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妖精カフェ  作者: 星村直樹
息吹の蓑衣
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風の妖精 ナウシカ女王

 ターシャとナーシャの巫女装束は白の着物にオレンジっぽい赤の袴。その白い色の着物の袖に絹の白のワンポイントだけではではまずいので、実は金糸を織り交ぜている。赤字覚悟の大放出だとあゆが言っていた。もちろんターシャとナーシャは大喜び。二人とも、今は、舞を舞う前なので、神妙な感じで現れた。

 右手には鈴、左手にはシュラの枝を持っている。羽があるから空中を舞えるし、元々風魔法系の人だから、室内でも、長い髪をなびかせることができる。


「あれ?、うちの旦那たちは」

「ずいぶん前に京爺と、楽師を呼びに行ったはずなのに」


 現在、浮島群は、妖精カフェがある、森の大樹の上空に来ている。ここに天空園もある。普段だと、有翼族の楽師が、舞の練習を見てくれるのだが、大人数なので、カフェだと大がかりになりすぎる。そこで、風の妖精たちの楽師を集めて、ここに向かってもらっている。


 でも、本当に遅い。


「よう、みんな準備はできたか。オレも見に来たぞ」


 オープンスペース側から、にょきっと風竜のシップウが頭を突っ込んできた。その横から、妖精の楽師たちがぞろぞろ現れた。


「シップウが連れてきてくれたのね」

 ウィンディが嬉しそうにシップウの鼻先に行って鼻をバンバン叩く。


「ウィンディ、実は、訳ありでな。ナウシカさまが、ここに来たいって聞かないんだ」


「誰が言うことを聞かないですって」


「やばっ」


「おば様」


「ごきげんようウィンディ。私のことは、お姉さんと呼びなさい」


「違いますでしょう、女王陛下。ウィンディ、女王陛下が、姉妹の舞を見たいと言って聞かないのです。それと、千里さんはいますか。普通は、こちらから出向くものなのに」


 風の妖精界は、現在女王が仕切っている。ナウシカ・ラ・シルフィード女王陛下は、独身。その気軽さゆえ、周りがやきもきしたりして、とても大変なのである。


「お母さんも来たんだ」


「シルフは、ついてこなくてもよかったのですよ」


「そうはいきません。私が同行しなかったら、お忍びができなかったのですよ」


 女王にとって、ウィンディのお母さんは、とても苦手な親戚に見えた。私たちは、急いで、女王陛下の前に行った。


「千里、行こう。ナウシカ様って、精霊界で、とっても大切な人なんだよ」

「そうなの!」

「今度詳しくお教えしますわ」

「私は、謁見したよ。謁見の間には、精霊界の世界中の人が来てた」

 あゆは、シップウと浮島に行ったことがある。


 ターシャとナーシャは、楽師の指揮者と打ち合わせ。

 京爺が「まいったわい」と、頭を掻きながらシップウの客室から降りてきた。サイモンと、デビットもそんな感じ。


 アンナとヒイラギは、大慌てで、女王陛下の席を準備している。楽師たちが、マスターの指示だけで動いてくれているので、そちらは、すぐ済むだろう。でも、みんな大慌てである。


「ナウシカさまいらっしゃいませ」

 こういう時、私が一番平常心みたい。格式や、階級意識が低いせいかもしれないけど、そこが、ナウシカさまに気に入られた。


「まあ、千里ね。それに、人間界でやらかしたサラとアクアでしょう。クリスタから聞きましたよ。サラは、召喚されていた火トカゲの召喚を解除したのでしょう。アクアは、人間界の城を一つ潰したのですよね。掟破りだってクリスタがプンプンでした。でも安心して。わたくしは、二人の味方よ。あゆの仕事も見に来たのですよ。羽の家紋には、金糸も入っているのでしょう。正式の場では、まじかで見ることが叶いませんから、楽しみに来ましたのよ」


 あゆは嬉しそうに頭を下げていたけど、サラと、アクアは、「げーー、なんで知っているの?」と、最初は、私の横をふよふよしていたんだけど2歩ぐらい引いていた。今度二人に、この話は、精霊界中にばれているよと教えよう。


「千里ー、席の準備ができたよ」


「ナウシカ様、こちらにどうぞ」


「千里は、分かっているわ。わたくし、こういう扱いをしてもらいたかったのです」


 女王陛下は、悠々と席に座って、席に座って、あれ?。いきなりケーキを食べようとしてウィンディのお母さんに手の平を叩かれた。


「よくお越しくださいました。妖精カフェの大海博史です」

「妻のアンナです。ここに居ますは、今度、ドラグニス家を継ぐことになりましたクリスです」


 クリスが、「クリスです」と、陛下に頭を下げる。私たちもあわてて、その横に着いた。


「ウィンディです」

「千里です」

「ヒイラギです」


「イタタ、おいしそうなケーキですね」

「まだですよ。サラさんとアクアさんの挨拶がまだです」

「さっきしました」

「お二人がまだなんです」


「サラです」

「アクアです」

 マスターがそうだったから、二人とも簡易の挨拶。


「お二人と千里とあゆが作ったホムラの産着。ホムラの映像と共に見ましたよ。すばらしい産着でした」


「ありがとうございます」×2


「ウィンディ、今度は、天女の羽衣を作るのですってね、楽しみだわ」


 ウィンディをちらっと見ると「はい」と言いながら下を向いて参ったと言う顔をしている。ナウシカ陛下って、私たちの情報をどこで仕入れたんだろ。今度は、ちらっと、シップウを見た。とても嬉しそうな顔をしている。どや顔と言っていい。情報の出何処は、シップウに間違いない。


 ターシャとナーシャもやって来た。ナウシカ陛下は、挨拶が終わったと、嬉しそうに、イチゴケーキにぱくついていらっしゃる。気さくな陛下に、私たちは肩の力を抜いた。




 奏楽の前段、音合わせが始まった。音合わせなのに何となく曲になっているから不思議。姉妹はまだ、女王陛下に捕まっていて、妖精の絹糸で作った羽の紋章を心行くまで眺めさせている。女王が金糸に気づいてくれて、羨ましがってくれたので、姉妹は嬉しくて仕方ない。


「シルフ、これ・・」


「分かります、分かりますけど、もう少し、ウィンディたちを修行させてから、注文なさった方がよろしいですよ。金糸の混ざった羽衣は、体が軽くなるとか。その方がいいでしょう」


「素晴らしいわ。やっぱり楽しみね」


 女王陛下は、ウィンディのお母さんと共に、これは、なかなかと、金糸の混ざった絹糸を高評価してくれた。


「それでは、ナウシカさま」

「練習に戻りとうございます」


「今日は、触りだけなのでしょう。練習を観れたことを誰かに話すようなことはしません。舞を作りこんでいる過程を見れるだけで嬉しく思います」


「本当でしょね」

「変な茶々を入れないでください」


「では、後ほど」


 この会話を聞いていて、私たちは、ピンときた。まだ、私たちも女王陛下の御前にいるのだけれど、ここは妖精カフェだ。つい、ひそひそ話をしてしまった。


「ねえねえ、ウィンディ。ナウシカさまには、ご昵懇じっこんの方がいらっしゃるんじゃないの?」 サラが、鋭いことを言う。


「私もそう思った」

「そうなの?」

「どうなのですか。ウィンディ」


「そうね、エイブラハム様かな。陛下の前でも、普通に話す人なのよ。陛下もそれが嫌じゃないみたい」


「エイブラハム様ってどんな人?」


「情報方のトップよ。世界中の情報を集めている人」



「これ、ウィンディ」

「ウィンディ、それは、最高シークレットにしてください」


 今の「最高シークレット」発言で、女王の言質が取れてしまった。私たちはみんな納得した。ここで止まらないのが、アクアのいいところ。


「では、私たちの情報は、エイブラハム様より、ナウシカさまの方が先駆けたということですね」


「そうなのです」

 嬉しそうに答えるナウシカ女王。もう、ばればれ。


 その会話に諦め顔のウィンディのお母さんが、言い方を変えた。


「いいですか皆さん。この話は、私たちだけの秘密です。よろしいですね」


 こう言われると、私たちは、「はい」と答えるしかない。でも、こういう秘密の共有というのは、嬉しいものだ。




 演奏は、邦楽っぽい楽器だったし、音合わせがそうだったから、荘厳な感じの邦楽が演奏されるのかなと思っていたが、管楽器主旋律のオーケストラだった。でも、ところどころに、邦楽っぽい旋律が入ってくる。多分、1万年前に精霊界に来て、有翼族と共に人生を送った宵野明星様の伝統が残っているのだと思う。邦楽っぽいところが地上。オーケストラが、空中と言った感じ。


 右手に鈴を持ち、左手にシュラの枝葉を持ったターシャとサーシャが舞いだした。ここは室内で、風が無いのに、風の中で舞っているように見える。鈴の音に合わせて、髪がたなびき、体も宙に浮く。風の魔法が使えないと、こんな舞を舞うことはできないだろう。

 そのなかで、着物の袖が、すっとひらめいたり、風で流れたりして、存在感を出している。そして、嬉しいことに、裾がひらめくたびに、羽の紋様がキラキラして見える。


「綺麗!」

「良いできね千里」

「うんうん」

 絹糸を紡いだヒイラギとウィンディと私は、自画自賛。


「ぼくたちだと、妖精の絹糸だけで、服を作れるんだよね」

「綺麗ですわーー」

 アクアが、あっぱれと、自前の扇子を広げた。


「風舞に、妖精の絹の羽。はーー、いいですわ」

「ウィンディ、よくやりました」

 

 ナウシカさまとシルフさんも高評価。ちょっとしか舞っていないのに、二人が、舞うのを止めた。あゆが、舞で崩れた着物を直しに走る。見た目より激しい舞なので、着付けに工夫がいるようだ。後で、あゆのお母さん、美代さんに、私が相談しなくてはいけない。それで、私も、あゆのところに走った。私がそうするものだから、みんなも、かぶりつきで、二人を見ようとついてくる。それがちょっとうらやましい女王陛下も軽い腰をあげようとしたが、シルフに睨まれた。


「ごめんなさい、もう少し襟を絞めさせてください。苦しいですか?」

 あゆが、必死になって直す。


「両手を広げているシーンがあったよ。今そうしてもらって直したら」

「お願いします」


 着付けを仕直したところで、再スタート。あゆに、「多分、袴の中に隠して結んでいる帯紐の位置や結び方にコツがあるんじゃないかと思うから、お母さんに聞いて」と、言われた。

 その後は、難なく練習が進んだ。しかし本番は、もっと長丁場だ。ワンポイントの成功に浮かれていた私だったけど、トータル的にコーディネイトができないと、他の人に、着付けの仕事を取られると気づかされた。



 ナウシカさまは、練習風景を間近で見れたので、大喜び。ケーキも食べ放題だったので、大満足して帰途についてくださった。陛下は、お茶代を自分で払いたいとシルフに言っていたが、「なりません」と、きっぱり断られた。多分お相手のエイブラハムさんに、庶民感覚がないと馬鹿にされたのではないかと思う。ウィンディに、この話をしたら、「たぶんそうね」と言う。ウィンディが、今なら閉店しているし、妖精カフェなら大丈夫だと、母親を説得してくれた。

 風の妖精の女王陛下は、初めて、自分の光豆をここで作り、支払いをした。ナウシカさまは、私たちが、自分の理解者だと認識したようだった。


「みなさん、天空園に来るときは、わたくしの居城も訪ねるのですよ」

と、大喜びでシルフとシップウを伴って帰って行かれた。

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