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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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紅蓮洞は、土の国の新天地

 妖精カフェのある森の大樹は、エリシウム島の南西の高台にある。エリシウム島は、丸い形をしているけど、この、森の大樹のある高台と、龍王城があるエリシウム山をはさんで、大きな湾が広がっている。そのせいで、エリシウム島は三日月みたいな形をしてる。だから、エリシウム湾を迂回しているととても遠回り。でも、この上を飛ぶと、紅蓮洞は、すぐ目と鼻の先だ。やはり、ここは、シップウにエリシウム山まで連れて行ってもらうのが一番。


「帰りも、また、呼んでくれ。京爺は一人で帰るんだろ」

「すまんな。一緒に乗せてもらって」

「なーに、そのうち旨いもの食わせてくれ」

「シップウが、いける口じゃと良かったのにのう」

「酒は苦手なんだ。食い物がいい」

「分かった。今度な」


 そうなのだ、京爺も一緒についてきた。実際は、親友のバクバのところに行って、お酒を飲むのが目的。名目は、ユミルのお母さん、ヤイカに調べてもらっている炎帝のマントの話を聞くこと。


「みんな頑張れよ」


「京爺、ちゃんとヤイカの話を聞いてきてよ」

「朝から飲んでいたら、ヤイカさんに追い出されるんだから」


「わーとる、わーとる」


 京爺は、跳ねるようにエリシウム山を降りて行った。


 サラと二人で京爺に釘を刺したところで、「さてと」と、言う感じで、みんなサラのところに集まった。火龍王様と、話をするためだ。サラの首輪にある龍眼が光った。


「おじさま、何か新しい情報はない?」


― うむ、千日草なのだが、浄化作用があるそうだ。わしも、地下水近辺に千日草を植えるのは大賛成だ。あれは、スミネ川の源流にあたる


「火龍王様、ありがとうございます」


― ヒイラギよ。せっかくエリシウム山に来たのだ。龍王城に顔を出してくれ。皆も、ホムラの顔を見に来てくれ


「今日の探査の出来次第だよ」

「実は、ここに来る許可を貰うのが精いっぱいだったのです」


― 学校のことだな。アクアも済まなかった。学校側には、口添えしたのだ


「二人とも、随分、学園長と和解したのですよ」


― ウィンディも口をきいてくれたのか?


「とんでもないです。二人の直談判です」


― クリスタには、それが一番だということか。覚えておこう。では、探査を開始しよう


 私は、人差し指を親指で支えて、『エクスペクト』を発動した。詠唱は、していない。それでも、オーラを見ることが出来る私たちには、とても明るい光だ。


― 千里よ、タクトはどうした


「まだ、危険だって、持たせてもらえません」

「昨日も、エクスペクトが暴走しちゃって大変だったんだよ」


― ワハハハハ


 笑い事じゃあないんですけど。


 最初、崖のようなところを降りていく。実は、私もサハテを使えるようになるよう修行しているので、ちょっとだけぷかぷか浮く。小さい子が、30センチプールで、ぷかぷかしている感じ?これでも一応、成長しているのだ。


 全員で、10メートルほどダイブした。地に足がついても、まだまだ、急勾配が続くので、ぷかぷかした感じで降りていく。紅蓮洞は、溶岩の噴出後だと聞いていたから、熱いのかと思ったけど、それは、ずいぶん前の話で、どちらかというと涼しくなっていく。最初、エリシウム山の火口に向かっていたが、途中から、エリシウム山を周回するようなコースになり、歩けるようになった。


「千里、モイスチャーを感じますわ」

「水の音もするわね」


 アクアと、ウィンディが、地下水が近いと、言ってきた。


「みて、壁面が赤いね」


― これが紅蓮洞の言われだ。千里、もっと明るくしてくれ


 私は、指二本を光色化させた。


「すごい、工事しなくても天井高いね」

「ほら、川よ」

「鍾乳石の池もありますわ」


「おじさま、ここは?」


― マグマだまりの跡だろう。では、ずいぶん奥まで来たということか。落ちるように進んだからな。それにしても見事


 私たちは、天井を見上げた。これは、ドワーフの小さな村ができるぐらいの面積。私の光色では、分かりにくいが、天井には、ヒカリゴケがびっしり生息している。


「火龍王様、ここは、安全なのでしょうか。私には、新天地に見えます」


 ヒイラギは、ここが、土の国の、国民の住まいになると思った。


― 皆で、調べてみるといい。サラに力を送って、意識を広げなさい


 そう言われて興味津々で、ヒイラギの背中を押した。最初にウィンディが、風の通り道を見つけた。


「山頂から地下水に向かって、風の通り道があるわ。ここは清浄よ」

「川の水も綺麗ですわ」


― ドワーフは、元々生活用水を浄化して、川に水を返すのであったな


「食料プラントも再生タイプです」


― エリシウム山の番人として優秀か。さっきヒイラギが期待していたことは、皆で相談することとしよう


「ありがとうございます」


「みんな見て、ローグ隊長の言っていたとおりよ。奥がとっても深い」

「それも放射状ね。ここにマグマが集まって来たのが分かる」

「この下にある岩盤の性もあるんじゃないかな」


― 火岩石はマグマの噴出口跡で採れるものだ。千里は、そっちが目的だったか?


「もう、ローグ隊長にもらいました。採取の許可をくださって感謝します」


 火龍王様は、龍王城の家臣や飛龍飛翔隊、リザード親衛隊にとって、とても怖い王様だが、私たちには、とても優しい王様だ。最近、サラのように、近しい感じで話しそうで、自分が怖い。


「千里が通れる道が3本あるわね」

「これ、全部調べたんだ」

「奥の道が、一番なだらかだよ」


― 千里、何か感じるか


「何かって、温かい感じの事ですか。大きな岩盤をはさんだ、この下から感じます。この岩盤の性で、マグマの小さな通り道がいくつもありますね」


「千里、その温かいところをフォーカスしてよ」

「ほら、私たちがいる、大空洞の入り口の真下。でも、行くのめんどくさそう」

「本当ね!温かい感じがする」

「そこに行って見ましょう」


― まてまて、生き物はどうだ。ヒカリゴケが、これだけ群生しているのだ。光ゴケムシがいても不思議ない。この空洞でよい。もっと集中してみろ


「いる。いっぱいいる」


― みんな分かるか。ここには、小さな生態系ができているということだ。これを壊すことは許さん


「光ゴケムシも、光るんだ」

「綺麗ね」

「火龍王様。私たち土の妖精は、光ゴケムシと共栄できます。ドワーフは、騒がしいですが、それだけだと分かると、光ゴケムシは、逃げません。多分、地下水の支流を作って、下の層にヒカリゴケを移植すると思います。そうすれば、共生できます。そこは、私たちのベットタウンにもなります」


― なるほどな。下の層に今の環境を作るということか。こんど、土の世界を案内してくれ。土の世界の文化も奥が深そうだ


「喜んで」


 ヒイラギが、土の世界の全権大使みたいなことをやってる。偉い人が、鯱張るより、この方が、話が早いかも。火龍王の為にもサラは、これからいろいろな所に行くだろう。火龍王様も見分を広げるということね。


「下層へのルートは、頭に入れました。皆さん行きましょう」


― よしよし、行こう


 アクアが、ぽんと、扇子を手の平でたたいている。水の国は、レディファースト。そのため、女性が、前に出る。火龍王様も、それが嫌じゃないみたい。文化というのは直接触れてみないと感じることが出来ないものだ。話だけを聞いていると、女が前に出て何事かという話になるが、体験してみると、なんだかニコニコしてしまうものなのだ。

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