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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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ロンドンに向けて出発

 ジャッキーは、ホグナスにあきれていた。ホグナスの火トカゲ、ロイは、ここが戦場になるから早く逃げてと、ジャッキーの使い魔、蜘蛛のフィーリアを通して訴えたのに、ホグナスは、その話をモバイ・カーに話してしまった。


「あなた、バカなの」


「何言ってる、敵が攻めて来るんだど。迎え撃つに決まってるでねえか。後は、旦那様が何とかしてくれる」


「きっと相手は、イギリスの魔法使い防衛隊に違いないわ。ここに居たら、私だってどうなるかわからないのよ」


「それは、大丈夫だ。旦那様には、逃げられたっつうといた。だから、鞭でたたかれることはないだ」


「そういう問題じゃあ、もう、どう言えばわかってくれるの」


「ここは、おらたちの家だ。大丈夫、きっと、旦那様が守ってくださる」



 ・・・・・・・・・・・・、たぶん、ホグナスの世界は、狭いのだ。この屋敷がすべてなのだろう。


 ジャッキーは、ロイを呼んで、今後のことを打ち合わせることにした。ホグナスより、この火トカゲの方がよっぽど頼りになる。


 ロイは、いざとなったら、ここのカギを開けてくれると請け合ってくれた。ただし、ホグナスを助けてくれると約束して欲しいと、私に訴えた。悪い人ではないというのだけは、分かったので、頭を縦に振った。




 マスターとアンナは、ロンドンで合流していた。火龍王のタマゴの行方が分かったからだ。きっと、そこに、ジャッキーもいるに違いない。もし、イギリスの魔法使い防衛隊と、リザード魔術教団が、戦争になったら、私たちしかジャッキーを助ける者がいない。


「あなた、戦闘になったら、ジャッキーを助けるのを優先して」


「ジャッキーは、駆け出しなのに無茶をする。彼女が得意なのは、土魔法だろ。また、なんで、情報屋なんかになったんだい」


「蜘蛛のフィーリアと、使い魔契約したからよ。ジャッキーは、フィーリアと話せるのよ。今では、唐津勾玉を使わないでもそうよ」


「唐津勾玉なしでかい。それはすごいね。じゃあ床返しの魔法は使える?土遁が使えれば、逃げ出すことが出来るはずなんだけど」


「土遁って、土の中に隠れる忍術でしょう。出来ないわよ」


「それを広範囲にやると、石畳だろうが、床がひっくり返るんだ。どんでん返しって言うんだけど、捕まっても逃げられる。遁術と言うのは、隠れるだけじゃ無くて、逃げることでもあるんだよ。まず、フィーリアに教えないといけないね」


「フィーリアは、土蜘蛛よ。自分だけなら土の中に隠れることが出来るわ。でもジャッキーまで無理よ。助けに行きましょう。サラに見てもらえば居場所が分かるはずよ」


「そうしよう。ジャッキーは、後で補習だな」


 ジャッキーは、博史さんにとって生徒のままなのね。博史さんの時間は、3年前で、止まったままなんだわ。


「ええ、あなた」




 モバイは、いつも以上にイライラしていた。リザード魔術教団、最大戦力のギーブル・ダハーカを呼び戻し、さらに教徒を九人集めた。自分を入れれば、これで十一人。もし、魔法使い防衛隊が攻めてきても、多くて五から六人だろう。こっちはその倍だ。


「それにしても、さっき、なんで土蜘蛛を天井裏で見つけたのに、床下に逃げられたんだ。ホグナスの、のんびりが使い魔にも移ったか?」


 イライラしているせいか、いつもより、独り言の声がでかい。


「モバイ様、戻ってきました」


「どうだ、防衛隊に、変な動きがあったか?下男のホグナスの言うことだ。信ぴょう性に欠ける」


「確かに、人が集まっています。理由までは、分かりません。ただ、使い魔が言うには、東洋人の男が、二コルの家から出てきたと言っています」


「東洋人?東洋人。火で焼いて、次元のかなたに吹き飛ばした、男のことか」


「大海博史でしたか。生きているとは思えません。呪いまでかけたのですよ」


「用心に越したことはない。しばらく城の警備にあたってもらえるか。外敵を一早くキャチ出来ればいい」


「承りました」


 薄暗がりの中で、モバイは、鈴を鳴らしてホグナスに紅茶を持ってこさせることにした。





 千里と京爺は、はっきり言って、お上りさんだった。二人とも、成田空港で迷っていた。アクアたちはいつもの通り平常心。


「広いロビーですわね」

「今のうちに何か食べといたほうがいいと思うよ」

「時間は、あるんでしょう。早く搭乗手続きを済ませちゃいなさいよ」


 ウィンディたちはそう言うけど、格安航空券が取れたのはいいが、航空会社のカウンターが見つからない。マスターは、日本の航空会社のチケットが買えるぐらいお金を置いてくれたのだが、当日なのに、そこより5割も安くなるなんて、お得すぎると思ったのだ。京爺は、「予備の金はあった方がええじゃろ。帰りは、アメリカ経由で帰りたいんじゃ」と、初めて飛行機に乗るくせに、通なことを言う。なんでもグランドキャニオンに用があると言っていた。


 やっと、ロビーの端にお目当ての航空会社を見つけて、搭乗手続きを済ませた。


「ヒイラギ、起きて。ご飯を食べようよ」

「空港についたの?」


 ヒイラギは、私の手持ちバックの中で寝ていた。しっかりよだれ対策をしていたが、そんな心配はなかった。ヒイラギの秘密の部屋が、すごいので、ちょっと過敏になっていた。やはり、世界樹の気に当てられていたのだと思う。


 食事と言っても夜中だ。そんなに食べられない。だとしても、ロンドン到着は、時差の関係で翌日早朝。フライト12時間、時差8時間。マスターとアンナが迎えに来てくれることになっている。そこから忙しくなるのは間違いない。


 サラたちは、窓にへばりついて飛行機の離発着を見ていた。


「みんな、遅くなってごめんね。何食べたい?」


 京爺には悪いけど、夜中だし、晩酌は無し。でも、文句を言われなかったので、珍しいなと思った。



 京極は、博史に、ダハーカ家の捜査を任せて、先に精霊界に帰る気でいた。しかし、東京の次元門を使ったのでは、すぐにギーブル・ダハーカを龍王城に連行しなければいけない。1000年以上続いたダハーカ家をできれば潰したくない。本人と少し話したいと思い、土の国にある赤錆門で、精霊界に帰る道を選んだ。道の不案内は、アンナに頼もうと思う。




 トニーは、アンナから、火龍王のタマゴが、人間によって盗まれた話を聞かされた。リチャードの家は、父親が興したばかりの家。母親は、普通の人だ。だから、この秘密を両親に話さなくてもいい。しかし、マーティン家は、そうはいかない。祖父は、魔法使い防衛隊に入っていた人だ。これは、他人ごとではないのだ。アンナに、ここまで話していいと、言質をもらって、急いで家に帰った。簡単に言うと、マーティン家なら千里のこと以外は、全部、話していいと言われた。 


 あろうことか、スコットランドの片田舎で隠居していたはずの祖父が、ロンドンに出てきて我が家のリビングにいた。明朝は、大がかりな捕り物がある。まさか、駆り出されてはいないだろうが心配だ。両親と、祖父を前にして、アンナから聞いたことを話せるだけ話した。


 祖父は、ぼくの隣に座っていた。そして、ぼくの表情を見ながら「話は、それで全部か」と聞いてきた。ぼくは、それほど、ポーカーフェイスじゃない。「まだ、あるけど、アンナと約束したんだ。これ以上は話せない」と、言うと、にっこりして肩を拳で、トントンとたたいてきた。


「トニーが話せないなら、私が話そう。マイケルも、アマンダもよく聞きなさい。精霊界の4属性の王室継承権者と同時に契約を結んだ娘がいる。トニーが守る日本の女性が彼女だ」


「そうなんですか!」

 ぼくが一番驚いた。


「マイケルから聞いた話と、防衛隊の二コルから聞いた話を繋げるとそうなる。二コルは、彼女を守る秘密結社を作りたいと相談してきた。なんのことはない、孫がもう選ばれているではないか」


 両親が、真剣な顔をして、これからどうすればいいか祖父に聞いていた。


 祖父にそういわれて、あの時の店員の顔を思い浮かべたが、普通の、可愛い東洋系の子だったと思う。千里には悪いが実感が持てなかった。

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