トニー君、まだやることがあるだろう
トニー・マーティンは、学校での立場を保証してくれたお礼を言いに、親友のリチャードを伴って、バスク魔法学園に挨拶に来ていた。ジャスティンクロウ校長は、渋い顔をしていたが、ドリア先生は、トニーから詳細を聞いていたのでニコニコ顔だった。薬学室にある、磨製石器が光った件について、アンナの謎であると気づき、謎を解いて、生命の緑石を発見したと話すと、ドリア先生は、トニーの肩をニコニコ笑って拳で、コツンコツンとたたいて慰労した。
クロウ校長は、真っ白な髭を撫でながら、学校の決定を覆した経緯をざっくばらんに話してくれた。校長室は、学校でも塔のようなところの最上階にある。校長は、闇の魔法使い。自前のエレベーターがあるようなものだが、それ以外の人は、ここに来るのに一苦労する。ちょっと脱力しながらその話を聞いた。
「まずは、二人におめでとうと言おう。学校は、トニー君の除籍処分を取りやめた。そして、リチャード君には、再チャレンジの道を許可することになった」
「ありがとうございます」×2
最敬礼している二人を見ながらクロウ校長は、ため息をついた。
「ふーーむ、まさか、彼が生きていたとはな。腐海の件を解決したばかりか、君たちを許すというんだから・・」
「昔からやさしい男でした」
「あの巨大な腐海は、まがまがしいものが出てきても不思議ではなかった。ドリア先生にも感謝しなさい。二人が、これをきっかけに成長すると、理事会を説得してくださったのだぞ」
「ドリア先生、ありがとうございます」×2
「まあまあ、クロウ校長。二人とも反省しています」
「二人とも、頭をあげなさい。彼の願いだ。大海博史の話は、他言しないようにお願いします。分かりましたね」
二人とも、「もちろんです」と、答えた。
「よろしいですかクロウ校長」
「どうぞ、ドリア先生」
「まだ決定ではないのですが。トニーは、アンナに修行をつけてもらえそうです。そうなるように、ぜひ、私に、協力させてください」
「なんですと!」
「それと、今学期から、パエッタ先生が復帰なさるでしょう。リチャードに修行をつけてもらうよう。お願いできませんか」
「なぜです。リチャードは、2カ月もあれば卒業できますよ」
「勉強ではなく、実戦魔法の話です。例の魔術教団が暗躍しています。また、大海が危険になる。ここにいる二人は、大海の味方をする気です。二人とも、戦争をする覚悟をしています」
「例の魔術教団の話を二人にしたのですか」
「まだです」
ジャスティンクロウ校長は、机の上に置いている水晶玉を撫でながら、参りましたねという表情をした。
トニーとリチャードは、即断即決を胸とするジャスティンクロー校長が、こんなに悩んでいる姿を見たことが無い。リチャードは、トニーを見ながら、口角をあげて少し笑い、反対にトニーは口角を下げて苦い顔をした。軍配は、リチャードに上がった。
「いいでしょう、両方の案を許可します。それで、アンナは、何と言っているのです。修行をつけてくれる条件とは何なのですか」
「トニーとリチャードが見つけたアイテムです。使いこなすことが出来たら、修行をつけてくれるそうです」
「ドリア先生。私の言質を取ってから、内容を打ち明けましたね。それは、私の専門です」
「すいません」
「よろしい。ドリア先生には、1983年物のワインをおごってもらえば結構ですよ」
ドリア先生が隠し持っているとてもお高いワイン。
クロウ校長は、トニー達に向き直り、自分が即決したことを実行することにした。
「あなた方が発見した宝石のことをどこまで理解しましたか。トニー君、答えなさい」
トニーは、今まで散々調べてわかっていることまで、全部話した。
「アイテムの名前は、生命の緑石です。これは、アンナさんに、アイテムを見つけた御褒美だと教えてもらいました。生命の緑石は、プラントオパールという極小の宝石を使って、植物を繁殖させるアイテムです。ですが、近年これを起動した記録がないので詳細が分かりません。起動魔法は、風の詠唱魔法だと思うのですが、記述が見つからないです。多分、生命創造系の魔法だと思うのですが」
「着眼点は、悪くありませんよ。しかし、生命創造系の魔法だったら、植物が腐ることはありません。生命循環系の魔法を調べなさい。それと、我々の世界のプラントオパールに、そのアイテムを使っても、植物は再生されませんよ。精霊界のプラントオパールに使うアイテムです」
「そんな」
「妖精たちを召喚出来たら彼らが持っています。精霊界のプラントオパールは、彼らの貨幣で、宝石貨と言います」
「おれたちじゃあ無理なわけだよ」
リチャードが、がっくりする。
「そんなことはありません。この世界に妖精が紛れ込むことがあります。と、言うことは、宝石貨も探せばあるということです」
「クロウ校長の専門は、闇魔法ですか。研究しているのは、風魔法です」 ドリア先生が横からトニーを応援する。
校長がドリア先生をにらむ。
「本当は、自分で調べるのが良いのですが、生命の循環魔法詠唱は、教えましょう。ですが、宝石貨のプラントオパールは自分で探しなさい」
ドリア先生が、トニーにウィンクしている。多分、ドリア先生のコレクションの中に有るのだ。それに気づいたジャスティンクロー校長が、トニーに、釘をさした。
「二人とも、良い先生に恵まれましたね。宝石貨は、ドリア先生に譲ってもらえるということですね。ですが、トニー君には、まだやることがあるでしょう。魔法の戦い方を知らないで、どうやって、敵と戦いますか」
リチャードもドリア先生も、どうやってトニーを日本に送り出すかということばかり考えていた。後は、アンナが修行してくれると思っていた。しかし、アンナは、風魔法の魔法使い。風魔法に詳しい校長の言葉に重みを感じた。
「風魔法は、支援魔法が主体です。傷ついた仲間を癒すとか、攻撃を受け流すとか、防御や反射させるのは、得意ですが、相手を傷つける魔法は、とても高度です。敵は、火を使います。味方ならいいですが、敵だと、とても相性が悪い」
「水魔法を覚えろということですか?急には無理です。自分は、光魔法ばかり練習していたので」
水属性が、火の反対属性にあたる。
「光魔法は、わるくありませんよ。火を貫通するし、ガードもできる。どうです、やることが出来たでしょう。ドリア先生の得意属性は光です。そうですね、先生」
「おっしゃる通りです。トニー君。一週間で、パトーナムの獣化と、ライトニングを磨きなさい」
「それに、生命の循環魔法詠唱もですよ」
ドリア先生にかぶって話すクロウ校長の顔が鬼に見えた。
「お、お願いします」
トニーは、バスク魔法学校の、強力な魔法使いに当分しごかれることになってしまった。リチャードは、親友の肩をたたいて、頑張れとウィンクした。トニーが守る千里の入学式は、後1週間ほどしかない。




