか?」
合羽のような恐竜〈人形に近いディノサロイド〉が、場を取り持ってくれた。
私は、もう、心臓が爆発した後なので、放心状態。恐竜が怖いというのは、遺伝子レベルで刷り込まれていることなので、どうしようもない。
「受け答えできるまで回復するには、時間がかかるとおもう。千里、今のうちに記憶を見させてくれないか」
さっきの羽毛恐竜が、細長い頭を首を折るだけで私の顔の鼻先に持って来て聞いてきた。まるで、風竜のシップウみたいなので、思わず、こくんと頷いて肯定した。
「イカート!〈メモライズ〉」
巨大な魔法陣が光る。私は、魂レベルで、この6人に記憶を見られた。
この6匹の恐竜に覗かれた私の記憶は、生まれてからの18年間の記憶だけではない。魂に蓄積された記憶も覗かれた。その走馬灯のような記憶の私は、常に日本人。部落の娘であったり、村娘であったり、町娘であったり。本当に平凡な一生。生まれて、結婚して、出産して子育てして、孫を可愛がって死んで。そんな感じだった。でも、なんだろ。幸福感が続く。
「命は、紡がれていた。今日ほど嬉しいことはない」
「やっと解放される時が来ました」
「そうね。夫のしたことは間違っていなかったのです」
「千里さんを鍛えなくてはいけません」
「一族もな」
「はーぁ、わしの形態ではないのか」
一人、残念がっているが、優しそな人たち。私は、やっと落ち着いた。
「あのう、聖龍王様のお妃さまですよね」
「テキヒの妃、ミコトよ。この人は、ニウトの妃イソバ様」 〈バハムート〉
「イソバで、いいわよ」 〈レックス〉
「イソバ様のお供をしているイリーよ。主に突っ込み担当ね」〈ステゴサウルス〉
「我は、鳥族の始祖フェイザーだ」 〈始祖鳥〉
「リーフェよ」 〈ディノサウロス〉
リーフェは、水の中の方が好きらしい。おしゃべりそうなのに気怠そうだ。
「セッパじゃ。わしを見たことないじゃろ。この空間で修業して賢者になったんじゃ」
〈ディノサロイド〉元パラサウロロロフス
「河童ですね」
「ちがーう。よく見ろ恐竜の進化系じゃぞ」
くすっ!
「やっと笑ってくれたか」
フェイザーが顔をあげて、みんなを見回した。
「ミコトを頼って来たみたいよ。話を聞いてあげたら」
「話を聞いてもらいたいのは、私たちだけど、そうね。千里さん。なんでも聞いて」
私は、聖龍王の妃ミコト様の前に、歩み出た。
「ここはどこですか?」
「異世界よ」
これを聞いて脱力した。とってもひどく苦しい風邪を引いて。それでも、何とか病院まで辿りついて医者に診察してもらったのに、お医者様の答えが「風邪です」と、言われている気分。
「私も異世界だと思います」
「大賢者のわしに聞かんか」
さっきは賢者って言ってた。
「河童さん、教えて下さい」
「セッパじゃ、河童言うな」
「まあまあ、セッパさん」
「千里は、セッパに懐きそうじゃないか。今回は、セッパが、かみ砕いて教えてやってはどうだ」
「セッパ、交代して」
みんなに頼られて、悪い気がしないセッパが、魔法陣の中に入ってきた。この人、人形なので、表情が良く分かる。
「ここは、ミコトとイソバが、共同で構築した異世界じゃ。異世界と言っても地球の衛星規模もあるぞ。わしらは、魂を霧散しないよう、二人に守られて、この空間で、魂が解放される時を待っとる」
やはりここは、聖龍王様のお妃さまの世界だった。




