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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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舞台は、大盛況

 ドドンと太鼓で、舞が近いという合図が鳴った。皆さん、あんなに騒いでいたのに、境内が鎮となる。有翼人と風の妖精合同の楽師によるお囃子が始まった。


 このお囃子は長い。これを機に、社殿の奥の控室に行って、浴衣に着替える。ここで涼夏堂の、日本人の心意気を見せる。あゆに着替えを手伝ってもらって、急いで拝殿側の観覧席に戻った。まだ、ターシャとサーシャは現れていない。間に合ったと思った瞬間、歓声が上がった。


 ターシャとサーシャは、社殿の奥から飛んで、舞台に現れた。演出効果満点、みんなどっと盛り上がる。でも、小さな音の序曲が始まると、また、静かになっていく。私は、この間に、みんなが集まっている拝殿側の観覧席、階段側の上段に帰った。ここに、絵師さんもいる。一応、舞巫女の関係者と言うことで、一般人としては、一番良い席を陣取らせてもらった。


 風舞いが始まった。触りだけは、見ていたので知っていたが、二人とも風になびく花のよう。長い髪がたなびき、衣装が風に舞う。そして二人も。その中で、本当に小さなワンポイントだが、袖にある羽が、軽やかに舞い、キラッと光る。私は、手を合わせて喜んだ。


 あゆは、着付けが心配だろうなと思って、あゆの方を見ると、その奥にいる絵師さんが、狂ったようにデッサンを掻きまくっていたのが、目に飛び込んできた。隣にいる弟子の男の子が、書きなぐられた絵の裏に番号を振っていた。


 これを見て、お代が、1ゴールドじゃあ、安かったんじゃないかと思う。とにかく、絵師さんの仕事に満足した。


 この絵師さん、ヤタさんは、肌が浅黒く精悍な人だ。どっちかって言うと絵師さんと言うより、修験道の山伏と言う感じのいかつい人。なのに、ちらっと見たデッサンは、大胆かつ繊細で、私が注文した、袖のワンポイントが絵に生きるようにポーズを見てくれている。良い絵が仕上がってくる予感がした。

 ヤタさんは、サーシャの紹介。本当に良い人を紹介してもらった。



 舞も進んで、どの舞巫女も必ず舞う古舞踊の場面が来た。これは、どの年にも舞われている。


 宵野明星、言ったればー

 里が恋し、人恋しー

 妻の雉芽きじめは、子が出来ぬ

 そは、一時の我慢なりし事を知らん


 傍らの猫、郷里の隣人瓜二つ

 人にしようか、止めようか

 いっそ変化の猫になり

 擬人化人、擬人化人誕生せしむ



 猫族は、1万年前に誕生した最初の擬人化人だった。擬人化人の長のような存在なのに、そんな感じが全くしない。

 そう言えば話していて、確かに人形なのだが、彼らが猫だと言われても、違和感ないなと思っていた。


 舞が終わり後奏になった。


 舞巫女は、しづしづと帰って行く。この後奏には、他の擬人化人の成り立ちが分かる曲が連なっている。分かる人には、分かる壮大な交響曲。擬人化人誕生祭は、奥が深いのだ。


 曲が終わって初めて、翼人族の族長ザキエルが短い挨拶をした。内容は、皆さんよくおいでくださいましたと言うもので、とてもシンプル。私が驚いたのは、その、最後の挨拶まで観客が、誰も席を立たなかったことだ。



 巫女舞が終わって、観客が口々に、今年の舞もよかったねと帰って行く。みんな、参道の屋台でくつろいだり、天空園の名所を見て回るのだと言う。その間に、大急ぎで、境内の風舞いの舞台が取り払われる。そうやって、観客たちは、また、風人神宮の境内に戻ってお参りするのである。


 私とあゆは、ターシャとサーシャの着付けを解きに行かなくてはいけない。サラは、火龍王様が、風龍王様と話したいと言うので、両親とメイド長のしのを連れて、そちらに向かった。アクアは、水竜王様に、ご自分のオーラのスーパーノバのことは、天空園の天竺書庫で調べればわかると言われていたので、そこに、アクアのメイド長マーナと連れ立って向かった。ウィンディは、地元で、普通に忙しく、ヒイラギは、土の妖精王が来たということでそちらに向かった。


 私は、絵師のヤタさんを連れて社殿の奥に向かった。ヤタさんは、着替えが終わるのを持ってくれるといってくれた。妖精の絹糸でできた羽の家紋を間近で見たいと粘ってくれる。これには、金糸が織り込まれていて、角や端を際立たせている。羽の細工も金糸の性で、精巧に見える。ヤタさんが感心してデッサンしていた。

 そこに、あゆが嬉しそうにやって来た。


「見て、大入り袋を貰ったよ。えへへー、なんと、3万ルピー」

「すごい、じゃあ、今回の赤字は、1万ルピーだけじゃない」

「そんなことないよ。お父さんが2万ルピー出してくれたでしょう。あれは正真正銘、私たちにくれたのよ。だって、今回の絵は、涼夏堂所蔵になるじゃない」

「そっか、じゃあ、1万ルピーの黒字だわ」


 今回、ブティック妖精カフェの初仕事は、4万ルピーの大赤字だと思っていた。まさか黒字になるとは思わなかった。


「今回の絵は、涼夏堂さん所蔵になるのかい」

 ヤタさんとしては、妖精カフェに飾ってもらいたい。


「そうなんですが、人間界で、一瞬で模造品を作れるんです。絵のタッチは、弱くなってしまいますが、それを妖精カフェに飾ろうと思っています」


「どんな感じに弱くなるのかね」


 そう言うので、スマホで、羽の家紋を撮ってヤタさんに見せた。


「なるほど、精巧な映しだが、ちょっとのっぺりするんだ。考慮するよ」


 人の手で描かれる絵って、コピーじゃあ真似しきれないんだろうなと思う。


 結局、今回の儲け分は、絹やビー玉などの仕入れ代や、糸車や機織り機の手付金の上乗せ。絵のコピー代に消えて、6000ルピーしか残らなかった。そのお金も、額縁を外注しようと言うことになり、あっさり消えた。妖精カフェに飾る分なのだが、ヤタが、自分の絵に合った額縁を作りたいと言うので、その材料費に消えた。



 ターシャとサーシャが、着替えを終えて出てきた。私たちは深々と頭を下げた。


「あゆ、千里、ありがとう」

「神主さんも、大喜びだったわ。大盛況よ」


「お疲れ様です」

「ターシャさん、絵師さんのヤタさんです」


「妹から聞いているわ。私たちも、模造だけど、千里から1枚づつもらえることになりました。大事にするわ」


「任せてください」


「ヤタは、最高の絵師よ。姉さんも出来上がりを見たら、ビックリするんだから」


 ちょっと、サーシャさん、今から、ヤタさんにプレッシャー掛けないの〈心の叫び〉

「私もそう思います」

 心の叫びとは裏腹に、私もサーシャに賛同した。


 ヤタは、苦笑い。


 着替えの荷物は、本人が〈旦那が〉家に運ぶと言ってくれたので、私とあゆは、出店を冷やかしに行くことにした。

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