紅アゲハは、光属性
ここは、半円形の地下空間、以前、あゆの実家がある浅草橋を俯瞰した時よりとっても広い。
「全体が見えない」
「でも、以前よりは、ずいぶん視野が広くなってますわ」
「もっと、視野を広げられない?」
「無理だよ」
「視点をずらして見れないかな。私、この空間の中で動けたよ」
「意識だけでってこと?」
「天空園の天竺書庫で、あゆにも加わってもらったことあったでしょう。あの時あゆが、みんなの魔力にはじかれて、星空を彷徨っていたのね。私、そこまで行って、あゆを連れ戻せたよ」
「やってみる」
私たちは、サラの視野空間の中をサラと一緒にラウンドした。分かったことは、サラの視野は、この紅アゲハの異界の中心ぐらいしか届いていなかったということ。でも、私たちが、中心まで行って、今やっていることをやると、この異界全体が見えるんじゃないかということが分かった。
「一度、紅蓮洞に戻ろうよ。おじさまに、ここを見てもらいたい」
「賛成よ。地図ができてから、先に進まない?。道に迷ったら戻れなくなるわ」
「今日は、ここまで?」
「それがいいと思います」
「えっと、サハテで、みんなを包むのって、わたし出来るじゃない。本当にサハテがみんなを守っているのか検証したい。どうせ、私のサハテ空間って大きな空間でしょう。その中なら、私のオーラから出れるよ」
「そうですわね」
「浮いてからやってよ。また土砂が削られる」
「分かってる」
私は、みんなを抱えて、この空間の中で浮いた。サハテの詠唱も教えてもらったが、忘れろと言われている。確か、「井戸の中の水よ。我を包んで、天のみを仰がせよ。あまねく災いをはじけ。サハテ」だったっけ。でも、詠唱まですると、どれぐらいの範囲がサハテ空間になるかわからないから危険だ。ただ、これを依り代に、魔法を唱えないと実感が持てないのよね。
「もういいよ。おじさまの頭ぐらい高くなった」
「じゃ、やるね。『サハテ』」
私たちの周りに、視界を色濃く見せる次元球が、ワーーーーと、広がった。私のオーラの中にいるサラたちが、この空間に守られる。私のオーラの中に居なかったら、外にはじかれる。もし、あゆを守ろうと思ったら、まず自分のオーラを膨らませてからサハ手をやらないといけない。でも、その辺は、まだできない。
「見て、赤い光が、森の方で瞬いてる」
「紅アゲハだよ。綺麗ね」
「紅アゲハの光点が見えるということは、紅アゲハは、このサハテ空間を出入り出来るという事ですわ」
「みんな、ここも良いところだよ」
ヒイラギにとって、サハテの中から見た紅アゲハの異界は、土竜族まで住める穏やかな所に見える。ただしサハテ空間は、あらゆる魔法を偏向するが、完ぺきではない。
「ノイズが無ければでしょう。私から離れてみて」
みんな、このサハテ空間を確かめるように思い思いに散らばった。そして、げんなりして戻ってきた。
「変わらないね。サハテの空間じゃあ音が消えない」
「音に酔っちゃいそうよ。私も修行しないと」
「アクア、どう思う?」
「そうですわね。この音は、紅アゲハと同じだということでしょう。なんせ、聞こえるのですから」
「紅アゲハが、この音を発しているってこと?」
「それは、違うと思うよ。リザード親衛隊が、紅アゲハに出くわしているんだよ。そうだったら、そのとき、この症状を訴えているよ」
「ですわね」
みんな私に寄り添ってきた。
「千里、もう、サハテ空間を閉じていいわよ」
「パオ」
パオは、空間を閉じる古代語。
「一度出るでしょう」
「時間はあるのですから、又、入ればいいですわ」
「いいところなのに」
「おじさまに相談したい」
私たちは、ここを出て、火龍王様に相談することになった。火龍王様は、リクシャン王妃と、ホムラを可愛がっているところだった。私たちが早く出て来たので、別室に行くということが出来ず、私たちの話に参加したいというリクシャン王妃も合流させた。
― すまんが、みんなサラの背中を押してくれ。わしが、サラと話をしている間。リクシャンと一緒に、ホムラを見ていてくれ
火龍王様は、一度にいろいろ力を使わないといけないから大変だろうけど、私たちには、とっても嬉しい申し出。ホムラを可愛がることが出来る。私たちは、リクシャン王妃の目を通して、ホムラを見ることになった。
― ホムラ、皆さんが来てくれました
ギャオーーーン
「リクシャン様、御久しゅうございます」
「ホムラ、大きくなっていないですか」
「ホムラ元気にしてた?」
「もう、私ぐらいあるね。立派だわ」
ぎゃう
― そうでしょう。すくすく育っているのですよ
ホムラが、私たちのオーラを感じて、手を伸ばしているが、私たちをつかむのは無理かなー。
― 羽は、まだまだなのですが、見て。額に小さな龍眼があるのですよ
「お父さん似ってことね!」
― 私にも似ています。目元とか
「美男子になりそう」
「オーラの色も綺麗ですわ」
「本当ね」
「千里、おじさまの方に意識を集中して。サハテの話を一緒にしてよ」
「ホムラ、ごめんね。今度みんなで行くから」
ぎゃう?
私は、サラの方に意識を集中した。リクシャンの視界から抜けて、火龍王様が見える。
― 千里、ホムラの龍眼を見たか
「見ました。お父さん似なのですね」
― そうだろうそうだろう
「目元は、リクシャン似だよ」
「そうね。美男子になりそう」
― 嬉しいことを言ってくれる。だから、今日は、龍王城に来て、晩飯を食えばいいではないか
「おじ様、さっきと言っていることが違う」
― すまんすまん。みなに、もうひと働きしてもらいたいのだ。やはり、紅アゲハの繭が欲しい。紅アゲハのオーラは、サハテ空間を突破したのであろう。千里は、紅アゲハの属性をどう思った。
「光だと思います」
― わしもだ。紅アゲハは、精霊界の生き物だとばかり思っていたが、どうやら千里の世界の生き物のようだな。サハテを試したのは、良い判断だったぞ。ノイズ対策なのだが、光の障壁であるパトーナムが、カギだろう。蛍光石で作ったガラスの糸は、薄っすら光っている。それで、サラたちの頭と体を覆えるローブを作れ。多分、ノイズ対策になる。ただ、これだけでは、光属性の音を鏡面反射しているようなものだからな。紅アゲハを驚かせることになるかもしれん。だから、紅アゲハの絹糸をそれに混ぜ込むのだ。
「それだと、ノイズも聞こえるんじゃないですか」
― 多少は、仕方ない。ここの環境を崩さず、妖精たちが活動できれば良いのだ。それに、これは、わしの予想だ。検証が、必要だろ
ここまで聞いて、紅ガラスのローブのデザインが浮かんだ。
「やりたいです。裁縫は、あゆができます」
― あゆ?ホムラの産着を作ってくれた涼夏堂の跡取りか
「精霊界で修業中だよ。今いるよ」
― 一度、こちらに来させよ。褒美をやるぞ
「お願いします。すっごく喜ぶと思います」
― そうしよう。それでだ、これを見よ。紅蓮洞の次元門の出口近くに、枝葉を傘のように広げた立派な大樹があるだろう。これが目印だ。これなら、ここまで帰ることが出来る。異界の森の中まで行って、紅アゲハの繭を採ってきてほしい
「気が付きませんでした」
「ぼくもだよ」
― サラが、わしの言いつけを守って、周りを見回していた証拠だ。無意識の中に有ったぞ
紅アゲハの異界は、インパクト高かったもんね。どうしても、中央を見ちゃうよ。だって、光って見えたから。
「目印があるのなら、奥まで行けそうです」
「みんなにも言うね」
― よし、再トライだ




