世界が動く
擬人化人誕生祭が明けた日、ヒイラギのお父さんに、ヒイラギ家に呼ばれた。ヒイラギが作る『息吹の蓑衣』の素材。紅蓮洞の紅アゲハの話を聞きに行く。私のお風呂用の火岩石は、そこまで急いでいないんだけど、ヒイラギのご両親って、テンション高いから。
妖精カフェが引けた夜、みんなヒイラギ家で夕食が食べれると喜んで、ヒイラギの家に向かった。私は、食べる量が多いので、カフェでサンドイッチを作って持さん。それでも、ヒイラギ家の味を試食するつもり。
ヒイラギ家は森の大樹から北に行った巨木の根元にある。私でも入れるお屋敷だから、とても立派。ヒイラギ家の家内の人や家臣家来がいっぱいいて、整列して迎えてくれた。私は、恐縮して、ペコペコ頭を下げながら、屋敷に入った。
でも、ヒイラギのご両親はデーンと構えている人ではない。門まで、そわそわと私たちを迎えに来て歓迎してくれた。
なんか、ホッとするご両親だなー
「千里さん、アクアちゃんに、サラちゃん、それにウィンディちゃんも、ようこそいらっしゃいました」
「お母さん、みんなをちゃん付けで呼ばないでよ。みんな、もうすぐ成人だよ」
妖精界は、18歳で成人。トラングラー魔法学園を卒業すると成人と認められる。
「あら、ごめんなさい」
「まあいいではないか。皆さんようこそいらっしゃいました。食事の前に会ってもらいたい人がいるんだ。いいかな」
「はあ」
「はい」
「お邪魔いたします」
みんな思い思いに、いい加減な返事をした。本当に、ヒイラギのご両親って、テンション高い。いつも、ヒイラギの、のんびり振りを見ているからギャップがすごい。
「昨日、擬人化人誕生祭があっただろ。妖精王のヒース・マウンド様と、そのご家族が、まだ、当家に滞在中なのだ。そこで、ちょっと難しい話の相談もある。みんな、会っていくだろ」
会うも何も、そんな重要なことは、先に言って欲しかったと、みんな思った。ヒイラギもなー、その辺どうでもいい人だから。
「お忍びの話と言うことですか」 アクアはこういう時一歩前に出る。
「まあ、そんな所かな。妖精界に、激震が走ったりして、ワハハハ」
なんだろ、先に話の内容が聞きたい!
「会食の間に行くだけですよ。その後は、みんなで食事をしましょ」
お母様は、おおらかな人だ。でも、なんだか、ヒイラギ家に巻き込まれる予感。
会食の間と言っても、私のために広間をそう仕立てたので、私も楽ちんに、参加できた。
土の妖精王一家がずらりと並んでいる食卓。そうは言っても、前王やそのお妃さまは、さっさとヒース王に王位を譲位して、悠々自適。若い王には、私たちと同い年の王子と、まだ5歳の幼い弟がいる。次期土の妖精王は、魔力の強い次男のノーグの方。そして、ヒース王のお妃さまは、とても優しそうで美しく王と仲睦まじくしている。
ヒイラギは、長男のティルと幼馴染。ティルの横に座った。アクアとサラは、次男のノーグを囲んだ。かまってちゃんぽかったので、相手をしてやるつもりだ。ウィンディは、ただ事でない様子を感じて、王やヒイラギのお父さんから一番遠いところに座った。
ウィンディが、「さっさと挨拶して食事にするわよ。千里は、とにかく、いろいろ聞かれても即答を避けてね」と、この場を仕切ってくれることになった。
「ノックおじ様、リャナンシー様。お招きありがとうございます。ヒース王に置かれましてはご壮健でいらっしゃる。イバラ様は、ますます美しくなられましたね」
「ウィンディ、堅い話はそれぐらいで」
「ノック、こういう話も嫌いではないぞ。おばあ様は、お元気でおられるかな。先代の風の女王には、世話になった。ノーグが、第一王子だ。いい子を授かった」
「ぼく、王様になるのイヤ。友達出来ないんだもん」
「王子様、国王様になると、世界中の人と会えますよ」
「友達なら、わたくしたちがなります」
「本当!」
サラとアクアが、ノーグ王子をちやほやしちゃって大変。
それが嫌でない親王が、ニコニコしだす。これを見たヒイラギのお父さんが話を変えた。
「千里、せっかく来たんだ。ヒース様にゴールドヘクロディアをお見せしなさい」
「はい」と言って、食卓に顔を近づけた。
「ノーグ様も見るでしょう」
「うん」
サラとアクアがノーグ王子を引っ張る。みんな浮くから、かぶりつきで見てくれる。
「美しいな」
「まるで星空の様ですね。あなた」
「ヒイラギ、千里と契約したのだな」
頷くヒイラギ。今日のヒイラギは、長男のティルに寄り添ってなんだかしおらしい。
「そうか、土の国の妖精界も安泰だな。なっ、ティル」
「しばらくは、ヒイラギを自由にさせてくれるのでしょう」
「ノーグに、サラとアクアが付いてくれたのだ。今さっき初めて、王もいいかなと思ってくれた。だから、二人とも結婚しても自由ではないか。しかし、ティルの言う通り、しばらくは、ヒイラギの好きにさせよう」
衝撃の事実。ヒイラギって、婚約者がいたんだ。ティルもヒイラギもイヤそうじゃないって言うか、仲よさそうだし。王家の人って、幼馴染が許嫁って本当にあるんだ。
「ヒイラギ、結婚するの?」
「えへっ、まだ先の話。妖精カフェで働きだしたばかりだよ。これから千里と、いろんなところに行きたいし」
「千里さん、皆さん、ヒイラギをよろしくお願いします」
「は、はい」
ティルっていい人だー。
みんなより遅れて、先王様とお妃さまが、私のところにやって来た。二人も、結構かぶりつき。
「あなた」
「そうだな、ヒースとノックの提案を認めよう。千里は、精霊界に慣れたかな」
「まだです。魔法も、みんな、とんでもないって教えてくれません」
「ほほう、魔力が強すぎると言うことか。魔法は、世界に繁栄をもたらしてくれるぞ。土の秘術は、そのうち、わしが教えよう」
「本当ですか!」
「なあに隠居の身じゃ」
「もう少し修業を積んでからですよ、あなた」
「フォーク様、千里は、魔力は強いのですが、範囲とか魔法力とかを全く調整できていません。しばらくは無理だと存じます」
「そうなのか? まあ良い、試しに、みんなで遊びに来なさい。もちろん千里も歓迎じゃぞ」
試しに?
「ありがとうございます」
先王は、現王に振り向いて宣言した。
「ヒース聞け。ノック・ドヴェルグの提案を受け入れようぞ」
「父上、本当ですか」
「世界が動く」
ヒース王が喜び、ヒイラギのお父さんは、肩の荷が下りたと言う顔をした。
ウィンディは、やはりタタごとではないわと、身構えている。こういう情報戦に強いのは、ウィンディだけ。みんなは、のほほんとしている。
「ノックおじ様。提案と言うのは?」
「ウィンディ、良い話だぞ。とにかく、みんな席に着こう。フォーク様もよろしいですか」
「久々に、覇気が上がったぞ」
「父上、現役に戻られますか?」
「バカ言え、頼んだぞ、ヒース」
ヒース王も多分、イバラ様とのんびりしたいんだろうな。土の国って、ヒイラギみたいにのんびりしている人が多いのかもしれない。
みんな席に着いた。アクアとサラは、ノーグ王子をもてあそんでいる模様。それは、置いといて、みんな、ヒイラギのお父さんに注目した。
「我が先祖。イーシュ・ドヴェルグ王が、なぜ、土の妖精の、中興の祖と言われたか。それは、世界の情報をつかんでいたからなのだ。ヒイラギが、千里と契約した時。二人には、『息吹の蓑衣』の話をしただろ。この服の元となっている紅アゲハの繭は、異界にある。この異界は、惑星パグーの、精霊界の各地に繋がっている。ドヴェルグ王は、これを利用して、世界より情報を得ていたのだ。この話は、ウィンディのところだと、エイブラハムが、喉から手を出すぐらい欲しがっている事案になるな」
「まことに」
ヒース王が、後を引き取った。
「わしは、この、紅アゲハの異界を妖精たち全種族に、条件付きではあるが、解放しようと思っている。これが成れば、世界は、平和に傾くぞ。世界中の情報を妖精たちが共有できる。我々が、精霊界の平和を紡ぐ者になるのだ」
「実は、この紅アゲハの道は、イーシュ・ドヴェルグ王の御代に、イーシュ王本人の意向によって閉じられた道なのだ。これは、ドヴェルグ家にだけ伝わる話だし、入ることを禁じられているので、確認はしていないが、紅アゲハの異界に入ると、強い気に押されて、頭が痛くなる。原因は、古の龍の残留思念であると言うことだ。みんな、調べてくれるだろう」
「私たちがですか!」
「面白いんじゃない」
「どうせ行こうと思っていましたし」
「みんなありがと」
「なぜ、私たちなのですか」
「ウィンディも聞いたことがあるだろう。黒龍王の話。異界とは、多分人間界のどこか。そして、残留思念は、古の龍のものに違いない。ここには、その世界の千里がいる。そして、千里と契約した4人の四大精霊。適任だと思わないか」
この時、聖龍王の話は、誰も知らない。
「はあ‥、危険は、どうなのでしょう。それと、口幅ったいですが、見返りは?」
「危険と言われても、ここを我々は通っていたのだ。伝承以上のものは無いと思う」
「見返りか。紅アゲハの繭を取ってよいのは、そなたたちだけとする。どうだ、いい話だろう」
「その方が、ここを管理しやすい。いい采配じゃぞ、ヒース」
ヒース王の話に、ウィンディの心が激揺れした。ほとんど、紅アゲハの異界を探査する方に傾いた。
「そのお話、お受けします」 即断即決。
この話は、火龍王と、ナウシカ女王を通して、風の国の情報方の責任者、エイブラハムに伝わることととなった。ナウシカさまは、これによって、エイブラハムに、めちゃめちゃ尊敬されたそうな。
「よし、食事をしよう。ヒース様も、ホーク様もよろしいか」
「酒を頼む。乾杯だ」
「良い晩さん会になるのう」
私とウィンディも安心して、ノーグ王子をかまうことにした。




