火龍王のタマゴ発見
クロウ校長たちが、正式の魔法装束で待っていたので、うわー、おとぎ話の人達見たいと思って、ちょっと口角が上がってしまった。
黒いとんがり帽をかぶったクロウ校長が、ニコニコしながら私たちを待っていた。他の魔法使いの人も、色こそいろいろだが、濃紺だったり紫の暗い色だったり、暗いワイン色だったり、ぱっと見には、黒ずくめの人達だった。
全員に自己紹介されながら握手した。この人たちは、サラたちが見える。皆さん、手を広げて、サラたちとタッチしていた。
その中に若い女性の魔法使いがいた。
「クリス・チャーチよ」
「宵野千里です」
「クリスは、火の魔法使いだよ」
「サラ様、よくお分かりになりましたね。はい、タッチ」
「同族のにおいがするわ」
「父は、ポール・ドラグニスです。今は、母方の姓を名乗っていますが、この件が済みましたら、ドラグニスの姓を名乗ろうと思っています。父は、モバイ・カーに殺されました。必ず王子を救出して見せます」
「クリス、悪いが、それは、博史にやってもらう。君は、戦ってくれ」
ニコルが、済まなさそうな顔をする。
「戦いが、私の本分です。ここに来させていただけただけで、至上の喜びです」
火の魔法使いは、攻撃特化。クリスは、家を再興するために、命を張りに来た。
そして、アクアと話している ウィリアム・マイアーさんが、水の魔法使い。
「私は、簡易治療のフォトンウォーターが得意なんです」
「今度、ご教授願いたいですわ。わたくしは、ウォーターシュートやバブル攻撃主体で、癒しが苦手ですの」
「癒しと言っても、救急処置で、風魔法にはかないません。コナーという友人がいるのですが、南米方面に行っておりまして、参加できません。彼が、風の魔法使いです。今回我々は、攻撃主体になってしまいました。もちろん、そこは、ポーションでカバーします。ご安心ください」
「千里、私がみんなを支援する?」
ウィンディがこそっと言ってきた。
「危ないことはさせないって、サイモンが、みんなの両親と約束したでしょう」
「だけど、この人達が危なくなったら助けるしかないよー」
「ヒイラギまで」
「負傷者をわたくしが、ここまで運びましょう。その時は、ウィンディ様にお願いしますぞ」
「ダニエルは、分かっているわ」
「ウィンディ、ダニエルさんを煽らないの。いいんですか、ダニエルさん」
「仲間を見殺しにできません」
風使いのアンナは、ジャッキーさん救出だからここにいない。だから、ここに連れてきてくれるんならと思い、ウィンディたちの意見に従うことにした。この時、ウィンディたちは、参戦OKだと勝手に認識した。
クロウ校長が、この場を仕切った。
「それでは、サラ様、そして皆さんお願いします」
「サラ、いい?」
「あの城ね」
私は、サラの背中に手を重ねて力を送り込んだ。サラの首にある赤い竜玉が光る。
そして、次々と妖精たちの力が加わる。
「アンナ、力を貸して」
「アンナさん」
最後にアンナが加わった。
サラの視野は、ズギュンと広がった。
「千里、アンナ!」
サラが私たちに振り向いた。
火龍王のタマゴは、すぐ見つかった。何の事はない居間の暖炉の上に飾るように置いている。しかし、炎のオーラが異常に大きい。一目見て、これが王子だとわかるのだが、オーラが大きすぎるのだ。
「なんですか、このオーラの大きさ」
「王子だからかな」
「生まれるからなんじゃないの」
ウィンディが、あっけらかんと答えを言った。
「ぼくも、生まれるんじゃないかと思う」
「敵ながら、王子の扱いだけは、褒めて差し上げたいですわ」
「マスター!」
マスターに振り向いたけど、反応してくれない。アンナが、「ちょっと慣れない」と、神経を集中しているところだった。
「ちょっと待って、ダニエルさんに映像を中継してもらっているから。皆さん見えますか?サラの映像だと、ここ一帯になって、範囲が広すぎるのよ」
「城にホーカスできるようになったよ」
「まずいですね。敵と思われる人影が13人もいる」
「違います。地下にいる人は、土のオーラです」
「千里君の言う通りだね。ジャッキーじゃないか」
「良かった。生きてた」
アンナが、安堵する。
「マスター、タマゴが生まれそうだよ。早く助けて」
「任せなさい。クロウ校長、作戦をください」
「この作戦の主目的は、タマゴ奪還です。攻撃する我々が囮です。正面突破をしましょう。その隙に博史さんとアンナさんが、側面から城に侵入してください。敵の数が、思ったより多い。それでよろしいですね」
「アンナ済まない。敵の人数が多すぎる。私も、戦闘に加わるよ」
「大丈夫です、ニコル」
「アンナ、行こう」
マスターとアンナが連れ立って、城の北側面に向かった。ここが一番手薄だ。こちらが、正面に攻撃を集中すれば、更に手薄になるだろう。
京爺が、マスターをちょっとだけ引き留めて、誰が、ギーブル・ダハーカか聞いていた。
「博史すまんが、どれが、ギーブルなんじゃ」
「すいません師匠。面識があるのは、クロウ校長です」
「分かった。後で聞く。アンナ、広いところに出たら声を掛けてくれ。城の外に放り出してやるぞ」
「着地もちゃんとしてね。私だと、ジャッキーまで無理よ」
「夕飯付き一回でいいからな」
お酒とどっちがメインなんだか。私以下、みんなそう思う。
「分かったわ」
京爺は、二コルにお願いして、クロウ校長にギーブルの特徴を教えてもらった。
「すまんが、ギーブルは、火龍王に引き渡さんといかん。この男は精霊界に戦争をおこそうとした大罪人じゃ」
「二コルから聞いていおります。ギーブル・ダハーカは、ペルシャ人です。肌は浅黒く、顔は、やせぎすの顔になっていたそうです。ドリア先生が会った時は、黒い絨毯のような模様のある服に暗褐色のターバンを巻いていたそうです」
「多分、彼の正装でしょう。今も同じ恰好をしているとおもいますよ」
「だ、そうじゃ、千里。そんな奴いるか」
もう、急に私に振らないでよ。
「いるよ」
「いますわね」
「火トカゲを二匹も体に這わせている人ね。火トカゲを二匹這わせているのは、一人だけよ」
「間違いないよ」
「京爺。だ、そうよ」
「戦いの様子を見て、その男を捕まえようと思いますわい。良いですかな」
「怪我だけは、なさらないように」
「千里たちはここに隠れとれ。ダニエルさん、この子たちをお願いしますじゃ」
「心得ました」
ダニエルが、私たちの守護者。胸に手を置いて、それを約束した。
京爺は、「先に、ちょっと博史たちの様子を見に行く」と、言って、そちらに向かった。
「では、行きましょう」
クロウ校長たちは、堂々と正面の門に向かって歩き出した。




