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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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千日草は、宝石の種を宿す

 エストは、花の研究者だったが、家業を継いで、オルケストラ家のメイドになった。メイドになってからも、独学で、花の研究をしていた。風と花と言うのは、切っても切れない関係。いろいろな蜂蜜を飲めるので、ウィンディは、大歓迎で、エストを応援していた。


「千日草は、3年草とも言い、3年で、その一生を終えます。その中で、2年目の千日草が蜜を多く含んでいます。ところが、栄養は、3年目の方が、多く含まれています。それと言うのも、実がこの蜜を利用して、実の中に蜜蝋の肺胞を作るためです。蜜が実の中に吸収されて、その中に種ができるという。変わった性質があるからです。蜜蝋の種は、稀に、宝石になります。実が腐ろうと化石化しようが、種を何億年と守るのです」


「その宝石、見たことある。中に種がある宝石だよね」

「宝石を崩すのはもったいないけど、魔法で、発芽させることが出来るみたいよ」


「もしかして、『アウレア』?」


― 千里にしては珍しいな。正式には、バイオコーラス、アウレアだ。風の魔法だな


「私の騎士が、使っているのを見ました。それが、騎士になる試練だったんです」


― なんだと、早く言わんか。わしのところに来させよ


「すいません、トニーは、精霊界に来ることが出来ません。今、猫の玉に鍛えてもらっています」


― 珍しい、あの、サー・アウグスト・タマ・オーレムか。では、こちらに来るまで待つとしよう。師弟で来るように言っといてくれ


「分かりました」

 玉って、そんなに長い名前だったんだ。


「三年物の蜜は、種の為にとってはダメと言う派と、すぐ発芽させるのなら構わない派に分かれます。ここは、早く決着したいところです。いずれにしても貴重なので、お届けするのは2年物です」


― 分かった。味効きは、わしより妃のリクシャンの方が上だ。リクシャンにも試してもらうことにしよう。一壺は、増殖魔法を使っても良いか?。味が変わらぬなら、紅蓮洞の担当にも味あわせたい。


「残念ながら、味は大味になります。ですが、さわやかさは、そのまま残りますので、増殖魔法をお試しください。もう一壺は、オリジナルのままがよろしいかと存じます」


― オリジナルは、リクシャンに任せる


「じゃあ、おじ様。エストたちを連れて、リクシャンの所に遊びに行っていい?ローグ隊にお願いして、蜜をいっぱい採ってもらうよ」


― いいぞ、その時は、わしもオリジナルを味わうとしよう



 火龍王様と話しているうちに、地下の天井が崩れて、ぽっかり空いた深い崖のふちに来た。太陽は、天上にあるときしか入らない。今は、暗い谷底だ。ある程度時間を合わせて来たつもりだったが、もう少し時間があるようだった。それでも、紅蓮洞より明るい。みんな気を取り直して、地下に降りた。


 ここで昼食をとるつもり。私は、みんなより食べる量が多いので、サンドイッチ持さんだ。ローグ隊の為に、いっぱい用意した。トニーに借りたデイバックが役に立つ。

帰りはウーナ草と紅アゲハの繭をこれに入れて持ち帰る。 



 崖を降りている途中でもわかる。さわやかな甘い香り。丸い紅色の花が咲き乱れていた。近づいて見ると、一つの花が、手の拳ほどもある。人間界の可愛い花を想像していたのでとても驚いた。そう言えば千日草と言ってはいるが、人間界のは1年草だ。でも、形がよく似ている。


「おじ様」


― うむ、はちみつが到着した。太陽が差し込んだら教えてくれ。リクシャンと見ることにしよう


 妖精たちは、お弁当を持って来ていない。現地調達するからだ。本当だったら、ガイとグレンが我先にと争って、サラとアクアに献上する。スミスは、これをきつく制した。そして、姫様方が、食べだすのを見計らって、その輪に参加し、食せと言われていた。


 スミスさんナイス!


 ところが、ローグ隊が、3年物を集めて、私たちに味見しろと言ってきた。


「嬢ちゃんたち、これが3年物だ。飲み比べな」


「わー、ありがとう」

「ここに来ないと飲めないってことね」

「色も全然、違いますわ」


 これを見た、例の二人が、ローグ隊長に突っかかりそうになった。たぶん、「嬢ちゃんとは無礼な」とか、「姫が、我々に命じてくださっていれば、我々が、採ってきて差し上げたはずだ」とか、文句を言おうとしたのだと思う。手柄を横取りされた気分なのだろう。

 これに対して、スミスは、「あなたたちは、火龍王様から何も学んでいないのか」と言いながら、きつい言葉で二人の出鼻をくじいた。そして二人に、とうとうと説いて聞かせていた。男の子は、理論で打ち負かすのが一番なのね。二人のへこみ方が半端なかった。


 私は、スミスさんに3年物を持って行きながら慰労した。


「スミスさん大変ですね」


「そうでもないですよ。今言っていることを帰ってから説いたのでは迂遠になります。現行犯で叱るのが一番効果的なんです。これを超えることが出来たら、二人もローグ隊長の真似を出来るようになるでしょう。ずいぶん先の話ですけどね」



 この、洞窟のような崖の中に、陽が差し込まれた。


 一瞬で、赤い絨毯のような花畑が、私たちの前に広がった。台地には、深緑の苔。緑と赤の対比が美しい。


「みんな、千日草を上から見てよ。バラみたいになっているのがあるでしょう。それが3年目だよ」


 みんな、ヒイラギが言うバラのようになった千日草を探した。ローグ隊が、何気なくサラたちを護衛している。その姿を、ガイとグレンが眩しそうに見ている。今の自分たちでは、こんなに自然に、護衛できないだろう。二人とも固まって手が出せない状態。3年目の千日草の中には、宝石の種を宿す花が生まれるのだが、見分けることが出来るのは、世界でもほんの一握り。


「おじさま陽が射したよ」


― リクシャンとホムラと共に見ているぞ。美しいものだな。この自然を守らねばならん。エストはいるか


 エストは、サラの傍に控えていた。


「ここに」 


― 千日草のレポートをわしにあげよ。同じ研究をしている人物もだ


「かしこまりました。ですが、これからは、研究者が増えると思われます」


― エリシウム山に関しては、人数を絞るものとする。エスト以外は、土の世界の者だと推察するが、どうだ。環境への配慮もできているのであろう。これを、ここに入る第一の条件とする


「おっしゃる通りです。皆、環境への配慮が、的確です」


 エストとノーラ、そしてローグ隊は、このままここに残って、千日草を観察したり、採取をする。みんな私たちに手を振って送り出してくれた。千日草の研究は、これからだ。

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