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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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トニーとにわか放浪者

 今日は、トニー達が、リークスBARに行く日だ。以前から行く話をしていたのだが、紅アゲハの異界の話がインパクト強すぎて、ずっと流れていたので、トニーとにゃんこ先生に、事情を話してくれと京爺に言われた。最近、アンナは、あゆにずっと魔法を教えていたのだが、今日、アルバイトが来たので、あゆは、バイトに裁縫の基礎を教えないといけない。久々にアンナが東京の妖精カフェに立ってくれた。体の空いた私たちは、大海家のリビングで、これまでの経緯を話すことになった。


「それじゃあにゃにか。黒龍王がいた時代に、聖龍王もいたってことにゃのか」


「京爺が言うには、どうしても倒さないといけない敵がいたから、黒龍王様が、メテオを発動したんじゃないかって。でも、それだけだと、地球の生物が絶滅しちゃうから、それで聖龍王様が、ホーリーノバを発動した。だから今の私たちが繁栄しているって言うの」


「敵がいたんだよね。でも、スケールが大きすぎて、どんな敵か想像もつかないや」


「紅蓮洞の異界に、聖龍王様のお妃様の残留思念が強烈に残っているのよ。私が行けば、いろいろ分かるんだけど、妖精たちの動きが早くって。あの人達は、紅アゲハの異界のノイズが、どんなにきついかなんて考え無しに話を進めているのよ」


「平和の切っ掛けにゃ。急いだほうがいいに決まっているにゃ。全妖精が、こんなに結束したことが無いから、逆に不安なのにゃ」


 にゃんこ先生こと玉は、自分の顔をなめながら、妖精たちの気持ちが分かると言う。顔をなめているから、明日は、雨かな。


「今の話だと、黒龍王の龍眼の力は、今でも危険だってことだろ。こっちが急ぎじゃないのか」


「だから、今日、リークスBARに行くじゃない。トニーは、たまに行っているんでしょ」


「行っているだけさ。占い師のママに顔を覚えられないと、身動きできないよ」

「我もついて行くにゃ」


「お願いします。人間界初心者の、規格外の人がいますから」


「ゴロゴロゴロ、にゃん」


「笑い事じゃないです。何かあってもトニーは、サイモンに手を出したら駄目。止めるのは、京爺とにゃんこ先生に任せるのよ」


「サイモンさんって、酒癖悪いのか」


「そんなことないけど、竜の擬人化人の王なのよ。向こうが失礼なことを言ったら、怒るわよ」


「ゴロゴロゴロ」


 サイモンは、擬人化人竜族の王。ターシャの旦那で、人間界で言うと超人で、その上、そこそこ魔法も使えるという、精霊界でも規格外の人。京爺の酒飲み友達で、黒龍王の遺産の調査を手伝ってくれる。


「それで、サイモンに合う服は有った?」


「身長2メートルだろ。大変だったよ。福生に米軍基地があってね。そこにあったミリタリーショップや古着屋さんで、何とか見繕った。ラフな格好だけどごめんな。でもリークスBARは、ドレスコードないから問題ないと思うよ」


「バイト代が入ったら払うから」

「ブティックが軌道に乗ってからでいいよ。仕事が入りそうなんだろ」

「ありがと、頑張るね。今日、新しいスタッフさんが来たのね。トニーが、精霊界に来れると紹介するのに。どうなんですか、にゃんこ先生」


「筋はいいけど急げにゃいにゃ。物事には、順番があるにゃ」

「リチャードも、後から来るんだ。一緒に修行したいしさ。それより知識かな」


「じゃあ、風魔法を強くしないとね。精霊界の方が、歴史が深いから」

「それは、そうにゃ。知的種族数が多いから言語だけでも大変にゃ。その上、文化は、3万年以上ある。魔法文明は竜族が死滅しにゃかったんぞ。物凄く深いにゃ」


「うぇ、そうなんだ。そんなの覚えきれないや」


「風魔法が使えると、言語や読み書きのハードルは無くなるのね。アンナに教えてもらって」

「魔法のイロハが先にゃ。新品の光豆を博史にもらってほしいにゃ」

「そっか、光豆から始めたほうがいいかも。精霊界は、文字より映像アイテムの方が先だったのよ」


「ははは・・・、頑張るよ」


 私は、マスターがいる精霊界の雑貨店に走った。




 トニーは、背が高く180センチある。なのに京爺は私と同じで160センチ。サイモンに至っては、2メートルと、でこぼこトリオが、東京の夜の街に繰り出すことになった。にゃんこ先生は、トニーのバックの中で大人しくしている。マスターも一緒に行く予定だったが、アクアが作らないといけない癒しの水衣の素材が判明したとかで、更に調べようとムシキングのデビットと、浮島の天竺書庫に向かった。


「みんな気をつけて」

「京爺、あんまりお酒を飲んだらダメよ」


「わーとる、わーとる」


 わたしとアンナに見送られて、3人と一匹は、夜の街に繰り出した。




 夜の東京は明るい。光りの洪水が、サイモンに押し寄せてきた。


「トニー君、人間界というのは、明るいところなのだな」


「ここは、メガロポリスですからそうですけど。田舎は、こんなことないですよ」


「光と闇の精霊か。トニー君はどっちだ」


「光だと思います。学校の適性がそうでしたから」


「やはり聖龍王のホーリーノバが、気になるな。これだけ繁栄しているんだ。頭が下がるよ」

「まったくじゃ」


 サイモンは、地下鉄で、頭をぶつけていた。トニーは、平気そうなサイモンを見て、心配するのは、サイモンではなく、へこんだ車両の入り口の方だと認識を変えた。六本木に出て、お上りさんそのままの反応をしているサイモンを見て、ちょっと千里を思い出した。夜の東京で、二人で、どれだけ迷ったことか。


「坂を下りた所に、目的の店があります」

「地下鉄というのは景色が見えない。車に乗ってみたいぞ」

「博史が車を持っとるぞ。今度な」

「おう、楽しみだ」


 向こうから筋骨隆々で、サイモンに負けない身長の喧嘩っ早そうなアーミーが向かって来ている。なぜか手をあげて挨拶して来たので、サイモンも手をあげてそれを返した。


 ガシッとそのアーミーが、サイモンの手を取って力いっぱい握ってきた。サイモンも、ちょっと握り返して嬉しそうな顔をする。


「人間も、結構フレンドリーじゃあないか」


 トニーは、後ろでうずくまっているアーミーに、ご愁傷様と心で手を合わせた。一緒にいた2人がこちらを向いて、驚愕の表情をしている。


「こりゃ、今のは、マイナス一杯じゃ。さっきの挨拶で、相手さんの骨がゴリゴリいっとったぞ」


「うおーーー、やってしまったか。すまん、気をつける。ほら、わしといい感じの力っぽかったじゃないか」


 どうやら、酒を何杯飲んでいいか決めているみたいだ。サイモンが粗相をするたびに、酒が飲めなくなる仕組みらしい。


「骨を折らない加減から始めるんじゃな。相手は全部女性以下だと思わんか」

「今のは、やっても、ひびが入った程度だろ」


 そこから?、大丈夫かなこの人たち。

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