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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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王子生まれる

 マスターたちが帰ってきた。これで、防衛隊の人達も救われる。みんな口々にマスターとアンナを呼んだ。


「マスター」

「アンナ」


「みんな、遅くなってごめんね。タマゴが孵りそうなのよ。サラの元に連れてくるまで、魔法が使えなかった」


 みんな、サラの支援を解いてタマゴの周りに集まった。京爺が、腕組みして戦況を見ているダニエルさんの横に立った。マスターは、この双璧にタマゴの守りを任せた。


「王子、サラです。サラ、ここで、王子に殻から出てきてもらってもいいのかい?」


 サラが頷く。そして火龍王のタマゴに抱きついた。 


「王子、お父様とお母さまの伝言を伝えるよ。『あなたの名前は、ホムラ〈焔〉。タマゴから出て、羽を広げなさい』」


 パリッ


「生まれるか!」

 京爺が、振り向いてタマゴを見た。つられてダニエルさんも。


 パリッ、バリッ


 最初小さな穴が開いただけだったが、そこから大きくタマゴにひびが入って、左右に割れた。


 ぎゃ、ぎゃ、ぎゃー


「可愛い」


「ホムラ、火を吐いて」


 ギャオン、ガーーーー


 ホムラが、初めて火を吐いた。火が出ないと、体長が悪いと言うこと。これで、一安心だ。


「ホムラ様。アクアです」

「アクアずるい。ヒイラギよ」

「ウィンディよ。仲良くしてね」


 ぎゃう?


 ホムラは、みんなに矢継ぎ早に話しかけられて、きょとんとしている。


「ホムラ、千里よ。あなたは、地球生まれの竜になっちゃったね」


「千里です。可愛いわ」


 ぎゃうぎゃう

 ホムラが、わたしに、こっちに来てと手招きしているような仕草をした。京爺が腕組みをほどいてこっちに来た。


「千里や、ホムラを抱いてやりなさい。ここには、リクシャンもレビアタンのおらんでな」


「うん」


 ホムラを抱きかかえて、サラに聞いた。


「この子も、龍王様みたいに、大きくなるの?」


「しばらくの間は、千里でも抱けるよ」


 ぎゃー、ぎゃっぎゃ


「喜んでいるんじゃない」

「ミルクを持ってくればよかったね」

「はちみつじゃあダメかな」


 みんなが、ホムラの周りをふよふよしているので、ホムラは、手を伸ばして捕まえる様な仕草柄をした。その手をヒイラギがつかんで握手した。


「ヒイラギさん、ずるいですわ。わたくしも」


 アクアが、もう一方の手を取る。次々にみんなホムラと握手した。京爺も、ダニエルさんもこれに加わった。


 一連の挨拶が済んだと思ったサラは、ホムラを抱きしめて言った。


「大きく強くなりなさい。ホムラ、優しくたくましい王子になってね」


 ギャオーーーン

 ホムラは、サラの言葉に反応した。



 これらを見たダニエルは、戦場に振り向いて、全員に、火龍王のタマゴの奪還が成功した事と、ホムラが、タマゴから孵ったことを伝えた。




 戦場では、クロウ校長が、全員に檄を飛ばした。


「タマゴは奪還できました。全員タクトを出しなさい。ウィリアム、バブルで防御してください。前進しましょう」


 オーー


 クリスは、父親の形見のタクトに祈った。

「お父さん、力を貸して」


 防衛隊が、打って出た。敵はどんどん減って、モバイとギーブルだけになった。




 ここで、モバイが、バリア結晶を出した。パトーナムは、聖なる光の防御魔法だが、これは、善悪関係ない光の壁。


「馬鹿め、全力を挙げてくるのを待っていた。ライトウォール。さあ、態勢を整えなさい」




 急に防衛隊の攻撃が効かなくなった。その上、倒した敵が、どんどん復活して、城門の上に姿を現した。


「まずい。二コル、ウォールです」


「ウォール」

 また、壁が作られたが、私たちは、サラの龍眼に力を注いでいなかったから気付かなかった。ヒイラギは、これを補強出来なかった。




「バカが、そんな、急ごしらえの壁」


 モバイのライトウォールはそんなに持たない。もう消えていた。だが、それで十分だった。リザード魔術教団の防衛陣は整った。


 モバイは、今一度、ライトニングを撃った。


「ライトニング」


 眩しい電撃が、地を這うように土壁を襲う。


 ガラガラ、グワッシャン


 土壁は、殆どの部分が吹き飛んだ。ドリアがパトーナムで、クロウだけは救ったが、3人が、負傷した。クリスは、さっき破片を額に受けて、みんなに迷惑を掛けたので、地面にはいつくばっていたから軽症で済んだ。しかし、ウォールの術者の二コルと、その二コルをかばったウィリアムが倒れた。


「二コル、ウィリアム!」




 これを見たダニエルが、マスターを見た。


「大海さん、二人を連れ帰りたい」 


「了解しました」


 二人は、連れ立って戦場に向かった。


「あなた!」


「大丈夫。二人を連れ帰ったら、治療を頼むね」


「千里、放っといていいの」

 ウィンディが、何か言いたそうな顔をする。


 それを見たアンナが、ウィンディをなだめた。

「ウィンディも治療を手伝ってくれるんでしょう」


「まかせて」


 私は、こっそりヒイラギに、残っている土の壁を補強してと頼んだ。京爺は、この話を聞いていたが、聞いていないふりをしてくれる。アンナの手前そんな感じだが、京爺の性格だと、もっとやれと言う感じ。


「基部だけでいいの?」

「だってほら、私たちって、戦闘に参加してはいけないでしょう」

「分かった」



 防衛隊は、ドリア先生が、パトーナムで光の防護を張り、クロウ校長が敵を浮かせ、クリスが、火竜弾攻撃で敵を倒していた。しかし、向こうのファイヤーの弾幕が強烈で、思うように敵を攻撃できない。火龍王のタマゴは奪還した。だから、引いてもいいのだが負傷者をここにおいて撤退できない。


「クロウ、二人は無事か」


「ダニエル、来てくれたか。二人とも生きている」


「後方にアンナがいる。二人を連れ帰るぞ」


「助かる。二人が、安全地帯に行くまで踏ん張るよ。ドリア、クリス聞いたか。もう、ひと踏ん張りだ」


 頷くドリアとクリスは、援軍に力を得た。


 ダニエルが二コルを抱きかかえ、重い方のウィリアムを博史が担いだ。




「モバイ様、敵が逃げます」


「ギーブル、これを使え。赤夏と、光豆だ。特大の火炎弾を逃げている奴らにお見舞いしてやれ」


「仰せのままに」

 ギーブル・ダハーカは、黒檀のタクトを逃げている4人に向けた。

「火を集めし龍の王よ我に力を 火竜弾」


 クリスの火竜弾の数倍の大きさの火竜弾がタクトの先から巻き起こり、ダニエルを襲った。




「博史、ウィリアムを頼む」

 そう言って振り向きざま、パトーナムで光の防御壁を出すダニエル。博史は、アンナに気を使うのをやめ、ウィリアムを浮かせて自分に引き寄せ、二人を浮かせて、飛ぶように逃げた。


「博史さん、そんなに力を使っていいの?」


「ずいぶん前から大丈夫だったんだよ。アンナ、二人を見てくれ。重症だ。力を貸そう」


「ええ、あなた」


 二人は、治療を始めた。

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