紅アゲハの異界再び
私たちは、スミスとウフーラ女王の羽蟻隊達と、紅アゲハの次元門の前で別れた。スミスたちは、これから、紅蓮洞の環境調査をする。今回、紅ガラスのローブが使えると分かったら、ガイとグレンには、異界の中にある次元門の位置を特定してもらう。私たちは、聖龍王様のお妃さまのメッセージを聞きに行く。私が前後不覚になっても暫くそのままでいることに決まった。とにかく何らかの伝言があるのだ。それを聞かないことには、始まらない。
ここは、清々しい所だ。明るくとても広い空間、ほんのり甘いウーナ草の香り。空気の流体運動もあり、さわやかな風を感じる。
「みんな、どお?」
「音がとっても小さくなってる。成功ね」
「これなら、大丈夫だよー」
「中心まで行っても、耐えられるといいのですけど」
「ガイとグレンも最初は、一緒に中心まで来て、みんなを守るのよ」
「元より」
「お任せください」
「みんな私のオーラの中に入って。ガイとグレンも。中心地ほどノイズがひどいのね。今から無理する必要はない」
ガイとグレンは、私の腰に捕まった。ノイズが消えたので、安心して辺りを見回しだした。傘のような大木を見つけて指さしている。二人は、龍王城の測量士が作った地図と紅アゲハの異界を見比べだした。
地図を作って分かったことは、世界樹の樹がこの異界の中心にあること。それと少しずれたところに、紅アゲハの繭がある茂みがあり、その茂みの中から、ノイズが聞こえるということだ。
私たちは、世界樹の所。つまりこの空間の中心地に行って、世界樹に触ってあいさつした。京爺が言うには、この世界樹は、何億歳も歳をとっているかもしれないとのこと。私たちの大先輩に敬意を表した。
そして、紅アゲハの繭がいっぱいある茂みに到着した。
「ガイ、グレンごめんね。一回、千里のオーラから出てノイズを確かめてみて」
サラたちは、私と茂みの中に入って行く。こういうことは分担するに限る。
二人がげんなりして戻ってきた。
「お待たせしました。1時間ぐらいなら。耐えられると思います」
「ですが、千里さんのサポート無しで、ここまでくることを考えると10分が限度でしょう。皆さんを10分ぐらい見守ることが出来ると思います」
「見守るのは結構ですが、茂みの中は、ノイズの荒しです。もし、わたくしたちを心配して茂みに入っても、千里まで到達できなかったら、健康被害が出ます。見るだけにしてください」
「二人ともそうして」
二人とも大きく頷いた。
「先に、ウーナ草と繭を採取するわよ。みんな、何も考えられなくなったら逃げるしかない」
ウィンディにそう言われて、ウーナ草をデイバックにいっぱい敷き詰めて繭を6つ採取した。
今日の為に、サラたちが、私に力を注ぐ練習をずっとしていた。私の視界、私の思考をみんなで見る。
カサカサと、一番藪が薄いところから、この茂みの中心に入った。また、あの映像だ。二人の白い竜が、私に微笑んでいる。大きな白竜、聖龍王様の額には、風龍様のような細長い龍眼が見える。風竜様の青緑と違い黄色い龍眼。
今日は、この間と違い、周りも見えるし、みんなを感じることが出来た。
「みんな、我慢できる?」
「大丈夫」
「聖龍王様が見えるよ」
「ここに聖龍王様の龍眼があるのかな」
「もっと奥まで行きましょう」
中心地に行って驚いた。千日草の種が入った宝石が、それこそ山のようにある。この異界に千日草は、咲いていない。紅アゲハが持ってきたのだろう。
「光の正体はこれね」
「ノイズの正体もかな」
「一つ持って帰りましょう」
「分かった」
私が、この千日草のプラントオパールに触ると、みんなが強烈なノイズを受けてしまった。
「きゃっ」
「うぇー」
「千里、痛い」
さっきから黙っていたアクアが扇子を広げた。
「困りましたわね。千日草のプラントオパールを全部どけてみないと、この光る力の源に到達できないのでは」
「私一人で、ここに来るしかないってこと?」
アクアが、顔を半分隠していた扇子をどけた。
「わたくしたちが見ている聖龍王夫妻の映像は、第三者目線です。ですが、わたくしたちが、ここに近づいた時、お二人がほほ笑んで見えた。やはり、何らかのメッセージがあると思います。千里に頑張っていただくしかありませんわ。宝石の回収は、蛍光石の糸で、バックを作れば済むことではないでしょうか」
アクアの意見にみんな納得した。
みんなと茂みの外に出て打ち合わせをした。サラとアクアには、ガイとグレンの支援。出口付近を重点的に見て歩く。ウィンディとヒイラギには、世界樹の調査をしてもらう。葉っぱの回収と落ち木の回収。そして、もしかしたら、本当にもしかしたら、実がなっているかもしれないので、それを見てもらう。世界樹の実がどんなものか、誰も知らないし記録もない。世界樹は、古木からの再生しか記録がない。もし、そんなものがあったら、聖龍王様と同じぐらい大発見になる。
私は、みんなを見送って、また、茂みに入った。最初、アクアが言ったように、千日草のプラントオパールを退かすしかないかと思ったが、改めて見ると山のようにある。この山をかき分けるのは無理だと思った。
聖龍王夫妻の映像は、お妃さまが、私たちに話しかけていた。
そこで、サラが龍眼で回りを見るときに支援しているように、このプラントオパールごと魔力を流して聖龍王のお妃さまを支援してみることにした。なんせこのプラントオパールも光っているのだから。
私は、すーーっと、息を吸い込んでから、両手で、このプラントオパールの山に手を添えた。今も、聖龍王夫妻が、はっきりと浮かんで見えるので、お妃さまに気持ちを入れやすかった。




