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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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和服はいいけど、洋装は全然だめだから

 あゆが、学校に来てくれるようになって、私は、学校で、落ち着いて勉強できるようになった。女子の比率が高い学校なのに、友達がいなかったからだ。トニーと二人だけだとちょっとね。トニーは、なんとなくフランクに友達を作っているようだった。外食ばかりしているから、その辺がきっかけかな。


 学校には、トータルビューティー科や美容科があって、授業で使われていない時間帯なら、エステの機材を使い放題。お腹ぴくぴくなどを体験できる。クラスメートの中には、美容科の先輩に捕まって、髪を切られ、ちょっと斬新な髪形になった子がいた。なんだか楽しい学校だ。他の科がメインの内容の先生がいるから、平たくそれらの授業もある。メイクも気になるし、ネイルもそう。

 だけど、私たちは、服飾科だ。この学校のメインでもある。校長先生の間野先生は、学校の先生方の着付けの師匠でもある。だから、着物の着付けは、出来て当たり前。最初の方で教わることになる。トニーは、涼夏堂で、課外授業を受けないとダメなぐらい出来の酷い人だった。でも、先生たちは、大目に見てくれた。2年かけてゆっくりやればよい。本人は、1年で、イギリスの大学に戻る気なので必死で、やっているようだった。


 昼休み。

 二人に、息吹の蓑衣の話をする。こんなデザインだと、絵に描いて見せた。


息吹の蓑衣には、袖がない。本当に、ミノムシの蓑みたいに、ずんぐりしたデザインだ。この中に隠れていれば、どんな環境でも生きながらえることが出来るのだ。とってもありがたい服なのだが、これじゃあ、この服を着て町中を歩きたいとは思わない。


「これなの?、これって被り物?ぬいぐるみよりひどい」


 実際、ミノムシの蓑から手足を出したようなデザイン。


「でも、この手足の部分と首の部分を引っ込めて、蓑の中に隠れたら、暑さも寒さも感じなくて済むんだよな」


「そりゃそうよ。中は異界だもん」


「貴重な衣だって言うのは分かるけど、全身隠れなきゃあいけないの?」

「なるほど、アーマーだと考えると、そうかもな」


「でも最初は、これを作らないと、息吹きの蓑衣を作ったって、認めてもらえないよ」


「そうだけど、自分たちで考えたデザインの息吹きの蓑衣があってもいいんじゃないかな。一緒にそれも作ってみたら?」


「みんなに相談してみる。あゆも付き合ってくれるんでしょ」


「私、和服はいいけど、洋装は全然だめだから」


「和服のデザインでいいよ。考えてみて」


「じゃあ、ぼくが、洋装かな。軍服だと、過酷な環境下に耐えられるようデザインされているんだ」


「男物ってことね。お願い。それで、着付けの方は、どお」


「今日も、マネキンの方だよ。まず、着こなしなさいだって」

 トニーが、がっかりしている。


「仕方ないよ」


「もう、着付けをやってるの?」


「そうか、あゆは、初めての授業ね」


「休んでいたから仕方ない。初めてだったら、ぼくのマネキンになってよ」


「あゆは、もう、仕事ができる人なのよ。やっぱりトニーがマネキンね」


「はー、道のり遠いな・・それも、まだ、レディース」


 ここは、大学と違って食堂がない。空いている教室で、コンビニ弁当を食べながら、3人で話している。私たちがコンビニ。トニーがスタバのカフェラテを買ってきて、それなりに充実した昼食をいただいている。普通の教室なので、他にも1年生がいっぱいいる。でも、なんだか遠慮して、私たちを遠巻きにしている感じ。


「私は、あゆと組みたいから、トニーは、誰かをゲットしてくるのよ」


「いいけど、女の子?」


「そりゃそうでしょ」

「まだ、男物は、やっていないんだ」

「そうよ」


「ぼくって大きいから嫌がられるんだよ」


「私が見てあげる。千里が一人捕まえてきて」


「仕方ないか」


 そんなわけで、たまたまこっちをずっと見ていて、私がそっちに向いた時に、目をそらし損ねた、一人でお弁当を食べている可愛い子に、声を掛けて、ゲットした。


「自己紹介して」


「港明美です18歳です」


「みんな18歳よ」

 専門学校は、年上もいるので、そうでもない。


「トニー・マーティンだ。ぼくのマネキンになってくれるんだろ」


 トニーの奴、いきなり明美の手を握って、自分のマネキンにしようとした。


「ダーメ。今日も、トニーがマネキンに決まっているじゃない」


「OH、NO」


「それぐらいで頭を抱えない」

「マネキンしながらでも覚えられるよ」


「明美は、私とペアね」

 私は、学校で友達をゲットした気分。


「えっと、この人は?」


「私は、平賀あゆよ。よろしく」


 午後は、楽しい授業になりそうな予感がした。



 座学の後、すぐ実地になる。要は、習うより慣れろ方式だ。着付けの担当の青井やえ先生は、他の先生が、みんな頭を下げているから、学校で偉い人のはず。でも、とても優しくて腰の低い人だ。トニーに我慢強く教えている姿は、神々しいと思ったほどだ。


 トニーと明美が、白い襦袢じゅばんを着てやって来た。トニーのは、半襦袢はんじゅばんに見える。


 着物の良いところは、お端折りで、身長プラスマイナス5cmぐらいは許容範囲になることだ。ここは、着物の丈も豊富にある。なので、女子は、どの着物も着れる。いかんせん女物でトニーの丈に合うものはない。そこは、授業なので、仕方ない。


 私は、明美に駆け寄った。大人しそうな子なのに、襦袢の下に着ているTシャツが、パンクロック調の黒にドクロだったので、人は、見かけによらないなと思った。


 私の場合着付けは、涼夏堂の美代さんを師匠と仰いでいる。東京に出て、最初に教えてくれたのが、美代さんだったからだ。あゆの場合は、お父さんになる。


 トニーが、いつもの不平を言い出した。


「ほらっ、ひざ下なんてありえないだろ。動きにくい」


「昔の子供は、こうだったの。仕方ない。ほら、動いてみて」


「あれっ、キルト(スカート)見たいに動きやすい。あゆ、このままで行けるよ」


「トニーが、細かったしね。着物を好きになってもらいたいから」


 私は、いいえ、私と明美は、それを見て驚いた。私たちの着付けとどこが違うのかわからない。


「あゆ、私にも教えて」

「トニーさん、暴れているのに、なんで、はだけないの?」


「ごめんね。内緒って分けじゃないけど、基本を覚えてからよ」


 私たちが、わいわいやっているとき、一部のクラスメートは、教室の後ろのドアで、三つ指ついて、お辞儀している間野校長先生を見ていた。着付けの教室は畳。そこに、お弟子さんである青井先生が、駆け寄って、「ちょっと席を外します」と言って、校長先生を伴って教室を後にした。校長先生が、なぜ、そんな行動をしたのかわかるものは居なく、青井先生も困惑していた。


 あゆは、帯揚げだけで、トニーが動きやすいようにしていた。それが分かる校長先生が、新しい着付けだと、目から鱗を落としていたのだ。実際は、涼夏堂伝統の子供結びの応用でしかない。


 校長先生は、それから、ちょくちょく私たちの授業を覗きに来た。日本には口伝見伝の伝統が残っている。見て覚えるしかないのである。


 せっかくできたクラスメイト。バイトの時間ぎりぎりまで、近所のスタバで、明美と話した。そのうち妖精カフェに来てと明美を誘って別れた。今日、やっと東京生活が、広がった気がした。


 午後バイト。トニーと私は、東京。あゆは、精霊界側に行って、バイトをする。あゆは、精霊界側の食べ物を食べたり空気を吸って、もっとなじまなくてはいけない。お客さん対応することで、妖精たちと流ちょうに話すのも大事だ。


 閉店後、トニーは、にゃんこ先生と帰って、精霊界の話を聞いている。現在、アンナから、魔法の話をしてもらっているのは、あゆだけ。私たちは、おしゃべりしながら、ガラスの糸をつむいだり、絹糸を紡いで過ごしている。サラが作る炎帝のマントの事を京爺に相談したら、


「ちょうどええ、暇なのを一人知っとる。それに調べさせるか」


 そう言って、喜んで、リザードマンの親友、族長のバクバに連絡してくれた。バクバの息子の嫁でありユミルのお母さんであるヤイカに頼んで、龍王城の王立図書館で、炎帝のマントのことを調べてもらうことになった。龍王城の王立図書館に、フリーパスで入れて、なおかつ暇な人は、ヤイカしかいない。


「いずれにしても、糸をつむぐのをうまくなれ。他の衣を作るのだってそうじゃろ」 


 京爺がそう言うので、今できる妖精の糸をみんなで紡いでいる。これって修行なのかな。楽しいけど。


 私たちの話は、もっぱら、息吹の蓑衣の話。まずは、この衣を何とかしたい。ウィンディの天女の羽衣は、羽衣がふわふわ浮くらしい。糸が相当細いそうで、先送り中。超難関の衣。アクアの癒しの水衣は、マスターが調べてくれている。やっぱり、ヒイラギの息吹の蓑衣の素材である紅アゲハの繭が、目の前に見えているので、みんな、その話をするのである。

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