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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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聖龍王夫妻の幻影

 みんなで、紅アゲハの森を見下ろす高台に戻ってきた。


「見て、ちょっと離れているけど、左の奥に、大きな木があるでしょ」

「あれが、おじさまが見つけてくれた帰るときの目印だよ」


「森の中に行けそうね」

「紅アゲハの繭を持って帰るのでしょう」

「それで、火龍王様は、この異音の事を何て言ってたの」


「紅アゲハもそうだけど、光属性じゃないかって、蛍光石で作ったローブが対策になるんじゃないかって言うのよ」

「でも、ガラスの糸だけだと、音を鏡面反射のように反射するかもしれないの。それだと紅アゲハを驚かすことになるかもしれないから、紅アゲハの繭で作った絹糸を混ぜ込んだ方がいいんじゃないかって。異音も少し聞こえるかもしれないけど、その方が紅アゲハにはいいだろう。だって」


「火龍王様すごいなー」


 みんな、火龍王の意見に賛成してくれた。


「ここ、結構広いよね。私の足だと、往復2時間ぐらいかかるかな」

「もう一度、ここに戻ることを考えると、やれることをやりたいね」

「じゃあ、出発!」


 ウィンディの号令で、私は、ちょっと浮きながら、ふわふわ大地を蹴って、この丘を下った。まだ、細かいことはできないので、森の中に入ったら歩くしかない。でも、森まで一挙に向かった。


「そうだ千里、帰り際でいいんだけど、ここ一帯に生えてる甘い匂いの草をつんでね。多分精霊界のウーナ草じゃないかしら」

「そう言えば、天井の光は、バルゴの光だよ」


「でも、紅アゲハのオーラは光ですのよね。やっぱりここは、千里の世界ですわ」

「うん、サラはどう思う?ずっと火龍王様と話していたんでしょ」


「分からないけど、大きな町があったのは間違いないんじゃないかな。痕跡を探したいね。ぼくが、全体を見ているときにアクアが探してよ」


「分かりましたわ。では、ウィンディが、風の通り道ですわね。森に風が通っているせいかしら、清々しいですわ」


「任せて。ヒイラギと千里は、紅アゲハの繭よ」


「そうするー」

「見て、紅アゲハ」


 紅アゲハは、わたしを全く恐れていないように前を通り過ぎた。


「ここは、紅アゲハしかいないのかしら」


「ウフーラの羽蟻隊が、そう言うの得意だよ。でもそっか、入れないよね」

「紅アゲハを見るとき一緒に見て見よ」


「一度、妖精の代表が集まる必要がありますわ。こういうのは、男の仕事です」


「バルゴの光があるんだよ。ドワーフにも来てもらおうよ」


「ガラスの糸は、いっぱい作ったけど。蛍光石のは、作っていないからすぐには無理だよ」


「ウィンディ、そのお代って、請求していいんだよね」


「当り前じゃない。マスターに値付けしてもらう」

「高そう」

「忙しくなりますわね」


「みんな、手伝いを出さない?機織りと、材料調達係がいるよ」


「サラの意見には、賛成なんだけど、それって、私の部屋がなくなるんじゃあ」


「それはないわよ」

「ぼくたちしか糸をつむげないんだよ」

「そうですわね。機織り機は増やしても、もう一台という所でしょう。2人が、機織り、2人が、材料調達でどうでしょう」

「お父様に聞いてみる。分担はどうする?」


 そこで、サラたちの家人の話になった。みんなの話を聞いていると、サラとアクアの家人の人が、材料調達。パワー系ってことね。ウィンディと、ヒイラギの家人の人が、機織り。みんな一人ずつ連れてくることになった。


「みんな、裁縫の事を忘れてない?あゆも修行中だよ」


「でも、これ以上、家にわがままは、言えませんわ」

「いっそ公募する?」

「新しい仲間ってことね」

「いいかも。技術は、あゆに教えてもらえばいいんだよー」


「それなら、魔法学園の子たちでもいいってこと?」

「バイトは、クリスタ先生が許しませんわ」

「でも、聞いてみようよ。ぼくたちだって、ここに来れたんだよ。バイトって言っても裁縫を覚えられるんだよ」


 この話辺りから、みんなで、わいわい話し出した。クリスタ先生の話が出ると、みんなテンションが上がる。


 結果的には、ブティック妖精カフェが大きくなる話よね。なんだか夢が広がる。こういう楽しい話は、時間を忘れさせてくれる。あっという間に、森の中心にやって来た。



 森の中心が近づいた。いきなり、目の前が開けて、ウーナ草が茂っている広場に出た。そして、その広場の中心に、りっぱな樹が何本か生い茂っており、その周りが藪になっていた。

「やぶの中に、紅アゲハの繭がいっぱいある」

「じゃあ、幼虫は、ウーナ草を食べているということね」

「気をつけて歩いてね」


「中心まで行きたい」


「どうしましたの。ここで、繭を採れますわ」

「何を感じたの千里」


「森の中心で、ピカピカしてた光り。サラを通してみていたでしょう」


「分かったわ。でも、入りにくい。藪が少ないところを探すわよ」

「ここにマーキングしたほうがいいですわ。私たちは、殆ど真っ直ぐここにたどり着いたのですから」


「どーせウーナ草を持って帰るんだから、私が、サークルを作るわ」


 そう言ってウィンディが、方向を示すように、草の2か所を丸く刈った。後で、ウーナ草を採取する。



 私たちが藪の中に分け入ったときだった。


 突然、頭の中で、2匹のつがいの白い竜が、振り向いて微笑んでくれた気がした。大きい方は、金色のオーラを強く発している。私のご先祖様だ。


「う、ふうー」

「千里のオーラの中まで、ノイズが・・」

 きゅう

「みんな、しっかりして。千里、藪から出るのよ」


 ウィンディが、私の頬をたたいている。そうなんだ、これがノイズの正体。


「ごめん、ウィンディ」


 私は、慌てて、この藪から外に出た。


「みんな大丈夫。私、どれぐらい、あそこで、ぼーーッとしてた」


「ほんのちょっとの間よ。紅アゲハの繭を採取して、一度引くのよ」


「はーー、何でしたの」

「あの中が、元凶だよー」

「ごめん、みんな、それでも、異界の全体像を把握したい」

「そうね、せっかくここまで来たし」


 ウィンディに促されて、やっと落ち着いたサラの背中を押した。みんなも、私の手に、自分の手を重ねた時、みんなが私の中に、強烈に残っていた。あの、白い竜を見た。


「千里。。」

「さっきのノイズって、これ?」

「みんな見て、龍眼」

「じゃあ、この方って、龍王様?」


「聖龍王様・・・。私のご先祖様よ。ほら、オーラが金色でしょう」


「金色のオーラって、光の龍だわ」

「いたんだ、光の龍王様」

「じゃあ、もう一人は、お妃さまですわ」

「聖龍王様っていうの?」


「そう、お妃さまが言ってた。何かとっても重要なメッセージを残してくれているんじゃないかな。もう一度戻りたい」


「今日は、ダメよ。私たちが持たない」

「ぼくに集中してよ。早くここを把握して、おじさまに相談しよ」

「ちさと」

「千里」


「ごめん、もう大丈夫」


 私たちは、この異界を把握して、この場を立ち去った。紅アゲハの繭は、3つしか採らなかったけど、ウーナ草は、バックパックに詰められるだけ詰めた。これは治療薬。量を間違えると幻覚作用を引き起こす甘い香りのする草だが、竜族にだって効く麻酔薬の原料。



 その日は、火龍王様の勧めで、みんなユミルの家に泊まることになった。私は、このことを京爺に相談したかったけど、バクバと酔いつぶれるまで飲んでいて、相談できなかった。翌朝早く、シップウが迎えに来てくれた。その日は、普通の一日がそこから始まった。私は、その日一日、白い竜のことが頭から離れなかった。

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