決着
「千里や、よくやった。ホムラを頼む。わしゃ、もう一仕事じゃ。アンナ、早う来んか」
アンナは、さっきすべてを失うんじゃないかと思い、腰が抜けている状態。
京爺からホムラを渡された。ホムラもしがみついてくる。まだ羽が小さくて、ぬいぐるみみたい。
ぎゃっぎゃっ
「ウィンディ、クリスさんを診てあげて。なんだか倒れそう」
「分かったわ」
サラたちは、ホムラに寄り添った。
ダニエルさんは、クロウ校長のところに行って、気絶している魔術師を縛り上げましょうと言って、ドリア先生と動き出した。西門の城壁にいた魔術師たちは、ウィンディとヒイラギの合わせ技が、強烈だった為、砂化しながら一挙に崩落したので軽症で済んでいる。しかし、火トカゲを急に失った喪失感から、大多数の人が気絶していた。
そんな中、ギーブル・ダハーカだけは、気絶することなく、モバイ・カーが、博史に殴られ続けているところを呆然と見ていた。もう、教祖を助ける気力が残っていなかった。そこに京爺がやって来た。
「お前さんが。ギーブル・ダハーカか。火龍王がお呼びじゃ」
火龍王の名前を聞いたギーブルが、京爺に、恐怖の目を向けた。
「あっ・・・」
「なんじゃ、わしの言っていることが分からんのか。火龍王がお呼びじゃと言ったんじゃ」
京爺が使っているのは、強力なテレパシー。分からないはずがない。
「ダハーカ家を呼んだんじゃないぞ。お前さんを呼んだんじゃ。今までの経緯を正直に話せ。ダハーカ家まで巻き込むな」
ギーブルは、これを聞いて膝を崩した。その場にひざ間付き地面に両手をついた。自分の息子たちと嫁の顔が浮かんだ。そしてダハーカ家の親戚の顔が浮かんだ。
アンナは、モバイを平手で殴り続けている博史を背中から抱いた。モバイは、随分前から脱力し、まったく抵抗していなかった。
「博史さん、博史さん」
「彼の罪分、殴っていただけだよ。グーで殴ると途中で死んじゃうからね」
「後は、クロウ先生に任せましょう」
「だぶん元凶はこれさ。ヘイズストーン」
そう言って、アンナに闇の石を見せた。
「彼が、誰かを排除しようとするたびに、このアイテムが起動していたんだよ。本当は、次元アイテムのはずなのに、こんなに濁っている。浄化を任せていいかな」
「ええ、もう、行きましょう」
「待ってくれ、こいつが持っているアイテムを全部没収してからだ」
そう言ってアイテムバックはもとより、全身を調べてアイテムを残らず没収した。モバイは、ただの人になった。そこに、ジャスティン・クロウ校長が、やって来た。目の前に倒れている、かつての教え子を腕組みして見下ろしている。
「モバイ、立ちなさい。すべての罪を明らかにするのです」
モバイは、クロウ校長を見て泣きだした。クロウは、普通の学生だったころのモバイを知っている唯一の人だった。
クリス・チャーチは、ふよふよ自分に向かってきているウィンディを見ながら気絶した。満身創痍で、ずいぶん前に気絶していても不思議ない状態だった。火の魔法使いなので、敵の攻撃に耐性があったとはいえ、攻撃を何度かもろに受けている。火傷が軽症な方が奇跡といえた。
マスターとアンナは、二コルとウィリアムの容態を見に、ジャッキーがいる林まで帰っていた。そこに、京爺が、ギーブル・ダハーカを連れてやってきた。ギーブルは、京爺に全く抵抗しなかった。
「アンナ、どうじゃ、二人の容態は?」
「安定したわ、後は、病院でも大丈夫だと思う」
「忙しいところを済まんのじゃが、こいつを鉄錆び門から精霊界に連れ帰りたい。案内を頼めんか。アメリカのグランドキャニオンじゃっちゅうことだけは知っとるんじゃが、そこからはようわからんでな」
「ごめんなさい。私は博史さんと一緒に居たい」
「そうしよう。一応この旅は、新婚旅行だしね。師匠、ジャッキーが案内できます」
「先生、私そんなの、どこにあるか知りません」
「フィーリアに教えるわ。土の国に繋がる次元門だから。分かるわよ」
「そうだ、師匠。ジャッキーを鍛えてもらえませんか。牢屋から逃げられないくせに情報屋をやってるんですよ。危ないじゃないですか」
「うむ、そうしよう。わしも、ちと忙しいでな、ドレイクに頼むか」
「それは、いいですね。ジャッキー、頑張りなさい」
「さっき、千里の映像を撮っていたでしょう。千里のことは、最高シークレットよ。あれは人間界では使えないわ。でも、精霊界なら高く売れると思うわよ」
アンナが、ジャッキーに、やる気をおこさせた。
「本当!。京爺さん、行きます。案内します」
「京爺でええ。さっき、ダニエルに、1日だけ、ギーブルを取り調べたいと言われたんじゃ。明日の夕方、出発でええかな。航空運賃は千里が持っとる。チケットを取ってくれ」
ドレイクとは、土の民ドワーフ王のこと。ジャッキーは、ここで、3カ月も絞られることになる。人間界に帰ってくるころには、大酒飲みになっていた。何の修行をしていたのやらと、アンナにあきれられている。




