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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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事件の全容

 サミルから、火龍王のタマゴ誘拐事件の全容が分かった。


 首謀者は、リザード魔術教団の教主モバイ・カー。この事件により精霊界を戦争状態にするのが、モバイ・カーの狙い。その虚を突いて、自分の王国をこの地に築こうとしていた。


 魔術師ギーブル・ダハーカは、古い火の魔術師の家の御曹司。この名前を聞いて、龍王城の者が全員愕然としたし、納得した。ダハーカ家は、古い火の魔術師の家系で、遠い祖先には魔法使いも生まれ、精霊界に来たことがある由緒正しい家系。そのギーブルが、火龍王に進言したことがある。


 火竜は、地中から噴き出るマグマに耐性があるし、羽があるから、空も飛べる。しかし水中だけは、とても活動能力が落ちていた。活動能力が落ちると言っても、火竜も水中で息ができる。「火竜は、4大竜のテリトリーすべてに行ける。だから、この精霊界を統べることができるのではないか」と、提案したのである。要は、『魔力ではなく、暴力で、精霊界を統一できる』と。


 火の国は、これらについて随分議論してきた。そして、水竜と対決することを決めた。


 なのに、一族に裏切り者がいた。


 火の国の将軍や長老たちや族長たち、そして何よりも、火龍王の落胆が大きかった。


 王妃リクシャンは、人魚姫のサーヤを通して、このことをやんわりと水の国側に根回しをした。王子が生きて帰れば、夫が水竜王と話し合うと思ったからだ。


 火龍王は京爺を呼んで、ギーブル・ダハーカを、ここに連れてこれないかと聞いてきた。それは、彼の死罪を意味していた。京爺は、これを受けた。


「調べてみなければわかりませんが、これは、ギーブル個人の仕業かもしれん。一族に罪があるとは限りますまい。その捜査の猶予は、貰えるのでしょうな」


「京極が言うのだ。その件は、少しまとう」


「寛大な話をさせてすいませんの」


「最近京極には、折れてばかりだな」


「千里と、サラたちのせいかもしれませんぞ」


「王子がいまだに不明なのに、リクシャンが、元気になったのもそうかもしれないな」


「それと、サミルに寛大な沙汰を下していただいて感謝ですじゃ。死罪が当たり前なのに、30年の苦役とは」


「サミルに関しては、妥協していない。火トカゲの一族が、嘆願してきおった。今回の件を、正直に話したのだ。長老たちも族長たちも納得済みだ。その、モバイ・カーなる教祖は、人の世界で裁いてよいぞ。既に没落した家だ。所蔵のアイテムを取り上げ、教祖を裁けば、家が絶える。この情報は、火トガゲ族が持ってきた」


「弟子の博史に伝えますじゃ」



 火龍王のタマゴは、このモバイ・カーの家にある。黒鉛門は、グリーンランドの某所に繋がっていた。イングランドにある、モバイの家が、次元門から一番近い。


「王子が隠された場所が分かったのだ。サラたちにも手伝ってもらいたい」


「サイモンに、サラたちの家を回ってもらっておりますから、すぐにでも出発できると思いますぞ」


「たのんだぞ」



 こうして、私たちは、ロンドンに向かうことになった。片道12時間30分。マスターたちが先行して、イギリスの魔法使い防衛隊に事情を話して協力を要請しているところ。そして、アンナは、ジャッキーの行方を追った。




 ジャッキーは、モバイ・カーの城にある地下牢にいた。最初、相棒の 蜘蛛のフィーリアが、この城の下男、ホグナスが飼っている火トカゲに見つかって捕縛された。それを助けようとして、ホグナスに後ろから殴られて気絶。気づいたら、地下牢にいた。


 暗闇の中で、足音が聞こえる。ジャッキーは、身構えた。 


 ジャラ ガシャン


 鍵を開けて入ってきた男は、背中が、折れ曲がったような男で、瓶の中に、蜘蛛のフィーリアを入れてやってきた。その男の背中と腹と言わず、火トカゲが這っていた。


「おい、盗人。これ、お前のか?」


 ツツッ、ツツッ


「フィーリア。フィーリアを放しなさい」


 ホグナスは、曲がった背中を掻いて、顔をしかめた。


「やっぱりそうか。ロイ、どうしたらいい?」


 ぴぴー、ぴぴー


 火トカゲのロイは、この瓶のふたを開ける仕草をした。


「そうは、言うけっどもよ。旦那様に叱られないか?」


 ピピー、ピピー


 ロイは、なおも激しく、瓶のふたを開けようとする。


「分かった、分かった。捕まえたのは、ロイだ。好きにするといい」


 ホグナスが、瓶のふたを開けてフィーリアを開放した。フィーリアは、急いで、ジャッキーの元に行き、ロイの話を伝えた。


「あなた、ホグナスね」


「なんで、わっしの名前を?」


「ロイに聞いたからよ。これからロイの伝言を伝えるわ。私を信じて」


 ホグナスは、口をぽかんと開けていたが、ロイが頭を縦に振っていたので、同じようにジャッキーにそうした。




 所は、変わってロンドン。ミユキ通り。

 アンナは、ジャッキーの店を訪ねていた。


 この時点では、まだ、サミルがすべて話したと言う千里の情報が博史とアンナに伝わっていない状態。


 ここは、ジャッキーの住居も兼ねた小さい店だ。何度か大声を出してジャッキーを呼んだが、返答がない。そこに、この間電話で話したトニーが、友達のリチャードとやってきて、ばったり出くわした。


「あのう、ジャッキーさん。いませんか?」


 アンナが振り向くと栗色の髪の青年とその後ろからのぞき込んでいる金髪の青年がいた。アンナは、二人が、トニーとリチャードだと直感した。


「ジャッキーに、磨製石器の謎のヒントを貰ったそうね」

 こう言って、鎌をかけてみた。二人とも、腰を抜かさんばかりに驚いている。


「ア、アンナさんですか?トニーです」


 栗色の子がトニーね。じゃあ金髪の子がリチャード。お調子者だって聞いていたけど、いい顔になってる。


「そうよ。ジャッキーが何処に行ったか知らない?」


「やっぱりいませんか。聞きたいことがあって、毎日通っているんですが、ずっと留守なんです」


「いつから?」


「三日前からです」


 この子たちが情報を持っているわけないか。千里の情報を待つしかないわ。じゃあ、今後の打ち合わせね。

 アンナは、焦っても仕方ないと、肩の力を抜いて、トニー達をこのミユキ通りにある行きつけだった喫茶店に誘うことにした。


 その喫茶店で、千里から連絡があった。今後12時間は、下手に動かない方が良いと判断。アンナは、この二人に、モバイ・カーが住む古城を目指しましょうと約束しさせた。二人に、事の重大性を認識してもらうために、遠くからではあるが、見学させることにした。




 博史は、複雑な経路を経て、イギリスの魔法使い防衛隊の代表と会っていた。


 防衛隊に志願している魔法師は少ない。現在イギリスにいる防衛隊の魔法使いは、11人。全員実力者ぞろい。しかし、そのうち、すぐここに集まれる者は、5人しかいない。魔法使い防衛隊の代表者、二コル・マードックは、大海博史を見て驚いた。死亡したと思っていたからだ。


 博史は、自分の事件とその関連の事件の経緯を話し、首謀者モバイ・カーの逮捕を要請した。しかし、火龍王のタマゴの話は公にしないでくれとお願いした。まだ、千里のことが人間の魔法界で公になるのはまずいと思ったからだ。しかし、二コルは信頼できる。内々にその話をした。


「千里の話が本当なら、千里君を守る秘密結社が必要だ」


「その前に、モバイ・カーとその一味の逮捕をお願いします」


「それは、全力を尽くすよ。千里君たちが来てからでいいんだろ」


 博史は、千里のゴールドヘクロディアのことを話してない。四属性の王室の妖精たちと契約したと話しただけだ。二コルにとっては、その話だけで、秘密結社を作る動機に十分だった。


「二コルさん、事は、精霊界の平和がかかっているのですよ」


「分かっている。分かっているが、精霊界と人間界の今後も大切だ。千里君には会わせてもらえるのだろうね」 


「千里君にも、サラたちにも会わせます」


「上上、忙しくなってきた」


 確かに時間はあるのだが、行方不明のジャッキーが心配だ。それを追ったアンナも。しかし、二コルのはしゃぎ様を見ると、ここを動けなくなった。博史が、二コルの手綱を絞めないといけない。

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