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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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敵は、リザード魔術教団

 ロサンジェルス午前5時。日本だと、もう寝る時間だ。マスターとアンナは、機内で、出来るだけ寝るようにして、時差ボケをおこさないようにしていたが、そんなに簡単に時差に慣れるわけがない。


 ブーーン、ブーーン。


「千里からのメールだわ」

「ウィンディは、ちゃんとやれているかな。あゆ君は、精霊界に慣れたかな」

「心配なら帰る?」

「そうはいかないさ。それで、なんてメールなんだい」

「私のところは読んだから、はい、博史さんのところを読んでみて」


 マスターへ


 バクバさんからの伝言です。火の魔術師のサミルさんに、火の国のスパゲティを食べてもらったら、懐かしかったと言っていたそうです。それと、精霊界の文明が進んでいるので驚いていました。明日は、火トカゲのことを話すそうです。サミルさんは、自分が友達になった火トカゲが見えていないし話もできないんです。その辺りは、ちょっと時間がかかりそう。


 それから、店長代理が、ブティックの仕事を取りました。初仕事は、サーシャさんとターシャさんの巫女装束に、絹織物のワンポイントをつける仕事です、作業は、あゆが出来ます。二人で、1ゴールド2万ルピーで商談成立しました。あゆの取り分や、雑貨店の料金。私たちの取り分を決めてください。よろしくお願いします。



「すごいな、ウィンディ店長代理」

「そのうち、ウィンディに、お店を任せても大丈夫なんじゃない」

「そうはいかないさ。それじゃあ、ぼくのマスターとしての威厳がだな・・」

「はいはい。入国審査の順番が来たわよ」


 博史は、睨んでいる管理官に愛想笑いしながらパスポートを見せた。


 二人は税関を通って出国ロビーに向かった。そこに、抜け目ない仕草を装っているが、口に拳を当ててみたり、時計を見たりして落ち着かない男が、二人を待っていた。


「ヒロシー」

「ドナルド」

 二人は、ガシンと抱き合った。その後ろで、ペコっと頭を下げるアンナ。


「本当にヒロシだ、信じられない」

「電話で話しただろ」


 ドナルド・ドリトルは、死んだと思っていた友人をまじまじと見た。そしてその後ろにいるアンナも。ドナルドは、アンナを見て、ちょっと顔をゆがめた。


「ヒロシ、アンナじゃないか。お前、嫌がってなかったか」


「そうなの?」


「あの時アンナは、ぼくの生徒だっただろ。今のような関係にはなれないさ。ドナルド、告白するよ。結婚したんだ」

 アンナが博史に寄り添う。照れる博史。ドナルドが、アンナと握手して祝福した。

 

「今日は、サプライズばかりだな。おっと、ここでは目立つ。車で来たんだ、行こう」


 十分目立ったと思った二人だった。


 車中で、打ち合わせをしたい博史が、助手席に乗った。黒鉛門にいた火の魔術師の名前はサミル。リザード魔術教団と関わりがあるに違いない。火龍王のタマゴは一人にされている。一刻を争うことだった。


 ドナルドは医者だ。大病院と懇意にしており、全米のクランケログにアクセスできる。そこから、同盟国のクランケログにも。過日、ドナルド一流の検索で、リザード魔術教団を洗い出してもらっていたが、博史が失踪。現在まで、行方不明になっていたため、ペンディングしていた。


「サミルという魔術師なんだが、リザード魔術教団にいるか?赤茶けたマントをかぶっていたそうだ」


「赤茶けた? インディアンか」


「これだよ」


 ドナルドは、マントの切れ端をちらっと見て、納得した。


「トカゲを信奉している部族がいるというのを聞いたことがある。行ってみるか?付き合うぞ」


「その前に、リザード魔術教団の情報を教えてくれるんだろ」


「仕事場に準備している。本当は、家に連れて行きたいが、なんせ早朝すぎる。でも、ジェイナにも会っていくだろ」


「アンナを紹介したいしね」


「ジェイナが喜ぶ」


 ドナルドは、神経科の名医だ。しかし、外科医療にも詳しく専門科医に引けを取らない。


「アンナ、こいつは、若い時、ケガばっかりしていたんだ。なぜだか、私を頼ってくる。精神科医の私をだよ。だから変な治療痕があるだろ」


「バッテン印とか」


「そうさ、ただでやれって言うから、一針しか縫ってやらなかったんだ」


「そうだったのね。私には、大男と戦った傷だって言うのよ」


「それは、合っているが、ぼろ負けだ」


「いいだろ、その話は」


「Mrドナルド、もっと聞きたいわ」


 アンナは、充実した旅になりそうだと思った。



 ドナルドの仕事場には、ネットに繋がっていないパソコンがある。一見何の変哲もないパソコンだが、横を開けて、中のハードデスクをマザーボードと繋ぐと、門外不出の情報が出てくる。


 そこには、因縁の相手、リザード魔術教団の情報が、レポートされていた。これは、3年前のデーターだ。



リザード魔術教団


 秘密結社。リザード魔術教団の教主、モバイ・カーは、火トカゲを召喚する禁書を父親が死んだのをいいことに、使い始める。しかし、火トカゲは、なぜか自分に契約してくれない。なぜなら、火トカゲは、気に入った主人の魔力〈オーラ〉を食べて共生するからだ。オーラの不味いモバイとは、誰も契約してくれなかった。しかし、火トカゲを召喚できることを利用して、リザード魔術教団を設立。魔術師に火トカゲと契約させたことで、絶対権力を教団の中で振るう。



モバイ・カー:38歳 アイテム使い


 イングランドの1000年続く魔法使いの末裔。家柄はいいのだが、本人の魔法は弱い。殆ど、家にある、特別なアイテムに頼って魔法を発動し、それを、さも自分の力のように誇示している。小さいころから、自分に嘘をつく癖があり、その嘘が嘘を呼び、大言壮語を吐くようになった。ある時期から、自分のウソを知っている魔法使いを殺すようになり、誰も、モバイと話をしなくなった。その後、格下の魔術師のボスになり、リザード魔術教団を作る。そこで、「精霊界は、我の意のままに動く」と、言い放ち、本当にそのように動き出す。



ギーブル・ダハーカ:火の魔術師


 ペルシャの古い家系の魔術師。古く由緒正しき魔術師の家系だが、力を失っており、バスク魔法学校で、モバイに魔力を復活してもらったため、彼に絶大なる信仰をしている。



サミル:火の魔術師 


 ユダヤ人。リザード族の精霊使いだった父の教えを守って生きていたが、精霊を呼び出すことが出来なかった。モバイの勧めにより教団に入り、力を得る。



「すまん、ここで、博史が失踪しただろ。情報収集を止めたんだ」


「そんなことない、すごいぞ。ビンゴだよ」

「サミルは、リザード魔術教団だったのね」


「サミルは、アメリカ人だよ。だから、情報があった。この教団、多分、20名もいない小規模な教団だよ。モバイ家の、お金の流れが少なすぎる」


「そうかもな。あいつは、家柄だけだ。それにしても、教団幹部でも知らないモバイの実態が良く分かったな」


「精神科のクランケだったんだ。ちゃんと魔法の家督を継げなかったのが重荷だったのだろう。その過程で、精神が歪んだ」


「なるほど」

「でも、アイテムは、使えるんでしょう、それだけでも脅威よ。博史さんが死にかけたのよ」


 頷くドナルド。

「精霊界にちょっかいを出して、何かしようとしているのは間違いない。博史が言っていた、火龍王のタマゴがそうかな」


「多分・・」

「精霊界にとっては大迷惑な話よ。それで、戦争になりかけているんだから。他に何か情報はない?」


「黒鉛門も含めて調査中さ。モバイのアイテム収集への執念は異常だ。もし、火龍王のタマゴが孵らなくても、手元に置いておくんじゃないかな」


「イングランドの自宅か!」

「あり得るわ」


「確証はない。これから調べると言ったろ。ロンドンに、売り出し中の情報屋がいるんだ。少し待ってくれ。それより二人とも、日本から来たんだろ。眠くないかい。コーヒーを出すよ。せっかくここまで来たんだ。サミルの部族にも会うだろ」


「そうしましょ、あなた」

「そうだな、もっと情報を集めないといけない。これだけじゃ、千里たちを動かせない。ウィンディたちの親御さんも納得させないといけないし」


「じゃあ、ジェイナのところに行こう。一応、アンナの先輩なんだよ」


 ドナルドは、パソコンからハードデスクを外して、蓋を絞めた。 

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