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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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恐竜が滅んだ魔法

 女王陛下を見送り、楽師さんたちにお茶をふるまってねぎらった。大人数なので、サラとアクアにも手伝ってもらった。二人とも、ヒイラギと一緒で、初めからテキパキしている。その間に、サイモンとデビットには、二人のご両親に、妖精の絹糸の関係で、帰宅が遅れますと話しに走ってもらった。だから、全部終わったところで、全員で、のんびりした。サラとアクアは、妖精カフェのメイドを疑似体験できたので、大満足。嬉しそうに紅茶とケーキを堪能している。あゆとターシャ、サーシャは、打ち合わせ中。京爺とサイモン、デビットは、男同士で盛り上がっている。


「そう言えばサラ。さっき、『ナウシカ様って、精霊界で、とっても大切な人なんだよ』って、言ってなかった?」


「う、うん」

 サラは、ケーキをほおばっていて話せない。それを見かねたアンナがマスターに、説明を振った。


「あなたが教えてあげたら」


「そうだね。例えば、竜と妖精は、意思の疎通ができるのだから一緒に生活することぐらいできるだろ。だからといって、気持ちで結婚できたとしても、子供は無理だ。それができる人が、ナウシカさまだよ。そこまで差異があると、特例だけどね」


「同じ妖精同士でも、そうですわ。属性が違うと出生率が落ちます」


「そうなんだよ。属性は、両親のどちらかに偏ることになるけど、それでも、ナウシカさまなら解決できる。精霊界で、とても大切な人なんだよ」


「すごい、ウィンディも王族だから、そんなすごいことができるんだ」


「私は、無理。だから、女王の姉の娘だけど、継承権が、末席なのよ」


「シルフさんって、ナウシカさまのお姉さまなのね。だから、あんな感じなんだ」


「前に言っただろ、精霊界は、魔力、つまり、力社会なんだよ」


「うちのお母さんには、頭が上がらないみたいよ」


「そんな感じ」と、ヒイラギが、ケーキをほおばりながら、なるほどという。


 アンナが、ここで、みんなを正した。


「みんな、他人ごとのように言っているけど、自分たちの魔力が上がっていることに気づいていないの?。千里と契約したから、この先は、ほかの属性魔法も使えるようになるのよ。ウィンディだって、今まで使えなかった大魔法が使えるかもしれないのよ」


「そうなったら、みんな、その話を隠してね」

「ぼくもそう思う」

「私も」

「わたくしも」


「ハハハ、みんな、欲がないね。アンナ、そうしてあげなさい。千里君もだよ。そうしてあげなさい」

「分かったわ」

「そうします。じゃないと、みんなで妖精カフェが、できないですよね」

 みんな、大魔法が使えるなんて、王室や皇室にばれたら、身動きが取れないことになってしまう。その辺は、旨くやろうと思った。



 話が一段落したと思ったマスターが、アンナの横で、この話を聞いて、「うんうん」と頷いているクリスに話を振った。


「クリスも、そうしてくれるだろ」


「もちろんです」


「そうだ、あの時の関係者が揃っているうちに、聞きにくいことを聞いてもいいかい。ポールさんのことを調べていたんだろ。何かわかったかい」


 これを聞きつけた京爺たちがやって来た。それを見た、ターシャたちもそう。重い話だけど、この人達ならと、クリスが心を開いた。クリスの父ポールは、モバイ・カーに殺害された。


「黒竜王の遺産のせいで、父は、殺されたのだと思います。この話は、人間の魔法界には、するなと、魔法使い防衛隊に固く禁じられています。そうしてもらえますか」


 全員神妙な顔になる。


「問題ない。もう少し話してもらえるかい」


「人間界の恐竜は、一瞬で滅んでいます。これは、メテオのせいです」


「隕石の雨を降らすっちゅう魔法か」

 京爺が眉をしかめた。そんな魔法、見たことが無い。


「これは事実です。黒龍王コクリュウオウの最大魔法です。その規模が普通じゃなかった。だから、地球の竜族は滅んだんです」


「隕石の雨か、闇魔法だろうね」


「父の秘匿された手帳に、黒龍王の龍眼が残されているのではないかというメモを見つけました。同じものを追っている組織に、父は殺されたのだと思います」


「そんなもの、使えるのは、千里ぐらいしかおらんぞ。見つけても仕方ないじゃろ」


 京爺が、バカじゃないかと言う。しかし、ここにいる全員が、私なら使えるんだと、認識した。


「京爺、そりゃ不味いぞ。世界を滅ぼすアイテムかもしれないのだぞ」

「我々が、その黒龍王の龍眼を保護しないといけなくないか」


 サイモンとデビットが、目の色を変えた。


「師匠、千里君が使えるかもしれないのなら、放っておくことはできません。敵が黒龍王の龍眼を手に入れたら、次は千里君が狙われる」


「そうよ」

「一大事だよ」

「冗談じゃありませんわ」

「千里、どうする?」

 ウィンディたちも目の色を変えた。


「多分、私たちじゃないと、その龍眼は、見つけられないんじゃないかな」


「そんな危険なことは、させられないわ」


 アンナが怒る。


「まいったのう」

 京爺は、自分が問題発言したことに気づいて頭を掻いている。


「サイモン、お前さんは、容姿が人間そっくりじゃ。ちょっと、人間界に出れるよう訓練せんか。ターシャ、いつもすまん」


「ターシャ、それでいいか」


「分かったわ。でも、人間界に行くのは、擬人化人誕生祭の後にして」


「多分そうなると思うよ。サイモンは、人間から見たら、常識はずれすぎるからね」


「そうなのか?」


「そうですよ」

 それには、私も賛成。だいたい人は、空にぷかぷか浮かない。それに巨木を走って登るなんてことはできない。その上、サイモンは、4属性の魔法が弱いながら全部使える。殆どの人間は、魔法事態使えないことを認識してもらわなくては困る。


「クリスは、イギリスの魔法使い防衛隊の力を借りるんじゃ。龍眼のことを暴くなんて最初は考えるな。敵の存在を認識する方が先じゃろ」


「敵の情報を得るだけなら、魔法警察にも話せます」


「そうね、最初は、ヘイズストーンの出所を捜査すればいいのよ」


「そう思います。でも、なんで千里が、黒龍王の龍眼を使えるんですか?」


「そうか、クリスには、そこから話さんといけん」


 また、京爺が、頭を掻いている。アンナは、クリスを信頼していた。アンナは、マスターをじっと見た。


「あなた」

「アンナが話してあげなさい」



「クリスもそうだけど、あゆもいい?この話は他言無用よ。千里は、精霊界で言ったら、光と闇の女王よ。その素質を持っているってこと。二人とも、千里に近づいて、目を見てごらんなさい。あゆも、もう、千里の目が普通じゃないってわかるはずよ」


 二人とも、ものすごく私に顔を近づけた。


 本当に近い!


「あれ?目の色が変わるわ」

「それに、なんだか星が流れていませんか」

「本当、夜空の星みたいね」

「赤い方が、上に来ると明の星空ですよ。千里、綺麗ね」


「ゴールドヘクロディアですのよ」

「精霊界の人は、みんな知ってるよ」

 アクアたちも話に加わる。


「この赤い星と、青い星は、ゴールドの光よ。綺麗でしょう」


「赤金、青金って言うのよ」

「千里は、オーラも金色だしね」


「とっても強い魔力を秘めている人に現れる印なのよ」


「強すぎて、使い物にならないって、京爺に怒られてばっかりかけどね」

 魔法詠唱を覚えたいって言ったら、京爺に「とんでもない」と断られた。


「クリスいい。これは、魔法使い防衛隊にも話していない話よ。あゆもいい。この話をご両親が知ったら、事件に巻き込まれることだってあるのよ。今はしないでね」

「日本の魔法使いたちもバカじゃないさ。でも、あゆも暫く伊右衛門さん達には内緒にしてくれないか。敵の正体が分からないんだ。危険になる人を増やさないほうがいい」


 クリスとあゆが、深く頷いている。


「千里には、騎士が二人付くわ。トニーとリチャードよ」


「わ~、頼りない」

「ヒイラギに賛成」


「私が鍛えるわ」


「アンナがそう言うなら、いいんじゃないの」

「そうですわね。なんとなく騎士様に見えましたし」


 あいつらかーーー

「あゆも一緒に守ってもらお」


「千里が、あの子たちを守るんじゃないのー」

「ヒイラギの言う通りだと思うよ」

「わたくしたちもこうしちゃいられませんわね。サラさん」

「二人とも、まだ、謹慎中でしょ。今は大人しくしなさいよ」


 ヒイラギたちが紛糾しだしたので、アンナがまとめた。


「みんなまとめて鍛えてあげる。京爺、あゆをお願い。みんな、それでいい? でも、その前に、みんなご両親に作るって言った秘宝の服を完成させなさい。じゃないと、修行を認めてもらえないわよ」


「えーー、天女の羽衣でしょう」

「炎帝のマントって、竜族が羽織るんだよ。作るのに、どれぐらい掛かるかわからないよ」

「私なんて、癒しの水衣ですのよ。素材が何処にあるかわかりません」

「う~、私も?」

 ヒイラギは、自分で言っていない。両親が、作れって言った方。土の国で、他の精霊たちと同じように高価で作るのが難解な服は、息吹の蓑衣。この衣を着ている限り、どんな悪条件でも生命が維持されるという伝説の衣なのだが、ミノムシみたいにずんぐりした衣で格好が悪い。


「いいね。素材は、ぼくが探そう。デビット、付き合ってくれ」

「面白そうな話だ。そうしよう」


 マスターは、今まで、療養のために、妖精カフェから出ることが無かった。今は、これぐらいのトレジャーハンティングなら、アンナも認めている


「私は?」

 私に魔法を教えると、みんなに、迷惑がかかると言って誰も教えてくれない。


 京爺が頭を掻きながら答えてくれた。


「まあ、なんじゃ。守りの魔法をもう一つぐらいええじゃろ。パトーナムができるようになったらええぞ」


「本当、うれしい」


 今回京爺は、私に闇魔法を伝授する気だ。『サハテ』と言う闇の球は、全ての魔法を偏向する空間防御魔法。空を飛べるぐらいのセンスがないとできない技だった。マスターは、阿修羅八方陣だって言ってたけど、古代語で覚えることになった。


「いざとなったらサハテを張って飛んで逃げればいいんじゃ。並みの敵なら、サハテを張った時点で、その空間内にいる味方は見えんようになるし、敵の攻撃もすり抜けられる。安全に、サラたちを逃がせられるぞ」


 京爺がやるとそうなのだが、私の場合は、サハテの空間が広すぎて、別の問題が出る。そうも言っていられないので、何とか実用化しようと思う。

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