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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
53/96

味方の魔法使いは英国紳士

 ロンドンAM5:00


 少し手間取ったが、入国ロビーに出ることが出来た。私も京爺も、殆ど荷物がなかったので、税関で、荷物はこれだけですかと聞かれたぐらいだ。


「千里、みんなー」

「師匠」

 マスターとアンナが手を振って、私と京爺を迎えてくれた。その横に如何にも魔法使いって言う人と。優しそうな老紳士がニコニコしながら私達を持っていた。


「師匠、今回、王子の捜索を手伝ってくれる二コルさんと、ダニエルさんです。千里君、みんな、二人は、イギリスで有力な魔法使いだよ」


 私たちは、二人と握手した。二コルさんが、イギリス人にしては、深々とお辞儀をするので、ウィンディたちが見えているんだろうなと思った。


「朝食まだでしょう。でも、急ぎよ。車で話させて」


「機内で軽食が出ました」

「アンナ、王子は?」


「サラが、王子を見つけるのよ。だから、みんなサラたちを持っていたのよ」


「うん」


 トニーの祖父ダニエルは、光の魔法師。二コルは、土の魔法師。二人とも、妖精の言葉が分からない。二コルは、ヒイラギの言葉だったら少しわかるという。ヒイラギが、妖精の話を二コルに通訳することになった。ダニエルは、京爺がたまにやっているテレパシー感応で、全員の言葉を理解する気だ。



 車中で、私にサンドイッチ、サラたちに気付けのはちみつが出た。マスターは、火龍王のタマゴを。アンナは、親友のジャッキーを助けに行くと言う。ダニエルさんは、私たちを守り、二コルさんたちが、リザード魔術教団を攻撃する。


「タマゴを探すときは、私も手伝うわ。親友のジャッキーを探したいのよ」


「ジャッキーは、ぼくの親友が雇った情報屋なんだ。これから行くリザード魔術教団のアジトを調べていて、行方不明になった」


「たいへん!」

「アンナが手伝ってくれるの歓迎だよ」


「二コルさん、彼女たちがタマゴを見つけたら、そのイメージをアンナが皆さんに流します」


「私が中継しよう。アンナ、私だけで十分だよ」

 ダニエルが、魔法使い防衛隊のバックアップを引き受けてくれた。


「お願いします」


「ぼくが、タマゴを救出。アンナは、ジャッキーだね」


「我々が敵を引き付けよう」


「ぼくは、二コルさん達と、連携します」


「博史、すまんが、わしゃ別行動じゃ。火龍王に、ギーブル・ダハーカを龍王城に連行してくれと言われとる。皆もそれでええか」


「大海さん、この方は?」


「ぼくの師匠の京極です。日本人で、精霊界に住んでいる方です。ギーブル・ダハーカが、精霊界に不和をもたらした張本人です」


「首謀者の教祖じゃったか。モバイ・カー。そいつは、精霊界に来れん。人間界で裁いてくれといっとった」


「我々の面子も立つ」

「火龍王によろしく言ってくだされ」


 二コルとダニエルが、京爺と握手して挨拶した。


 パタパタっと打ち合わせが済んだ。少し落ち着いたので、二コルさんが、サラたちに挨拶したいと言う。



「皆さんとは、非常時ではないときにお会いしたかった。私は、防衛隊の二コルです。運転をしているので、正式な挨拶が出来なくてすみません。お名前を聞かせていただけますか」

 ダニエルが二コルにかぶって話す。

「イギリスの魔法使いの代表は、バスク魔法学校のジャスティン・クロウ校長が勤めています。クロウ校長は、現場で待機しています。非常時です。正式な挨拶が出来なくて残念だと言っていましたぞ」


「千里です。私が、通訳します」


「千里さん、皆さんを紹介してくだされ」


「えっと・・」

「私が、通訳してあげるわ」

「ウィンディ、もう、英語を理解したの?」

「日本語より簡単じゃない。この人たちの魔力もなかなかね。魔力の流れをつかみやすかったわ。じゃあ、いいわよ」


「ウィンディが、通訳してくれます。みんな挨拶して」

 みんな頷く。

「サラからお願い。サラが、タマゴを探します。私たちは、そのサポートをします」


「サラ・サラマンダーです。リザード魔術教団の人達に召喚された火トカゲたちは、契約の縛りがあります。彼らに、罪はありません。人の役に立ちたかっただけだと言うことを知っていてください」


「アクア・マーリンですわ。サラさんのお友達です」

 なんにでも、最初に、「お」をつけるのは、水の国の皇家の特徴。


「ヒイラギ・ドベルグです」

 ドベルグ家とは、土の国の妖精王の中でも、中興の祖と言われた王の一族。大地に繁栄をもたらす象徴として有名。それが分かるニコルがぎょっとした顔をする。


「ウィンディ・オルケストラよ」

 各々違う妖精語を人の、それも聞いたばかりの言葉で通訳する実力。彼女たちの圧倒的な力を二コルとダニエルは垣間見た。


「二コル・オーエンです。皆さんよろしくお願いします。大海さん、皆さんにうちのクロウ校長が、正式に挨拶しようと思ったら、東京の妖精カフェにお茶を飲みに行けばいいのですね」


「大歓迎です。美味しい紅茶の茶葉を仕入れて待ってます」


「ダニエル・マーティンです。私も東京に行くと思いますぞ。アンナさん、孫をよろしくお願いします」


「じゃあ、トニーの」


「祖父です」


「ダニエルさん。それは、まだ、正式な話ではありません」


 なんだろう。マスターが、ムッとしている。


「トニーは、良い師匠に恵まれたようですぞ。薬学のドリア先生が、肩入れしておるのです」


「そうなのですか。参りましたね」

 トニーが、生命の緑石を使いこなすのは、時間の問題。


 蚊帳の外の二コルが、大先輩のダニエルに詳細を求めた。


「Mrダニエル。何の事ですか?」


「秘密結社の話ですよ。主要メンバーには、声を掛けたのでしょうな」


 秘密結社?そう言えば、イギリスの人って、そういうの好きだったっけ。そんな映画あったなー。私は、これ美味しいとサンドウィッチにぱくついているところ。


「先ほど名前が出たドリア先生にも声を掛けました。大海と、クロウ校長を入れて5人です」


「それは、上々。後で、全員集まったときに話しましょう」


 二コルが気を取り直して、サラたちに気を使った。

「すみません、内輪の話をしてしまいまして。どうです、みなさん。イギリスの蜂蜜は、おいしいでしょう」


「美味しいですわ」


「それは良かった。今度、妖精カフェにお送りします」


 ダニエルが、厳しい顔をしてアンナを見る。相手が悪い。ジャッキーの安否が気遣われた。

「我々は、王子の救出を最優先します。アンナは、ジャッキーの救出だね」


「生きていることを祈っています」


「モバイ・カーは、多くの魔法使いを手を掛けた大罪人だ。私の目の黒いうちに捕まえることが出来るのは、嬉しいことだ。だが、そんな男だ。覚悟もしておきなさい。もちろん、我々も生きていると思いたい」


「ジャッキーを見つけることが出来たら、私が、アンナに付き添おう」


「二コルさんお願いします。いいね、アンナ」


「ええ」


 車は、イングランドの東海岸沿いの道に入った。海岸側に、小さな古城を見ることが出来る。周りは、一面のジャガイモ畑。先行している防衛隊の魔法使いが、人払いしているせいか、古城の周りに人影がない。


 古城の近くに、ちょっとした林があり、魔法士が4人集まっていた。そこに、二コルの車が横付けされた。


 ジャスティン・クロウ校長が、私たちを歓迎してくれた。一緒にタマゴを奪還してくれる人達だ。丁寧な挨拶をしてから、タマゴの捜索が始まった。



 この林を挟んで古城とは反対の対面に小高い丘があり、そこにトニー達はいた。城からは、ずいぶん離れているが、双眼鏡で見れば、城の詳細も分かる位置だ。トニーとリチャードは、トニーの祖父ダニエルより、本作戦の詳細を聞かされていた。


「トニー、ニコルさんの車が来たぞ」


「駄目だ、ここからじゃあ、千里が見えない。車が林の陰に入った」


「仕方ないさ。ダニエルさんが守ってる。千里は心配ないよ」


「この後は、ぼくが千里を守る。じいちゃんの騎士としての振る舞いが見たかったな」


「後で話を聞けよ。その時は、おれも同席するからな」


 トニーは、リチャードに頷きながら、別の心配事を話す。

「校長がメンバーにいるんだよな。ここなら大丈夫だと思うけど、クロウ校長に見つかったら、また懲罰ものじゃないか」


「違いない」


 二人は、クロウ校長に見つからないよう地面にへばりついて、成り行きを見守った。

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