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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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モバイは、強力なアイテム使い

 モバイ・カーは、ものすごく慌てていた。本当は、逃げ出したくて仕方ないのだが、教徒を集めた手前、強気の演技をするしかない。


「モバイ様、早朝から続いている、人払いの術式を解くことが出来ません。敵が攻めてくるのは、間近かと思われます」


「みなに回復薬は持たせたか」


「仰せのままに」


「防御アイテムの発動時間は限られている。できるだけ、相手の力を削ってくれ。双方が疲弊したところで使う」


「回復したら、我が方の勝利です」


「指揮は、ギーブルに任せる」


 ギーブルと、もう一人の側近が部屋を出て行った。現在、道路側の西門に4人。脱出経路の東門に2人。後は、1人ずつ見張りを置いている。そんなに大きな城ではない。しかし相手は、いても5人。疲弊させるのが一番である。


 ムーンムーン

 携帯電話を取ると、ギーブルの差し迫った声。


「敵が、西門に現れました」


「何人だ」


「5人です」


 モバイは、勝ったと思った。一極集中の正面突破は、人数がいてこそだ。敵は、我が方を過小評価していた。


「分かった。東門の教徒も西門へ向かわせなさい。向こうの戦力はそれで全部です」


 自分が逃げる事態も考えて、東門の門番も西門に呼んだ。これで、九人だ。モバイは、勇んで、ギーブルたちがいる西門に向かった。




 味方も動いたが、敵も動いた。私たちは、ずっと、城を観察していた。


「ウィンディ、マスターに状況を伝えて」


「マスター、ウィンディです。敵は、タマゴか有るリビングから離れました」


― 西門に向かったのかい


「ええ、北門にいる見張りを敵にばれないように倒したら、簡単に侵入できるわ」


― いい知らせだよ。


― ジャッキーの所にいる敵は?まだいるの


「動かないわ。捕虜として使う気かしら。でも、精霊界の蜘蛛は、自由にしてる。ジャッキーの蜘蛛なんでしょう。ちょっと状況が読めないわ」


― 蜘蛛のフィーリアね。何とか、フィーリアと話してみる


「京爺が、そっちに向かったから、助けてもらって」


― そうするわ。じゃあ夕食を二回おごらないとね




 西門で、戦闘が始まった。魔法の戦いは遠距離から始まる。


 城側から、火炎弾が雨のように降ってきた。


 クロウ校長が、みんなを鼓舞する。

「もう少し進みましょう、ウィリアム、しばらく防いでくれ」


「バブルウォール」

 ウィリアム・マイア―は、空一面にシャボンの壁を作って、火炎弾を防いだ。背中に背負っているバブルの元がどんどんなくなっていく。アクアがそれを見て、こっそり背中のタンクに水を送った。今日は、調子いいと思うウィリアム。


「よし、ニコル、ここで時間稼ぎをする」


「ウォール」

 ニコル・オーエンが大きな土の壁を三つもたてた。ヒイラギが、この壁の基部を厚くして強度をあげる。


 それが全部見える私は、もう、駄目じゃない。みんなのご両親には、戦闘に参加しないって約束しているのにと、怒ろうと思ったが、「やっぱり、補助ぐらいいいよね」と、思って文句を言わなかった。



「クリス、ドリア、狙い撃ちしなさい」


「火を集めし龍の王よ我に力を 火竜弾」

「タイガーオブ、パトーナム」


 二人ともタクトを出して、強烈な火竜弾と獣化した光のパトーナムを撃つ。



「ファイアートング」

「ファイアー」


 これに狙われた敵は、一方は、簡単にこれをはじき、もう一方の敵は、これをまともに受けて城の陰に隠れた。


 その間もとんでもない量の火炎弾が降り注ぐ。これには、クロウ校長が対応した。


「グラビトンウォール」


 目前で地面に落ちる火炎弾


 クロウ校長は、重力波の大技で地上とは別に空に重力の壁を作って火炎弾をそこで落とす。敵の攻撃を寄せ付けない。


 これにより一時、戦線が膠着した。


「二人とも、弱い魔術師から狙いなさい」


 頷く二人。


「クロウ、まだ、タンクの水が半分ある。現状でも、十分前進できる」


「素晴らしい。博史の仕事が終われば、前進しよう」




 

 モバイ・カーが、西門の城壁に上がったときは、戦闘が始まっていた。


「戦況は、どうです」


「教祖様」

「モバイ様」

「お待ちしていました」


 ここにいる魔術師たちが、熱狂した目で、モバイに振り返った。彼らは、全員、モバイの召喚術によって火の魔術師になれた教徒たちだ。


「三人やられているではありませんか。ポーションを使いなさい」


「それは、モバイ様の防護壁が張られた時にと思って我慢しております」


「それでは負傷の度合いが進みます。今、使って控えになりなさい」


「仰せのままに」


「それで、どうです?」


「最初敵は、ウォーターウォールを使って前進してきましたが、我が方の火炎弾により断念。ウォールで、土壁を作って対抗してきました。厄介なのは、クロウのグラビトンウォールです。攻撃が届きません」


「厄介ですね。では、私が土壁を攻撃します。壊れたら、ファイアーに切り替えなさい」


 まず、モバイは、光豆を取り出した。教徒に、常日ごろ魔力を貯めさせているので、蓄えている光豆の魔力は十分ある。

 そして、雷水晶を出した。


「ライトニング」


 眩しい電撃が、地を這うように土壁を襲う。


 ガラガラ、グワッシャン


 土壁は、上半分が吹き飛んだ。ヒイラギが補強していなかったら全員負傷していたような大出力のライトニングだった。


「敵の魔法使いも強力ですね。ですが、防御に穴ができました。今です」


 リザード魔術教団の教徒たちが、一斉にファイヤーを撃ちだした。



 これに対して防衛隊は、隠れて耐えるしかない。


「クリス大丈夫か。額から血が出ているぞ」


「大丈夫、破片が当たっただけです」


「バカ言え。ウィリアム、来てくれ」


「任せろ。ホトンウォーター」

 クリスの傷の上に、ジェリーがかぶさった。出血が止まる。

「私では、止血は出来ても痛みを全部癒すことはできない。そこは耐えてくれ」


「ありがとうございます」


「クロウ校長、あれは雷水晶ですな」 ドリア先生の分析。


「あのアイテムは、何度も撃てる代物ではない。我々は、ここを動かないぞ。時間を稼ぐのだ」


 全員、クロウ校長に従った。




 マスターとアンナが、北門に着いたときには、もう戦端が開かれていた。北門を守っている魔術師が、西門に向いて戦闘を見ている。


「アンナ、彼を眠らせてくれるかい。ぼくが行って彼の服で手と足を縛るよ」


「城外に隠したほうがいいと思うわ。敵に助けられて戦闘に参加されても厄介だし」


「そうしよう」


 アンナがタクトを出して、癒しの歌をアレンジして詠唱しだした。


「汝、風と共に歩もう。優しい火の光と共に歩もう。土は潤い収穫は満たされ人々は、歌う。さあ、眠りなさい。癒しは、汝と共にある」


 どさっと、門番が倒れた。マスターがトーンと飛んで、門番のところに行った。この門番の火トカゲが、マスターに立ちふさがる。


 ピキッ、ピキピキ


「大丈夫だよ、癒しの歌で寝ているだけだよ」


 ピキー、ピキー


「さあ、外に出よう。その方が君のご主人は、安全だ」


 ピー、ピー


 マスターは、この門番を縛って城の外にある茂みに隠した。


「仲間には言わないほうがいいよ。火龍王様がお怒りだ。もっと酷いことになる」


 ぴきーーーーー・・


「行こう、アンナ。ぼくにつかまって」


「ちょっと待って、もうすぐ京爺が来るわ。地下に敵がいるのよ」


「そうだったね」


「もう、来とるがな。ウィンディとの会話を聞いとったぞ。夕飯二回なんじゃろ」


「そこはしっかり聞いているのね。ご馳走を奮発する。京爺手伝って」

「師匠、お願いします」


「任せろ」


 火トカゲに見送られて、三人が城内に飛んだ。火トカゲは、主人を守るように茂みにうずくまった。

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