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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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タマゴ奪還

 私たちは、すべての戦況が見える。防衛隊の劣勢を読み取っていた。


「まずくない?」

「わが方が、不利ですわ」

「土壁を高くする?」

「ぼくたちも何か出来ないかな」


 駄目よ。みんなのご両親に戦闘には参加しないって約束してここに来ているのよ。というのが私の心の声。でも、私も何かしたい。


「ダニエルさん!」

 私は振り向いて、私たちを守っているダニエルさんに、何かしてほしいか聞こうとした。でも、先に、何もしなくていいと、ダニエルさんは、片手を出して抑えるような仕草をした。


「何もしなくて大丈夫ですよ。今やっているのは、時間稼ぎです。最初にクロウが言っていたでしょう。タマゴの保護が優先です」


「ごめんなさい」

 なんで、私が言おうとしたことが分かるのかしら。



「アンナのところに京爺が来てくれたよ」

「一安心ね」


「ダニエルさん、三人とも城に侵入しました」


「もう、ですか。北門で、戦闘らしきものは感じませんでしたが。それは、いい知らせです。仲間に伝えます」


「アンナが、癒しの眠り歌で眠らせたのよ」 ウィンディがすごいと言う。


「はて、そのような風魔法。聞いたことがありませんな」


「アンナのオリジナルよ」

「そうなんだ」

「多分マスターの為だよ」

「愛ですわね」


 ちょっとダニエルさんには、マスターとアンナの事情をここじゃあ話しにくい。長い話だもんね。癒しの眠り歌は、アンナが全身やけどで苦しむマスターのために編み出した魔法。




 マスターは、アンナを師匠に任せて、リビングに急いだ。サラの映像で分かっていたこととはいえ、リビングまで、全く抵抗されなかった。ただ、暖炉には、何かトラップがあるだろうと踏んでいた。モバイ・カーという男は、そういう男だ。運が悪いと、タマゴが傷ついてしまうかもしれない。この仕事は、長年トレジャーハンターをしていた自分向きの仕事だ。博史は、昔を思い出して集中力が鋭くなっているのを感じた。


 薄暗いリビング。入り口から一番遠い壁面に暖炉があり、火が焚かれていた。その上に、長いところで60センチはありそうな卵が置かれていた。タマゴは、緑基調に黄色い斑点がある。生まれれば、優しい王子になるに違いない。しかし、そのタマゴのオーラは、この部屋の天井に届かんばかりの大きさ。博史は、まず、タマゴに話しかけることにした。


「王子、妖精カフェの大海博史です。あなたの父上と、母上に言われて、ご両親の元に、あなたを連れ帰りに来ました。今は、気を静めてください」


 全く炎のオーラが収まらない。そこで博史は西を指さした。もう、王子には龍眼があると思ったからだ。


「見てください。西の林に、あなたを迎えに来たサラがいるでしょう。私に、そこまで案内させてください」


 急にオーラが小さくなった。サラを感じて、気を落ち着けてくれたのだ。タマゴは、もう孵りそうなのだ。ここで、魔力を行使するのは、危険すぎる。だから、タマゴを浮かすと言うことが出来ない。


 そこで博史は、近くにあった机をひっくり返して暖炉に橋を作ったように置いた。暖炉に火が灯っているのに、足跡がない。多分どの石畳かに、トラップがあるのだろう。細かく調べている時間はない。おおざっぱなトラップ回避方を選んだ。


「さあ、行きましょう」


 テーブルクロスを結んで首にかけ、そこにタマゴを入れて、抱きかかえた。博史は、走って、ここから脱出した。




 アンナは、人には聞こえない高周波の虫語で、土蜘蛛のフィーリアにこっちに来てと話しかけた。フィーリアは、アンナに気づいて嬉しそうにこちらに来てくれた。フィーリアは、ここにいる下男のホグナスを助ける代わりに火トカゲのロイに地下牢のカギを開けてもらう約束をしたと話した。


「まあ、なんじゃ。時間がない。わしがロイを捕まえてもええか」


 ツツッ、ツツッ


「心配すな。乱暴は、ちょっとしかせん」


 するんだと思うアンナとフィーリア。

 ツツッ、ツツッ


「ホグナスじゃったか、人相で分かる。ああいうのは、きつく言わんと、言う事を聞かんのじゃ。彼奴もここから脱出させたいんじゃろ。わしに任せろ」


 ツーーー


 京爺は、やおら、地下牢に向かって歩き出した。


「やあ、ホグナス」


「なんだー、じいさん」


「こりゃ、目上に向かってその態度はなんじゃ。わしに謝らんか。牢屋に女の人を閉じ込めよって。早く開けなさい」


「何言ってる。この人は、盗人だ。だから牢屋に入れてるだ」


「お前の主人が悪いことをしたから、調べていただけだろう。お前も罪に問われたいか」


「何言ってる、人の家に勝手に入ったな。お前も、牢屋にぶち込んでやる。ロイ、やるで。ファイヤー」


 ロイは、相手が強敵だとみなして、ファイヤーではなく、ファイヤートングをだした。京爺は、その火トカゲの舌をサクッとつまんで、自分に引き寄せた。


「偉いの、主人に火の粉が及ばんようにしたか」


 火トカゲのロイは、主人にしがみつかないで京爺のところにすんなり来た。


「こいつー、ロイを放せ」


「駄目じゃ。謝ることを知らん奴の言うことを何で聞かんといかんのじゃ」


「わー」


 ホグナスは、まるで子供の様に京爺に殴りかかった。


「バカたれが」


 京爺は、バシッとホグナスのほほに平手打ちした。


「殺さないで」

 ジェシーが叫ぶ。


「大丈夫よ。助けに来たのよ」


「アンナ!」


「こりゃ、まだ、ごめんなさいと言えんのか」


 バシッ、バシッ


「すびません。すびませんでした」


「泣くほど痛かったか。お前が、どういう主人に仕えていたか、彼女に聞くといいじゃろ。お前もついてこい。ロイじゃったか。よう、主人を守った。偉いの。鍵を開けてくれ、逃げるぞ」


 ピピー


 ロイが地下牢のカギ穴に舌を差し込んで開けた。


「こりゃ、ホグナス。ついてこんか」


「はい、はい」


「ジェシー」

「アンナ」

 

「二人とも抱き合うのは後じゃ。逃げるぞ」


 フィーリアがジェシーの肩に乗った。京爺は、ホグナスの尻を叩きながら逃走した。ロイは京爺の頭の上に乗って、ホグナス側の片目を瞑って前を見た。



 西門の前には、タマゴを抱えた博史が、門を開けてアンナ達を待っていた。


「あなた」

「もう、タマゴが孵りそうなんだ。魔法の刺激はまずいと思うんだ」


「大海先生!」


「やあ、ジェシー。無事で何よりだ。それで、なんだい、彼は」


「話せば長いんですけど、私が助けるって約束したホグナスです」


「師匠そうなんですか。彼、グダグダに泣いてないですか」


「いろいろあったんじゃ。それより、サラの元に王子を連れて行こう」

「みんな、無事だったのよ」


「安心したよ」


「行くぞ」


 マスターたちは、火龍王のタマゴを奪還して無事脱出した。




 タマゴが城を出たのを見て私たちはホッとした。


「やった、マスターが、王子を奪還したよ」

「ジャッキーも無事ね」

「なんですの、あの、泣いている人」

「みんな無事でよかったー」


「ダニエルさん、タマゴを無事奪還しました」


「ここにタマゴが戻ってくるまでは、このままでいましょう。とりあえず、防衛隊には、タマゴもジャッキーも無事だと伝えましたぞ」



「サラ、タマゴが孵りそうね」

「大丈夫、おじさまとリクシャンから名前を聞いているから」

「男の子なんですかそれとも、女の子なんですか」

「男の子だよ」

「わかるんだ」

「龍眼があるからね。名前は生まれたら本人に言ってって言われているんだ。だから今は言えない」

「楽しみね」


 心配なのは防衛隊の人達。すごく劣勢って感じ。ダニエルさんは、時間稼ぎだって言っているけど、そう見えない。

モバイ・カーの下男、ホグナスの使い魔ロイは、もっと長い名前でしたが、尊敬を持ってロイという名前にしました。ホグナスのことを書いていて、どう見ても、対照的なジャッキーに、いい様に使われる伏線だなと思ったからです。すぐいなくなってしまう情報屋のジャッキーと、容姿はあまりよくないですが、執事の仕事ができ、紅茶もおいしく入れるホグナス。ジャッキーの店は、火トカゲのロイ率いるホグナスで持つようになると思ったからです。

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