ガイとグレンの状態は、今の精霊界そのもの
紅蓮洞探査から1週間たった。アオイとルーの協力もあって、紅ガラスのローブを6着作ることが出来た。ガイとグレンにも、紅アゲハの異界に入ってもらうつもり。ガイとグレンには、ウフーラ女王のところにいる羽蟻隊についてもらう。マーガレット女王の情報蟻、スミス隊長にも依頼して、紅蓮洞が、土の国の新天地に適しているか調査をしてもらうことになった。この情報をもとに、ドワーフが、環境を分析することになっている。嬉しいことに、マーガレット女王は、スミスを当分貸してくれると言ってくれた。
エストとノーラは、蜂族のローグ隊に護衛してもらう。二人には、千日草の生息状況を調査してもらう。エリシウム島の千日草を紅蓮洞に生殖させることは、決定しているので、種子の採取も行う。何株か持ち帰って育成し、育てることで、生態を詳細に把握するつもりだ。多くの学者が、ここを調査したいと申し出ている。でも、そんなに大勢の人に、この生息地に入ってもらいたくないので、こちらが、現物や資料を用意することになった。
いつもの通り、風竜のシップウに、エリシウム山に送ってもらった。
「今日はすごいわよ。シュラの実もそうだけど、ご馳走をいっぱい用意しているわ。おば様の機嫌がいいせいよ」
「あれか」
「あれよ。そんなわけだから、常春の城に行ってね」
あれというのは、ナウシカ女王の恋がうまく行っているという話。私たちは事情を知っているので、ニコニコしてしまった。
「みんな気をつけて調査するんだぞ。夕方迎えに来るからな。バクバの家で会おう」
私たちは、手を振って、シップウを見送った。そして、サラの周りに集まった。サラの首をについている龍眼がきらりと光って、火龍王様が、紅蓮洞に出発しようと宣言してくれた。
最初に、かしずかないでねと言っておいたのに、ガイとグレンが、サラの前でかしずいてしまった。私とサラとアクアは、こうなることを見越して、火龍王様に口添えしてもらうことにしていた。
「おじ様、全員揃ったよ」
― うむ。それにしても、あれは、何だ
「ガイと、グレンだよ」
― ガイ、グレン。面をあげよ
「ははー」×2
― 貴様ら、この調査は、公ではない。ずっと、そのようにふるまうつもりか
「サラ様の後ろに控えるのは臣下の務め」
「何かありましたら、前に出るお許しをいただき、体を張ってお守りいたします」
「初めから前でもいいから」
「でも、わたくしたちが守って差し上げた方がよくなくって」
― ワハハハ。聞いたか、貴様らは、女子に守ってもらうのか
「滅相もございません」
「命を賭けてお守り申しあげます」
― スミスはいるか
「ここに」
― こいつらを教育してやってくれ。このように、堅いことを言われると探査しにくい。そこでだ、ガイとグレンを異界探査から外そうと思うがどうだ
「御心のままに。世界に先駆けて異界に入るチャンスを逃すとは、とんだ知れ者です。異界に入れないのです。護衛の任も解かれてはどうです」
「お、お待ちください火龍王様」
「我らにどのような不備がございましょう」
― 最初に、サラとアクアに言われなんだか、ここで、かしずくなと。主人の命を守れない家臣はいらんぞ
情報蟻のスミスは、情報部だけでなく諜報機関でも手腕を発揮できるやり手。火龍王の意図を正確に把握して、ジョークを飛ばした。
二人が真っ青になった。このぐらいのことをちゃんとこなせないと世界と渡り合っていけないということだ。
― どうだ、勉強になったか。忠誠心だけでは、通らない道理もあるのだ。もっと柔軟になれ。今回は、許してつかわすが、立って、ここにいる姫たちの友となれ。そうなっても、臣下の礼を失するなよ。分かったら、立たぬか
ガチガチの二人には、とても難しいお達し。実は、これを依頼したのは、私だ。私と火龍王様はこっそり話し合った。
― 千里よ。普通になれと言うのを、こうも、かみ砕いて言わないといけないとは、面倒なものだな
「ありがとうございます。マスターや京爺には、時間をかけるしかないと言われたんです。ですけど、それじゃあ間に合わないと思ったんです。世界会議は、目の前です」
― 妖精たちも事を急ぐ。わしか水竜王の代案を出したわけでもあるまいに。二人は、学友なのだ。上手くやっていくだろう。だが憶えておけ、この二人は、今の精霊界の状況そのものだ。妖精の世界会議が、思いやられると思わんか
「私には、分からないです。でも覚えておきます」
火龍王様と水龍王様でも解決できないこと。私には、とても難しい話だった。
二人は、恐る恐る立ち上がって、私たちと肩を並べた。この二人が妖精カフェに来て、この3日間と言うもの、二人の周りだけ、ずっとギクシャクしていた。二人は、魔法、武術こそ、優秀だが、情報収集は、所領内しか回ったことがない。情報分析は、全くダメ。それでも、自分のテリトリーだと、気さくで、評判も良かった。ところが、他国の、それも、すぐにでも敵国になりうる火と水の国の妖精相手となると、そうはいかない。ましてや、守る対象の敵味方の姫が目の前にいるのだ。嫌でも肩に力が入る。
マスターと京爺に、二人に事情を聴いてもらったり相談に乗ってもらったりしたのだが、時間が掛かると言って、対応がソフトムードだった。こういう時、ガツンと言ってくれる人を私は、火龍王様しか知らない。サラとアクアもそれが良いという。平和とは身近な所から始めるものなのだ。
火龍王様には、スミスに鍛えてもらうのが良いと推薦してもらった。スミスは、今暫くの間、私付きになっているので、相談したら、快く引き受けてくれた。
― スミス。ガイとグレンを鍛えてやってくれ。こ奴らは、情報分析に欠けておる。サラとアクアの為にもそうしてくれ
「お任せを。遠慮なく鍛えさせていただきます」
後で、普通に話せるようになって二人から聞いた話。あの、最初のぎくしゃくしていた時も、二人で相当話し合って、サラたちに対する対応を決めていたそうだ。あれもダメ、これもダメ。水の国だと主人の前に出るのは絶対ダメとか、二人で妥協していたら、タブーが相当増えてしまったと言っていた。伝統や習慣や風習を守るだけでは、種族間の溝を埋めることは出来ないみたい。
― よし、それでは、千日草を見に行こうぞ。ウィンディから聞いたぞ。エスト、案内いたせ
「実は、少量でございますが、ローグ隊が、過日、千日草の蜜を採取しておりまして、別動隊に、二壺持って、現在そちらに、向かわせております。花の景色と、蜜の味をご堪能ください。蜂蜜なのに、さわやかな風味がございます。これが、千日草の特徴でございます」
― 千日草の浄化作用と関係があるのか? いや、とにかく行こう。道行、話を聞かせてくれ
火龍王は、途端、上機嫌になって、エストの話に耳を傾けた。




