風舞い
ターシャとナーシャの巫女装束に、妖精の絹の糸で作った羽のワンポイントが入った。二人が、これを着て、少し舞ってみたいと言うことになり妖精カフェに来ていた。
天空園の擬人化人誕生祭までは、舞を人前で踊ることはないのに、私たちはちょっとだけ見ることを許された。ワンポイントの出来を確かめるためだと言う理由もある。
二人は、私の部屋で着替えている。カウンターの奥から二人が出てくるのを心待ちしているところ。
カフェはもう、クローズドしている。なのに、部外者が二人、ニコニコしながらここにいた。
「ぼくたちは、部外者じゃないよ」
「そうですわ。一緒にガラスの糸を作った仲じゃあ、ありませんか」
「カフェが閉店しているのにいるからよ。二人とも、お父様と、お母様には断ったんでしょうね」
ウィンディの鋭い指摘に、たじたじの二人。
「えーーと」
「断りましたわよね、サラさん」 アタフタして嘘ばればれのリアクション。
「ウィンディ、今日ぐらいは許してあげたら」
「初めてのブティック仕事だよ」
私とヒイラギは、二人に甘々だ。この間、二人はイギリスで、サラは、召喚解除。アクアは、城を崩壊させると言う、クリスタ先生を超激怒させる校則違反を思いっきりやったばかり。ウィンディの方が正論を言っているのは分かるのだけど、初めては、みんなと共有したい。
「仕方ないわね」
「ハハハ、みんな、ケーキセットが準備できたよ。サラとアクアも二人の舞を見ていくだろ」
マスターが、東京側からケーキをいっぱい持って帰ってきた。サラと、アクアの目から星がこぼれる。これも、今回の二人の目的だ。
「マスターありがとう」
「わたくしたちも、早くここで働ければいいのですが」
「クリスタ先生の怒りが収まるのを待つしかないよ」
「それから、もう一人、お客さんだよ。みんなと、火龍王のタマゴを奪還してくれたクリスさんだ」
「みんな元気?」
あの時は、真っ黒な魔女の衣装だったけど、今日は、ラフな感じのファッションに、大きなボストンバックを引きずったクリスが、手を振りながら現れた。
「クリス」×4
「クリスさん、いつ日本へ?」
「千里も、クリスでいいわよ。今さっき着いたばかり。遠いのね日本って」
「ドラグニス家を継ぐために来たんでしょう」
「サラ様、お世話になりました。火龍王様と、妖精王のアゴン様にも、お目通り出来るようになりました」
「ぼくもサラでいいよ。クリスなら当然だよ」
「クリスを千里君の部屋に泊めていいかな」
「あゆと暫くシェアするってことですね。あゆも大歓迎だと思います。でも、ちょっと待って居てください。今、ターシャとナーシャがそこで着替えていますから」
「ボストンバックは、カウンターの横でいいよ」
「クリスは、運がいいわ」
「普通、巫女の風舞は、擬人化人誕生祭まで見れないんだよ」
「もうすぐ出ていらっしゃると思いますわ」
「ヒイラギ、お茶とケーキを並べよう。手伝ってくれ」
「はーい」
「ぼくもやりたい」
「わたくしも」
ウィンディと私が、クリスの相手だ。
「もう傷はいえたの?」
「ウィンディのおかげよ。見て」
そう言って右の顎あたりをウィンディに見せた。ここに酷い火傷の跡があった。
「はー、よかった。女の顔を狙うなんて、あいつら」
「うふふ、ありがと。これから巫女舞が見れるのよね」
「そうなんです。裾に羽のワンポイントをつけたので、踊った時の印象を私たちに聞きたいんですって。多分妖精の絹糸で作ったからキラキラすると思うんです」
「私、妖精の絹糸なんて見たことない。楽しみ」
カウンターの奥からターシャと、ナーシャが出てきた。あゆが着付けを担当。それを覚えたいアンナが手伝っていたので、その後ろから二人も現れた。
羽のデザインは、ターシャとナーシャの実家の家紋をそのまま使用した。仕上げや出来は、私が、涼夏堂のご主人にデザインを貰ったり、あゆが作ったワンポイントの羽を縫い込む前に写真にして見せたりして、仕上げたものだ。あゆは、火龍王の王子、ホムラの産着も裁縫していた。その中で、これも仕上げていた。私と、この春、服飾の専門学校に入学してくれるのだけれど、そんなことしなくても、もう、仕事ができるんじゃないかと思ってしまった。




