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妖精カフェ  作者: 星村直樹
アルバイトはカフェで
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ヤマメ屋

 私は、まだ、生活用品を全部そろえていない。当然、自活する気でいるので、お父さんがくれたお金で、食器や調理道具を買うつもり。アパートには、初めから一口コンロがついていたので、その分お金が浮く。なので、ちょっといいものを買おうと思っている。


 合羽橋は、よだれが出そうなぐらい、台所用品のお店が、軒を連ねていた。1軒1軒、店の前を通るたびに、吸い込まれるようにショーウインドウの前に立ち止まった。隙あらば店の中に入りたい


「またぁ。遊びに来たんじゃないのよ」


「すみません」

 でも、気になる。なんで、包丁が、3万も5万もするんだろ。100円ショップでも売っているのに。刀鍛冶包丁?日本刀と同じだからかな。切れるんだろうな。


「だから」

「すいません」


「次に行くところは、ヤマメ屋さん(喫茶用品専門店)。そのお店は、喫茶店に置くディスプレイの小物もあるのよ。ビー玉もあるから、ちゃんと選ぶのよ」


 ヤマメ屋さんは、店頭で、コーヒーの実演販売をしていて、豆も、豊富に置いていた。実演販売は、ROKのエスプレッソメーカーで、これなら私でも淹れられる。店内から、ウインディに呼ばれなかったら、ずっと見ていたい実演だった。


「かおるよ。こっちは、昨日から働いてる、千里。お上りさんだから、ここに連れてくるのに、苦労したわ」


 ものすごく恥ずかしくなった。

「ウィンディやめて。わたし、宵野千里です。まだ東京に出てきて4日目なんです」


「まあ、顔を真っ赤にして、可愛いわ。かおるよ。主人は、喫茶店のディスプレイをコーディネイトしていて、あまり、店には顔を出さないの。店員は何人かいるけど、妖精カフェさんでしょう。来たときは、私を呼んでね。ウィンディは、私じゃないと見えないし」


「よろしくお願いします。私、エスプレッソ淹れるの下手で」


「じゃあ、自分用に買ってく?これ、2800円だけど、税込み2000円でいいわよ」


「本当ですか!」


「こら!、仕事が先。だいたい、苦くて飲めないって言ってたじゃない。かおるも、勧めるんなら、コーヒードリッパーとかにして。でも今日は、ビー玉を買に来たのよ」


「ビー玉!?主人がいたら喜んだのに」


「ごめん、妖精用のガラスのハンカチを作る素材にするのよ。そっちの方で、千里に見せてあげて」


「あー、そっち。雑貨屋さん絡みね。じゃあ、奥に来て。主人の工房に案内するわ」


「雑貨屋さん絡みって?」


「製品ができたら、売るに決まっているでしょ。うまく行ったら、千里のコーナーができるかも」


「ひゃーーー」


「何それ」

 ウィンディがクスッと笑う。


「だって、私、まだ学校にも通ってない」

 さっきまで、合羽橋のお店のショーウィンドウが、頭の中をぐるぐる回っていたが、一挙にふっ飛んだ。


「そんなの、習うわけないでしょ。できないと、サラたちに会えなくなるわよ(うそ)」


「そんな。いやよ」


「じゃあ、がんばって」


 頑張ってと言われても、何を頑張ればいいのかわからない。涼夏堂は、服の素材屋さんだったので、ご主人に、あゆのお父さんに聞けばよかった。あゆと携帯の電話番号を交換したから、後で聞こう。



 ヤマメ屋の工房は、何か作っているという印象はなく、壁一面のディスプレイが、目に飛び込んできた。壁の間接照明は優しく、手前に置いている小物が可愛く並んでいる。


「お店と違って広々としているのは、主人が試作しているからよ」

 そう言って、作りかけのディスプレイを隅から出して見せてくれた。


 お客さん用なのだろうか、すっごくゆったりとしたソファーや大きな食台の上の喫茶実用品。


「ソファに座って眺めるのも大事なのよ。ちょっと座ってみて。ビー玉、持ってきてあげる」

「このソファは、うちが納入したのよ」

 そう言えば、アンティックっぽい。そそくさと座って、もう一度、工房を見回した。

 これよ。都会っぽい

 ディスプレイは、何げなくて、さりげなくて、それで、ちゃんと主張している。とっても落ち着く世界だった。


 かおるさんが持って来てくれたビー玉は、駄菓子屋のと違って、透明度が高いって感じがした。

「うちの主人って凝り性だから、ビー玉買うだけでも何件も店を回っているのよ。ハンカチ用だと、透明なのと、刺繍用の何色かが必要ね。ベースの透明なのは、7個でいい?あんまり抜いちゃうと、怒るのよ。だから、後、3色選んで」


 刺繍と言われて、すぐ、花の模様が浮かんだ。だから、葉の緑に、花の赤と黄色を選んだ。その間、ウィンディが、私の事情をかおるに話してくれた。


「はい、100円。主人には内緒よ。いっぱいあるのに、すぐ一個1000円とか言い出すんだから。お茶飲んでいくでしょう。何がいい?」

 

 ウィンディは、はちみつたっぷりのカプチーノ。私は、カフェラテ。


「いい豆が入ったのよ。エスプレッソも飲んでみて」


 かおるさんが淹れてくれたエスプレッソは、普通のとまったく違っていた。実は、結構嫌っていたが、目からウロコだ。


「かおる。この豆貰うわ」

「まいどあり。後で主人に届けさせるわね」


 ウィンディに、ヤマメ屋の主人がいるときは、ビー玉を言い値で買った方がいいわよと言われた。これは厳選素材で、自分たちではなかなか見つけられないそうだ。ウィンディが、かおるに、私の事情を話したので、応援してくれているのだと言っていた。



 2件お店を回るのは、少々時間がかかる。お昼は、バーガーショップになった。ウィンディ、というか妖精は、はちみつ好きなので、こっそり蜂蜜を大目にトッピング。ウィンディは、小さいと言っても大精霊の仲間で、身長15センチあり、小さなミルクカップぐらいの量の蜂蜜を飲む。それぐらいは、サービス棚から、ただでもらってきた。そう言う意味ではお金のかからない妖精だ。


「私、メープルシロップは、苦手なのよね。あれって、ちょっと苦いじゃない」

「美味しいのに。じゃあ、蜂蜜のほかには、何が好きなの」

「そりゃあ、果物とか、生クリークとかよ」

「甘党さんだ」

「妖精は、みんなそうよ」

「じゃあケーキとか和菓子も大丈夫ね」

「和菓子?食べたことない」

「そっか、アンナさんは、イギリスが長かったんだよね。おばあちゃんは、パイが得意だって言ってたし」

「魔法学校があったからね」

「小さいころから行ってるの?」

「そう、全寮制だったそうよ。それで、和菓子ってどんな味?」

「自然な風味って言うか。そうねえ、今度食べに行かない?」

「いくいく」

「じゃあ、お店、探しとくね」


 私もウィンディも結構おしゃべりだ。バーガーショップで駄弁ってしまい。帰るのがちょっと遅れた。帰ると京爺がイライラして、私を待っていた。

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