表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
72/96

世界が動く

 擬人化人誕生祭が明けた日、ヒイラギのお父さんに、ヒイラギ家に呼ばれた。ヒイラギが作る『息吹の蓑衣』の素材。紅蓮洞の紅アゲハの話を聞きに行く。私のお風呂用の火岩石は、そこまで急いでいないんだけど、ヒイラギのご両親って、テンション高いから。


 妖精カフェが引けた夜、みんなヒイラギ家で夕食が食べれると喜んで、ヒイラギの家に向かった。私は、食べる量が多いので、カフェでサンドイッチを作って持さん。それでも、ヒイラギ家の味を試食するつもり。


 ヒイラギ家は森の大樹から北に行った巨木の根元にある。私でも入れるお屋敷だから、とても立派。ヒイラギ家の家内の人や家臣家来がいっぱいいて、整列して迎えてくれた。私は、恐縮して、ペコペコ頭を下げながら、屋敷に入った。


 でも、ヒイラギのご両親はデーンと構えている人ではない。門まで、そわそわと私たちを迎えに来て歓迎してくれた。


 なんか、ホッとするご両親だなー


「千里さん、アクアちゃんに、サラちゃん、それにウィンディちゃんも、ようこそいらっしゃいました」


「お母さん、みんなをちゃん付けで呼ばないでよ。みんな、もうすぐ成人だよ」

 妖精界は、18歳で成人。トラングラー魔法学園を卒業すると成人と認められる。


「あら、ごめんなさい」

「まあいいではないか。皆さんようこそいらっしゃいました。食事の前に会ってもらいたい人がいるんだ。いいかな」


「はあ」

「はい」

「お邪魔いたします」

 みんな思い思いに、いい加減な返事をした。本当に、ヒイラギのご両親って、テンション高い。いつも、ヒイラギの、のんびり振りを見ているからギャップがすごい。


「昨日、擬人化人誕生祭があっただろ。妖精王のヒース・マウンド様と、そのご家族が、まだ、当家に滞在中なのだ。そこで、ちょっと難しい話の相談もある。みんな、会っていくだろ」


 会うも何も、そんな重要なことは、先に言って欲しかったと、みんな思った。ヒイラギもなー、その辺どうでもいい人だから。


「お忍びの話と言うことですか」 アクアはこういう時一歩前に出る。


「まあ、そんな所かな。妖精界に、激震が走ったりして、ワハハハ」


 なんだろ、先に話の内容が聞きたい!


「会食の間に行くだけですよ。その後は、みんなで食事をしましょ」


 お母様は、おおらかな人だ。でも、なんだか、ヒイラギ家に巻き込まれる予感。


 会食の間と言っても、私のために広間をそう仕立てたので、私も楽ちんに、参加できた。


 土の妖精王一家がずらりと並んでいる食卓。そうは言っても、前王やそのお妃さまは、さっさとヒース王に王位を譲位して、悠々自適。若い王には、私たちと同い年の王子と、まだ5歳の幼い弟がいる。次期土の妖精王は、魔力の強い次男のノーグの方。そして、ヒース王のお妃さまは、とても優しそうで美しく王と仲睦まじくしている。


 ヒイラギは、長男のティルと幼馴染。ティルの横に座った。アクアとサラは、次男のノーグを囲んだ。かまってちゃんぽかったので、相手をしてやるつもりだ。ウィンディは、ただ事でない様子を感じて、王やヒイラギのお父さんから一番遠いところに座った。


 ウィンディが、「さっさと挨拶して食事にするわよ。千里は、とにかく、いろいろ聞かれても即答を避けてね」と、この場を仕切ってくれることになった。


「ノックおじ様、リャナンシー様。お招きありがとうございます。ヒース王に置かれましてはご壮健でいらっしゃる。イバラ様は、ますます美しくなられましたね」


「ウィンディ、堅い話はそれぐらいで」

「ノック、こういう話も嫌いではないぞ。おばあ様は、お元気でおられるかな。先代の風の女王には、世話になった。ノーグが、第一王子だ。いい子を授かった」


「ぼく、王様になるのイヤ。友達出来ないんだもん」


「王子様、国王様になると、世界中の人と会えますよ」

「友達なら、わたくしたちがなります」


「本当!」


 サラとアクアが、ノーグ王子をちやほやしちゃって大変。

 それが嫌でない親王が、ニコニコしだす。これを見たヒイラギのお父さんが話を変えた。


「千里、せっかく来たんだ。ヒース様にゴールドヘクロディアをお見せしなさい」


「はい」と言って、食卓に顔を近づけた。


「ノーグ様も見るでしょう」

「うん」

 サラとアクアがノーグ王子を引っ張る。みんな浮くから、かぶりつきで見てくれる。


「美しいな」

「まるで星空の様ですね。あなた」


「ヒイラギ、千里と契約したのだな」


 頷くヒイラギ。今日のヒイラギは、長男のティルに寄り添ってなんだかしおらしい。


「そうか、土の国の妖精界も安泰だな。なっ、ティル」


「しばらくは、ヒイラギを自由にさせてくれるのでしょう」


「ノーグに、サラとアクアが付いてくれたのだ。今さっき初めて、王もいいかなと思ってくれた。だから、二人とも結婚しても自由ではないか。しかし、ティルの言う通り、しばらくは、ヒイラギの好きにさせよう」


 衝撃の事実。ヒイラギって、婚約者がいたんだ。ティルもヒイラギもイヤそうじゃないって言うか、仲よさそうだし。王家の人って、幼馴染が許嫁って本当にあるんだ。


「ヒイラギ、結婚するの?」


「えへっ、まだ先の話。妖精カフェで働きだしたばかりだよ。これから千里と、いろんなところに行きたいし」

「千里さん、皆さん、ヒイラギをよろしくお願いします」


「は、はい」

 ティルっていい人だー。


 みんなより遅れて、先王様とお妃さまが、私のところにやって来た。二人も、結構かぶりつき。


「あなた」

「そうだな、ヒースとノックの提案を認めよう。千里は、精霊界に慣れたかな」


「まだです。魔法も、みんな、とんでもないって教えてくれません」


「ほほう、魔力が強すぎると言うことか。魔法は、世界に繁栄をもたらしてくれるぞ。土の秘術は、そのうち、わしが教えよう」


「本当ですか!」


「なあに隠居の身じゃ」

「もう少し修業を積んでからですよ、あなた」


「フォーク様、千里は、魔力は強いのですが、範囲とか魔法力とかを全く調整できていません。しばらくは無理だと存じます」


「そうなのか? まあ良い、試しに、みんなで遊びに来なさい。もちろん千里も歓迎じゃぞ」


 試しに?

「ありがとうございます」


 先王は、現王に振り向いて宣言した。


「ヒース聞け。ノック・ドヴェルグの提案を受け入れようぞ」


「父上、本当ですか」

「世界が動く」


 ヒース王が喜び、ヒイラギのお父さんは、肩の荷が下りたと言う顔をした。


 ウィンディは、やはりタタごとではないわと、身構えている。こういう情報戦に強いのは、ウィンディだけ。みんなは、のほほんとしている。



「ノックおじ様。提案と言うのは?」


「ウィンディ、良い話だぞ。とにかく、みんな席に着こう。フォーク様もよろしいですか」


「久々に、覇気が上がったぞ」

「父上、現役に戻られますか?」

「バカ言え、頼んだぞ、ヒース」


 ヒース王も多分、イバラ様とのんびりしたいんだろうな。土の国って、ヒイラギみたいにのんびりしている人が多いのかもしれない。




 みんな席に着いた。アクアとサラは、ノーグ王子をもてあそんでいる模様。それは、置いといて、みんな、ヒイラギのお父さんに注目した。


「我が先祖。イーシュ・ドヴェルグ王が、なぜ、土の妖精の、中興の祖と言われたか。それは、世界の情報をつかんでいたからなのだ。ヒイラギが、千里と契約した時。二人には、『息吹の蓑衣』の話をしただろ。この服の元となっている紅アゲハの繭は、異界にある。この異界は、惑星パグーの、精霊界の各地に繋がっている。ドヴェルグ王は、これを利用して、世界より情報を得ていたのだ。この話は、ウィンディのところだと、エイブラハムが、喉から手を出すぐらい欲しがっている事案になるな」


「まことに」


 ヒース王が、後を引き取った。


「わしは、この、紅アゲハの異界を妖精たち全種族に、条件付きではあるが、解放しようと思っている。これが成れば、世界は、平和に傾くぞ。世界中の情報を妖精たちが共有できる。我々が、精霊界の平和を紡ぐ者になるのだ」


「実は、この紅アゲハの道は、イーシュ・ドヴェルグ王の御代に、イーシュ王本人の意向によって閉じられた道なのだ。これは、ドヴェルグ家にだけ伝わる話だし、入ることを禁じられているので、確認はしていないが、紅アゲハの異界に入ると、強い気に押されて、頭が痛くなる。原因は、古の龍の残留思念であると言うことだ。みんな、調べてくれるだろう」


「私たちがですか!」

「面白いんじゃない」

「どうせ行こうと思っていましたし」

「みんなありがと」


「なぜ、私たちなのですか」


「ウィンディも聞いたことがあるだろう。黒龍王の話。異界とは、多分人間界のどこか。そして、残留思念は、古の龍のものに違いない。ここには、その世界の千里がいる。そして、千里と契約した4人の四大精霊。適任だと思わないか」


 この時、聖龍王の話は、誰も知らない。


「はあ‥、危険は、どうなのでしょう。それと、口幅ったいですが、見返りは?」


「危険と言われても、ここを我々は通っていたのだ。伝承以上のものは無いと思う」


「見返りか。紅アゲハの繭を取ってよいのは、そなたたちだけとする。どうだ、いい話だろう」


「その方が、ここを管理しやすい。いい采配じゃぞ、ヒース」


 ヒース王の話に、ウィンディの心が激揺れした。ほとんど、紅アゲハの異界を探査する方に傾いた。


「そのお話、お受けします」 即断即決。


 この話は、火龍王と、ナウシカ女王を通して、風の国の情報方の責任者、エイブラハムに伝わることととなった。ナウシカさまは、これによって、エイブラハムに、めちゃめちゃ尊敬されたそうな。



「よし、食事をしよう。ヒース様も、ホーク様もよろしいか」


「酒を頼む。乾杯だ」

「良い晩さん会になるのう」


 私とウィンディも安心して、ノーグ王子をかまうことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ