猫族の玉がやって来た
東京側の妖精カフェは、アンティークの店とカフェになっている。マスターは、コーヒー豆や紅茶葉を卸してくれているヤマメ屋のご主人と幼馴染。ヤマメ屋のご主人と奥さんも、妖精が見える。ヤマメ屋のご主人の趣味というか仕事は、喫茶店のディスプレイ。私たちのマスターがその気になるのなら、アンティークの家具で、お店のトータルコーディネイトをするぞ。仕事をいくらでも回してやると、以前からいわれている。
ここに力仕事ができるトニーが加わった。ところが、トニーの本業は、物理学。マスターの本業も物理学。この話で、二人とも盛り上がって、仕事そっしのけ。3か月後に来るリチャードがパワー系なので、マスターもトニーも、アンティークは、のんびりやる気らしい。結局、トニーもカフェ側を手伝うことが多くなった。
午後の東京 妖精カフェ
チリリン
「OH、ママここね」
「いらっしゃい。あれ?モーリスさんは」
「モーリスは、仕事よ。リリィ、千里よ。千里、以前話したでしょう。リリィよ」
最近、モーリスさんが良くメアリー婦人と一緒に来店してくれる。ここは、アンティーク調なので落ち着くそうだ。
モーリス家は、アメリカ、テキサス州の人。リリィさんは、シュッとしていて、キャリアって感じ。歳は、26歳。イギリス人のクリスさんと同じ年。
「とにかく最初は、エスプレッソ飲んでみて」
「カフェラテでいいよ」
「飲んだら分かるから。千里、2つお願い」
メアリー婦人は、此処のエスプレッソを好きになってくれた。普段は、カフェラテを飲んでいるのだが、うんちくを娘さんに垂れたいのだ。
「あれ?飲みやすい」
「でしょう」
「ありがとうございます。リリィさんは、お仕事が忙しいって聞きましたけど。何しているんですか」
「IT系企業よ。開発部にいるのよ。でも、下働きばかり。面白い仕事は、していないわ」
「すごいですね。私は、そっち系は全然ダメなので、開発部と聞いただけで尊敬です」
「ありがとう。でも、本当は、日本で暮らしたいのよ」
「駄目よ、もったいない。大手のキャリアなんて、なかなか入れないんだから」
「お父さんの仕事に興味あるのよ。お母さんとコーンブレッドだって一緒に焼けるし」
「もう・・」
モーリスさんは、日本の文化を世界に発信している人。リリィさんは、お母さん子で、両親と一緒に暮らしたがっているが、夫人は、せっかくのキャリアがもったいないと反対している。
「お母さんケーキは?」
「そうだったわ。千里、今日のお勧めは?」
「レアチーズケーキか、ラズベリーパイです」
「じゃあ私は、ラズベリーパイ」
「私は、レアチーズケーキを貰おうかしら。セットにしてね。カフェラテのショートを二つおねがい」
ここは、お客さんがあまり来ない。隠れ家的なお店だ。そこに、新たなお客さんが入ってきた。
チリリン
「いらっしゃいませ」
なんと、お客さんは、茶色と白のまだら模様の猫だった。私は、一目見て、彼が、玉だとわかった。
「玉、もう、来ちゃったの!」
にゃん
「あら、立派な猫ちゃんね」
「タマって言うの!」
にゃーん
玉は、メアリー婦人と、リリィの足元を回って、あいさつした。二人とも、ケーキそっちのけで玉のところにしゃがんだ。
「タマは、どこの猫?ご近所さんなのでしょう」
「それが、野良なんです」
「まあ、そうは見えないわ」
「気品があるもんね」
それは、そのはずだ。玉は、猫族の勇者。とても強いし礼儀正しい。私を見守りに来ると、擬人化人誕生祭の時に言っていたが、もう来た。
玉は、メアリー婦人とリリィに頭やお腹を撫でられて気持ちよさそうにしている。こうしてみると、人懐っこい、人たらしのただの猫だ。
「玉、ミルクを飲むでしょう。ここはカフェだから、お魚はないわよ」
にゃん
玉が、ぴくっと起き上がった。
「お魚が好きなのね」
「それはそうよ。今度食べにいらっしゃい」
本当に、人たらしだ。食事を1食ゲットした。二人が夢中になっている。
「カウンターの中に来て」
にゃ、にゃん。
カウンターの中に来てって言っているのに、カウンターの上に乗っかってしまった。それでも、メアリー婦人と、リリィからしてみるとクレバーな猫ちゃんだ。
「すごいわ、言葉が分かるのね」
「すいません」
「どうせ、私たちしかいないし。大丈夫よ」
「タマちゃん、一緒にお茶しようね」
にゃう
メアリー婦人と、リリィが、大満足して帰ってくれた。ご近所のお客さんが増えそうな予感。
そこに、トニーが帰ってきた。今日は、ヤマメ屋に挨拶に行っていた。そこで、カウンターの隅に蹲っている玉と対面した。
トニーは、いきなり、クルミの木のタクトを取り出して、玉に対峙した。私はその時、アンナを呼びに奥に引っ込んでいたのでカフェに居なかった。マスターがトニーを連れてヤマメ屋に行っていたのだが、車を駐車場に入れに行っていて、マスターもいなかった。
「この化け猫、何処から入ってきた」
ふにゃん?
玉は、ミルクを飲んで、ちょうど眠くなっていたところ。いい加減な対応をした。店の奥の暗いところにいて、玄関を見たものだから目が光って、余計、化け猫らしくなった。トニーは、それをトリガーにしてしまった。
「出ていけ化け猫。タイガーオブ・パトーナム」
ガオン
光のタイガーが、一直線に玉に向かって走る。トニーは、まだ修業の身。可愛いタイガーしか出せないが、それでも猫には、威力十分。
ふわーーー
玉は、これをいとも簡単に霧散させた。
― 若いの、敵と味方の区別もつかんのか
強烈なテレパシー
「貴様が、異形の者であるというのは、すぐわかったぞ」
― 筋は良いが、修行中だな。我らの主様の見習い騎士という所か。人の一生は短い、同年代を主様につけるのは妥当だが、こう、粗忽ではな
「なにを言っている、出ていけ」
― ふん
にゃにゃーにゃにゃ 〈天地逆転〉
トニーは、前後左右天地が逆転して、自分が何処にいるのか一瞬分からなくなった。
これは、闇魔法
― 話を聞け若者
「トニーだ」
― なら、トニー。我は、千里の客人だ。見ろ、ミルクをくれた跡があるだろう
「千里を騙して近寄ったんだろ」
― トニーより千里の方が目が確かだぞ。主を信じよ。貴様は、精霊界のことを知らなすぎだ
「くそ、まともに戦えない」
― そろそろ気づけ。我が敵なら、貴様は、もう殺されている。仕方ない
にゃにゃ、にゃ! 〈金縛り〉
トニーは、その場で動けなくなり、床に這いつくばった。
― もうすぐ千里がアンナを連れてやってくる。それまで待て
私は、アンナに猫族の勇者、玉が、もう来てくれたと呼びに行っていた。戻ってみると、トニーが、床にはいつくばっていた。
「千里、逃げろ」
わたしは、口を両手で抑えて驚いた。アンナは、状況を察した様だった。
「タマさん、ごめんなさい。トニーには、精霊界のことをまだ教えていないのよ」
にゃん
「トニー、ここにいる猫は、猫族の勇者、玉よ。安心して、味方よ」
私は、トニーに駆け寄った。
にゃ 〈解〉
「はー、はー」
トニーは、金縛りに相当抵抗していたようで、息が上がっている。
「大丈夫?」
トニーは、そこにへたり込んだ。
「猫族だったんですか。どうりで、器と力の大きさが合わないと思った」
にゃにゃーご
― それが、分かっただけでも及第点だぞ
玉は、トニーにだけ、テレパシーを使っている。私とアンナは、猫語が分かる。玉は、とても優しい勇者なのだ。
ただ、私とアンナには、「それにゃけ、分かっただけでも、及第点だにゃ」と聞こえているので、実際は、ちょっとカッコをつけている。
にゃん、にゃにゃーご、にゃんにゃん
「本当ですか。助かります。トニー。玉が、修行を見てくれるって。玉は、光の魔法使いよ。闇魔法も使えるすごい人よ」
にゃん、ふぅにゃん 「千里よ。玉より、にゃんこ先生と呼んでほしいにゃ」
「にゃんこ先生って、トニーが呼べばいいんじゃないの」
「はー、先ほどは、すいませんでした」
トニーがやっと、一息ついた。私は、コップに水を汲んで、トニーに飲ませているところ。
にゃにゃ。玉は、耳を掻きながらトニーを褒めた。
― いい反応だったぞ。騎士は、そうでなくてはいけない。だが、知識が足りない。精霊界から、我のような者が、まだ来るぞ。先に精霊界の知識を学べ
「そうします。にゃんこ先生」
「分かったわ、にゃんこ先生ね。にゃんこ先生、いつも雑貨店ばかりじゃなく、たまには、カフェにも来てくださいね」
アンナは、にゃんこ先生肯定派。
「まいったにゃ。でも、ミルクは、悪くなかったにゃ」
「でしょう。当分こっちに居てくれるんでしょう」
私も相槌を打つ。
「ぼくがミルクをおごります」
「我は、魚がいいにゃ」
みんなで笑った。にゃんこ先生は、トニーを修行するために、しばらくトニーのところで世話になると言っていた。




